影武者の勇者

遊夢

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第一章

君は僕にとって必要なんだ

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「タカト、お前は俺たちのパーティに相応しくない
だから俺はお前にこのパーティから抜けて貰いたいと思っている!」

開口一番、そう口にしたーーー如何にも戦士であるとわかる体格をした、やや大柄な男。
その男に指を差された、青に白のラインが縁取りされたフードを被っている、どちらかといえば存在感が薄い、若干小柄な男性ーーータカトは困った表情を浮かべた。

「私もガライアに賛成
勇者であるアースベル様
それに私たちの強さに魔物なんてすぐに倒せてしまうんだもの
そんな私たちのパーティにあなたのような支援職なんて必要ないわ」

やや大柄な男…ガライアに賛同したのは白い衣服を纏った、これまた魔法使いと思しき女性である。

「…オレとしては多少なりとも恩恵はあるにはあるのだが…
こと戦闘においては足手まといではある、とは思ってはいる」

言葉を濁しつつ、ガライアと魔法使いと思しき女性に賛同とも思えるような事を口にしたのは素早い動きが得意そうな、切れ目で細身の男性。

そんな、約数ヶ月間一緒に戦い、過ごして来たパーティメンバーから口々に自分の事を不要と言われたタカトは眉を下げ。

「…確かに不要だね」

唯一この場にいながらずっと傍観に徹していたパーティメンバーの最後の1人、勇者と称されたアースベルが口を開くと何かを決意したようにギュッと手を握り締めた。

「やはりアースベル様もタカトの事を不要だと思われていたんですね!」
「そうでは無いかと思っておりました」

アースベルからも賛同を得た事により、ガライアや魔法使いと思しき女性は如何にタカトが無能であるか、を力説し始め。
誹謗中傷を口走る2人に嫌悪の表情を浮かべながら顔を背けつつも擁護はしない切れ目で細身の男性を一瞥したアースベルは

「タカト」

と口にして座っていた椅子から立ち上がり、背を向けて歩き去ろうとしていたタカトの側まで行くと彼の肩を抱き、

「さ、一緒に行こうか
不要なメンバーを置いて」

そのままガライア他2名のメンバーを不要と切り捨てた。

「…は?」

一瞬、何を言われたかわからなかった。
否、ガライアの脳はその言葉だけは否定した、したかった。
他2名も同様で、タカトにいたっては言われた意味がわからず、隣を見上げ。
アースベルは面白そうに笑うだけで。
混乱状態のメンバーを他所にタカトと共に宿の1室から外に向けて歩き出す。

「…あ、アースベル様、お待ち下さい!」

去り行く2人に危機感を無意識に察知し、いち早く混乱状態から脱した魔法使いと思しき女性が声を荒げ。

「お、俺たちが不要ってどういう事ですか⁈」

我に帰ったガライアも叫ぶ。

「ん?そのままの意味だよ?」
「何故俺たちが不要なんですか⁉︎」
「それは僕にとってタカトはこの場にいる誰よりも必要だから」

ガライアの問いに答えるアースベルは笑顔。
笑顔であるが、しかしながら目は笑っておらず

「にも関わらず君たちはタカトの事を不要だと言った」

次第に声のトーンも低くなり

「だから僕も君たちが不要だと言ったんだ」

わかる?っと言外に告げる。

「ッ」

怒気を含む声音にガライア達は息を飲み。
タカトはどうすればいいかわからず挙動不審気味にアースベルとガライア達とを交互に見遣るしか出来ず。
そんなタカトに気付いたアースベルは安心出来るように心がけた綺麗な笑みを見せる。

「な…納得いきません!」

意を唱えたのはガライア。
彼にしてみれば不要と蔑んだ相手が自分よりも必要とされた事に対しての激しい嫉妬じみた怒りしか無い。
なにより自分の方が勇者であるアースベルにとってどう考えても役に立つのだ。
その事実を捲し立て、アースベルにいかに自分が有能な人物なのかを説いてみる。
魔法使いと思しき女性も加わり、自分達が優れていてタカトが無能でダメなヤツだとわからせようと必死になって説き伏せようと試みる。も、

「だから?
そんな程度だから不要だと言ってるのにまだわからないの?」

時すでに遅し。
不愉快である事を隠そうともせず、最早聞く耳すら持ち合わせて貰えて居ない事に気付いた2人は絶望感に打ち拉がれ。

「…アースベル、期間は短いかもだけど共に戦ったパーティメンバーじゃない
少しくらい猶予をあげても良いんじゃないかな?」

見兼ねたタカトが助け舟を出した。

「タカトは優しいね~」

ギュムっとアースベルはタカトを抱き締め

「タカトの優しさに免じて一つ、試練…というか、試験をクリア出来たら君たちの事をもう一度パーティメンバーとして認めてあげても良いよ」

憮然とした顔でガライア達を見渡し。
地獄から一変、天国へと風向きが変わりつつある事に意を唱える者などこの場に誰もいなかった。

「試験は簡単
Fランククエスト、死なずの森にある金鳥の卵を各自一つづつ取って来る事
但し、君たちは僕を認めさせるのだから僕は手伝わないし、勿論、不要だと言ったタカトも君たちの事を手伝わない
ううん、手伝わせたりしないから」

えっ?っとアースベル以外のメンバーが声を上げた。
上げたがその意味は各自違う。

そんな簡単なので良いのか?
簡単過ぎるのだけど…
一度やった事のあるクエストだから地理はわかる、だから大丈夫…か?
て、手伝っちゃ駄目なの?

等である。

「挑戦日は…死なずの森は近くにあるし、明日1日限りで良いよね?」

有無を言わせ無い口振りのアースベルにガライア達は頷く事しか出来ず。

「じゃあタカト、彼らの装備品等、全部返してあげて」
「えっ、今ここで?」
「そう、今ここで
だって彼等は現在仲間では無いからね
だから全部返してあげるんだ」
「で、でも…」
「…量が多いのは知ってるよ
だから僕らと別れた際には街の武器庫に預け入れようとしたのもわかってる
でもね、それは君のお金でやる必要は無いんだ
寧ろ彼らからお金を貰っても良いくらいなんだよ?」

両肩を掴まれ、向き合う形となったアースベルとタカトの会話を聞いていた。

「だからはい、全部出す!」
「わ、わかったよ…!」

強い圧に屈したタカトは異次元に繋がっている空間内に手を入れると一つ、また一つと様々な武器や装備品などを取り出していく。

「えぇっと、これはササラ
で、これはスカイトので合ってる?」

魔法使いと思しき女性ーーーササラの前には薄紅色の石が付いたネックレス
切れ目で細身の男性ーーースカイトには数本の短剣を見せる。
そんな感じで確認しつつの返却作業は3時間に渡り行われ。
部屋面積を埋め尽くした為に急遽宿をもう2部屋取る羽目になったのである。

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