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第5話 婚約者候補と初顔合わせのお茶会
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お茶会当日、私は普段着を着せられていた。
義母が来てから、服を新しく買ってもらった覚えがない。
婚約者候補の方とのお茶会なのだ。ドレスくらい新しいのが欲しい。さすがに執事のセバスに掛け合いに行ったが、セバスはものすごく困った顔をした。
「それが……奥様が要らないだろうとおっしゃって」
「要るに決まっているではありませんか!」
「お金を全部、アン様とステラ様に回してしまわれるので、本当に困っています。今、お父様は遠方ですので、確認が取れないのですよ。お父様から奥様に言っていただかないと、使用人ではどうしようもありません。お父様から、奥様については何も指示をいただいていないのです」
私は驚いたし、セバスも本当に困っている様子だった。
「いつもの旦那様らしくないと思います」
「でも、私の婚約は、お父様が決められたと聞きました。その件に関しては指示が来ているのですよね?」
「ええ」
セバスは言葉少なに答えた。本当らしい。セバスも有利な結婚話と思っていないようで、逃げるように自分の仕事に戻っていってしまった。
お父様は、私のことなどどうでもよくなってしまったの?
あの義母と結婚して、アンとステラの方が大事になってしまったのかしら?
私は不安になった。
もう何もかも信じられないような気持ちだった。
この結婚話、進めていいのかどうかわからない。判断がつかない。
だから、お茶会に普段着で出るなんておかしいと思ったが、相手に気に入られなかったらこの話はなくなるので、いっそ好都合かもしれないと考えた。なにしろ相手は十四歳の子どもで、将来もわからない。財産も爵位もないのだ。
考えすぎて、頭がごちゃごちゃになってきた。
「客間へどうぞ」
義母気に入りの侯爵家からきた侍女が、我が物顔に私を客間に案内した。
私が客みたいだ。この家、私の家なのに。
どうして私は自分の家で小さくなっているのかしら。
客間の大きなソファの真ん中に、深々と埋まるように座っていたのは子どもだった。
私を見ると、起き上がるのが大変そうだったが、なんとか立ち上がって、あいさつした。立ってみると意外に背があった。成長途上なのね。
「マーク・モートンと申します」
意外に落ち着いた調子の声でちょっとびっくりした。もっとかわいい声かと思ったのだけど。
「まあ。かわいいわね。まだ、小さいのにもったいぶってご挨拶出来て。えらいわね」
横から声がした。アンがはやし立てているのだ。二人とも、私より先に部屋に入って、モートン様と話をしていたらしい。
「マーク。さっきのお話の続きをしてよ。学校で何が得意なのかって話してたわよね」
ずいぶん馴れ馴れしいな。もしかすると、義姉たちの侯爵家の親戚なのかしら。
「モートン様は、アンやステラのおうちとご親戚ですか?」
「あら、いやだあ。私たち、侯爵家よ。モートン伯爵家とは縁もゆかりもないわ。初めて会ったのよ」
アンが大きな声で訂正を入れた。
「私たちのこと、呼び捨てにするなんて失礼ね、エレクトラ」
ステラがニキビの目立つ顔で言った。
だって、私の義姉なのですもの。モートン様の手前、様付けはおかしいではありませんか。
「いいえ。どちらかと言うと、ハワード家の方にご縁があります」
マークは冷静だった。アンとステラのことはまるっと無視した。
「そうなのですか」
他に話すことがなかった。マークも被害者なのかもしれない。この年齢では、婚約は考えていなかっただろう。
「エレクトラ、マークは乗馬や剣術に興味があるのですって。こんなに小さいのに!」
「将来は騎士かもしれなくてよ?」
案外、この義姉たちは役に立つかもしれない。なにしろ、失礼だわ。モートン様は怒って出ていってしまうかもしれない。
「モートン様は、騎士学校に入られるご予定ですか?」
私は彼に聞いてみた。
「いいえ。王立高等学院に行こうかと思っています」
私たち三人はびっくりした。
王立高等学院は相当優秀でないと入れない。将来のエリート養成校だ。主に司法官や、王宮でも大臣などを多く輩出している超難関校だった。
お父様が私の婚約者として選んできたと言うことは、そう言うことなのかもしれない。つまり、マークは非常に優秀なのでは。
「あそこは難しいって聞いたわ。相当、お勉強ができないと無理よ」
「そうですね」
マークは落ち着いていた。
「あらあ。この子、わかっているのかしら。普通無理よね」
アンがつぶやくように言った。
入学を検討している本人は、難関校だと言うくらい十分承知していると思う。普通、無理よねって失礼だな。
それに普通ってなんだ。
この間、小耳にはさんだけど、アンは数学と国語と一般教養、ステラは数学と地理と歴史と一般教養が落第寸前らしい。自分を普通に置くから、無理よねとか言うんだわ。
「ハワード嬢は何がお好きですか?」
「学科ですか? 歴史と地理が好きです」
数学よりましだ。
マーク様がほんの少し微笑んだような気がした。
この子どもは賢い。なんだかそんな気がした。
義母が来てから、服を新しく買ってもらった覚えがない。
婚約者候補の方とのお茶会なのだ。ドレスくらい新しいのが欲しい。さすがに執事のセバスに掛け合いに行ったが、セバスはものすごく困った顔をした。
「それが……奥様が要らないだろうとおっしゃって」
「要るに決まっているではありませんか!」
「お金を全部、アン様とステラ様に回してしまわれるので、本当に困っています。今、お父様は遠方ですので、確認が取れないのですよ。お父様から奥様に言っていただかないと、使用人ではどうしようもありません。お父様から、奥様については何も指示をいただいていないのです」
私は驚いたし、セバスも本当に困っている様子だった。
「いつもの旦那様らしくないと思います」
「でも、私の婚約は、お父様が決められたと聞きました。その件に関しては指示が来ているのですよね?」
「ええ」
セバスは言葉少なに答えた。本当らしい。セバスも有利な結婚話と思っていないようで、逃げるように自分の仕事に戻っていってしまった。
お父様は、私のことなどどうでもよくなってしまったの?
あの義母と結婚して、アンとステラの方が大事になってしまったのかしら?
私は不安になった。
もう何もかも信じられないような気持ちだった。
この結婚話、進めていいのかどうかわからない。判断がつかない。
だから、お茶会に普段着で出るなんておかしいと思ったが、相手に気に入られなかったらこの話はなくなるので、いっそ好都合かもしれないと考えた。なにしろ相手は十四歳の子どもで、将来もわからない。財産も爵位もないのだ。
考えすぎて、頭がごちゃごちゃになってきた。
「客間へどうぞ」
義母気に入りの侯爵家からきた侍女が、我が物顔に私を客間に案内した。
私が客みたいだ。この家、私の家なのに。
どうして私は自分の家で小さくなっているのかしら。
客間の大きなソファの真ん中に、深々と埋まるように座っていたのは子どもだった。
私を見ると、起き上がるのが大変そうだったが、なんとか立ち上がって、あいさつした。立ってみると意外に背があった。成長途上なのね。
「マーク・モートンと申します」
意外に落ち着いた調子の声でちょっとびっくりした。もっとかわいい声かと思ったのだけど。
「まあ。かわいいわね。まだ、小さいのにもったいぶってご挨拶出来て。えらいわね」
横から声がした。アンがはやし立てているのだ。二人とも、私より先に部屋に入って、モートン様と話をしていたらしい。
「マーク。さっきのお話の続きをしてよ。学校で何が得意なのかって話してたわよね」
ずいぶん馴れ馴れしいな。もしかすると、義姉たちの侯爵家の親戚なのかしら。
「モートン様は、アンやステラのおうちとご親戚ですか?」
「あら、いやだあ。私たち、侯爵家よ。モートン伯爵家とは縁もゆかりもないわ。初めて会ったのよ」
アンが大きな声で訂正を入れた。
「私たちのこと、呼び捨てにするなんて失礼ね、エレクトラ」
ステラがニキビの目立つ顔で言った。
だって、私の義姉なのですもの。モートン様の手前、様付けはおかしいではありませんか。
「いいえ。どちらかと言うと、ハワード家の方にご縁があります」
マークは冷静だった。アンとステラのことはまるっと無視した。
「そうなのですか」
他に話すことがなかった。マークも被害者なのかもしれない。この年齢では、婚約は考えていなかっただろう。
「エレクトラ、マークは乗馬や剣術に興味があるのですって。こんなに小さいのに!」
「将来は騎士かもしれなくてよ?」
案外、この義姉たちは役に立つかもしれない。なにしろ、失礼だわ。モートン様は怒って出ていってしまうかもしれない。
「モートン様は、騎士学校に入られるご予定ですか?」
私は彼に聞いてみた。
「いいえ。王立高等学院に行こうかと思っています」
私たち三人はびっくりした。
王立高等学院は相当優秀でないと入れない。将来のエリート養成校だ。主に司法官や、王宮でも大臣などを多く輩出している超難関校だった。
お父様が私の婚約者として選んできたと言うことは、そう言うことなのかもしれない。つまり、マークは非常に優秀なのでは。
「あそこは難しいって聞いたわ。相当、お勉強ができないと無理よ」
「そうですね」
マークは落ち着いていた。
「あらあ。この子、わかっているのかしら。普通無理よね」
アンがつぶやくように言った。
入学を検討している本人は、難関校だと言うくらい十分承知していると思う。普通、無理よねって失礼だな。
それに普通ってなんだ。
この間、小耳にはさんだけど、アンは数学と国語と一般教養、ステラは数学と地理と歴史と一般教養が落第寸前らしい。自分を普通に置くから、無理よねとか言うんだわ。
「ハワード嬢は何がお好きですか?」
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数学よりましだ。
マーク様がほんの少し微笑んだような気がした。
この子どもは賢い。なんだかそんな気がした。
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