どん底貧乏伯爵令嬢の再起劇。愛と友情が向こうからやってきた。溺愛偽弟と推活友人と一緒にやり遂げた復讐物語

buchi

文字の大きさ
8 / 120

第8話 ドレスのプレゼント

しおりを挟む
帰って来たシエナの様子がおかしいことに気付いたマーゴが何があったのか心配して聞いてきたが、泣きながら話の顛末を伝えるしかなかった。

「ドレスが欲しいわ」

泣きながら、シエナは言った。

あのボロドレスを見たら、カーラの言うことが本当だったとばれてしまう。

若い娘が好き好んで継ぎはぎだらけの古いドレスなんか着るわけがない。

「せめて、今日イライザ様にお借りしたくらいのドレスをいつも着ていれば、カーラ嬢の言葉を信じる人も少なかったと思うんだけど。あのドレスでは、どれだけ困っているのかすぐにわかってしまうわ」

学園の噂の広がりはとても速い。

きっとジョージとの婚約は破棄されるだろう。いや、解消だ。
どちらにせよ、父はまずいことになるに違いない。
たくさんのお金をゴア男爵家からもらっているはずだ。だが、カーラの話は本当だ。伯爵家は借金漬けなのだ。結婚しないのなら、お金を返せと言われるに違いない。

マーゴは事情をわかっていた。

彼女は使用人だ。辞めると言う手段が残っている。

「いいえ、お嬢様。私はここにいます。私は使用人ですもの、私から何か取っていくなんてことできませんし、辞めればいいだけです。でも、シエラ様を見捨てて、どこかに行くなんてありませんよ」


結局、シエラは一週間ほど学校を休んでしまった。


そしてわずかな間だというのに、この話はゴア男爵家に知られてしまったらしい。

父の伯爵があわただしく帰ってきた。

父は頭を抱えていた。

「どうして、バレるような真似をしたのだ」

父は吠えるようにシエナに向かって言った。

「お父さま、そんなことを言ったって……」

「そうですとも。シエナ様に何が出来たとおっしゃるのです」

マーゴもビビりながら一緒になって言ってくれた。

父はもう何も見ていないような妙な目つきになって、シエナを見詰めた。そして言った。

「お前が妙なみすぼらしい恰好をするから!」

「ドレス一枚まで全部売り払ってしまわれたではありませんか」

「それならそれで、見つからないようにすればよいものを、なぜ、ダンス会場などに出て行ったのだ」

あれはダンスのレッスン会場だったし、あの時シエナは継ぎはぎだらけのみすぼらしいドレスを着ていったわけではない。

そのことを説明しようとしたが、父は全く聞いてくれなかった。

「こうなったら、もう、どうしようもない。お前も学校をやめて領地に帰るしかない。この家も売らなければいけないだろう」

「お父さま!」

父は何も聞いてくれなかった。仕事に行くからと言い置いて父は家を出て行ってしまった。


「私はどうしたらいいの?」

確かに学費の支払いはゴア家から出ていた。他の婚資の使い途について、シエナは知らなかったが、それだけは知っている。

「学園に行ってもいいのかしら?」


翌日、アンダーソン先生が自宅を訪ねて来てくれた。

「シエナ。学園にはいらっしゃい」

アンダーソン先生はいつもの静かで真面目な様子でシエナに向かって言った。

「噂は広がっているかもしれないけど、それより勉強よ。お友達のアマンダやイライザが心配してくれてるわ」

「でも、先生、実は私の学費がゴア家が出してくれたのです。だからもしかすると、私はもう学園に行ってはいけないのかもしれません」

「ああ、そのことなら……」

学費は一年間一括だそうで、一度払ってしまったら払い戻しは出来ないそうである。

「生徒名義で払われるので、ゴア家が取り戻したくても出来ないわ」

「でも、先生……」

「ねえ、シエナ、今より、悪いことなんか起こりっこないじゃない。あなたはジョージと結婚したかった訳じゃないのでしょう?」

「はい。本当はそうです。ジョージなんか嫌いでした」

「それなら悲しむことなんかないわ。これはチャンスよ。しっかり勉強して、なんとか仕事を見つけなさい。自分でお金を稼げれば自由になれるわ」

「自由……」

「そうよ。お金は自由への足掛かり。自分で稼いだお金は自分で使えるの。お金を稼ぎたければ、勉強するしかないわ。学費を払ってもらったのだからチャンスを生かしましょう」

「お嬢様、先生のおっしゃる通りです。お兄様のパトリック様とお父様は借金から逃れられないかも知れませんが、シエナ様には関係ございますまい」

マーゴも言った。

「そうよ。逆に女性だから助かったと思ってもいいかもしれない。絶対に学園に戻っていらっしゃい。あなたは何も悪いことをしていないじゃないの」

家までわざわざ来てくれるだなんて、なんて親切な先生なんだろう。先生が帰った後、シエナは心からそう思った。だけど、心は折れて、涙が止まらなかった。


その時、外で声がした。誰か来たらしい。

「こんな時になんだろう」 

マーゴは、よっこらせと重い腰を上げて出ていった。この家にくる人間なんていないはずだ。

シエナは一人泣き続けていた。
本当に貧乏は嫌だ。

「なんですって?」

応対に出たマーゴが何か叫んでいる。

見ると荷馬車の男たちが、マーゴに話しかけていた。

「確かにここはリーズ伯爵家だけど。でも、こんなもの注文してない。この発注主の人も知らない人なんだけど」

マーゴの困惑したような声がした。

すると男の声が、素っ気なく答えた。

「俺たちはこの家に届けるよう言いつかっただけなんでね」

男たちはドヤドヤと台所へやって来て、大きな荷物を運び入れ、さっさと出ていってしまった。
後には呆然とした様子のマーゴと、訳がわからないシエナが残った。

「なんなのかしら?」

二人は持ち込まれた荷物をこわごわ覗き込んだ。

ハリソン商会という判が押されている。

二人は顔を見合わせた。

ハリソン商会といえば、王都でも一流のドレスメーカー。

「きっとドレスだわ。でも、なぜ?」

「送り先はお嬢様のお名前になってます」

メイ・アレクサンドラ・シエナ・リーズ。間違いようのないフルネームで書かれていた。

ゴワゴワした防水紙を取り除くと、中は金と青のうっとりするようなステキな紙箱だった。

「ドレスの箱だわ!」

シエナは夢中になった。

一つを開けると、しっかりした仕立ての青いドレスが出て来た。

「学園に着て行けるわ」

もう一つの箱には、濃いローズ色のドレスが。これは地味な装飾の外出着で、これも学園行きにピッタリだった。

「でも、どちらもお高いドレスでございますよ、これは」

シエナと違って、リリアスに付いて何回もドレスを仕立てたことのあるマーゴは言った。

「ハリソン商会は決してお安くはございません。こう言ってはなんですが、リリアス様は一度だってハリソン商会にご注文されたことはありませんでした」

ドレスにすっかり見とれていたシエナは我に返った。

「どうしたらいいのかわからないわ」

まさか支払いの当てもないのに、ハリソン商会のような高級ドレスメーカーがドレスを作るわけがない。

「支払い済みなんだと思いますわ。でなければ、付き合いのない当家に送ってくるはずがないと思います」

マーゴが言った。

「送り主の方が、発注して支払ったのだと思います」

それは多分その通りなのだろう。

「でも、着るわけには行かないわ。こんな高いドレス、あとから支払ってくれと言われたら、大変よ」

その時、一枚の紙がハラリと床に落ちた。

ドレスの中に挟まれていたのだろうか。

シエナとマーゴは顔を見合わせた。

シエナが細い指で拾い上げて見ると、変わった筆跡で一言書いてあった。

『シエナ嬢へ
これはあなたへのプレゼントです。
アッシュフォード子爵』

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...