The Devil Summoner 運命を背負いし子供達

赤坂皐月

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第3章 アンダーグラウンド

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アンダーグラウンドにある、魔王親衛隊の駐屯施設。
そこには現在の魔王、ベルゼブブの直接配下である魔物の兵士達が、魔界の治安を維持するため駐屯している。
と言っても、ここでの治安維持とはつまり『魔王に逆らう者を出さない』という名目での治安維持であり、現代の警察の役割とは異なるものだ。どちらかと言えば近代日本の憲兵に近い役割だろうか。
このアンダーグラウンドの親衛隊の長、アスタロトは隊長室の椅子に座り、机の上で刃先が蛇のようにうねった形をしている矛、蛇矛だぼうを丁寧に磨いていた。
すると一人の兵士が隊長室の扉を開け、駆け込んで入って来る。

「失礼します!アスタロト隊長!!」

「失礼します……じゃねぇよ!!普通部屋に入る時はノックをするもんだろうが!!親衛隊の兵士でありながらそんなことも分からんのかキサマはぁ!!!」

「ヒィッ!!す……すいません!!!」

アスタロトの怒号に、自然と背筋が伸びる全身鉄鎧の兵士。
その姿はまさしく、ダメな部下に叱咤する上司そのものだった。

「まったく……もう少し兵士の教育を徹底せねばなるまいな……」

アスタロトは蛇矛を磨きながらブツブツと呟く。それを兵士は耳が痛くなる気持ちで聞いていた。

「それでお前、そんな急いで何の報告だ?くだらんことだったら許さんからな!」

アスタロトの言葉に兵士は震えながらも敬礼し、報告を続ける。

「ははっ!先程ケルベロスと人間と思われる者達が市街地で餓鬼と戦っていたとの情報が入りました!」

「ほう…………って、ぬわにぃ!!!ケ、ケルベロスと人間だとぉ!!キサマ何故それを早く言わないんだ!!!」

アスタロトは蛇矛を磨いていた手を止め、椅子から立ち上がり食い入るように鉄鎧の兵士を睨みつける。

「だ……だってアスタロト様がノックをしろと……」

「でええいそんな知らせがあってノックなどしてられるかっ!!すぐに我に知らせんかいキサマぁ!!」

「えぇ……」

あまりの理不尽なアスタロトの指示に、引いてしまう鉄鎧の兵士。
組織では、いくらそれが白い物体であっても、上司がそれが黒だと言えば黒だと言わなければならない。そのことを鉄鎧の兵士は重々承知していた。
だが、部下が黒だと言った次の瞬間、上司が白と言いなおすのはどうなのだろうかと心のわだかまりを募らせる。
今日の晩酌は、この愚痴をツマミに仲間と酒が飲めそうだ。そう思う兵士だった。

「ケルベロスはベルゼブブ様が直々に指名手配にした魔物だ。ヤツを葬ったとなると我の地位は更に上がるかもしれんなぁ……ムフフ」

アスタロトのたくらみを聞いて、やれやれと心の中で溜息を兵士はつく。

「しかし人間が共にいるというのが不自然だが……まさかデビルサモナー……しかしヤツはベルゼブブ様に既に葬られたはず」

むむむ、と考えにふけるアスタロト。

「い……いかが致しましょうか?」

このまま放っておくと、また何を言われるか分からないと踏んだ兵士はアスタロトに伺う。

「そうだな……とりあえずそやつらを捕縛してこい!処分はそいつらを確認してからでもいいだろう」

「ははっ!」

全身鉄鎧の兵士は敬礼をし、失礼しますと部屋に響き渡るほどの大きな声を出すと、隊長室の扉を閉め、溜息をついた。

「はぁ……魔物使いの荒い隊長に着くと大変だ。こんなんならベリト様の騎士団に入りゃよかった。あっ……でも俺乗馬とかできないや……」

「おい!何か言ったか!!」

すると、部屋の中からアスタロトの大声が聞こえ、兵士の背筋は凍りつく。

「き、気のせいでありますぅ!!!」

「……そうか、なら早く行け!」

「は……ははぁ!」

鉄鎧の兵士はドア越しに敬礼をし、逃げるように隊長室の前の廊下を走って行く。
しばらく走って、気づけば駐屯施設の外まで飛び出していた。

「ゼーゼー……くそ……なんて地獄耳だ。こんなんじゃ陰口も言えねぇや」

息も絶え絶え、兵士は膝に手をやり、かがんでいると。

「にゃはははは!!デュラハン、またアスタロト様に怒られちゃったの?」

そうやって愉快に笑っているのは、猫の耳や尻尾があり体は猫そのものだが、人に近い顔立ちをしている、半人半獣の女の子の魔物だった。

「ケッ……ワーキャット、笑ってないでこれから人探しに行くぞ」

デュラハンが言うと、ワーキャットは渋い顔をしてブーイングをする。

「えぇアタイもぉ!人探しなんてめんどくさいし行きたくない!」

「そんなこと言ったってアスタロト様の命令だ。お前も親衛隊の兵なんだから行くのは当たり前だろ?」

デュラハンはワーキャットをなだめるが、ワーキャットは更に逆上し地団駄を踏む。

「にぎゃあああ!ほんっっと魔物使いが荒い人!!」

「それは俺に言わず、アスタロト様に言ってくれ……そんじゃあ俺は他の兵を何人か誘ってくるよ」

肩を落としながらデュラハンは歩いて行く。
するとワーキャットはぶーっと頬を膨らませ、突如デュラハンに飛びついた。

「うわっ!な……なんだお前!?」

いきなりの出来事に、デュラハンは困惑する。

「仲間を集めて、その後兵の長ズラして手柄をとろうとしてるこんたん、アタイにはお見通しよ!アタイも連れて行け!!」

「んなこと考えてない!んがああ!!爪をたてるな鎧に傷がつくううう!!!」

デュラハンはワーキャットを引き剥がそうとするが、ワーキャットは意地でも離さぬとばかりにデュラハンに貼りつく。

「分かった分かった!連れて行くから離れろ!!」

ついにデュラハンが勘弁すると、ワーキャットはニタリと笑い、サッとデュラハンから飛び離れた。

「分かればよろしい!じゃあちゃちゃっと集めてちゃちゃっと人探しも終わらせるよ!」

「ぬうう……傷つけてないだろうなお前……」

デュラハンが自らの手で頭の鎧を外す。
鎧の中には何もなく、空洞である。その鉄鎧自体がデュラハンの身体そのものだったのだ。

「男のくせに神経質なのよアンタは!まあアタイの体に傷でもつけたら跡形も無くなるくらい引っ掻きまわすけどね?」

「今すぐお前を引っ掻き回してやろうか!!」

大声で突っ込むデュラハン。
まあ、デュラハンには引っ掻き回す爪など無いのだが。

「にゃはははは!んじゃさっさと兵を集めるよ!」

先程の不機嫌はどこへやら、ワーキャットは愉快に笑いながらデュラハンの先を歩いて行く。

「はぁ……あの上司にしてあの同僚か」

デュラハンは最上級の溜息を吐いてから、頭の鎧を体にくっつけ、とぼとぼと歩く。
その姿はどこか哀愁が漂っていた。
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