君は何処や

ぶー

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君は何処や

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プロローグ
何もかも絶望だ。俺を呼ぶ先生の声も、生徒の声も、親の声ももう俺には届かない。ただ一人、君だけが存在していた。そう、存在いていたはずだった。誰からの記憶からも消えてしまった君を探してあの場所へ向かう。

本編
いつもどうりの朝、高校へ向かう。ほんとは行かなくったって誰も気にしないだろうけど、君に会いに、君の俺を呼ぶ声を聞きたくて毎朝こうして歩いている。学校に着き君を探すがどこにもいない。小柄で、肩につくぐらいの栗毛色をした琥珀色の目の君が見つからない。人も多く、もうすぐHRも始まるのにこんな時間になっても君が来ないのは初めてだ。
出席確認が始まった。苗字の頭文字50音順で呼ばれていく。「神楽時(かぐらとき)」「……はい」かすかな声で返事をする。他の人も次々に呼ばれて行く。そろそろあの子の番だ。「根元まもる」「はい!」
……おかしい。こいつの前は新田灯(にいだともり)、君だったのに。誰も何も言わず点呼は進んでいく。「よし、欠席者は居ないみたいだな」誰も新田について言葉を発さない。まるで最初から君なんて居なかったかのような……。
お昼休みに突入する。遠くにある君の席を確認する。……無い。数え間違いじゃないかとか深呼吸をして、もう一回順番通りに指を差す。けれども新田の席がある場所は他のやつの席が置いてある。ほんとに存在ごと消えてしまったのか。俺じゃなくて何故君が…。受け入れられない。君が居ない世界なんて居る価値もない。ならば君とおなじ所に。君はあの場所に居る気がした。
学校を抜け出し、誰も知らないような抜け道を抜け森の中の古びた神社へ行く。ここは君と俺が初めて出逢った場所だ。息を止めるようにして崩れかけの赤い鳥居をくぐる。シャン。何処からか鈴の音が聴こえた。視界が一瞬ぐらりと歪み、次に目を開けるとそこはまるでお祭りのような、しかし静けさがある空間になった。空もいつの間にか眠っている。
参拝道の先、お参りの場所に誰かが立っている。必死に手を併せていた。肩までつく栗毛色の髪をした小柄な少女だった。
「新田ッ!」俺がそう叫ぶと君はゆっくりと振り向いた。「時くん……?」走って駆け寄る。そしてもう離さないようにしっかりと抱きしめた。「ちょ、ちょっと時くん!?」「……もう、どこにもいかないでよ……」我ながら本音ではあるが恥ずかしい言葉を口にしてしまった。新田が言う。「ごめん、私、もう時くんと居られなくてさ、引っ越しするの。だからね最後にここで時くんの幸せを願ったんだよ」違う、俺の幸せは新田が居なくちゃ始まらない。だから……。「新田とずっと一緒にいられますように」手を併せてそう願った。

エピローグ
現世ではみんなが生きている。存在ごと消えても、ただ居なくなっても誰も気づかないのかもしれない。君は何処や二人は何処や。
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