ヒトコイラヴァーズ 悪魔の女との青春物語

赤坂皐月

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第2部 青春の続き篇

第1話 ランチタイムにて【2】

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 数学は嫌いだ。特にコサインだかタンジェントだか、まるで魔法の呪文みたいなものが含まれている数式は特に大っ嫌いだ。

 数式というのはかつて先人たちが、数字の羅列をもっと簡略化させるために作られたものだと、以前何処かで聞いた事があるような気がした。その典型的な形が、ある意味掛け算と言えよう。

 しかしその数式というものがここまで増えてしまっては、まるで簡略化した意味がないじゃないか。むしろ複雑になりつつある!と俺は声を大にして言いたいところではあったが、授業が終わるチャイムと同時に、まるで煩悩を打ち消す除夜の鐘の如く、俺の中の不平不満も打ち消され、俺は教科書をさっさとしまい、代わりに鞄から母親手製の弁当を取り出した。

「それじゃあ先に行ってるわね岡崎君」

 そう言い残すと、天地はまるで現在も山梨辺りで実験走行してるであろうリニアモーターカーを彷彿とさせるような素早い走りで、教室を後にした。おそらく向かったのは食堂だろう。

 天地はどうやら待つのは別になんてことないのだが、人を待たせる事にはどうやら抵抗があるらしい。一体それが何故なのか、それはまだ俺自身知らない所ではあるのだが、きっと何かしらの意味はあるのだろう。いつか訊いておく事にしよう。

 さて……まだあの二人は三組の教室に居るだろうか。俺も軽い駆け足で五組の教室を出て、一教室跨ぎ、三組の教室へと到達した。

 何故俺が急いだかと言うと、天地と食事をするという事を、事前に二人には伝えていなかったからである。授業の合間の時間は、次の授業の用意やらなんやらで時間は無いし、そもそも朝会った時はこんな話など心の片隅にも無かったのだから致し方なかった。

 三組の教室の前でしばらく待っていると、徳永と神坂さんがともに並んで扉から出てきた。

「あっ!岡崎君!」

「あらチハ?今日は来るの早かったんだね」

 徳永と神坂さんは二人とも目を丸くして(神坂さんは徳永の二倍くらいのリアクションで)俺を見ていた。まあ、いつもは食堂で落ち合っているのだから、驚かれても無理ないか。

「ああ、ちょっと二人に伝えておきたい事があってな」

「へえ……もしかしてまた、天地さんと二人でお食事かい?」

「いや違う、というか逆だな。天地を誘ったんだ俺が」

 すると徳永はおおっと口を半開きにし、神坂さんはまるで、宇宙人との未知との遭遇を果たしたかのように愕然としていた。

「えええええ!あ……天地さんが!あたし天地さんと喋るのは初めてだから大丈夫かなぁ……」

 えらくオドオドしている神坂さん。そういえば天地とは中学が同じで、クラスまでも一緒になった事があったが、一度も喋った事が無かったんだっけ。

「ははは……神坂さん落ち着いて、そんな事言ったら僕だって話した事無いんだから」

 相変わらずの朗らかな笑みで、徳永は神坂さんをなだめる。神坂さんも神坂さんで驚き過ぎだと思うが、お前はお前で落ち着き過ぎだ。

「だって以前から天地さんには興味があったからね、面会してみたかったんだよ。あっ!勿論好奇心的な意味でね?」

 配慮したつもりなのだろうが、しかし徳永よ、そんな配慮しなくても、既に俺と天地は友達を越えた関係になっているのだから、そんなもんはいらない……とは流石に言えなかったが。

「岡崎君、あたしの勝手なイメージなんだけど……天地さんって気難しい人なんじゃないかな?」

 神坂さんからの質問に、俺はう~んと少しだけ頭を抱える。気難しいと言えばそうなんだろうし、かと言ってサバサバしてるかってなるとそうでもあるような気がしたからな。

「まあ……心配し過ぎる事は無いと思いますよ。結構ああ見えて社交的ですしアイツ」

 むしろ他の人には友好的な接し方をするからな天地は。悪態やら毒舌を振りまいてくるのは、俺だけに限定しているようだ。それが嬉しい事なのか、嘆くべき事なのかは考えどころだがな。

「社交的かぁ……じゃあ失礼にならないようにあたしも精一杯の社交性を出さなきゃ!」

 神坂さんはまるで、どこかのお偉いさんのパーティに招待されこれから会場へ向かうのだ、とでもいうような緊張した面持ちをしている。その何にでも全力で臨もうとする努力、尊敬致します。

「……でも社交性ってどうすればいいんだろう?岡崎君何か分かる?」

 う~んと俺は間を取って、数秒使ってから、考えを提示した。

「とりあえず挨拶が大切なんじゃないですかね?掴みが肝心とも言いますし」

「そっか!うん……そうだねありがとう!」

 どうやら今ので納得してくれたようだった。といっても、本当のところ俺にだって社交性とはなんたるかなんて分からないし、その知識すら皆無だった。なんせ俺だって、そんな褒められるような社交的に、何処にでも良い顔を出来るような、そんな器用な人間じゃないからな。

「そうだなぁ……僕も何を訊きたいか、心の中で整理しておかなくちゃね?」

 徳永は相変わらず小春日和のような、穏やかに笑いながらそう言う。

「先に言っておくが、変な質問をしたところで強制退去してもらうからな。全てのとばっちりが俺のところに来ないとも限らない」

「大丈夫だよチハ、そんな危険な橋、例え叩いて崩れなかったとしても渡らないからさ」

 叩いて崩れなければ、それは渡って良い橋なんじゃないかと思ったがまあいい。それくらい自重して貰わないと、天地の機嫌を損ねれば明日の朝の俺の身が危ない。もしかしたら、椅子に剣山を置いているとか、そんなイタズラという名の嫌がらせをされそうで怖い。

「おっとそうだ、もう行かなきゃまずいんじゃないかな?天地さん待ってるんじゃないの?」

 徳永の言う通りだ。天地は授業が終わって数分と経たずに教室を全力疾走していたので、多分時間的に言えば十分くらいは待たせている事になる。少々油を売り過ぎたようだ。

 まあ多少待たせたとて、その程度で怒ってくるほど短気でもせっかちでも天地は無い。多分大丈夫と思うが、急ぐ形は取っておいた方がいいだろう。
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