【完結】公爵令嬢の育て方~平民の私が殿下から溺愛されるいわれはないので、ポーション開発に励みます。

buchi

文字の大きさ
89 / 97

第89話 アデル嬢大いに語る

しおりを挟む
そして、最後の肉料理(鴨ローストだった)が出た後で、アデル嬢が大柄な女性騎士に連れられて登場した。


私はアデル嬢の変化に驚いた。
顔色がなっていなかった。
ドレスは、いつもと同じ豪華さだったが、心なしかしわくちゃで、色あせている気がする。

見た目の雰囲気が変わってしまって、同じ人かと疑うくらいだった。
まあ、侯爵家で侍女たちをあごで使っていた頃と比べれば、牢屋は雲泥の差だとは思う。

だが、場所がモロゾフだと気がつくと、顔色が戻ってきた。

多分、もっとまずい場所、例えば絞首台とかを予想してたのかもしれない。
罪人なのに、ドレスを着せられて外へ出ろとか言われたら、悪い想像しかできないだろう。

行き先が高級レストランなんて、意外すぎて絶対予想つかないよね。

「ここ、モロゾフじゃないの!」

彼女は怒ったように言った。機嫌は最悪らしい。

これはいけない。殿下が怒るかも。
アデル嬢はワガママなのだ。

私は努めて彼女の機嫌を取る方向に回った。確かに私は被害者だけど、この私に毒を飲ませて亡き者にしようだなんて、計画にアラがあり過ぎだもの。抜けすぎて、ザルみたいだわ。

「お久しぶりですわ、アデル様。デザートは何になさいますこと?」

私は平静を装って尋ねた。

アデル嬢は狂ったような目線を私に向けた。

「なに聞いてるの?」

怖いわ。私は目を逸らして、メニュー表の間に鼻を突っ込んだ。

「苺とバニラアイスのビスケット添え、ホットアップルパイの生クリーム添え、栗のタルト……」

私は震え声で読み上げた。

「何がお好きかしら?」

「……アップルパイで。生クリーム多めで」

直立不動の姿勢で待機してた給仕が直ちに承った。

「かしこまりました」

ここの給仕ってば、割と神経太いよね。
さっきの給仕は私を、街の女性と勘違いしていたし。

この先、この会合は何が起きるのかしら。
もう、絶対黙っておこう。

痛いような沈黙の後、最初に口を開いたのは殿下だった。

「早速だが、リーマン嬢、来ていただいたのには理由がある。毒の入手先を知りたい」

殿下……。なにダイレクトに聞いちゃってくれてんの。

「そこにいるグレイ様よ!」

アデル嬢の声が響き、グレイ様が凍りつき、関係ないはずのモロゾフの客も一緒になって凍りついた。

「ち、違う。私は関係ない。殿下、説明させてください」

さすがのグレイ様があわてて話を遮った。

「だって、私、あなたから毒を受け取ったわ。人を殺したいんで、死ぬだけの量の毒をくださいって」

「ちょっと! そんな用途、冗談に決まってるでしょう! 誰が本気にするんですか!」

「本気よ! グレイ様だってわかったとおっしゃってたじゃありませんか!」

「アデル様、そこは冗談だったって言わないと」

私は救いの手を差し伸べてみた。

アデル嬢がぐるりと首を回して私を見た。

しまった。喋らないでおこうと思ったのに!

「なんなの? 貧乳のくせに、その胸の開いたドレスは」

アデル嬢はツケツケと私の胸を眺めた。

「スカスカじゃないの」

モロゾフの客全員が聞き耳を立てていた。

私は黙り込んだ。なぜ、それを今、ここで聞く。

「大体、あんた、邪魔なのよ。私と殿下は愛し合っているの」

「「「え?」」」

といったのは殿下とセス様とグレイ様だった。

「殿下、ポーシャ嬢は私に酷いいじめをするのですわ。こんな女、王子妃にふさわしくありません。婚約は破棄されるべきですわ」

アデル嬢は、殿下にしなを作って訴えかけた。

なんだかムカつくんだけど。

「いじめ……どんないじめをしたって言うんです?」

お心当たりがない。

「あんたがちゃんと死なないって言ういじめよ! おかげで、私が牢に入れられちゃったじゃないの! かわいそうだと思わないの?」

「誰を……ですか?」

「私に決まってるじゃない。死ななくてもいのよ? そこはオマケしとくわ。お父様もそんな程度の毒じゃ死なないっておっしゃってたし」

殿下がいかにも何気ない様子で口を挟んだ。

「侯爵もご存じだったのかな?」

「アランソン公爵令嬢は、毒娘だっておっしゃっただけよ。行く先々で、毒を撒いて歩くって。そう言う評判は王子妃にふさわしくない、王子妃候補から外されるだろうって」

「それで、毒を使ったのですか?」

セス様が用心深く口を挟んだ。

「アランソン公爵令嬢が毒を使った事実が残ればよかっただけですわ」

「ええと、毒を入れたのはあなたですよね?」

「誰が毒を入れたかなんて、わからないでしょ? それはどうでもいいの。アランソン公爵イコール毒公爵、この構図なら、簡単に広まるってお父様が、アドバイスしてくださったの。平民からの変身、毒々しいほど美人だし、恐怖を感じるような魔力。きっと、世間も不気味な存在だって思うに違いないわ」

魔女か。

今日の赤いドレスはまずかったと思う。派手で官能的かも知れない。
自分があつらえたわけじゃないけど。

「官能的? どこが」

アデル嬢はせせら笑った。

「もう少し豊満ならねえ。残念だったわねえ。あんたみたいな平板な地味令嬢、一生かかっても貴族らしい貴族になんかなれないわ。いくらお金をかけて飾っても、ただの成金よ。あなたには、女性として本当の魅力に欠けているのよ」

そう言うと、アデル嬢はもう一度、ジロリと私の胸元をいかにも軽蔑したように見つめた。

「勘違いしてはダメよ。身分があるから誰もけなさないでしょうけどねえ。たいして親しくもないのに、突然ドレスみたいな高価なものを贈られるなんて、変でしょ? いいカモだと思われているだけよ」

アデル嬢は優位に立てたと思ったらしい。鼻息が荒くなった。

「いつまでも平民臭いシッポをぶら下げて王子妃になれるとでも? 殿下の足手まといになる前に、せめて身を引きなさいよ」

給仕が間に入った。

「お取り込みのところを……アップルパイでございます」

アデル嬢は、パイは食べたかったらしい。サッとナイフとフォークを手に取って、アップルパイに取りくんだ。

「私は殿下の足手まとい……?」

アデル嬢は、令嬢にあるまじきことに、リスみたいにパイを口いっぱいに頬張りながら叫んだ。

「もちろんよ。礼儀作法もなっていない。貴族間の知識も知らない。殿下が貧乳好みだから、いけないのよ。媚薬をかけても反応がない。私は殿下の心を手に入れようとあんなに努力したのに。ダンスにも誘ったし、手紙も山ほど書いたわ? あなたは、殿下のために何かしたことはあるの?」

えっ? そう言われればない。

「自分が、殿下にふさわしいとでも思っているの? あなたに愛の心はあるの?」

「アデル嬢……そ、そんなに」

ライバルを殺したい程に強烈な独占欲。殿下、愛されていたのか。

「良縁を求めるのは貴族の娘の務め。ちょっと顔がいいからって、お高く止まってる最高峰を、征服したくなったのよ。私にふさわしいし」

更には征服欲?

「あの、征服した後はどうなさるおつもりでしたの?」

頭のてっぺんに旗でも刺すつもりだったのだろうか。征服済、とか所有品!とか。

「え? それは、もちろん結婚して王子妃になるのよ……なんだったら王太子になってもらいたいの。未来の王妃よ。そして溺愛されるの。あんたなんかには分からないと思うわ! とにかく色々あるのよ!」

ヒソヒソとお互い同士囁いていたギャラリーが、なぜか静まり返って、真っ赤になったアデル嬢と渋い顔の殿下を代わる代わる見ている。気まずい?

殿下もセス様もグレイ様も、それから、モロゾフにいた他の客も全員、アデル嬢の言い分に釘付けだった。

だが、ようやく我に返ったらしい。

我に返ると殿下はアデル嬢は無視して、グレイ様に聞いた。

「それで、その毒だが、国内で生産されたものでないことがわかった。入手先を教えてもらおう」

殿下は私たちには一顧だにせず、グレイ様に迫った。

「私は単に害虫退治か何かに使うのかと軽く考えたに過ぎません」

「それでも、人間を軽く殺せるほどの毒を外国から持ち込んだのだ。話を聞かせてもらおう」

いつの間にやら、騎士が数名グレイ様の周りを囲んでいた。

「私を一体何の罪に問うと言うのですか?」

グレイ様は努めて冷静に尋ねた。

「証人がいる」

殿下はせっせとアップルパイを食べているアデル嬢を指した。

「アランソン嬢を、殺すための毒を用意した」

「あまり頭も良くなければ、事情もわかっていなさそうな貴族令嬢が、注文量の例えに言った言葉に過ぎません」

殿下が面白くなさそうに笑った。

「あなたにどう見えても、アデル嬢は毒殺犯人なんだ。あなたは共犯の疑いをかけられている」
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!

碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった! 落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。 オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。 ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!? *カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

ゲームには参加しません! ―悪役を回避して無事逃れたと思ったのに―

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢クリスティナは、ここが前世で遊んだ学園ゲームの世界だと気づいた。そして自分がヒロインのライバルで悪役となる立場だと。 のんびり暮らしたいクリスティナはゲームとは関わらないことに決めた。設定通りに王太子の婚約者にはなってしまったけれど、ゲームを回避して婚約も解消。平穏な生活を手に入れたと思っていた。 けれど何故か義弟から求婚され、元婚約者もアプローチしてきて、さらに……。 ※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

【完結】王位に拘る元婚約者様へ

凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。 青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。 虐げられ、食事もろくに与えられない。 それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。 ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。 名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。 しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった── 婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語── ※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。

処理中です...