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【本章】異端と天災の力比べ
【2】幼気な悪魔
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***
「なんで、オレが選ばれたか、聞いてもいいですか?」
確かに能力者相手なら、オレの力は有効なことが多い。
だが、それ以上に致命的な弱点があるのだ。
オレの能力を知り尽くす学園側がその欠点を見過ごす訳がない。
暗い顔で溜息を吐いた学園長。
校長は眉間の皺を深くした。
「……君以外いないのだよ……。彼女の能力に耐え得る人材は。彼女は、我が学園が誇る最強クラスの能力者、綾小路 撫子の『分解』のオリジナルの持ち主だと主張している」
「『分解』……ですか」
その能力を見たことがあった。
同じく最強クラスの水使い、南条 彩が起こした大波を無数のキューブに分解し、最後には消してしまった光景を。
たらり、と汗がこめかみを伝った。
「綾小路 撫子が死亡した事件も無関係ではないだろう。彼女が能力を使って殺したのかもしれない。その他にも、彼女の両親の失踪事件も新たな疑惑が浮上している。
それでなくても、“無能者”九百人近く殺害しているのだ。彼女は第一級凶悪殺人犯。能力を無効化出来次第、処刑される身だ。今現在も、研究者達は全力を挙げて解明しようとしている。ただ、一朝一夕で成し遂げられることではない。その間に彼女に暴れられるでもすれば、誇張表現なく世界が滅ぶだろう。
だから、我が学園で保護という名目で監視することにした」
学園長の眼光は鋭くオレを射抜いた。
「しかし彼女は気難しくてね……。怪我の手当てのときも六人は消されたよ。安易に監視役をつけると犠牲者になりかねない。そこで君の出番だ。
『絶縁』の異能を持つ君だけは、唯一彼女に消滅されることはない能力者。だから、君が適任なのだよ」
***
麻莉奈と別れた後教室には向かわず、昨日訪れた校長室に向かった。
あれだけ脅されたオレは校長室に近づくほど、ガチガチと体がうまく動かなくなっていた。
奴の能力を聞かないままだったら、人を動けなくする能力だと思ってしまっただろう。
コンコン
「吉野です!」
いつもなら聞こうとも思わない校長の注意を、時間稼ぎのように行った。
「入れ」
ガチャ
昨日と違って学園長は居らず、代わりにオレと同じ白色の制服を着込んだ女が立っていた。
背中を向けてぴくりともしない女に校長は視線を向けて相変わらずの仏頂面で話し出した。
「こいつが、君のサポートに回る。……ボサッとしてないで自己紹介しろ、吉野」
女の真横に距離をとりつつ移動した。
「……オレは、吉野 暁人。みんなからは、アキトって呼ばれてる」
かなりヨソヨソしかったが、敬語じゃない分いいだろう。
反応のない女。
長い髪に隠れた顔からは視線すらオレに向いていないようだった。
……ダメだった??敬語の方がよかった??
後悔し始めたオレに、初めて女が顔を向けた。
傾いた頭からサラサラと髪が片方に寄せられていく。
「私は、創始 世界。精々、私の機嫌を損ねないように頑張って、ね」
パラパラ、広がっていく黒い髪。
その中から、浮かび上がるように白い顔が出てきた。大きな目の下にある痛々しい隈。整った造形が死人のような色の所為で、人形染みていた。
か………
かわいい………。
好みの顔という訳ではないが、凶悪な犯人像を思い描いていたオレにとっては驚くほど可愛い女の子だった。
周りが敵だらけで不安だったと窺える濃い隈が、か弱い女の子なのに可哀想といった庇護欲求を刺激するらしかった。
「……創始?君は、河村ではなかったのか?」
紙を確認する校長の一言で我に返った。
ぬっと歩いて校長の重厚な机に近づいた彼女--世界。
ガタタ
校長が血の気の失せた表情で、椅子からずり落ちていた。
「うわ、大丈夫っすか?」
驚きの余りついおかしな敬語になったが、急いで校長を助けにいったことに免じて許して欲しい、そんな思いに気づく余裕のない校長を起こした。
「創始さん……。どうかしたの?」
これでいいよな?
心の中では呼びにくいので世界とするが、初対面の相手には苗字にさん付けが一番いい距離感だ。
「名前が間違ってる。私は、創始になったんだ」
そう呟く世界と机を挟んで向き合う形になって手元の紙を覗き込むと、目立つ証明写真の横の方に[河村 世界]と書かれた氏名欄があった。
その河村という文字がサラサラサラ~と消えて、目を疑った。
「校長先生、ペンどこにあります?」
今だ壁に張りつく校長に声をかけると校長は震える指で、一番上の引き出しを指した。
引き出しの中にわかりやすいように転がったペンを取って、「ハイ」と渡した。
逡巡した様子の彼女だったがすぐに受け取って、跡形もなく消えた河村のスペースに創始と書いた。
ポイッと机に放られたペンをオレはちゃんと引き出しに戻した。
ビービーー
ポケットに入った時計が鳴った。
それと同時に耳を押さえて驚いた世界に笑う。
「それ、この学園の時間を知らせるチャイムなんだ。いい時間だし……、そろそろ教室行くか!」
嘘みたいに緊張感のなくなったオレは校長室を出た。
「なんで、オレが選ばれたか、聞いてもいいですか?」
確かに能力者相手なら、オレの力は有効なことが多い。
だが、それ以上に致命的な弱点があるのだ。
オレの能力を知り尽くす学園側がその欠点を見過ごす訳がない。
暗い顔で溜息を吐いた学園長。
校長は眉間の皺を深くした。
「……君以外いないのだよ……。彼女の能力に耐え得る人材は。彼女は、我が学園が誇る最強クラスの能力者、綾小路 撫子の『分解』のオリジナルの持ち主だと主張している」
「『分解』……ですか」
その能力を見たことがあった。
同じく最強クラスの水使い、南条 彩が起こした大波を無数のキューブに分解し、最後には消してしまった光景を。
たらり、と汗がこめかみを伝った。
「綾小路 撫子が死亡した事件も無関係ではないだろう。彼女が能力を使って殺したのかもしれない。その他にも、彼女の両親の失踪事件も新たな疑惑が浮上している。
それでなくても、“無能者”九百人近く殺害しているのだ。彼女は第一級凶悪殺人犯。能力を無効化出来次第、処刑される身だ。今現在も、研究者達は全力を挙げて解明しようとしている。ただ、一朝一夕で成し遂げられることではない。その間に彼女に暴れられるでもすれば、誇張表現なく世界が滅ぶだろう。
だから、我が学園で保護という名目で監視することにした」
学園長の眼光は鋭くオレを射抜いた。
「しかし彼女は気難しくてね……。怪我の手当てのときも六人は消されたよ。安易に監視役をつけると犠牲者になりかねない。そこで君の出番だ。
『絶縁』の異能を持つ君だけは、唯一彼女に消滅されることはない能力者。だから、君が適任なのだよ」
***
麻莉奈と別れた後教室には向かわず、昨日訪れた校長室に向かった。
あれだけ脅されたオレは校長室に近づくほど、ガチガチと体がうまく動かなくなっていた。
奴の能力を聞かないままだったら、人を動けなくする能力だと思ってしまっただろう。
コンコン
「吉野です!」
いつもなら聞こうとも思わない校長の注意を、時間稼ぎのように行った。
「入れ」
ガチャ
昨日と違って学園長は居らず、代わりにオレと同じ白色の制服を着込んだ女が立っていた。
背中を向けてぴくりともしない女に校長は視線を向けて相変わらずの仏頂面で話し出した。
「こいつが、君のサポートに回る。……ボサッとしてないで自己紹介しろ、吉野」
女の真横に距離をとりつつ移動した。
「……オレは、吉野 暁人。みんなからは、アキトって呼ばれてる」
かなりヨソヨソしかったが、敬語じゃない分いいだろう。
反応のない女。
長い髪に隠れた顔からは視線すらオレに向いていないようだった。
……ダメだった??敬語の方がよかった??
後悔し始めたオレに、初めて女が顔を向けた。
傾いた頭からサラサラと髪が片方に寄せられていく。
「私は、創始 世界。精々、私の機嫌を損ねないように頑張って、ね」
パラパラ、広がっていく黒い髪。
その中から、浮かび上がるように白い顔が出てきた。大きな目の下にある痛々しい隈。整った造形が死人のような色の所為で、人形染みていた。
か………
かわいい………。
好みの顔という訳ではないが、凶悪な犯人像を思い描いていたオレにとっては驚くほど可愛い女の子だった。
周りが敵だらけで不安だったと窺える濃い隈が、か弱い女の子なのに可哀想といった庇護欲求を刺激するらしかった。
「……創始?君は、河村ではなかったのか?」
紙を確認する校長の一言で我に返った。
ぬっと歩いて校長の重厚な机に近づいた彼女--世界。
ガタタ
校長が血の気の失せた表情で、椅子からずり落ちていた。
「うわ、大丈夫っすか?」
驚きの余りついおかしな敬語になったが、急いで校長を助けにいったことに免じて許して欲しい、そんな思いに気づく余裕のない校長を起こした。
「創始さん……。どうかしたの?」
これでいいよな?
心の中では呼びにくいので世界とするが、初対面の相手には苗字にさん付けが一番いい距離感だ。
「名前が間違ってる。私は、創始になったんだ」
そう呟く世界と机を挟んで向き合う形になって手元の紙を覗き込むと、目立つ証明写真の横の方に[河村 世界]と書かれた氏名欄があった。
その河村という文字がサラサラサラ~と消えて、目を疑った。
「校長先生、ペンどこにあります?」
今だ壁に張りつく校長に声をかけると校長は震える指で、一番上の引き出しを指した。
引き出しの中にわかりやすいように転がったペンを取って、「ハイ」と渡した。
逡巡した様子の彼女だったがすぐに受け取って、跡形もなく消えた河村のスペースに創始と書いた。
ポイッと机に放られたペンをオレはちゃんと引き出しに戻した。
ビービーー
ポケットに入った時計が鳴った。
それと同時に耳を押さえて驚いた世界に笑う。
「それ、この学園の時間を知らせるチャイムなんだ。いい時間だし……、そろそろ教室行くか!」
嘘みたいに緊張感のなくなったオレは校長室を出た。
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