グラクイ狩り〜真実の愛ってどこに転がってますか〜

buchi

文字の大きさ
73 / 86

第73話 たまには、外に出たい

しおりを挟む
 私は、夕方、パトロール隊と一緒になってやってきて、グラクイ飼育用の建物の二階で時間を過ごした。
 
 基地の中が気詰まりだった私は、外に出ることは歓迎だった。

 いろいろなウワサが飛び交っていることは知っていた。ギルのことだって、負担だった。確かに短銃を突きつけたのは悪かった。彼は温かい気持ちで来てくれただけなのに。

「ノッチ、僕らはうまくやってのけられると思うよ。」

「罠の話?」

「違うんだ。君のこと」

 ジェレミーは首を振った。

 私はため息を着いた。

「正確に伝わりさえすれば、君を悪く言うものなんかいないよ」

「だといいね……本人の私には何も出来ない」

「第三者の僕とオスカーがやる。ばらしたのは、オスカーだからな。そのオスカーに話したのは僕だ」

 私は目を上げた。予想していたとおりだった。

「ノッチ、自分で言うのもなんだが、僕はこういうのは下手じゃない。みんなにうまく伝えられると思う。心配するな」

 ジェレミーは真剣に言った。

「うん。ありがとう。ジェレミー。お願いする」

 私は素直に礼を言った。


 私はグラクイ飼育用の施設に閉じこもり、彼らの観察や世話をしながら、文献を読み漁り、呼気の検査報告を比べた。

 だが、今のところ、結果はゼロだった。なにも特別なものは出なかった。普通の動物とまったく一緒だ。
 これでは、埒があかない。
 
 食べ物のせいだろうか。
 野生のグラクイは、何を食べているのだろう。

 グラクイは日当たりの悪いところに好んで生息するが、そういった場所は、食べ物がたいてい少ない。

 飼育しているとわかるが、彼らは何でも喜んで食べた。

 嗜好は、人や、雑食性の他の動物と同じで、パンや甘いものを好んだ。
 
 人間にとっておいしいものは、どんな野生動物も大好物で、たいてい彼らは食べ過ぎて体を壊すのだが、グラクイも同じでパンやジャムや甘い果物や肉などが大好きだった。

 見ていると彼らが非常に社会性の強い動物であることはわかった。
 ボスらしいものが存在し、時々声を上げている。ただ、非常に小さい声なので、かなり近寄らないと聞こえなかった。
 もしかすると、人間とは、声の周波数がだいぶ異なるのかも知れなかった。

 用心深い連中でもあった。
 全くなつかない。なつかないくせに人間のことをよく観察していて、すぐにこちらの手順などは理解した。
 だが、それだけ賢いくせに、逃げようとか、食べ物を要求するといった様子が全くないのは、とても不思議だった。

 これは、かえって不気味だった。なにか企んでいるのだろうか。
 
 私は熱心に日誌をつけ、朝がくるとパトロール隊といっしょに基地に帰った。

 観察相手が夜行性なので、自分も夜型の生活になってしまった。
 とは言え、今の基地の状態を考えると、むしろ、その方が都合が良かった。
 もう、消滅して、見えない存在になりたいくらいだった。

 食事はひとりでとることにしていた。一度コッティとシュマッカー、ハイディが付き合ってくれた。


 ある日、薄暗いような軍の食堂でひとり、食事をしていたら、ふらりと人影が近寄ってきた。

 知らん顔でいなそうとしたら、それはバルク少佐だった。
 彼は、黙ってむかいの椅子に座り込んだ。

「少尉、大丈夫か」

 彼はそれだけ言った。

 私はなんとも返事が出来なかった。
 少佐は老けて疲れた顔をしていた。制服はくたびれていた。きっと忙しいのに違いなかった。

「ええ。大丈夫です」

 私はしばらくしてから答えた。たぶん、私も同じように疲れた感じに違いなかった。

「なんとかしてやりたいのだが……」

 彼は語を切って黙った。

 私も黙っていた。

 しばらく二人で座っていたが、少佐はふと時計を見るとそそくさと出て行った。

「忘れないでいてくれよ」

 去り際に彼はそういったけれど、何のことだかさっぱりわからなかった。



 一週間が過ぎたが、例の飼育施設には、誰もやって来なかった。グラクイすら来なかった。
 何の反応もなく、私達は、やや拍子抜けの態だった。

 これは、早い話が失敗だろう。

 スコットどころか、グラクイさえ、来ないのだから。

「しかし、いいことだよ、ノッチ。君が安全なんだから」

 ジェレミーが慰めてくれた。だが、オスカーは言った。

「こりゃ大失敗だな。ダメだとわかった以上、早いとこ、この実験動物の引き取り手を捜して、こいつらから手を引こうぜ。あいつらを護衛していると思うと、精神衛生上、よくない」

 せっかくの壮大な罠を、一週間くらいで、失敗と決め付けられると、さすがに気落ちしたが、まったく動きがないので、反論できなかった。

「おかげさまで、少し緊張感が薄れてきたな。いいのか悪いのかわからないけど。グラクイが出てこないのは、数が減ったからだろうか?」

「確かに、かなりやっつけたからな。やつらも命は惜しいだろうよ。どこにどれだけいるんだかわからないが。」

 朝が早く、まだ、人の少ない時間帯だった。
 ジェレミーと三人で、基地の中で朝飯を食べた。
 熱いコーヒーとトースト、バターとジャム、カリカリのベーコンとふわふわのたまごがあった。
 軍の食堂から調達してきたものだ。ナオハラが、隣で、使いぱしり料に朝食のご馳走になっていた。

「別な方法を考えよう。グラクイを捕まえて、無線発信機をつけて放すのはどうだ。グラクイが掘った穴がわかる」

「地中に無線は効かないよ」

「穴の入り口と出口だけでもわかるといいな。そうすれば、我々も対処のしようがあるじゃないか」

 ジェレミーが割り込んできた。

「いいかもしれない。一度試してみたらどうだろう。
 この無線機、どう思う? 最小型の最新式だ。今日、手に入ったばかりなんだ」

 それは、薄くて、ほんのカケラみたいなシロモノだった。

「へえ、ずいぶん薄くて小さいね。何台あるの?」

「まだ、一ダースほどだ。だが、ノッチ、やってみるなら、試しに君が一台持って行ったらどうだ。完全防水なんだ。兵士に持たそうかという話も出ている」

「それより、四六時中いなくなるバルク少佐にくっつけとけ」

 オスカーが笑った。

 私は興味深く、一台を受け取った。ジェレミーのパネル盤を見ると、番号が出ていた。裏を返すと、その番号が打たれている。

「GPSと同じだよね?」

「そう。これは、追跡用なんだ。ペット用マイクロチップの改良版で、ログが残せる。
 ちょうどいいから、これから一台持って行ってくれよ。どんな感じなのか、見てみたいんだ」

「だけど、他の人のほうがいいよ。一日中、座り込んでデータとにらめっこなんだ。全然、動かないんだよ。正直言うと、もう、うんざりだ。フィールドワークの方がいい」

「それじゃ、今日だけ、パトロールに回ればどうだ。オレが代わりに座っててやる」

 オスカーがおかしなことを言い出した。

「なぜ? どうかした?」

「風邪なんだ。熱がある……さらに下痢だ」

 ジェレミーは声を立てて笑ったが、私は乗り気になった。ジェレミーに渡された無線機を胸ポケットに入れて、オスカーに言った。

「いいね、交代しよう。あそこならトイレもあるし、暖房装置もある。座りっぱなしは、飽きたところだ」

 自分はすっかり張り切って、銃の手入れを始めた。たまには、このほうがいい。

「今日は、グラクイは出るかな?」

「最近は、全然出てこないんだよね。すっかり、拍子抜けだよ。ただただ、ぐるぐる回っているだけ。ある意味、すごく安全だけどね」

 オスカーは、そう言ったが、そんなことはなかったのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

男爵令嬢なのにくじ引きで王子のいる生徒会の役員になりました!

らな
恋愛
男爵令嬢のリアはアルノー王国の貴族の子女が通う王立学院の1年生だ。 高位貴族しか入れない生徒会に、なぜかくじ引きで役員になることになってしまい、慌てふためいた。今年の生徒会にはアルノーの第2王子クリスだけではなく、大国リンドブルムの第2王子ジークフェルドまで在籍しているのだ。 冷徹な公爵令息のルーファスと、リアと同じくくじ引きで選ばれた優しい子爵令息のヘンドリックの5人の生徒会メンバーで繰り広げる学園ラブコメ開演! リアには本人の知らない大きな秘密があります。 リアを取り巻く男性陣のやり取りや友情も楽しんでいただけたら嬉しいです。 ひみつの姫君からタイトルを変更しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...