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プロローグ 夜襲
しおりを挟む皇暦1864年
朝方、霧が立ち込める山中で、作戦は決行された。
見通しの悪い斜面を進軍するのは、皇帝国陸軍の兵士たちである。
彼らは、ここ数日間周辺の集落で人を喰らう事件を引き起こしている「血積(ちしゃく)」の集団の制圧のためにここに来ていた。
「総員、伏せ。」
この部隊の指揮をとっているのは、焔上(ほむらがみ)上等兵だった。
焔上は上等兵と言えど、この部隊の中では最高階級の兵士だった。
山の斜面を這いつくばりながら行くと、少し斜面が削れて広場になっている場所があった。
「グォォォォォォォ」
「ひっ!」
「静かに!!」
悲鳴をあげそうになる女性兵士を、焔上は速かに止めた。
そうなるのも無理はない。
その広場には、血積が3、4体ほどおり、さらにそこの広場の民家に住む人を喰っている最中だった。
それは朝方で霧が立ち込めていておまけに暗いような状況でも兵士たちが確信するほど、はっきりと視界に入ってきた。
それを見た隊の無線通信兵が、北の部隊に連絡を始めた。
「こちら11班。東のラゴ集落付近で、3~4体の血積を確認しました。攻撃の許可を要請します。」
「了解。攻撃を許可する。」
それを聞いた通信兵は、焔上に報告した。
「班長、攻撃が許可されました。いつでも叩けます。」
「分かった。では全ての血積が我々に背を向けるのを待って叩きに行くぞ。」
「は!」
そうして、血積が山へ帰って行くのを待った。
しばらくして、血積達が焔上達に背を向けると、指揮の金板が鳴り響いた。
「今だぁーーー!!突撃ィーーー!!!」
焔上の声と兵士たちの雄叫びと主に攻撃が始まった。
図体の大きい血積達は、後方からの攻撃に反応できず、次々と殺されていった。
「バキィッ!!」
「コアブレイク!!」
血積の赤い体液とともに水色に光るゲル状の体液も飛び出す。
これは、はらのむしのコア(核)が破壊された時に流れ出すもので、そのはらのむしの死をも意味する。
そうして、全ての血積が殺された。
殺した血積は全部で4体だった。
「よし…………終わった……………。」
「全員無事だな。よし他の連中が来ないうちに退避するぞ。」
焔上は他の兵士と主に撤退を図った。
「4体全ての血積の掃討に成功しました!」
通信兵がそう報告を始めた時だった。
スッ
突如として通信兵の首が地面に落ちた。
「どしゃあっ」
それが、ちょうどそばを通ろうとした女性兵士の足に当たった。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ」
女性兵士が悲鳴をあげると、兵士の視線は一気にそこに集まり、現実を目の当たりにすることになった。
「クッソ、まだ居たか!」
「どこ行きやがった!!!」
周りの兵士が刀を抜いて威嚇を始めると、1人の兵士が呟いた。
「これ…………むしじゃないです……。」
「は?じゃあこれはまさか…………。」
そう言いかけた途端、今度は呟いた兵士が何者かに口を押さえられ霧の中に連れ去られて行った。
しばらくして、その兵士の最期の言葉であろう呻き声と何かを肉に刺すような音がはっきりと聞こえた。
それを聞いて、焔上は確信した。
そして生き残った兵士に向かって叫んだ。
「総員戦闘準備!間違いない!奴はむしじゃない!人間だ!!」
「え!?それはどういう………あ!うああああああああぁぁ!!」
「あ!?」
そう言いかけた時、今度はその兵士が霧の中から現れた人型の黒いモノに、刀で真っ二つにされた。
「クッソ!何処だ…………ああ!!ぁぁ……。」
ドシャ
その兵士は体を横方向に腕ごと真っ二つにされ、崩れ落ちた。
「どうなってんだ…………?いったい誰がこんなことを…………。」
そう呟いている間にも10人近くいた兵士たちは、次々と人型の黒いモノに霧の中で消されていき、数を減らした。
そうしている間に、焔上のすぐ横にいる女性兵士に、その人型の黒いモノが上から切り掛かっているのが見えた。
「せめて1人だけでも!」
そう思った焔上は咄嗟にその女性兵士の前に立ちはだかった。
焔上は左腕で防御をしようとしたが、その左腕とともに右眼球も斬られてしまった。
それでも焔上は何とかその人型の黒いモノの胸ぐらを掴むことができた。
そして
「うりゃあああああああああああああああああ!!!」
自分の腕の出血に目もくれずに精一杯の力を右手に込めてその人型の黒いモノを霧の中に放り投げた。
そのあと、出血とともに一気に力が抜け、ひどい目眩が焔上を襲ったが、それでも何とか女性兵士を担ぎ込み、斜面を全速力で降りて行った。
その途中、女性兵士が泣きじゃくりながら叫んだ。
「みんなは置いて行くんですか!!?みんなは!!」
「当たり前だ!!全員が全員墓で安らかに眠れると思うな!!」
「でも……………、みんな家族や友人がいるのに………………」
「うるさい!!これが戦場だ!!!」
涙で顔がぐちゃぐちゃになった女性兵士は必死に訴えたが、焔上はそれをきっぱりと押し返した。
しかし、焔上もまた、仲間を失った悔しさで泣きそうになるのを、歯を食いしばることで必死に堪えていた。
その感情の強さは誰よりも強く、どれだけ目眩が酷かろうと関係なかった。
こうして夜襲は失敗に終わった。
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