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第八話*
「わざわざΩのフェロモンを仕込まれているんですよ。黒王がたった一度で術の発動を終わらせるとでも? 恐らくその術式はΩ同様、定期的なフェロモンを発動させ、αを誘うはずです」
「そうだとしても発情期にアレスがいなければ問題ないんだろ。他の奴には効かないと言っていたじゃないか」
「だからですね……」
「ふうん、βと俺たちにこれほどまでの溝があるとは意外だったね。いいじゃないか、ミュレがそう言うなら離脱させてあげれば」
横で静かに聞いていた黒魔導士の男が不快そうな表情を一瞬浮かべ、すぐに笑みを浮かべる。
俺はそれに少しの違和感を覚えながら、なぜ彼が怒りを含んだ視線でこちらを見るのかわからず、戸惑った。
「だが、それはあまりにも酷ではないか」
「離れられるものなら離れればいいさ。確かに彼等は互いを嫌っているしね」
「彼に悪気はないだろう」
「そうだ。ミュレはよく働くし、いなくなれば一体誰が食事を、僕の着替えを……」
「きみ、そんなことまでさせていたの? 信じられない、まるで赤子だ」
「名ばかりの王族ですっかりひねくれたお前に言われたくないね。陰険で惨めな思いを沢山したから暗黒の魔術にのめり込んだんだろ? 世界を壊す魔法だって? 笑える」
「……いいじゃないか、一度きみとは直接やり合いたいと思っていたところだ」
「ミュレ、悪いことは言わない、共に来た方がいい」
早速始まった仲間割れとその場から消えた二人を見遣ることもせず、終始我関せずにいる他の者たちを見ていると騎士のαが静かに俺に言った。
だが疲れきっていた俺は首を横に振った。喧嘩をし始めた二人もそうだが、さっさと歩き始めたアレスの姿なんか、既に見えなくなっているほどだぞ。
そもそもβの俺が同行しているのが間違いだったんだ。
現に俺に刻まれた術式は、俺が弱者であるからつけられた。黒王は今後も俺を標的にしないとも限らない。
この中で足手纏いは俺だけだ。
いくら協調性皆無で唯我独尊の集まりで大嫌いな勇者がいようとも、世界を救うために先を進む彼等の邪魔をするつもりはない。
「行かない。呪いは黒王を倒せば解かれるんだろ? なら、早く倒してきてくれよ」
「しかし」
尚も説得しようとしている騎士を白魔導士の白い手が止める。
彼女は小さな石を俺に差し出した。
「なら、これを持っておきなさい。この石を握り私を呼べばすぐにミュレの元へ飛べる。いいですか、どうにもならないと思ったらすぐにこれを握って私を呼ぶんですよ。貴方が我々を理解する機会もなかったのはわかっていますが、一度身をもって経験すればそれも変わるでしょうし」
「……はあ」
言いながら俺の手を持ち上げて彼女はその乳白色の平べったい石を俺に握らせる。ひんやりとした感触は、とても魔力がこめられている石だとは思えない。
俺はそれをぼんやりと見下ろして、彼女の言葉をかみ砕いていた。
「効率の悪いことは大嫌いなので申し上げますが、Ωの発情期は放っておくと死を伴うこともあるんです。特に貴方はαの子種を受け入れたし、そもそもβでありながら黒王の魔術でΩとなった状態です。私は最もつらいΩの問題を組み込まれていると見ていますから。きっと適切な処置をしなければ貴方は死にます」
「えっ」
「それでは、お元気で。何もないといいですね」
そう言って彼女はさっさと踵を返し、唖然とした俺を置いていった。
そんな俺を横目に他の者もまたぱらぱらと踵を返して歩き出していく。
なんだかとてつもないことを言われ既に後悔が襲ってきているが、さっさと置いて行かれたこの状況に、追いかけることも躊躇われた。
大体あいつら、ちゃんと荷物だって各自持っているし俺がいなくなって平気そうじゃないか。
現にお金だって半分くらい貰ったし。
発情期って、そんなにつらいのか。
βの俺にもそれを味わわせようと黒王は術を刻んだのか。
それともαを……。
このときまで俺はΩの発情期がどんなものか、想像すらしていなかった。
死を伴うこともあると言われても、フェロモンを出していたはずのあの時、俺は意識明瞭だったし身体に異変なんてなかった。痛みすらなくて、苦しさもなくて、むしろ苦しげにしていたアレスを見て逃げを打つ余裕さえあった。
まあ敵わなかったけど。
でもまさかあれが俺の発情期じゃなくて、アレスの発情期だっただなんて、誰が予想してた?
◇
それから一ヶ月ほど経った頃、俺は強烈な性衝動に襲われ、わけもわからず倒れ伏せた。
しかも旅の途中で勇者一行から離脱したので、そこは実家ではなく見知らぬ土地。
貰った金で旅行でもしようとのんびり世界を散策していた俺も悪いが、友人すらいないこの土地で、宿屋の部屋で一人うずくまり尻を出し、穴の奥に子種が欲しいと思いながら自慰に耽っては満たされず、泣いて泣いて大泣きしながらαの影を探し続ける状態に陥っていた。
白魔導士の女の言葉を思い出す。
Ωの発情期は放っておくと死を伴うこともあるんです──。
「やらっ、やら、ちんぽ、ちんぽ欲しいよぉ……っ」
ぐちょぐちょの尻穴に指を二本突き入れながら、もどかしさに震え、喘ぎ、満たされない貪欲な疼きに腰も頭も痺れて舌を突き出して喘ぐ。
一体なんだよこれは。
くるしい。
熱い。
ちんぽをいれてほしい。
一番奥に、熱くてびゅうびゅう出るあれを……今すぐに欲しいのに。
「死んじゃうぅ……しんじゃうよぉ……っ」
乾いて、死んでしまう。
「そうだとしても発情期にアレスがいなければ問題ないんだろ。他の奴には効かないと言っていたじゃないか」
「だからですね……」
「ふうん、βと俺たちにこれほどまでの溝があるとは意外だったね。いいじゃないか、ミュレがそう言うなら離脱させてあげれば」
横で静かに聞いていた黒魔導士の男が不快そうな表情を一瞬浮かべ、すぐに笑みを浮かべる。
俺はそれに少しの違和感を覚えながら、なぜ彼が怒りを含んだ視線でこちらを見るのかわからず、戸惑った。
「だが、それはあまりにも酷ではないか」
「離れられるものなら離れればいいさ。確かに彼等は互いを嫌っているしね」
「彼に悪気はないだろう」
「そうだ。ミュレはよく働くし、いなくなれば一体誰が食事を、僕の着替えを……」
「きみ、そんなことまでさせていたの? 信じられない、まるで赤子だ」
「名ばかりの王族ですっかりひねくれたお前に言われたくないね。陰険で惨めな思いを沢山したから暗黒の魔術にのめり込んだんだろ? 世界を壊す魔法だって? 笑える」
「……いいじゃないか、一度きみとは直接やり合いたいと思っていたところだ」
「ミュレ、悪いことは言わない、共に来た方がいい」
早速始まった仲間割れとその場から消えた二人を見遣ることもせず、終始我関せずにいる他の者たちを見ていると騎士のαが静かに俺に言った。
だが疲れきっていた俺は首を横に振った。喧嘩をし始めた二人もそうだが、さっさと歩き始めたアレスの姿なんか、既に見えなくなっているほどだぞ。
そもそもβの俺が同行しているのが間違いだったんだ。
現に俺に刻まれた術式は、俺が弱者であるからつけられた。黒王は今後も俺を標的にしないとも限らない。
この中で足手纏いは俺だけだ。
いくら協調性皆無で唯我独尊の集まりで大嫌いな勇者がいようとも、世界を救うために先を進む彼等の邪魔をするつもりはない。
「行かない。呪いは黒王を倒せば解かれるんだろ? なら、早く倒してきてくれよ」
「しかし」
尚も説得しようとしている騎士を白魔導士の白い手が止める。
彼女は小さな石を俺に差し出した。
「なら、これを持っておきなさい。この石を握り私を呼べばすぐにミュレの元へ飛べる。いいですか、どうにもならないと思ったらすぐにこれを握って私を呼ぶんですよ。貴方が我々を理解する機会もなかったのはわかっていますが、一度身をもって経験すればそれも変わるでしょうし」
「……はあ」
言いながら俺の手を持ち上げて彼女はその乳白色の平べったい石を俺に握らせる。ひんやりとした感触は、とても魔力がこめられている石だとは思えない。
俺はそれをぼんやりと見下ろして、彼女の言葉をかみ砕いていた。
「効率の悪いことは大嫌いなので申し上げますが、Ωの発情期は放っておくと死を伴うこともあるんです。特に貴方はαの子種を受け入れたし、そもそもβでありながら黒王の魔術でΩとなった状態です。私は最もつらいΩの問題を組み込まれていると見ていますから。きっと適切な処置をしなければ貴方は死にます」
「えっ」
「それでは、お元気で。何もないといいですね」
そう言って彼女はさっさと踵を返し、唖然とした俺を置いていった。
そんな俺を横目に他の者もまたぱらぱらと踵を返して歩き出していく。
なんだかとてつもないことを言われ既に後悔が襲ってきているが、さっさと置いて行かれたこの状況に、追いかけることも躊躇われた。
大体あいつら、ちゃんと荷物だって各自持っているし俺がいなくなって平気そうじゃないか。
現にお金だって半分くらい貰ったし。
発情期って、そんなにつらいのか。
βの俺にもそれを味わわせようと黒王は術を刻んだのか。
それともαを……。
このときまで俺はΩの発情期がどんなものか、想像すらしていなかった。
死を伴うこともあると言われても、フェロモンを出していたはずのあの時、俺は意識明瞭だったし身体に異変なんてなかった。痛みすらなくて、苦しさもなくて、むしろ苦しげにしていたアレスを見て逃げを打つ余裕さえあった。
まあ敵わなかったけど。
でもまさかあれが俺の発情期じゃなくて、アレスの発情期だっただなんて、誰が予想してた?
◇
それから一ヶ月ほど経った頃、俺は強烈な性衝動に襲われ、わけもわからず倒れ伏せた。
しかも旅の途中で勇者一行から離脱したので、そこは実家ではなく見知らぬ土地。
貰った金で旅行でもしようとのんびり世界を散策していた俺も悪いが、友人すらいないこの土地で、宿屋の部屋で一人うずくまり尻を出し、穴の奥に子種が欲しいと思いながら自慰に耽っては満たされず、泣いて泣いて大泣きしながらαの影を探し続ける状態に陥っていた。
白魔導士の女の言葉を思い出す。
Ωの発情期は放っておくと死を伴うこともあるんです──。
「やらっ、やら、ちんぽ、ちんぽ欲しいよぉ……っ」
ぐちょぐちょの尻穴に指を二本突き入れながら、もどかしさに震え、喘ぎ、満たされない貪欲な疼きに腰も頭も痺れて舌を突き出して喘ぐ。
一体なんだよこれは。
くるしい。
熱い。
ちんぽをいれてほしい。
一番奥に、熱くてびゅうびゅう出るあれを……今すぐに欲しいのに。
「死んじゃうぅ……しんじゃうよぉ……っ」
乾いて、死んでしまう。
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