【完結】地味・ボンヤリの伯爵令嬢、俺様系王子様と一緒に魔女討伐に抜擢される

buchi

文字の大きさ
40 / 62

第40話 門

しおりを挟む
翌朝、二人は村を離れて、牧草地を黙って進んだ。エドワードたちは宿に残った。

「魔法力のない私たちは行っても仕方がありません。足手まといなだけです。それにレオ殿下から一緒に行くなと厳命されています。お二人は、遠くから見て、確認だけしてください」

エドワードも、門はないと思っていた。
ただ、彼はなにか不安だった。

「いいですか? 絶対に危ない真似はしないように。遠くから確認だけして帰ってきてくださいね」



「俺は今ほど乗馬クラブに感謝したことはない」

アレクはテクテクとウマを歩かせながら言った。

「あんなもん、全然、役に立たないと思ってたけど、ローザが馬に乗れるだなんて、大助かりだ。でなきゃ、荷物を運べない」

ローザは乗馬を自分の家で元々していたのだ。学園で習ったのではない。だが、それはどうでもよかった。

「なんで二人きりで出されたのかしら」

ローザの口は我知らず尖っていた。

「レオ殿下が言ってたろ。たとえエドワードでも、魔女の影響は免れ得ないって」

「普段は平気なのに? 私だって魔女なのよ?」

それも嘘臭い……とアレクは思っていた。全然、魔女らしくない。

アレクが黙って叔父の言うことを聞いたのは、まあ、ほかの理由からだった。

学園を離れて二人きり、危険なわけでもない。叔父のレオ殿下に、妙な荷物をどっさり渡されて持って行けと強要されたのには閉口したが、それだって大した問題ではない。

どうせ、そんな門なんか見つかるはずがない。

天気はいいし、そよそよと吹く風も心地よい。
学校を休んで、ローザと一緒に牧草地を優雅にウマで歩くだけだ。なんなら、遠回りでもしたいくらいだった。ローザは全然なにも考えていないらしいが、これは立派なデートだろう。
アレクは密かに浮かれていた。

「ローザの魔法力って、まあ、お前がエドワードに惚れたら、エドワードが頭痛を起こすとか、腹を壊すとか、そんな被害が出るヤツなんじゃないかな」

「ほんと、アレク様、可愛くない」

「帰ったら、不敬罪で逮捕するぞ」

ローザはプンプン怒り出したが、不敬罪で拘束か……アレクはちょっとやってみたくなった。



だが、突然、ローザがウマの足を止めた。

「あれだわ」

「え?」



遠くに大きな門が建っていた。

「あそこ」

ローザは指さしたが、アレクはさっぱりわからないという顔をしていた。

「あの大きな木は見える? 木の柵の途切れたところ」

「あ、ああ。それはわかる」

アレクは目を凝らした。何も見えない。

「そのすぐ右よ」

アレクは首を振った。

「なにもないよ?」

「近づいてみましょう」

「危険かもしれないぞ? あまり近づくな」

近づいていっているのかどうなのかも、アレクには分からない。見えないからだ。

「見えないよ。ずっと同じ牧草地だ。戻ろう」

アレクが不安げだった。

「見えないものとは戦えない。あることがわかれば十分だ」


「ウマを降りてみましょう」

「止めろよ!」

アレクは叫んだが、ローザはさっさとウマを降りて歩いていく。

「エドワードに言われたろ? 行くな!」

あわててアレクはローザの後を追った。門なんかどこにもない。

「石の門。表面に模様が彫ってある」

「見えないって」

「ほら、ここ」

ローザがアレクの手を取って門に手を触れさせようとした途端、アレクが叫んだ。

「これか!」

見えた。それは偉容を誇る門だった。思わずアレクは門を見上げた。
白い……大理石だろうか? 確かに表面にはなんだかわからない模様が彫ってあった。
突然、缶詰に書いてあった文様をアレクは思い出して、背中がゾッとした。あれと同じものなのだろうか?

彼はローザの手を振りほどいて、両手で門に触ろうとした。
だが、彼は空気をつかんだだけだった。門は消え去った。

アレクは呆然とした顔でローザを振り返った。

「門がない!」

「もしかすると……」

ローザがアレクの右手を握った。

「あ、見える」

空いている左手で、アレクは門に触れた。
冷たい石の感触がわかる。

「まさか」

門は存在した。そして、周りは三六〇度、全方向がすべて灰色の荒野だった。さっきまでの緑の牧草地はどこにも存在しない。

アレクは思わずローザの手を放して叫んだ。

「戻ろう! ローザ!」

ここは危険だ。訳が分からない。
再び緑の牧草地が目の前に広がった。

だが、ローザが消えた。見えない。すぐそばにいるはずなのに。

「ローザ?! どこ? どこだ?!」

頭がおかしい男のように、アレクは周りを見回して叫んだ。

「ローザ! ローザ! どこ?」

なぜ、いない?

「ローザ―!」



急に温かな手応えがあって、きゅっと手が握られた。

「アレク様」

門と灰色の荒野が広がる。ローザが目の前にいた。

「ローザ、戻ろう」

アレクは必死になって言った。

「ここはおかしい。こんなこと、あり得ない。ここは、パグスの村の一部のはずだ、こんな灰色の荒野のはずがない」

ローザは羊皮紙の地図をアレクに押し付けた。

『ようこそ、楽園へ』

文字が躍っている。読める?

『門内にようこそお越しくださいました。あなたは、救われました。心の荷物を下ろして、ゆっくりのんびり生きましょう』

なんだ? この新興宗教のお誘いみたいな文言は?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『身代わりに差し出された令嬢ですが、呪われた公爵に溺愛されて本当の幸せを掴みました』

鷹 綾
恋愛
孤児院で「九番」と呼ばれ、価値のない存在として育った少女ノイン。 伯爵家に引き取られても待っていたのは救いではなく、実の娘エミリアの身代わりとして、“呪われた化け物公爵”フェルディナンドの婚約者に差し出される運命だった。 恐怖と嘲笑の中で送り出された先で出会ったのは―― 噂とは裏腹に、誰よりも誠実で、誰よりも孤独な公爵。 角と鱗に覆われたその姿は、血筋ではなく、長年にわたる呪いと心の傷によるものだった。 そしてノインは気づく。 幼い頃から自分が持っていた、人の痛みを和らげる不思議な力が、彼の呪いに届いていることに。 「身代わり」だったはずの婚約は、やがて 呪いと過去に向き合う“ふたりだけの戦い”へと変わっていく。 孤独を知る公爵と、居場所を求めてきた少女。 互いを想い、手を取り合ったとき―― 止まっていた運命が、静かに動き出す。 そして迎える、公の場での真実の発表。 かつてノインを蔑み、捨てた者たちに訪れるのは、痛快で静かな“ざまぁ”。 これは、 身代わりの少女が本当の愛と居場所を手に入れるまでの物語。 呪いが解けた先に待っていたのは、溺愛と、何気ない幸せな日常だった。

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...