ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第1部 青春の始まり篇

第1章 悪魔の女との出会い【5】

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「岡崎君、どうかしら今日のイタズラは?この三日間色々考えてみたんだけど、やっぱり一度こういう原始的なイタズラもありなんじゃないかなぁって思って仕掛けてみたのよ」

 原始的というか、電気を使っているあたり俺からすると、この前の血糊なんかよりは画期的な物だし、スマートなイタズラだと思うけどな。

 まぁ、そういうどうでもいい意見はともかくだ。

「いっつつ……せっかくの休日ってのに、もうちょっと有意義な休日を送れよな」

 まあ俺も、一日中弟とゲームして休日を潰したあたり大きな顔は出来ないが。

「有意義なんてその人の価値観じゃない。今わたしは岡崎君にどんなイタズラをして怒らせてやろっかって考える事が人生の有意義になってるのよ」

「休日どころか人生の!?人の迷惑を人生の糧にすんじゃねぇ!!」

 傍迷惑な野郎だ、なんて神経してやがる!……いや、今更と言えば今更な話ではあるんだが。

「それでそれで岡崎君、今日はどれくらい怒った?」

 天地はまるで、出張から帰って来た父親にお土産を要求してくる子供の様に催促し、食い気味に俺に近寄って来る。
 
 どうやら今のコイツの頭の中には、それしかないみたいだ。

「全然全く……というか、この前も驚きはしたが怒りは皆無だったからな」
 
「またぁ?ここまで露骨に嫌がらせしてるのに……」

 普通それを本人の前で言うか?普通。

「つまりお前の求めているものを、俺は持っていないという訳だ。だからさっさとその実験対象とかいうのを違う奴に変えた方がお前の為にもなるとは思わないか?」

 それに、何といっても俺の為にもなる。そうすれば思いっきりコイツのせいで足首を挫かれ、出遅れたこの高校生活も、今ならリスタートが効きそうだからな。

 後のやつの事?そんなもん俺は知らん。文句を言うんだったら俺ではなく、目の前で意味も分からず不機嫌な顔をしている奴に言ってくれ。

「やっぱりイタズラが原始的過ぎたのかもしれないわねぇ……それにどうせジョークグッズなんて、ちょこっとビックリさせれば良い程度の刺激しか無さそうだし、やっぱりこれは失敗だったわね」

 天地の奴は俺の話なんか一切聞く耳を持たず、先程机の中にしまっていた放電機能(静電気程度)付き板ガムを眺めながら、一人で反省会を行っていた。

 俺は実験対象のはずなんだろ?少しは被験者の意見に耳を傾けろよな。

「てか、そんなもんまた何処で買って来たんだ?」

 俺が質問を投げかけると、さっきまで聞こえていなかったはずなのに、急に天地は俺の声をその耳に聞き入れたのだ。どうやらコイツの耳には、自分の都合の良い言葉以外は受信拒否をするフィルターかなんかが着いているらしい。

「血糊を買った場所と同じ所よ。あの雑貨屋さんって物が溢れてるじゃない?だから見てるだけでもこう、夢が溢れている気にならない?」

 雑貨屋に夢を求めるとは、それはそれで斬新な発想だな。

「夢が溢れてるかどうかは知らんが、まぁ見てる分には暇潰しにはなるかな」

「岡崎君って夢が無いのね……どうせ将来の夢の欄に公務員とか書いた事のある部類の人でしょ?」

「…………」

「あっ図星なんだ」

 中学の卒業文集に、そんな事を書いた様な気がする。つい最近の出来事過ぎて、思い当たる節ってどころの話じゃなかった。

「現実的な夢なんてこの世に無いんだから、ああいうのは大きく書いてる方が賢いのよ岡崎君。例えばアラブの石油王って書いておいて、現実ではサラリーマンになったとしても、将来そういう類の話をする時にネタになるじゃない?公務員なんて書いても誰も笑わないわよ?」

 至極的確な助言を前に、ぐうの音も出ない。俺、撃沈ス。

「あれ?岡崎君もしかして今怒った?なんかムスッとした顔したわよ!」

 何故か俺の不機嫌な顔を見て、それとは対照的に歓喜する天地。何なんだろうか、別に勝負をしているわけでは無いのにこの屈辱と敗北感は。
 
「やっぱり戦いの基本は精神攻撃って言うくらいだし、そういう所を突いた方がいいのか~……なるほど」

 メモ帳を取り出し、何やらシャープペンシルで書き記している。一体今までの会話の中に、メモを取ってこの先の人生で振り返る程のワードがあっただろうか。
 
「う~ん……だけど納得はいかないわよねぇ」

「何がだよ」

「やり方よやり方。言葉で人を罵倒するだけで怒らせるのって誰でも出来そうじゃない?そうじゃなくて、敢えてイタズラという範囲で怒りメーターを上げていきたいのよねぇ」

 口を尖らせ、その上唇の上にメモを記していたシャーペンを乗せる天地。どうやらコイツの中では、俺の怒りの指標となっている怒りメーターなる物が存在しているらしい。誰が得するんだよそんな指標作って。

「ところでお前は何故そこまでイタズラに執着するんだ?」

 なんというか、こだわりの様なものを持っているみたいだから訊いてみた。それに被害者代表として尋ねる権利は俺にだってあるだろ?

「執着?う~んそうね……わたしね、イタズラには美学があると思っているの」

「イタズラに美学だぁ?」

 この沙汰、俺が全く考えた事のない返答が、天地から返って来た。

「そう美学。罵倒とか批判っていうのは、ようは聴覚に訴えるだけの言葉でしかないじゃない?だけどイタズラっていうのは目にも見えるし、音も聞こえるし、場合によってはニオイや触覚にも刺激を与える事が出来るのよ!これ程までに人を刺激する方法って他に無いと思うのよ」

「は……はぁ……まぁ言われてみれば確かに」

「ほら、最近4D映画なんてものできたじゃない。あれだって普通、映像作品で完結するなら2Dもしくは3Dだけでいいじゃない?だけどそこに更なる感覚刺激を加えて、より映画の内容をリアルに刻み込もうとする為に生まれたのが4Dじゃない。だからそれとイタズラは同じ事なのよ」

 なんだろう……コイツは至って大真面目に、イタズラというものと向き合っている事は分かった。分かったのだが、それを俺に振りかざすのとは訳が違うだろ。

「だから実験対象の岡崎君にはもっとも~っと刺激的になって欲しいわけよ、わたしとしてはね!」

「そんな配慮いらないから」

「配慮じゃないわ、強制よ」

「俺には選択権は無いのかよっ!!」

 まぁ、ある訳ないよな。言われなくても分かってたよ。 

「だけど配慮って訳じゃないけど、この前の血糊はちょっとやり過ぎだったかなって反省はしてたのよ。だから周りにあまり迷惑のかからない事に限定するっていうのは決めてるの。論文を作り上げるまでは、自分の経歴に傷は付けたくないからね」

 俺の迷惑も、俺の経歴も少しは考えろよ。

「大丈夫よ、もし論文が認められたらそのお祝いに岡崎君に同じ種類の菓子折りを一年分くらい送りつけてあげるから」

「反省してねぇ!新手の嫌がらせかっ!!」

 責めて一年分でも、種類の違うものを送って来い。いや……いらないけどさ!

「おおい遅れてすまない!それじゃあこれから出欠とるぞー!」

 そう言ってハツラツとした笑顔で入って来たのは、一年五組の担任である山崎やまざき教諭だった。

 それと同時に、クラスメンバー全員が自分の席に着き、教壇に立っている山崎教諭のむさ苦しい顔に注目する。勿論、俺と天地も例に漏れず振り向いたのだが。

 それからの天地はというと、何も仕掛けてくる様子は無く、至って真面目に授業に取り組んでいた。どうやら自分の経歴を傷つける気は本当に無いらしい。

 本当に、こうやって大人しくしてれば美人な女子高生なのにな。実にもったいない。

 と、数学の授業中、眠気と戦っている俺は意識下の中でそんな事を考えていた…………何考えてるんだか俺は。
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