雑用係βとα勇者にΩの呪いがかかった話

星井

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第十六話


「自分の意思とは別にその……発情するのが彼はとにかく苦痛だったみたいで。でも俺はそれをいつも笑い飛ばして『深く考えるなって、それがお前なんだから否定しなくていいだろ』って言ってたんです。俺としては励ましてるつもりだったんだけど、それは俺の驕りだったんでしょうね。ある日、彼が言ったんです。『意図しない相手とつがいになるのかもしれない。そんなの耐えられない』と」
「……」
「彼は幼い頃から、発情を完璧に抑える薬を開発するのが夢だった。そのために猛勉強して製薬研究所に入る予定でした。……でも直前で進路を変えたんです」
「研究所には入らなかった?」
「……ええ。一度面接に行ったきり、妙な顔をして帰ってきて。それ以来、研究所の話題も薬の話題も出すことはなくなりました。そうしているうちに、いつの間にか宮廷魔導士として働くことにしたようです」

 当然黒王は魔法に関しても膨大な知識があった男だ。持ち前の頭脳を生かし、数年間真面目に働いていた。
 そこまで聞いて、俺はダンジョンに仕掛けられた数々の魔術を思い出していた。俺とアレスがかかった罠と、毎回俺たちを脅かした魔物達。
 通常自然界に存在する魔物は凶暴性はそこまでない。ただ脅威を感じたら人間にも攻撃をすることもあるってだけで、問題にすることではないんだ。
 でも、ダンジョンの魔物は違う。あからさまに様子がおかしく攻撃性も高かったし、その身体能力や魔法力だって操作されていたように感じた。
 俺たちは彼等を倒す度、苦い思いをしていたんだ。
 通常ならどこかの森や海に住む、大人しい生き物たちだったから。

 数々のピースが頭の中ではめ込まれていく。
 先程アレス達が言っていた魔道士というワード、希代の天才、辞職。
 彼はΩで、βの幼馴染みは姿を消した男を心配して遠い地まで行方を捜している。

「もしかして、気付いて……?」

 静かに問うと、クロヴィスはちらりとこちらを見てそして口角を緩めながら頷いた。

「彼が世間を騒がせている黒王だって……? 確信はないんです。でも、あいつが行方不明になってからあちこちで謎のダンジョンが現れ、そこから逃げ出した魔物達が人々の暮らしを脅かすようになった」

 ずっとそんなはずはないと信じていたけど、最後の言葉が引っかかり、もしかしてと思うようになった。
 クロヴィスはそう言って、続けた。

「ノアは誰よりも強いΩでした。αより賢く強く、けれどずっと弱者でもあった。でもそれが彼を歪ませたのかもしれない。あいつは賢かったから、きっと気付いたんだ。発情期を抑える方法はない、と。じゃあどうすれば望む自分のままでいられるのか、と考えた。それで……」
「他に方法を?」

 クロヴィスがふ、と吐息を吐くように笑う気配がした。正午過ぎの日射しは少しずつ強くなり、小鳥たちは既にどこかに飛んで行った。

「俺はね、彼が何者であろうが受け入れてきたつもりでした。発情期のノアも変わらず愛せたし、問題なんてなかった。彼のプライドを傷つけていると知りながらも、俺も男だからむしろ歓迎だと、ね。でもノアは許せなかった。ある日の発情期明けに宣言されたんです」

『もううんざりだ。私はずっと己の身体を嫌悪していた。なんとか変える方法を探り続けてきたが、それは根本的な解決法には繋がらない。しかし気付いたんだ。なぜ、私の身体を変えねばならない……? そして考えた。変えるなら我々じゃなくてもいいはずだと。私がお前だけのものになれないのなら、お前が私だけのものになればいいと』

 だからクロ、βのお前こそ発情期を担え。

『そうすればあの馬鹿なα共も我々の発情期だけに反応することはなくなる。術式を組み込んで奴等につがいの呪いをかければ、Ωとαの結びは崩れゆく。たとえ時間がかかっても、その均衡さえ崩せばそれは後に劇的な変化を遂げるはずだ。種の危機に生命への冒涜? そんなもの、クソ食らえだ。我々はずっと馬鹿げた呪いを強制的にかけられてきたからな。クロ、知っているか。国が禁じた魔法は数多ある。なぜ禁じた? 危険だからだ。なぜ危険か? 簡単にできるからだ。決めたぞクロ、私はこれからそれを完成させる』

 え、ええええ!

「つまりそれで、種族革命的な行動に?」
「……そうかもしれませんね」

 事の発端はクロとノアの種族を超えた愛からか。濁すような言い方をしていたけれど、多分どっちが男役か女役かのポジション的なものでノアは嫌な思いをしていた。恋人であるクロはそれを知りながらもΩである彼を受け入れるつもりで否定してこなかったんだろう。
 けれどノアは違ったのだ。ずっとずっとそんな自分を変えたかった。それはたぶん、肉体的な事もあるけれど、一番はいつか意図しない相手とつがう未来に、怯えていたのかもしれない。
 俺が沈黙すると、クロヴィスははにかんで、困ったような声音で言った。

「あいつは天才だけど、本当に馬鹿なんです」

 でもそんなところも嫌いじゃないってか……!
 顔の紅いクロヴィスを見て、俺は半目で口を噤んだ。


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