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フリースラント
第8話 休暇で家に帰ると妹がいた
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「城に帰れば、驚くことがあります」
母から手紙が来ていた。
ヴォルダ公爵家の馬車が、わざわざ届けに来たのである。
ヴォルダ家の馬車とわかると、生徒も先生も建物からバラバラ駆け出してきて、ピカピカの車を見学に来た。
王立付属学校の設備は、決してみすぼらしくはなかったが、ヴォルダ家のようなわけにはいかなかった。フリースラントが、自城にいるときと同じように、平然と暮らしていたのは、彼が知らないうちに、特待生としていろいろと手が回っていて、雑用をはじめとした世話係や、特別に配慮された食事などが手配されていたからだった。部屋のベッドや寝具まで実は特別製で、ほかの生徒のものとは全く違っていた。
そして、ヴォルダ家の豪勢な馬車からは、ひとりの召使が意気揚々と現れて、何事ならんとすし詰めの見物人の間を通って、校長室まで赴き、フリースラントへの手紙を届けたのである。
『長い4か月でした。学校ではちゃんとしてもらえているのか、とても心配です。お父様は大丈夫だとおっしゃるのだけれど……』
スリースラントは、父が、と言うよりゾフが、何か学校に手配をしたのだと悟った。
だんだんわかってきたが、ほかの生徒はこんな暮らしはしていなかった。ギュレーターや、彼の一味はどうだか知らないが、少なくともフリースラントの友達は、そうだった。父の勢力は絶大だった。
『お休みをとても楽しみにしています。わたしも、とても喜んだことが起きたの。きっと、あなたも喜ぶと思うわ。あなたが大好きなケーキを用意して待ってます。母』
「なんだ、これは……」
校長室へ呼び出され、見慣れた自宅の召使から仰々しく手紙を手渡され、いったい何が起きたのか、どんな重要な知らせなのか、好奇心ではち切れそうな見物人が大勢出たことを考えると、手紙の中身のしょうもなさは、トマシンにさえ伝えにくいくらいだった。
「フリー様、何のお知らせだったのですか?」
「あ、いや、何でもない」
(秘密なんだ。いったいどんな重要な秘密なんだろう。馬車を早駆けにしてまで、ご子息に伝えなきゃならないほどの、ヴォルダ家のかかわる秘密って、国の大事なんじゃなかろうか?)
フリースラントは、手紙の内容については黙っているしかなかった。
実は、フリースラントは、もう2~3週間してから帰るつもりだった。
休暇中は本来なら全員が自宅に帰るべきなのだが、高等科に属する貧乏学生たちの中には自宅へ帰る旅費が工面できない者もいた。
「弟や妹が多いので、家に帰っても負担ですから。冬休みには帰れます。旅費の支給があるので」
学校がないと、寮の食事も止まり、彼らは近所の農家や、教会の手伝いなどをして、なんとか食費を稼いでいた。フリースラントは、こっそり彼らの食を賄っていた。彼が、帰ってしまうと食事代が滞るので、ゆっくり帰るつもりだったのだ。
ところが、ピカピカの馬車が来た主な目的は、郵便ではなく、フリースラントのお迎えだった。
ほかの貴族たちの子弟に迎えの馬車は、こうまでものすごく豪華な馬車ではなかった。
フリースラントは赤面した。
今まで、馬車とはそんなものだと思っていたのだが、他人の家の馬車を見て、初めて自分の家の馬車がどんなにすさまじいものだったのか、ようやく認識できた。
このきらびやかな馬車が、学校の中庭に(自分が、ヴォルダ家の自分の城に戻らない限り)ずっと居座っているのかと思うと、耐えられない気がした。
特に、家来の者が、いかにも得意そうに、ほかの貴族たちの御者を見下している様子を見かけてからは、穴があったら入りたい気がしてきた。
「フリースラント様は、変わってますよね」
丸っこい正直そうな顔のトマシンは、自分の家の豪華な馬車を自慢するどころか、むしろ恥ずかしそうにしているフリースラントに向かって言った。
「ギュレーター様は、去年、自分の城の馬車を学校の中庭に置いて、おおいばりでしたよ」
「そうだろうな」
「今年は、まるで威張れません。ヴォルダ家の馬車は圧巻です」
フリースラントは、そもそも自分の家がどんなにすごい勢力家なのか、あまりわかっていなかったのだ。
宮廷にやって来る貴族たちは、みんな、ヴォルダ家に負けず劣らずの豪華な馬車だった。
だから、みんなそんなものなのだと思っていたが、そうではなかったらしい。
多分、王宮に出入りするときは、皆、力いっぱい見栄を張った馬車だったのだろう。
子どもの迎えに使う馬車まで、すべて高価な馬車と言うのは、底知らずの財力だった。
フリースラントは、教科書と、成績表と、合格証を待つと馬車に乗り込んだ。
ノイマン先生や担当の先生、親しくなった友達が見送ってくれた。
彼は、美少年で、強くて、テストでは一番に輝いた。そして大貴族の御曹司だった。
だが、見送ってくれた人たちは、そんな理由で来たわけではなかった。
「フリー、またね」
フリースラントは馬車の中から手を振った。彼らは、ただの友達だったのだ。
さすがに自分の家は懐かしかった。
学校では、立て続けにいろいろな事件が起こりすぎて、ホームシックになる間もないくらいだった。
何しろ彼はいつでもどこでも、恐ろしく注目の的だったのだ。
まずいこともあったが、おおむね好調だったと言っていいだろう。
勉強は、武芸以外も含めて楽しかった。
母に話すことがたくさんできた。優しい母は、いつもと同じように、にこにこしながら聞いてくれるだろう。
しかし、馬車から降りた彼は、母の姿がないことに気付いた。
絶対に彼を迎えに来てくれているに違いないと思っていたのに。
「母上は?」
ちょっと不安になって、フリースラントは傍らのゾフに尋ねた。
ゾフは苦笑いをしていた。
「すぐにお見えになりますでしょう。最近は大忙しなのでございます、奥方様は」
その時、甲高い子供の声が中庭に響き渡った。
「フリースラント!」
走ってきたのは、女の子だった。
「フリースラント!お兄様!」
フリースラントはあっけにとられた。
金色の長い髪をくちゃくちゃにして、十歳くらいの子供がフリースラントに抱き着いた。
後ろから、母が走ってきた。
「母上!」
驚いてフリースラントが叫んだ。
「そのように走られてはいけません。危ない」
でも、母は大笑いしていた。
「ルシアがいけないのよ。どうしても、あなたを驚かせるというの」
ルシア!
フリースラントは、女の子をまじまじと見た。
そうだ。宮廷で一度だけ会った、あの女の子だ。あの時は、しかめつらをし、いかにも機嫌が悪そうだった。
それが、今はニコニコ笑いながら、汗ばみ、熱い手で握ったため、しんなりしてきた花束を彼に渡した。
「おにいさま! おかえりなさい!」
何が何だかわからない彼は母の顔を見た。
「驚いたでしょう? ルシアがここへ来てから3か月になるわ。あなたと入れ替わりにやって来たの」
「アデリア様は?」
途端に、二人の表情が変わった。
「ああ、アデリア様は、お忙しくなられたのです。それで、父上の下で暮らした方が良かろうということになりましたの。宮廷は子供にとっていい環境ではありませんしね」
「王様のご命令でルシア様はヴォルダ家へ来られました」
夕食を済ませ、ルシアが寝に行くのに母が付き添って出て行った後、ゾフが事情をこっそりと説明した。
「なぜ?」
「ヴォルダ公爵の娘なのだからと言うのがその理由です」
それは、全くもっともな理由だったが、全くおかしな理由だった。
「母上はそんな方ではないが、別な女性と夫との間の子どもなど、憎くて当たり前ではないのか? ひどい目にあわされるかもしれないだろう」
フリースラントの14歳とも思えない説明にゾフはため息をついた。
「全くその通りでございます。しかし、奥方様は、あの通りのお方でして……お心が広いと言うか……ルシア様も勘の良いお子様で、あっという間に懐いてしまわれまして」
ルシアの、フリースラントの母への懐きようは、本当に一緒に住みだしてわずか3か月とは思えなかった。
「こう言っては何でございますが、アデリア様は、ルシア様を邪魔な存在くらいに思ってらしたのだと思います」
ルシアの宮廷での様子をフリースラントは知らない。ゾフはヴォルダ公爵について回っていたので、宮廷の内情にも通じているのだろう。
「いつも、誰かお付きの女性たちに任せきりでした。かえって王様の方がルシア様を気にかけておいででした。ヴォルダ公爵様は、アデリア様から憎まれていらっしゃったので、意見することもかないませんでした」
王宮で一度だけ見かけたアデリア王女は、豊満な美女だったが、一筋縄ではいかない、わがままで勝手そうな女性だった。フリースラントの母とは、いわば反対の性格だった。
それでも、たいていの場合、こんな関係がうまくいくはずがない。
「ですから、最初は、大勢のお付きが監視役でお見えでした」
フリースラントはげんなりした。母はさぞ迷惑しただろう。
「でも、ルシア様は奥方様に懐き、奥方様も心から可愛がられて……」
フリースラントにも、事情がなんとなくわかってきた。
「むりやり宮廷から引き離された監視役のご婦人方も、さぞご迷惑でしたろう。ルシア様がひとり帰され、二人帰され、そしてご自分で王様にご説明もされました。それで一月後には、誰もいなくなったのです。老年の王様の昔からのお付きの乳母様お一人が、しばらくは、ついておられましたが、その方も帰られました」
母が楽しそうに食堂に戻ってきた。
「かわいくて、なかなか賢い子供よ? ルシアは」
「母上……」
「いいのよ。あの子のおかげで、私も楽しみが増えました」
「母上、本当に……」
母は真顔で、フリースラントに向き直った。
「ルシアは母親に愛されていなかった。それなのに、アデリア様は、決してルシアを手元から話そうとはしなかったのです。だからきっとルシアは、宮廷では気まぐれな母親のせいで嫌な思いばかりをしてきたのではないかと思います」
「はあ……」
「妹なのですから、かわいがってやってちょうだい。ここでは、アデリア王女様のお子様ではなく、普通のただの子供として、毎日遊んでいるわ。決まった時間に起きて食事をして、午前か午後どちらかに家庭教師に勉強と、音楽とダンス、礼儀作法を教えてもらっています。悪いことをすると、きちんと叱られているの。宮廷では考えられないことだと思うけど、叱られているわ」
「どんな悪いことをするのですか?」
「この間はグルダをだまして、池に落としていたわ」
フリースラントはなんとなく愉快になった。
母から手紙が来ていた。
ヴォルダ公爵家の馬車が、わざわざ届けに来たのである。
ヴォルダ家の馬車とわかると、生徒も先生も建物からバラバラ駆け出してきて、ピカピカの車を見学に来た。
王立付属学校の設備は、決してみすぼらしくはなかったが、ヴォルダ家のようなわけにはいかなかった。フリースラントが、自城にいるときと同じように、平然と暮らしていたのは、彼が知らないうちに、特待生としていろいろと手が回っていて、雑用をはじめとした世話係や、特別に配慮された食事などが手配されていたからだった。部屋のベッドや寝具まで実は特別製で、ほかの生徒のものとは全く違っていた。
そして、ヴォルダ家の豪勢な馬車からは、ひとりの召使が意気揚々と現れて、何事ならんとすし詰めの見物人の間を通って、校長室まで赴き、フリースラントへの手紙を届けたのである。
『長い4か月でした。学校ではちゃんとしてもらえているのか、とても心配です。お父様は大丈夫だとおっしゃるのだけれど……』
スリースラントは、父が、と言うよりゾフが、何か学校に手配をしたのだと悟った。
だんだんわかってきたが、ほかの生徒はこんな暮らしはしていなかった。ギュレーターや、彼の一味はどうだか知らないが、少なくともフリースラントの友達は、そうだった。父の勢力は絶大だった。
『お休みをとても楽しみにしています。わたしも、とても喜んだことが起きたの。きっと、あなたも喜ぶと思うわ。あなたが大好きなケーキを用意して待ってます。母』
「なんだ、これは……」
校長室へ呼び出され、見慣れた自宅の召使から仰々しく手紙を手渡され、いったい何が起きたのか、どんな重要な知らせなのか、好奇心ではち切れそうな見物人が大勢出たことを考えると、手紙の中身のしょうもなさは、トマシンにさえ伝えにくいくらいだった。
「フリー様、何のお知らせだったのですか?」
「あ、いや、何でもない」
(秘密なんだ。いったいどんな重要な秘密なんだろう。馬車を早駆けにしてまで、ご子息に伝えなきゃならないほどの、ヴォルダ家のかかわる秘密って、国の大事なんじゃなかろうか?)
フリースラントは、手紙の内容については黙っているしかなかった。
実は、フリースラントは、もう2~3週間してから帰るつもりだった。
休暇中は本来なら全員が自宅に帰るべきなのだが、高等科に属する貧乏学生たちの中には自宅へ帰る旅費が工面できない者もいた。
「弟や妹が多いので、家に帰っても負担ですから。冬休みには帰れます。旅費の支給があるので」
学校がないと、寮の食事も止まり、彼らは近所の農家や、教会の手伝いなどをして、なんとか食費を稼いでいた。フリースラントは、こっそり彼らの食を賄っていた。彼が、帰ってしまうと食事代が滞るので、ゆっくり帰るつもりだったのだ。
ところが、ピカピカの馬車が来た主な目的は、郵便ではなく、フリースラントのお迎えだった。
ほかの貴族たちの子弟に迎えの馬車は、こうまでものすごく豪華な馬車ではなかった。
フリースラントは赤面した。
今まで、馬車とはそんなものだと思っていたのだが、他人の家の馬車を見て、初めて自分の家の馬車がどんなにすさまじいものだったのか、ようやく認識できた。
このきらびやかな馬車が、学校の中庭に(自分が、ヴォルダ家の自分の城に戻らない限り)ずっと居座っているのかと思うと、耐えられない気がした。
特に、家来の者が、いかにも得意そうに、ほかの貴族たちの御者を見下している様子を見かけてからは、穴があったら入りたい気がしてきた。
「フリースラント様は、変わってますよね」
丸っこい正直そうな顔のトマシンは、自分の家の豪華な馬車を自慢するどころか、むしろ恥ずかしそうにしているフリースラントに向かって言った。
「ギュレーター様は、去年、自分の城の馬車を学校の中庭に置いて、おおいばりでしたよ」
「そうだろうな」
「今年は、まるで威張れません。ヴォルダ家の馬車は圧巻です」
フリースラントは、そもそも自分の家がどんなにすごい勢力家なのか、あまりわかっていなかったのだ。
宮廷にやって来る貴族たちは、みんな、ヴォルダ家に負けず劣らずの豪華な馬車だった。
だから、みんなそんなものなのだと思っていたが、そうではなかったらしい。
多分、王宮に出入りするときは、皆、力いっぱい見栄を張った馬車だったのだろう。
子どもの迎えに使う馬車まで、すべて高価な馬車と言うのは、底知らずの財力だった。
フリースラントは、教科書と、成績表と、合格証を待つと馬車に乗り込んだ。
ノイマン先生や担当の先生、親しくなった友達が見送ってくれた。
彼は、美少年で、強くて、テストでは一番に輝いた。そして大貴族の御曹司だった。
だが、見送ってくれた人たちは、そんな理由で来たわけではなかった。
「フリー、またね」
フリースラントは馬車の中から手を振った。彼らは、ただの友達だったのだ。
さすがに自分の家は懐かしかった。
学校では、立て続けにいろいろな事件が起こりすぎて、ホームシックになる間もないくらいだった。
何しろ彼はいつでもどこでも、恐ろしく注目の的だったのだ。
まずいこともあったが、おおむね好調だったと言っていいだろう。
勉強は、武芸以外も含めて楽しかった。
母に話すことがたくさんできた。優しい母は、いつもと同じように、にこにこしながら聞いてくれるだろう。
しかし、馬車から降りた彼は、母の姿がないことに気付いた。
絶対に彼を迎えに来てくれているに違いないと思っていたのに。
「母上は?」
ちょっと不安になって、フリースラントは傍らのゾフに尋ねた。
ゾフは苦笑いをしていた。
「すぐにお見えになりますでしょう。最近は大忙しなのでございます、奥方様は」
その時、甲高い子供の声が中庭に響き渡った。
「フリースラント!」
走ってきたのは、女の子だった。
「フリースラント!お兄様!」
フリースラントはあっけにとられた。
金色の長い髪をくちゃくちゃにして、十歳くらいの子供がフリースラントに抱き着いた。
後ろから、母が走ってきた。
「母上!」
驚いてフリースラントが叫んだ。
「そのように走られてはいけません。危ない」
でも、母は大笑いしていた。
「ルシアがいけないのよ。どうしても、あなたを驚かせるというの」
ルシア!
フリースラントは、女の子をまじまじと見た。
そうだ。宮廷で一度だけ会った、あの女の子だ。あの時は、しかめつらをし、いかにも機嫌が悪そうだった。
それが、今はニコニコ笑いながら、汗ばみ、熱い手で握ったため、しんなりしてきた花束を彼に渡した。
「おにいさま! おかえりなさい!」
何が何だかわからない彼は母の顔を見た。
「驚いたでしょう? ルシアがここへ来てから3か月になるわ。あなたと入れ替わりにやって来たの」
「アデリア様は?」
途端に、二人の表情が変わった。
「ああ、アデリア様は、お忙しくなられたのです。それで、父上の下で暮らした方が良かろうということになりましたの。宮廷は子供にとっていい環境ではありませんしね」
「王様のご命令でルシア様はヴォルダ家へ来られました」
夕食を済ませ、ルシアが寝に行くのに母が付き添って出て行った後、ゾフが事情をこっそりと説明した。
「なぜ?」
「ヴォルダ公爵の娘なのだからと言うのがその理由です」
それは、全くもっともな理由だったが、全くおかしな理由だった。
「母上はそんな方ではないが、別な女性と夫との間の子どもなど、憎くて当たり前ではないのか? ひどい目にあわされるかもしれないだろう」
フリースラントの14歳とも思えない説明にゾフはため息をついた。
「全くその通りでございます。しかし、奥方様は、あの通りのお方でして……お心が広いと言うか……ルシア様も勘の良いお子様で、あっという間に懐いてしまわれまして」
ルシアの、フリースラントの母への懐きようは、本当に一緒に住みだしてわずか3か月とは思えなかった。
「こう言っては何でございますが、アデリア様は、ルシア様を邪魔な存在くらいに思ってらしたのだと思います」
ルシアの宮廷での様子をフリースラントは知らない。ゾフはヴォルダ公爵について回っていたので、宮廷の内情にも通じているのだろう。
「いつも、誰かお付きの女性たちに任せきりでした。かえって王様の方がルシア様を気にかけておいででした。ヴォルダ公爵様は、アデリア様から憎まれていらっしゃったので、意見することもかないませんでした」
王宮で一度だけ見かけたアデリア王女は、豊満な美女だったが、一筋縄ではいかない、わがままで勝手そうな女性だった。フリースラントの母とは、いわば反対の性格だった。
それでも、たいていの場合、こんな関係がうまくいくはずがない。
「ですから、最初は、大勢のお付きが監視役でお見えでした」
フリースラントはげんなりした。母はさぞ迷惑しただろう。
「でも、ルシア様は奥方様に懐き、奥方様も心から可愛がられて……」
フリースラントにも、事情がなんとなくわかってきた。
「むりやり宮廷から引き離された監視役のご婦人方も、さぞご迷惑でしたろう。ルシア様がひとり帰され、二人帰され、そしてご自分で王様にご説明もされました。それで一月後には、誰もいなくなったのです。老年の王様の昔からのお付きの乳母様お一人が、しばらくは、ついておられましたが、その方も帰られました」
母が楽しそうに食堂に戻ってきた。
「かわいくて、なかなか賢い子供よ? ルシアは」
「母上……」
「いいのよ。あの子のおかげで、私も楽しみが増えました」
「母上、本当に……」
母は真顔で、フリースラントに向き直った。
「ルシアは母親に愛されていなかった。それなのに、アデリア様は、決してルシアを手元から話そうとはしなかったのです。だからきっとルシアは、宮廷では気まぐれな母親のせいで嫌な思いばかりをしてきたのではないかと思います」
「はあ……」
「妹なのですから、かわいがってやってちょうだい。ここでは、アデリア王女様のお子様ではなく、普通のただの子供として、毎日遊んでいるわ。決まった時間に起きて食事をして、午前か午後どちらかに家庭教師に勉強と、音楽とダンス、礼儀作法を教えてもらっています。悪いことをすると、きちんと叱られているの。宮廷では考えられないことだと思うけど、叱られているわ」
「どんな悪いことをするのですか?」
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フリースラントはなんとなく愉快になった。
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