どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語

buchi

文字の大きさ
6 / 120

第6話 ダンスのレッスン会場

しおりを挟む
「どうしても短いですわね、スカート丈」

「うーん」

イライザ嬢は寮生だった。

女なら、女子寮に入っても問題はない。

そこで、イライザ嬢の部屋にお邪魔して、試着させられているのだった。

イライザ嬢はシエナより背が低い。十センチほど。

「幅はぴったりなのにね」

「余るくらいだよ」

「人様のドレスをパンパンで着て、縫い目を広げるわけにはいきませんから、よかったですけど」

「出来るだけ目立たない地味な格好でヒールを履かなければ何とか」


いつも被っている地味な帽子を取って、ごく地味な濃い紺のドレスを着て鏡の前に立ってシエナは絶望した。やっぱり短すぎる。くるぶしが見えそうだ。

「美人!」

気のいい二人の友達は驚いて叫んだ。

艶のある髪がくるくると柔らかな線を描きながら肩から広がり、ほっそりした体つきがはっきりする。

「もっと絞れるわ! ウエストが余ってる」

「あんた、美人だったんだねえ!」

二人の友達は夢中で叫んだ。

「なんで、その髪を隠していたんだい。こんなに綺麗なら、どんないい男だってつかまえられるよ!」

興奮してアマンダ嬢が叫んだ。

「ダメなんです。姉はそれで金持ちの男に囲い込まれました」

「え?」

「その金持ちの男性のこと、嫌いだったみたいです。でも、ダメだったんです」

「それで、お姉さんは?」

「姉は……行方知れずになりました。今、どこで何をしているのかわかりません」

本当のことだった。その上、相手が金持ちだったので、メンツをつぶしたと多額の賠償金を要求されて、今、伯爵家はめちゃくちゃだった。

「そう……」

なので、レッスン会場には行きたくないのですけど……

絶対、目立つ。絶対、見つかる……。

しかしながら、そうはいかなかった。

行くわけにはいかない理由まで説明できなかったのだ。

ずっと特待生だと言い張って来たのに、実は違いますだなんて。
実は伯爵家の令嬢で、婚約者がいますだなんて。

そして、何より言いたくなかったのは、カーラ嬢が言いふらしていると思うのだけど、シエラはとんでもない悪女であばずれだってこと。

事実無根だけど、姉がそうなら妹だってあばずれに違いないっていう根拠は訳が分からないが、もし、みんなが信じていたら、どうなるの?

シエラは貴族の令嬢令息たちの評判を直接聞いたわけではなかった。

この格好では、彼らと話をするわけにはいかなかったからだ。

アマンダ嬢たちだって、高位の……例えば伯爵家だの、侯爵家だのと言った連中とは直接話をしたことはないだろう。

噂って、どれくらい信用できるものなのかしら……

そしてみんなどれだけ信じているのかしら。


三人は、こっそりダンスの練習会場に入った。

音楽が途切れて、それまでペアを組んでいたカップルがほっとしたようにダンスを止めて、口々に何かしゃべりながらそれぞれの場所に戻っていった。

シエナはジョージとカーラを探した。

いるわ。都合が悪い。

思わずシエラは体格のいいアマンダの後ろに隠れた。

ペアは適当に先生が組んでいるらしかったが、ジョージとカーラのように最初からセットで来ている者はそのままらしい。

最初なので三人は様子をうかがった。

上手に踊れる者、まるで初めてらしい者、いろんな人たちがいた。

家にいた頃は、リオがパートナーを務めてくれたものだわ。

すっかり忘れていたが、リオはどうしているだろう。こっちの生活が厳しすぎて、目の前のことで一杯一杯だったが、自分の運命はリオの運命でもある。

でも、男の子は何とか自分で道を切り開く術もある。

いや、そう簡単ではないだろう。男ならなおさら学校へ行かなくてはならない。リオは一つ年下でしかない。もう、学校に行かなくてはいけない時期なのだ。

リオは体格が良くて賢くてかわいい子だ。誰か、親戚に頼めば出世払いでも学費を出してくれないだろうか。
シエナは必死で頭を巡らせた。
母方の親戚とは、すっかり縁が切れている。特に母が、半分ノイローゼのようになって実家に帰ってしまってからは、リーズ家の名前も聞きたくないらしいとマーゴが言っていた。

父方はそれほどでもないだろう。今度、父が帰ってきたら、聞いてみないといけない。

でも、おかしなことに、両親は、リオには不思議と冷たかった。あんなによくできた器量のいい子どもなのに。

シエナが初めてリオに会ったのも、五年前に田舎の領地の屋敷に帰った時だ。それまで弟がいると知らなかったのだから、驚きだった。
マーゴからさえ、弟の話は聞いたことがなかった。

その頃のリオは、シエナより背が低かった。

末っ子扱いだったシエナは弟が出来てすごくうれしかった。

両親は王都の屋敷にすぐに帰ってしまったけれど、シエナはリオがいてくれたおかげで全然寂しくなかった。

そもそも両親は仕事や社交で、シエナをかまってくれる時間があまりなかった。
少なくともシエナはそう聞かされていた。
王都の屋敷にいても、あまり両親と話をする機会はなかったのだ。

領地は田舎で、王都みたいに、外に出て行く時には必ずお付きを付けなくてはいけないなどと言う決まりもなかった。

勝手に庭へ出て行っても、誰にも怒られなかった。庭から畑、森に行っても誰も咎めなかった。

「危険な動物とかが来たら、僕が姉様を守るから」

「うん。お願いね」

くすっと笑ってシエナは答えた。危険な動物って何なんだろう。このあたりではウサギくらいしか見かけたことがなかった。

リオはすぐにシエナの背を抜かしてしまった。
近所に住む、元王家の護衛士だったという剣士がリオを見込んで稽古をつけてもらえることになり、シエナはよく見物していたものだった。

リオのことも考えなくちゃ。


ダンス会場だったが、シエナ達は踊るでもなく、すみっこの方に立っていた。

シエナはリオを思い出しながら、ボンヤリしていると、突然背後で声がした。

「ちょっと。特待生って言ってたわよね、あなた。ここにいていいの? いけないんじゃないの?」

オレンジの派手なドレスの女が立っていた。

カーラだ。間違いない。

そして、その後ろには困ったような表情のジョージが立っていた。

「こんなところで、そんなみじめなドレス着て何しているの?」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...