【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
51 / 97

第51話 セス様を脅す

しおりを挟む
外に出て、ドアがバタンと閉まった途端に、セス様に馬車に押し込まれた。

「どこへ行くんですか? ルロード様」

「ここからできるだけ離れたところへ」

「詩的な回答ですね」

私は減らず口を叩いたが、実際に連れてこられた場所は、漆黒の闇の帝王の趣味炸裂の部屋で閉口した。これなら、私の塔の家の方がまだマシだ。

「とにかく!」

セス様は重そうなマスクをとった。

マスクの重みで鼻の横が赤くなっている。

「なんで、あんな名前で人を探した?」

私はニヤリとした。だって、闇の帝王の通称ルロード様の本名がバレたら、めちゃくちゃにセス様は困るに決まっている。

せっかく闇の帝王を気取っているのだ。何だか知らないけど、同好の士も見つかったらしいし、彼らの手前、平凡すぎる本名は知られたくないだろう。
それに、王城の連中に闇の帝王とか言う二つ名がバレたら、殿下は大笑いするだろうし、魔術塔の同僚は何て言うかな?

ルロードと本名をくっつけた名前で探されれば、よもや知らんぷりはできまい。ふっ……勝利。

「お会いしたくて」

嘘ではない。

「なにしろ婚約者なので」

「嘘をつけ」

「お手伝いしたくて」

セス様はため息をついた。
そして窓の外を見た。

私もセス様の視線を追った。

「あれか。あれを手伝うって言うのか」

それは窓ではなかった。

真実まことを写す鏡だ」

ネーミングにはあくまで異議ありだが、私は映された光景に釘付けになった。

「戦場の様子だ。ここから十キロ離れたところ。エッセンの村の近くだ」

向こう側は黒い森。

手前側から、赤や緑、黄色の光線が放物線状に細く長く放たれていく。

「戦っている」

「あれは何ですか?」

「狙い撃ちだ。大型のボスになる悪獣を撃っている。赤や緑は魔術師の放つ光。黄色はただの砲だ」

「ボスがどこにいるか、わかるんですか?」

セス様は首を振った。
そしてカーテンを閉めた。

「その能力を持つ者と持たない者がいる。そう言う能力、君にはあるかな?」

だめだ。私にはできない。私は震え声で答えた。

「戦闘力はありません」

「探索魔法は使えるか?」

「やったことはないけど……できないと思います。できればセス様を探すのに苦労しなかったでしょう」

セス様は苦笑いした。

「そうだな」

セス様がいるところは、いつも散らかっていて汚かったが、珍しくそこそこ片付けられていた。

セス様は座れと、身振りで示して言った。

「悪獣は飢えている。小さいものも人里目指してやってくる。エッセンは山の入り口に当たり、これまではハイカーの街だった」

「山登りの?」

「そうだ。のどかな場所だった。悪獣と言っても、ウサギや鳥などは、たとえ魔術を帯びていても可愛らしいものだ。人を害することなど出来ない。他の動物と違って可愛らしいとペットにする人もいたくらいだ。特に害もないしね」

魔獣をペットに!

ちょっとその発想はなかった。

「殿下も小鳥の魔獣……魔鳥を飼ってたはずだ。通信に便利だとか言って」

あれか! 人の家にフンを落としていくやつ!

「問題は熊や豹やライオンに似た魔獣……悪獣だな。元々肉食だ。人の味を覚えてしまった」

人の味? 人っておいしいの?

「ヒトは弱いからね。彼らにとってはよい餌らしいな。だが、むろん食べたことがなかった。山奥の手近なところにいくらでも他の食料があるからだ」

ヒトは弱いかもしれないけど、武器を持って集団で戦えば、それなりに強いはずだと私は言った。

セス様は軽く頷いた。

「だけど、魔獣は魔力のない人の目には見えない。山が食料不足になると小さな魔獣たちが人里へ来る。大型の悪獣もそれを追ってやってきて、人の味を覚えてしまった。魔獣たちは意志の疎通が出来るらしくて……」

「え? こわいですね」

「そうなんだ。どうやら、人がウマいことが伝わって、肉食の大型悪獣だけが山を降りて次から次へとやってくる事態になっている。人食い魔獣の大量発生だな」

人食い魔獣の大量発生……いやな言葉だ。

「人間は危険だって思わないんでしょうか?」

「殺されたら、その意志の疎通手段も無くなるんだと思う。誰に酷い目に遭ったかなんて伝わっていないんだと思う」

「じゃあ、むしろ、殺さずにひどい目に遭わせて帰してやった方がいいんでは? そしたら、人間は危険だってわかりますよね?」

「まあ、この説、誰にも言っていないから」

「そんな! 上層部に伝えれば!」

「でも、これ、私の推測だからね? 本当のところはわからないよ?」

「伝えればいいじゃないですか! せっかく漆黒の闇の帝王で冥界の主なんでしょう?」

「それ、ここで言う?」

セス様があからさまに嫌な顔をした。

「俺に戦闘力はない」

「え? 大魔術師のくせに?」

すっごく嫌そうな顔になった。

「やかましい。ないものはない。だから、上層部に対しての発言力もゼロだ」

「えー、じゃあどうして徴集されちゃったの? 関係ないでしょ」

「いいか、ポーシャ。戦争というものは戦ってるやつだけで成り立っているわけではない。兵站も必要なんだ」

「へいたんて何?」

「食料とか、武器とか弾薬だとか、そんなのを供給する、とても地味なお仕事だ」

セス様はため息をついた。

「めんどくさくって、足りないだの、種類が違ってるだの、文句ばっかり言われる嫌な嫌なお仕事なのだ」

「はあ」

「お前はいいよな。命のポーションを持ってきましたと言えば、聖女くらいの扱いを受けられる」

「あ、じゃあ、連れてってください。未来の女公爵として、顔を売っときたいです」

「ちぇっ。めんどくせー」

「連れてかないと、ルロード・セバスチャン・マルクの正体、バラしますよ」

セス様はグッと言葉に詰まった。
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

処理中です...