【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
81 / 97

第81話 何があってもぶれないポーシャ

しおりを挟む
アデル嬢の大声を聞きつけて走ってきたのは、リーマン家の者だけではなかった。すわ何事と殿下の護衛騎士たちも走ってやってきた。

殿下の護衛騎士の方が、足元がもたつく侍女だの年寄りの執事なんかより、断然到着は早かった。

「殿下、どうなさいました?」

顔色を変えた護衛騎士連中が、ガゼボを覗き込んだが、予想に反して、殿下は満面の笑みだった。

「で、殿下が笑ってる?」

「え? あのいつも仏頂面の殿下が?」

護衛騎士の皆さん、何を言ってるの?

「殿下っていつもニヤケ面じゃなかったんですか?」

騎士の皆さんが一様に私の方を振り返った。

「「「「えっ?」」」」

「いいから、私を助けなさいよ!」

しびれを切らしたらしいアデル嬢の金切り声が響いたが、殿下が命じた。

「まず、そこの女を捕らえよ。毒殺犯だ。そして、私の侍医を呼べ。それから、ポーシャ、毒を盛られたのは客室か?」

「客間とお茶を淹れた侍女の顔を覚えていますわ。私に護衛騎士を付けてくだされば、現場を押さえます」

殿下は満足げにうなずいた。

「あとはセスを呼ぼう。毒なら第一人者だ」

殿下が腕を差し伸べると、どこからともなく、行った先のお宅にフン手紙を落して歩く、例の可愛らしい小鳥が飛んできて、殿下の腕に止まった。

「ピヨちゃん、セスのところへ行ってから、侍医のアストル爺のとこ回って、それから、騎士団長とこへ行って、全員ここへ来いって伝えてくれる?」

小鳥はつぶらな黒い目で、ジィーっと殿下を見つめた。

「わかったよ、ピヨちゃん! 遠いって言いたいんだね? ピスタチオのマカロンを三つつける!」

あざとかわいく、ピヨちゃんがうなずく間もなく、私は通信魔法・往復便で、その三人に手紙をシュパッと送った。

「めんどくさい。それに時間かかる」

「ちょっと! ポーシャ、ピヨちゃんの立場、どうなるの? ピヨちゃんが怒るでしょ?」

護衛騎士は殿下のピヨちゃん愛には慣れているらしく、無視している。
ピヨちゃんの方が、普通の使者が馬に乗って行くより、そりゃ速いだろうし、護衛騎士の皆さん方も楽をできるからな。

「ピヨちゃん、ピスタチオのマカロン、四つあげるから」

私は約束した。

ピヨちゃんは、あざとかわいく黒い瞳で見つめてきたが、私には効かない。
ポーションを作る要領でスーッと手を伸ばすと、ピヨちゃんは、シュンと小さくなって消えた。

「なにしたの?」

殿下は叫んだが、私はニヤリと笑って言った。

「魔力、いただきました」

ピヨちゃんは魔獣。ピスタチオのマカロンに釣られているわけではない。
溢れんばかりの殿下の魔力で動くのだ。

私は魔力を吸い取れる。ピヨちゃんなど、敵ではない。

「さあさあ殿下、セス様がすぐに来ると思います。これからが正念場ですよ!」

私は声を張った。

「もっと人手を集めて、毒薬なんか物騒なものを使う連中は徹底的に捕まえましょう」

「あんたが一番危ないじゃないの! 媚薬だとか作って!」

完全復活した上、命のポーションのおかげで元気はつらつ、お肌の調子も万全になったアデル嬢が怒鳴った。髪もつやつやしている。

「命のポーションのおかげで復活したくせに」

私は意地悪く言った。



その後、セス様も侍医のアストル爺も騎士団長もみんながドヤドヤとやって来た。

「アランソン公爵を毒殺しようと試みたとは」

「身の程知らずにも、ほどがありますな」

「ホント、ホント」

なに盛り上がっているの。

毒絡みとなれば、私は専門家ではあるが、司法の問題はさっぱりなのでそこは殿下に丸投げした。

「毒の入手先はグレイ様だそうです」

私は殿下にこっそり教えた。

殿下の顔が、悪い顔になった。

「我が妻をデートに誘う輩には、天誅を」

誰が妻だ。

「天誅ですね、殿下」

セス様がうなずいた。

セス様は天誅って言葉が好きなんだよね。

「どちらかと言えば、アデル嬢に天誅を下して欲しいんですけど」

私は一応希望を述べた。アデル嬢はいろいろと面倒くさすぎる。
私の手に負えない社交界を操るとか、私にできない技を繰り出してくるから面倒だ。

「抹殺しよう」

セス様。そう言うのはいいから。指を顔の前で厳かに交差させるゼスチャーは何の意味があるの? キモいからやめようよ。

「私に狙われて、無事でいられた人間はいない。私は魔王だ」

「まあ、セスがノリノリになったら、敵とみなされた人間はあきらめるしかないからな。最強の味方だ」

それだけ聞くと便利そうだけど、やってることを見ていると、ムズムズしてくる。

「殿下。私はこれで失礼させていただきます。今日は疲れましたわ」

「送ろう」

「大丈夫ですわ。それより殿下のご活躍をお祈りしております」

「そ、そうか……。婚約者のあなたの仇を必ず取るから」

婚約者のっていちいち言うのやめて欲しいな。いつ、婚約したんだろう。

「期待しておりますわ」

なにしろ時間が惜しい。なんだかセス様が殿下に伝染しているみたいな気もするけど、私はにっこり殿下に向かって微笑むと、自分の馬車に乗り込んだ。

「ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド!」

セス様が叫んでいた。
意味が分からない。大体、あんなセリフ言わなくても、魔法は使える。

周りはハハーッと平伏していたが、私は御者に言った。

「馬車を出して。超特急で家に帰って」

御者は空気が読める方だったので、ためらった。
そりゃ、周りが平伏して厳かな空気が漂ってる横を、ガラガラでかい音を立てて馬車を出そうと言うのだから、気にはなるよね。

「早くして」

一刻も早くこの場を去りたい。

殿下は、なんてことを言うのだろう。

すっかり婚約者気取りだ。


私は馬車の窓の外の流れる光景に向かって言った。

「殿下を嫌いじゃないけど、美人だとしか言わないのだもの……もっと、ほめ方とかありそうなものだわ」

なんとか、いつもどおり乗り切ったけど、ドキドキする。キス、怖い。衝撃過ぎる。

「それから、いつでも、嬉しそうだわ。私は殿下の厳しい顔が好きなのに」

いつも絨毯で移動していたが、馬車にもいい点があることに気がついた。
移動に時間がかかると言うことは、ゆっくり考える時間が出来たのだ。

アデル嬢はダメだ。殿下におススメどころではない。
元々、主張が強引過ぎると思っていたけれど、毒を盛るとは思わなかった。

毒殺犯ではないか。

殿下にも媚薬を盛ろうとしていた。

普通の人間は、あんな大胆な真似はしない。

唯一助かったことは、殿下が全部引き取って行ってくれたことだ。正確に言うと、殿下が呼んでくれた騎士や侍医や、それから司法関係者の皆様方のことだけど。

さすが、王族。きっちり出来上がった組織を自由自在に使える人間は違う。

現在進行形で、発展途上のアランソン公爵家の組織とは比べ物にならない。これが権力と言うものなのね。

私はもう考える力が残っていなかった。アデル嬢が短絡的なのか、事態を認識していないだけなのか。だから、殿下が引き取って行ってくださったことは、とてもありがたかった。

「でもね、今回、はっきりしたことが一つあるわ」

人間、得意不得意がある。

私の得意は、ポーションなのよ。
馬車の中で、私は目にもとまらぬ速さで通信魔法を使った。

バスター君を呼ばなくちゃ。

『問題は解決した。人体に毒肉ポーションは完全無害と判明。即刻、量産体制に入る。打ち合わせを行いたい。公爵邸にて待つ』


しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

婚約破棄を突き付けてきた貴方なんか助けたくないのですが

夢呼
恋愛
エリーゼ・ミレー侯爵令嬢はこの国の第三王子レオナルドと婚約関係にあったが、当の二人は犬猿の仲。 ある日、とうとうエリーゼはレオナルドから婚約破棄を突き付けられる。 「婚約破棄上等!」 エリーゼは喜んで受け入れるが、その翌日、レオナルドは行方をくらました! 殿下は一体どこに?! ・・・どういうわけか、レオナルドはエリーゼのもとにいた。なぜか二歳児の姿で。 王宮の権力争いに巻き込まれ、謎の薬を飲まされてしまい、幼児になってしまったレオナルドを、既に他人になったはずのエリーゼが保護する羽目になってしまった。 殿下、どうして私があなたなんか助けなきゃいけないんですか? 本当に迷惑なんですけど。 拗らせ王子と毒舌令嬢のお話です。 ※世界観は非常×2にゆるいです。     文字数が多くなりましたので、短編から長編へ変更しました。申し訳ありません。  カクヨム様にも投稿しております。 レオナルド目線の回は*を付けました。

【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。 青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。 虐げられ、食事もろくに与えられない。 それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。 ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。 名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。 しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった── 婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語── ※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。

【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)

神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛 女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。 月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。 ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。 そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。 さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。 味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。 誰が敵で誰が味方なのか。 そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。 カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。

処理中です...