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第59話 街中4人デート
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それはとても下手な愛の告白だった。
本人もわかっているらしく、真っ赤になってモジモジしていた。
前半の赤毛がマイナスポイントだったかも知れない。だが、容貌コンプレックスのテオドールは、一世一代の告白の後、ほのかに微笑んだ。
「こんな僕には、一生回ってこない場面なんだと思う。厚かましくこんなことを言うだなんて」
王都に着くと、テオドールは走って逃げて行ってしまった。
ジョゼフは複雑な顔をしていた。
「あんなことでいいんですか?」
「宰相は、締め上げておくべきだろうな。余計なことを喋ったんだから」
リオはいかにも冷静にそう言った。まるで何も感じなかったかのように。
だけど、あれはあれで勇気なのかも知れないと思う。
シエナを思うと、なんと言ったらいいのかいつも悩む。だから、不味い言葉でも、とにかく何かを伝えようという気持には、なんとなく感動したのだった。
だが、いざ現実に帰ってみると、今、アランは丁重にシエナを馬車に乗り込ませているところだった。
イラッとしたが、残ったキャロライン嬢が所在なげだ。
リオは早足で馬車に向かうと、キャロライン嬢ににっこり笑いかけた。
「お手をどうぞ。キャロライン様」
途端にキャロライン嬢は真っ赤になった。
「あ、ありがとう、リオ様」
なんだか、すまない。テオドール。
リオが余計な手を出したことで、テオドールの決死の告白はキャロライン嬢の頭から綺麗に抜けていってしまったのではないだろうか。
その後、五人はシエナが手配した高級レストランで食事をし、趣味のいいカフェで今王都で話題のデザートを賞味した。
「キャロライン嬢は、カフェにはあまりお出かけにならないのですか?」
リオが尋ねた。
「だって、お父様がうるさくて。街歩きなんかほぼできなかったの。今日はありがとう、リオ様」
「どういたしまして。今日の街歩きはアラン殿のご提案で、手配はシエナのおかげですよ」
リオはいつもの無愛想はどこへやら、優しく微笑んだ。
本当に理想の王子様だった。
一人、圏外のジョゼフは、感慨深く、四人を見つめていた。
(ええっと、リオはシエナさま一筋だったな)
今、リオは、王子様の微笑みで、キャロライン嬢の話に相槌を打ちながら、抜け目なくシエナを見張っている。
(キャロライン嬢は、確かリオファンクラブに入ってて、現在テンパり中と)
キャロライン嬢は、脳みそが沸騰しているらしい。少々挙動不審だが、リオはにっこり微笑んで、完全な王子様に化けている。
当初の目的とは完全に異なり、キャロライン嬢とアラン様はほとんど口も利いていない。
(いいのか、これ)
まあ、俺の知ったこっちゃないけどなとジョゼフはつぶやく。
(問題はこっちだな)
テオドールの告白を真剣に検討していたアランだったが、なんの目的のためなのか、容易に想像がついた。学習会?
(まさかと思うけどもなあ)
まさかシエナをセドナに連れていくつもりじゃないだろうなとジョゼフは不安になった。
(単なる気の迷いだよな)
そのアランは傍目にも丸わかりの熱心さでシエナに話しかけていた。
アランはシエナのそばにいることができて幸せだった。
「もう時間がなくて」
アラン様はシエナを見つめながら言った。
「あなたを堪能できる時間がない」
シエナはどう反応したらいいのかわからなかった。最近のアラン様はおかしい。救いを求めて、ちらりとジョゼフを見たが、ジョゼフは硬い表情をしていて、シエナの救助信号に気がついても、フッと目を逸らした。
万一、セドナ王国へ誘いやがったらどうしよう。(ジョゼフ)
万一、セドナに連れて行きたいと言われたら、どうしよう。(シエナ)
とんでもなく厚かましい発想とわかりながらも、そんな疑惑が頭をよぎる。やばい。
「食事にも行けたし、自由に何回も街歩きにも出かけた。一生の思い出になるよ」
「よかったですわ」
シエナはやっとのことで、こう答えた。
そしてリオはキャロライン嬢に礼儀の限りを尽くしながら、気が狂いそうだった。
目の前で繰り広げられていく活劇。
どう聞いても口説いてるようではないか。
ジョゼフ、止めに入れよと思うが彼は困り顔なだけだ。
肝心のシエナは控えめながら、アラン殿下の言うがまま。
きっと、アランのことは嫌いだけれども、どうやら高位の貴族らしいので、言うことを聞いているんだろう。うん。きっと、そうに違いない。
「どれだけ偉い貴族なのか知らないが」
リオはキャロライン嬢にわからないようにチラチラと、アランとシエナを監視しながら、はらわたが煮えくりかえる思いだった。
アランとシエナは二人で会話していた。
「最後のダンスパーティは僕と踊ってくれるよね?」
「騎士学校のダンスパーティもご一緒したではありませんか?」
「今度で最後になるから」
真剣にアラン様はお願いした。最後のお願いに、ダメとは言えない。
キャロライン嬢はこれを聞いてにっこり笑った。
隣で、リオが引き攣っていることには気づかずに。
「シエナ、アラン様は、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックで、先月は二位だった。でも、来月はわからないわよ? そんな方にダンスを申し込まれて、嫌はないでしょう?」
そう言ってから、キャロライン嬢はモジモジとリオに向かって聞いた。
「リオ様は誰をお誘いになるんですか?」
これはこれでやばい。公爵令嬢を誘いでもしたら何が起きるかわからない。そうかと言って無碍に断るとそれもどう解釈されるかわからなくて怖い。リオは渋々微笑んだ。
「あなたを……と言いたいところですが、テオドールは友人です。裏切るわけには行きませんから」
リオはにっこり微笑んだ。ちょっぴり残念そうに見えるといいなと念じつつ。
そして、テオドールに心の中で感謝をささげた。
テオドール、ありがとう。別に友人じゃないけど、断る口実になってくれて。
なんだか死体に鞭打ってるような気もするけれど。いや、まだテオドールは生きている。生きていると信じたい。キャロライン嬢の心の中で。
推しと現実は別だとイライザ嬢が言っていたし。
「私もあなたに誘われたら、ファンクラブの他の方々から恨まれて怖いのでお断りですわ」
キャロライン嬢がそう言ったので、シエナもホッとした。
キャロライン嬢は、ようやくリオの顔にも慣れたらしい。
なんとかかんとか、挙動不審が解消されて、平常運転に戻りつつあった。
「本当にリオ様ってイケメンですね。あなたみたいな顔の整った方には初めてお会いしました」
と、本人に向かって言っている。
「でも、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックの一位は、来月は僕かも知れないよ。だって、イライザ嬢が、スケッチを描かせてくれって頼みにきたもの」
「まさか殿……ではなくてアラン様は了承されたのですかっ?」
ジョゼフが聞いた。
「ああ。先月のリオの肖像画を見た? リオそのものだけど、ラフ画だよ。気にすることはないと思う」
別に肖像画の一枚や二枚、増えたところでどうってことないのだが、何しろおしのびで来ている。異国の画家は事情を知らないので、時折とんでもない風刺画を描くことがある。不敬罪でしょっ引くレベルだが、寛容を貫くべきなのか、いくら何でもひどすぎると密かに公開を取り締まるべきか対応に悩むところだ。
ジョゼフが悩んでいると、シエナが声をかけた。
「きっとイライザ様ですわ。事前に出来上がった絵を見せてくれるようお頼みになればいいと思います」
ジョゼフに入れ知恵した。
五人はそれぞれの思惑を抱えたまま散会した。
「買い物はどうなさるのですか? アラン様」
シエナが聞いた。
「女性の皆様を煩わせることはないさ。簡単な買い物だからね」
「ゴートの記念品ですの?」
キャロライン嬢が聞いた。
「そうなんだ。もう留学期間も終わるんでね」
三人を帰し、ジョゼフだけが残ったところで、アラン様は最高級の宝石を扱う店に向かった。
「リオとキャロライン嬢が邪魔だった」
アラン様は不機嫌だった。
二人きりで出かける最後のチャンスだったのに。
「でもね、無理なんですよ」
ジョゼフが怒っている主人の跡をついて歩きながら言い訳した。
学園内ではない場所を、ゴートにもゴート語にも慣れてきた殿下が二人きりで出かける理由がない。余計な詮索を呼ぶだけだ。
リオとキャロライン嬢は、街歩きしたい殿下のお付きとしては最良の選択肢だ。
ブライトン公爵令嬢ならどこからも苦情はでない。
同年輩で騎士学校トップで高位貴族のリオが護衛兼案内に付くのは、これも、理の当然だろう。
アランは、不機嫌なまま、宝石店の店のドアを開けた。
「アランさま、何をお買い求めになるんですか?」
ジョゼフが心配になって聞いた。
「シエナへのプレゼントさ」
本人もわかっているらしく、真っ赤になってモジモジしていた。
前半の赤毛がマイナスポイントだったかも知れない。だが、容貌コンプレックスのテオドールは、一世一代の告白の後、ほのかに微笑んだ。
「こんな僕には、一生回ってこない場面なんだと思う。厚かましくこんなことを言うだなんて」
王都に着くと、テオドールは走って逃げて行ってしまった。
ジョゼフは複雑な顔をしていた。
「あんなことでいいんですか?」
「宰相は、締め上げておくべきだろうな。余計なことを喋ったんだから」
リオはいかにも冷静にそう言った。まるで何も感じなかったかのように。
だけど、あれはあれで勇気なのかも知れないと思う。
シエナを思うと、なんと言ったらいいのかいつも悩む。だから、不味い言葉でも、とにかく何かを伝えようという気持には、なんとなく感動したのだった。
だが、いざ現実に帰ってみると、今、アランは丁重にシエナを馬車に乗り込ませているところだった。
イラッとしたが、残ったキャロライン嬢が所在なげだ。
リオは早足で馬車に向かうと、キャロライン嬢ににっこり笑いかけた。
「お手をどうぞ。キャロライン様」
途端にキャロライン嬢は真っ赤になった。
「あ、ありがとう、リオ様」
なんだか、すまない。テオドール。
リオが余計な手を出したことで、テオドールの決死の告白はキャロライン嬢の頭から綺麗に抜けていってしまったのではないだろうか。
その後、五人はシエナが手配した高級レストランで食事をし、趣味のいいカフェで今王都で話題のデザートを賞味した。
「キャロライン嬢は、カフェにはあまりお出かけにならないのですか?」
リオが尋ねた。
「だって、お父様がうるさくて。街歩きなんかほぼできなかったの。今日はありがとう、リオ様」
「どういたしまして。今日の街歩きはアラン殿のご提案で、手配はシエナのおかげですよ」
リオはいつもの無愛想はどこへやら、優しく微笑んだ。
本当に理想の王子様だった。
一人、圏外のジョゼフは、感慨深く、四人を見つめていた。
(ええっと、リオはシエナさま一筋だったな)
今、リオは、王子様の微笑みで、キャロライン嬢の話に相槌を打ちながら、抜け目なくシエナを見張っている。
(キャロライン嬢は、確かリオファンクラブに入ってて、現在テンパり中と)
キャロライン嬢は、脳みそが沸騰しているらしい。少々挙動不審だが、リオはにっこり微笑んで、完全な王子様に化けている。
当初の目的とは完全に異なり、キャロライン嬢とアラン様はほとんど口も利いていない。
(いいのか、これ)
まあ、俺の知ったこっちゃないけどなとジョゼフはつぶやく。
(問題はこっちだな)
テオドールの告白を真剣に検討していたアランだったが、なんの目的のためなのか、容易に想像がついた。学習会?
(まさかと思うけどもなあ)
まさかシエナをセドナに連れていくつもりじゃないだろうなとジョゼフは不安になった。
(単なる気の迷いだよな)
そのアランは傍目にも丸わかりの熱心さでシエナに話しかけていた。
アランはシエナのそばにいることができて幸せだった。
「もう時間がなくて」
アラン様はシエナを見つめながら言った。
「あなたを堪能できる時間がない」
シエナはどう反応したらいいのかわからなかった。最近のアラン様はおかしい。救いを求めて、ちらりとジョゼフを見たが、ジョゼフは硬い表情をしていて、シエナの救助信号に気がついても、フッと目を逸らした。
万一、セドナ王国へ誘いやがったらどうしよう。(ジョゼフ)
万一、セドナに連れて行きたいと言われたら、どうしよう。(シエナ)
とんでもなく厚かましい発想とわかりながらも、そんな疑惑が頭をよぎる。やばい。
「食事にも行けたし、自由に何回も街歩きにも出かけた。一生の思い出になるよ」
「よかったですわ」
シエナはやっとのことで、こう答えた。
そしてリオはキャロライン嬢に礼儀の限りを尽くしながら、気が狂いそうだった。
目の前で繰り広げられていく活劇。
どう聞いても口説いてるようではないか。
ジョゼフ、止めに入れよと思うが彼は困り顔なだけだ。
肝心のシエナは控えめながら、アラン殿下の言うがまま。
きっと、アランのことは嫌いだけれども、どうやら高位の貴族らしいので、言うことを聞いているんだろう。うん。きっと、そうに違いない。
「どれだけ偉い貴族なのか知らないが」
リオはキャロライン嬢にわからないようにチラチラと、アランとシエナを監視しながら、はらわたが煮えくりかえる思いだった。
アランとシエナは二人で会話していた。
「最後のダンスパーティは僕と踊ってくれるよね?」
「騎士学校のダンスパーティもご一緒したではありませんか?」
「今度で最後になるから」
真剣にアラン様はお願いした。最後のお願いに、ダメとは言えない。
キャロライン嬢はこれを聞いてにっこり笑った。
隣で、リオが引き攣っていることには気づかずに。
「シエナ、アラン様は、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックで、先月は二位だった。でも、来月はわからないわよ? そんな方にダンスを申し込まれて、嫌はないでしょう?」
そう言ってから、キャロライン嬢はモジモジとリオに向かって聞いた。
「リオ様は誰をお誘いになるんですか?」
これはこれでやばい。公爵令嬢を誘いでもしたら何が起きるかわからない。そうかと言って無碍に断るとそれもどう解釈されるかわからなくて怖い。リオは渋々微笑んだ。
「あなたを……と言いたいところですが、テオドールは友人です。裏切るわけには行きませんから」
リオはにっこり微笑んだ。ちょっぴり残念そうに見えるといいなと念じつつ。
そして、テオドールに心の中で感謝をささげた。
テオドール、ありがとう。別に友人じゃないけど、断る口実になってくれて。
なんだか死体に鞭打ってるような気もするけれど。いや、まだテオドールは生きている。生きていると信じたい。キャロライン嬢の心の中で。
推しと現実は別だとイライザ嬢が言っていたし。
「私もあなたに誘われたら、ファンクラブの他の方々から恨まれて怖いのでお断りですわ」
キャロライン嬢がそう言ったので、シエナもホッとした。
キャロライン嬢は、ようやくリオの顔にも慣れたらしい。
なんとかかんとか、挙動不審が解消されて、平常運転に戻りつつあった。
「本当にリオ様ってイケメンですね。あなたみたいな顔の整った方には初めてお会いしました」
と、本人に向かって言っている。
「でも、マンスリー・レポート・メンズ・クラシックの一位は、来月は僕かも知れないよ。だって、イライザ嬢が、スケッチを描かせてくれって頼みにきたもの」
「まさか殿……ではなくてアラン様は了承されたのですかっ?」
ジョゼフが聞いた。
「ああ。先月のリオの肖像画を見た? リオそのものだけど、ラフ画だよ。気にすることはないと思う」
別に肖像画の一枚や二枚、増えたところでどうってことないのだが、何しろおしのびで来ている。異国の画家は事情を知らないので、時折とんでもない風刺画を描くことがある。不敬罪でしょっ引くレベルだが、寛容を貫くべきなのか、いくら何でもひどすぎると密かに公開を取り締まるべきか対応に悩むところだ。
ジョゼフが悩んでいると、シエナが声をかけた。
「きっとイライザ様ですわ。事前に出来上がった絵を見せてくれるようお頼みになればいいと思います」
ジョゼフに入れ知恵した。
五人はそれぞれの思惑を抱えたまま散会した。
「買い物はどうなさるのですか? アラン様」
シエナが聞いた。
「女性の皆様を煩わせることはないさ。簡単な買い物だからね」
「ゴートの記念品ですの?」
キャロライン嬢が聞いた。
「そうなんだ。もう留学期間も終わるんでね」
三人を帰し、ジョゼフだけが残ったところで、アラン様は最高級の宝石を扱う店に向かった。
「リオとキャロライン嬢が邪魔だった」
アラン様は不機嫌だった。
二人きりで出かける最後のチャンスだったのに。
「でもね、無理なんですよ」
ジョゼフが怒っている主人の跡をついて歩きながら言い訳した。
学園内ではない場所を、ゴートにもゴート語にも慣れてきた殿下が二人きりで出かける理由がない。余計な詮索を呼ぶだけだ。
リオとキャロライン嬢は、街歩きしたい殿下のお付きとしては最良の選択肢だ。
ブライトン公爵令嬢ならどこからも苦情はでない。
同年輩で騎士学校トップで高位貴族のリオが護衛兼案内に付くのは、これも、理の当然だろう。
アランは、不機嫌なまま、宝石店の店のドアを開けた。
「アランさま、何をお買い求めになるんですか?」
ジョゼフが心配になって聞いた。
「シエナへのプレゼントさ」
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