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第1部 青春の始まり篇
第5章 さよならなんて言わせない!【1】
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ゴールデンウィーク初日。今日から世の中は大型連休という、子供や学生達には心の癒しとなり、世のお父さん達は遠出をする車の運転でタジタジとなるその日がやって来た。
何処へ行くのも人の多いこの連休を使って、行楽地へ出かけよう!という事には我が岡崎家ではならず、今年のゴールデンウィークも各自自由ではあるものの、基本的には家で過ごす事という、青春の一ページどころか、プロローグにも載りそうにない大型連休を送る事になっていた。
だがそんな休日であるはずなのに、俺は登校する時間に合わせた、朝七時に目が覚めていた。毎日の習慣とは、たった一日では案外変わらないもので、自然と目が覚めたのだ。
あの後はずっと後悔しっ放しだった……やらないで後悔するより、やって後悔しろ。その言葉の重みを知った様な気がした。
普段も十分冴えない顔をしているというのに、今日は特に鏡に写りこむ自分は冴えていなかった。なんて景気の悪いツラしてやがるんだ……。
歯を磨き、そのパッとしないその顔が少しでもマシになるよう、顔をザブザブと水で洗い、台所に置いてあったパンを一枚取って焼いていた。
平凡だな俺は……今頃、天地は海外へ向かう準備をしているのだろうか?それとも、もしかしたらもう既に出国しているかもしれない。
もし天地が、天地電産を乗っ取って日本に帰国するなんて事があったら、その時には微少ではあるが、祝儀でも持って祝いに行ってやるか。まあ……俺の事を憶えていたらの話だがな。
天地と共に過ごしたのは、日時で言えば僅か三週間にも満たない程の短い時間だった。普通ならこの程度の時間の思い出など、三年も経たない内に記憶から消えてしまうだろう。
俺達もいつかはそうなってしまうのか……そう思うと、何だか遣る瀬無い気持ちになってしまう。だが忘れたら忘れたらで、俺は徳永と、そして神坂さんとの思い出を築いていけば良いだけだ。
徳永のうんちくクサい話を聞きながら、神坂さんの笑顔を見て悦に浸る。うむ、悪くない高校生活だ。
天地がそういえば言っていたな。大半の学生は、残念な青春を味わって大人になっていくとかなんとか……どうやら俺の高校生活がその様な事態になるのは、今のところ可能性としては低いだろう。
友達と団欒して、遊んで、普通に、平凡に、一度しかない高校生活を満喫する。いいじゃないか、十分じゃないか。
ただ……もう一人いたら……天地がその中に居たら、俺の学園生活はそんじょそこらの並の学生では味わえない様な、スリリングなものになっていたのかもしれない。徳永も、神坂さんも巻き込んで、目茶苦茶で、ハチャメチャな……でもそれでいて、ずっとこの先の記憶に残る様な学園生活になっていたのかもしれない。
まっ……今となっては俺のただの妄想だがな。
そんな事を考えていたら、トースターがチンッとパンの焼けた合図を出した。台所にパンの焼けた時の香ばしい匂いが充満する。
トースターからトーストを取り出した後、今度は冷蔵庫からマーガリンとペットボトルのアイスコーヒーを取り出し、椅子に座ってコップにコーヒーを注いだ後、トーストにマーガリンを塗り込む。
トーストの持つ熱がマーガリンをゆっくり溶かす。こんなにマーガリンが溶けていくところを、感慨に浸りながら見るのは初めてだな。儚いというか、なんというか……。
形は無くなっても、トーストに塗り込まれたマーガリンの芳しい香りは残っている。つまりそれは、トーストの中にマーガリンがまだ生きているのだ。うむ……そろそろ限界だ。
俺はその香り漂うトーストにかぶりついた。一口目は豪快に食べるのが俺流の食べ方。食べ物の味が最も味わえるのが、この一口目だからな。
すると直後、まるでその至福の時間を割くかの様にして、ポケットに突っ込んでいたスマートフォンが鳴った。誰だよこんな時に。
着信画面を見ると、そこには神坂という文字が表示されていた。実は徳永の計らいによって、俺は神坂さんと携帯番号を交換していたのだ。あの時程、徳永が大軍師に見えた時は無い。現代の諸葛亮公明がそこにいた気がした。
神坂さんの連絡とあってはトーストなど味わっている場合ではない!俺は口に含んでいたトーストの破片を咀嚼し、コーヒーで流し込み、神坂さんの着信を受けた。
「もしもし」
『あっ!もしもしおはようございます、岡崎君』
いつも通りの挨拶をする神坂さん。それより気になるのが、神坂さんの声と共に聞こえてくる車の行き交う様な音……こんな朝早くから外にいるのだろうか?
「おはようございます。ところで神坂さん、何か御用ですか?」
まあ、用があるから俺に電話を掛けてきたのだろうけど、でもこんな朝早くから連絡する要件とは如何様な事なのだろうか?
『あっはい……実は今、犬の散歩をしていたんですけど、丁度バス停の所に天地さんが立っているのを見かけて……』
「なっ……あ、天地をですかっ!!?」
突然の予期せぬ報告に、俺はその場に立ち上がり、家族がまだ寝ているというのに、スマートフォン片手に大声を上げていた。
『え……えぇ。キャリーバッグを持ってバスを待ってたみたいだから、もしかしたら空港の快速便を待ってる所だったんじゃないかなって……』
この付近にある空港には電車は通っておらず、その代わりにバスが空港への足掛かりとなっている。つまり天地はこれから空港へと向かい、一度東京を経由して外国へと旅立つという事か。
しかし、これは俺にとって最後に与えられたチャンスなのかもしれない、何故なら、その快速便は俺の家の近所にあるインターチェンジ前のバス停にて一度停車する。そこでバスに乗り込めれば、もう一度天地に会える事が出来るというわけだ。
昨日の失敗を挽回する、本当に最後の最後で舞い降りてきた好機。それを俺に与えてくれた神坂さん、やはりあなたは女神だ!
何処へ行くのも人の多いこの連休を使って、行楽地へ出かけよう!という事には我が岡崎家ではならず、今年のゴールデンウィークも各自自由ではあるものの、基本的には家で過ごす事という、青春の一ページどころか、プロローグにも載りそうにない大型連休を送る事になっていた。
だがそんな休日であるはずなのに、俺は登校する時間に合わせた、朝七時に目が覚めていた。毎日の習慣とは、たった一日では案外変わらないもので、自然と目が覚めたのだ。
あの後はずっと後悔しっ放しだった……やらないで後悔するより、やって後悔しろ。その言葉の重みを知った様な気がした。
普段も十分冴えない顔をしているというのに、今日は特に鏡に写りこむ自分は冴えていなかった。なんて景気の悪いツラしてやがるんだ……。
歯を磨き、そのパッとしないその顔が少しでもマシになるよう、顔をザブザブと水で洗い、台所に置いてあったパンを一枚取って焼いていた。
平凡だな俺は……今頃、天地は海外へ向かう準備をしているのだろうか?それとも、もしかしたらもう既に出国しているかもしれない。
もし天地が、天地電産を乗っ取って日本に帰国するなんて事があったら、その時には微少ではあるが、祝儀でも持って祝いに行ってやるか。まあ……俺の事を憶えていたらの話だがな。
天地と共に過ごしたのは、日時で言えば僅か三週間にも満たない程の短い時間だった。普通ならこの程度の時間の思い出など、三年も経たない内に記憶から消えてしまうだろう。
俺達もいつかはそうなってしまうのか……そう思うと、何だか遣る瀬無い気持ちになってしまう。だが忘れたら忘れたらで、俺は徳永と、そして神坂さんとの思い出を築いていけば良いだけだ。
徳永のうんちくクサい話を聞きながら、神坂さんの笑顔を見て悦に浸る。うむ、悪くない高校生活だ。
天地がそういえば言っていたな。大半の学生は、残念な青春を味わって大人になっていくとかなんとか……どうやら俺の高校生活がその様な事態になるのは、今のところ可能性としては低いだろう。
友達と団欒して、遊んで、普通に、平凡に、一度しかない高校生活を満喫する。いいじゃないか、十分じゃないか。
ただ……もう一人いたら……天地がその中に居たら、俺の学園生活はそんじょそこらの並の学生では味わえない様な、スリリングなものになっていたのかもしれない。徳永も、神坂さんも巻き込んで、目茶苦茶で、ハチャメチャな……でもそれでいて、ずっとこの先の記憶に残る様な学園生活になっていたのかもしれない。
まっ……今となっては俺のただの妄想だがな。
そんな事を考えていたら、トースターがチンッとパンの焼けた合図を出した。台所にパンの焼けた時の香ばしい匂いが充満する。
トースターからトーストを取り出した後、今度は冷蔵庫からマーガリンとペットボトルのアイスコーヒーを取り出し、椅子に座ってコップにコーヒーを注いだ後、トーストにマーガリンを塗り込む。
トーストの持つ熱がマーガリンをゆっくり溶かす。こんなにマーガリンが溶けていくところを、感慨に浸りながら見るのは初めてだな。儚いというか、なんというか……。
形は無くなっても、トーストに塗り込まれたマーガリンの芳しい香りは残っている。つまりそれは、トーストの中にマーガリンがまだ生きているのだ。うむ……そろそろ限界だ。
俺はその香り漂うトーストにかぶりついた。一口目は豪快に食べるのが俺流の食べ方。食べ物の味が最も味わえるのが、この一口目だからな。
すると直後、まるでその至福の時間を割くかの様にして、ポケットに突っ込んでいたスマートフォンが鳴った。誰だよこんな時に。
着信画面を見ると、そこには神坂という文字が表示されていた。実は徳永の計らいによって、俺は神坂さんと携帯番号を交換していたのだ。あの時程、徳永が大軍師に見えた時は無い。現代の諸葛亮公明がそこにいた気がした。
神坂さんの連絡とあってはトーストなど味わっている場合ではない!俺は口に含んでいたトーストの破片を咀嚼し、コーヒーで流し込み、神坂さんの着信を受けた。
「もしもし」
『あっ!もしもしおはようございます、岡崎君』
いつも通りの挨拶をする神坂さん。それより気になるのが、神坂さんの声と共に聞こえてくる車の行き交う様な音……こんな朝早くから外にいるのだろうか?
「おはようございます。ところで神坂さん、何か御用ですか?」
まあ、用があるから俺に電話を掛けてきたのだろうけど、でもこんな朝早くから連絡する要件とは如何様な事なのだろうか?
『あっはい……実は今、犬の散歩をしていたんですけど、丁度バス停の所に天地さんが立っているのを見かけて……』
「なっ……あ、天地をですかっ!!?」
突然の予期せぬ報告に、俺はその場に立ち上がり、家族がまだ寝ているというのに、スマートフォン片手に大声を上げていた。
『え……えぇ。キャリーバッグを持ってバスを待ってたみたいだから、もしかしたら空港の快速便を待ってる所だったんじゃないかなって……』
この付近にある空港には電車は通っておらず、その代わりにバスが空港への足掛かりとなっている。つまり天地はこれから空港へと向かい、一度東京を経由して外国へと旅立つという事か。
しかし、これは俺にとって最後に与えられたチャンスなのかもしれない、何故なら、その快速便は俺の家の近所にあるインターチェンジ前のバス停にて一度停車する。そこでバスに乗り込めれば、もう一度天地に会える事が出来るというわけだ。
昨日の失敗を挽回する、本当に最後の最後で舞い降りてきた好機。それを俺に与えてくれた神坂さん、やはりあなたは女神だ!
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