ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

文字の大きさ
34 / 103
第2部 青春の続き篇

第1話 ランチタイムにて【2】

しおりを挟む
 数学は嫌いだ。特にコサインだかタンジェントだか、まるで魔法の呪文みたいなものが含まれている数式は特に大っ嫌いだ。

 数式というのはかつて先人たちが、数字の羅列をもっと簡略化させるために作られたものだと、以前何処かで聞いた事があるような気がした。その典型的な形が、ある意味掛け算と言えよう。

 しかしその数式というものがここまで増えてしまっては、まるで簡略化した意味がないじゃないか。むしろ複雑になりつつある!と俺は声を大にして言いたいところではあったが、授業が終わるチャイムと同時に、まるで煩悩を打ち消す除夜の鐘の如く、俺の中の不平不満も打ち消され、俺は教科書をさっさとしまい、代わりに鞄から母親手製の弁当を取り出した。

「それじゃあ先に行ってるわね岡崎君」

 そう言い残すと、天地はまるで現在も山梨辺りで実験走行してるであろうリニアモーターカーを彷彿とさせるような素早い走りで、教室を後にした。おそらく向かったのは食堂だろう。

 天地はどうやら待つのは別になんてことないのだが、人を待たせる事にはどうやら抵抗があるらしい。一体それが何故なのか、それはまだ俺自身知らない所ではあるのだが、きっと何かしらの意味はあるのだろう。いつか訊いておく事にしよう。

 さて……まだあの二人は三組の教室に居るだろうか。俺も軽い駆け足で五組の教室を出て、一教室跨ぎ、三組の教室へと到達した。

 何故俺が急いだかと言うと、天地と食事をするという事を、事前に二人には伝えていなかったからである。授業の合間の時間は、次の授業の用意やらなんやらで時間は無いし、そもそも朝会った時はこんな話など心の片隅にも無かったのだから致し方なかった。

 三組の教室の前でしばらく待っていると、徳永と神坂さんがともに並んで扉から出てきた。

「あっ!岡崎君!」

「あらチハ?今日は来るの早かったんだね」

 徳永と神坂さんは二人とも目を丸くして(神坂さんは徳永の二倍くらいのリアクションで)俺を見ていた。まあ、いつもは食堂で落ち合っているのだから、驚かれても無理ないか。

「ああ、ちょっと二人に伝えておきたい事があってな」

「へえ……もしかしてまた、天地さんと二人でお食事かい?」

「いや違う、というか逆だな。天地を誘ったんだ俺が」

 すると徳永はおおっと口を半開きにし、神坂さんはまるで、宇宙人との未知との遭遇を果たしたかのように愕然としていた。

「えええええ!あ……天地さんが!あたし天地さんと喋るのは初めてだから大丈夫かなぁ……」

 えらくオドオドしている神坂さん。そういえば天地とは中学が同じで、クラスまでも一緒になった事があったが、一度も喋った事が無かったんだっけ。

「ははは……神坂さん落ち着いて、そんな事言ったら僕だって話した事無いんだから」

 相変わらずの朗らかな笑みで、徳永は神坂さんをなだめる。神坂さんも神坂さんで驚き過ぎだと思うが、お前はお前で落ち着き過ぎだ。

「だって以前から天地さんには興味があったからね、面会してみたかったんだよ。あっ!勿論好奇心的な意味でね?」

 配慮したつもりなのだろうが、しかし徳永よ、そんな配慮しなくても、既に俺と天地は友達を越えた関係になっているのだから、そんなもんはいらない……とは流石に言えなかったが。

「岡崎君、あたしの勝手なイメージなんだけど……天地さんって気難しい人なんじゃないかな?」

 神坂さんからの質問に、俺はう~んと少しだけ頭を抱える。気難しいと言えばそうなんだろうし、かと言ってサバサバしてるかってなるとそうでもあるような気がしたからな。

「まあ……心配し過ぎる事は無いと思いますよ。結構ああ見えて社交的ですしアイツ」

 むしろ他の人には友好的な接し方をするからな天地は。悪態やら毒舌を振りまいてくるのは、俺だけに限定しているようだ。それが嬉しい事なのか、嘆くべき事なのかは考えどころだがな。

「社交的かぁ……じゃあ失礼にならないようにあたしも精一杯の社交性を出さなきゃ!」

 神坂さんはまるで、どこかのお偉いさんのパーティに招待されこれから会場へ向かうのだ、とでもいうような緊張した面持ちをしている。その何にでも全力で臨もうとする努力、尊敬致します。

「……でも社交性ってどうすればいいんだろう?岡崎君何か分かる?」

 う~んと俺は間を取って、数秒使ってから、考えを提示した。

「とりあえず挨拶が大切なんじゃないですかね?掴みが肝心とも言いますし」

「そっか!うん……そうだねありがとう!」

 どうやら今ので納得してくれたようだった。といっても、本当のところ俺にだって社交性とはなんたるかなんて分からないし、その知識すら皆無だった。なんせ俺だって、そんな褒められるような社交的に、何処にでも良い顔を出来るような、そんな器用な人間じゃないからな。

「そうだなぁ……僕も何を訊きたいか、心の中で整理しておかなくちゃね?」

 徳永は相変わらず小春日和のような、穏やかに笑いながらそう言う。

「先に言っておくが、変な質問をしたところで強制退去してもらうからな。全てのとばっちりが俺のところに来ないとも限らない」

「大丈夫だよチハ、そんな危険な橋、例え叩いて崩れなかったとしても渡らないからさ」

 叩いて崩れなければ、それは渡って良い橋なんじゃないかと思ったがまあいい。それくらい自重して貰わないと、天地の機嫌を損ねれば明日の朝の俺の身が危ない。もしかしたら、椅子に剣山を置いているとか、そんなイタズラという名の嫌がらせをされそうで怖い。

「おっとそうだ、もう行かなきゃまずいんじゃないかな?天地さん待ってるんじゃないの?」

 徳永の言う通りだ。天地は授業が終わって数分と経たずに教室を全力疾走していたので、多分時間的に言えば十分くらいは待たせている事になる。少々油を売り過ぎたようだ。

 まあ多少待たせたとて、その程度で怒ってくるほど短気でもせっかちでも天地は無い。多分大丈夫と思うが、急ぐ形は取っておいた方がいいだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

恋い焦がれて

さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。 最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。 必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。 だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。 そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。 さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。 ※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です ※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません) ※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。 https://twitter.com/SATORYO_HOME

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり
恋愛
20も離れたおっさん侯爵との結婚が嫌で家出したリリ〜シャ・ルーセンスは、新たな希望を胸に新世界を目指す。 新世界でパン屋さんを開く!! それなのに乗り込んだ船が海賊の襲撃にあって、ピンチです。 このままじゃぁ船が港に戻ってしまう! そうだ!麦の袋に隠れよう。 そうして麦にまみれて知ってしまった海賊の頭の衝撃的な真実。 さよなら私の新大陸、パン屋さんライフ〜

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...