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男の子ののぞみは
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お日様が山の向こうからやっと顔を出し明るくなりかけた頃、大きな森に向かって男の子が走ってきました。
走ってきたのは男の子だけではありません、男の子のわきをたくさんの大人たちがどんどんと抜かしていきます。走るどの顔も自分こそは、と意気込んでいます。
つまりこの国の誰もが王国の森を目指しているのでした。大人たちにどんどん抜かされながらも男の子もまたみんなと同じことを考えていました。
なんとしてもボクがお妃(きさき)さまの指輪を見つけるんだ!
王様がおふれを出したのは前の日の夜のことでした。
「妃の金の指輪を見つけた者には両手いっぱいの金貨を授けよう」
なんでも3日前、お城にすむいたずら好きの子犬がお妃さまの大事な指輪をくわえて森のどこかに埋めてしまったというのです。
運悪く、そのあと2日の間激しい雨が降り続き、森はどこもかしこもぬかるみだらけになってしまい、犬が指輪をどこに埋めたのかまったくわからなくなってしまったのです。
指輪を失くして嘆き悲しむお妃さまのために王様はこんなおふれを出したのでした。
男の子は思いました。
両手いっぱいの金貨があったら妹や弟たちにおなか一杯ご飯を食べさせてあげられる、病気で寝ているお母さんにお薬を飼って飲ませることができる! 男の子もまたやせ細っていたし着ている服もボロボロでした。お父さんが死んでしまって以来、食べるものにも困るほど貧しい暮らしをしていたのでした。
広い広い森には国中の大人たちがひとり残らず集まってきたかと思うほどにたくさんの人たちが集まっていました。誰もが自分が指輪を見つけてやるぞ、という顔つきで、こっちを掘っていたかと思えば急にあっちのほうに駆けだしたりと必死です。
男の子もまた小さな木のシャベルを地面に突き刺しました。けれども森は男の子が丸一日掛かっても通り抜けられないほどに広いのです。一枚しかない擦り切れた服が泥まみれになるのも、寒さで手がじんじんと冷えて痛くなるのも構わず男の子は必死にあちこちを掘り返し続けました。
どれだけの時間が過ぎたことでしょう。
カチッ。
男の子のシャベルに何か固いものがあたります。もしかしたら? ドキドキしながら凍えた手で土を描き分けるとキラリと光るものが見えました。それはまさにお妃さまの失くした金の指輪だったのです。
「あった!」
男の子は喜びのあまり大きな声で叫んでしまいました。その声に周囲の大人たちがいっせいに振り向きます。
「なんだと? 見つけただと?」
「それが指輪か、こっちによこせ!」
すぐそばにいた男がたくましい毛むくじゃらの手で男の子から指輪をひったくったのではありませんか。
「ボクが見つけたんだよ、返して!」
やせっぽちの男の子が大人の男に叶うはずもありません、男の子は泥の中に突き飛ばされて転がってしまいました。
それどころか指輪を奪おうとたくさんの大人たちが駆け寄ってきたからたまりません。男の子はもう指輪に近づくこともできませんん。
「指輪だ、金貨をもらえるぞ」
「俺のものだ!」
男の子が見つけたはずの金の指輪は大人たちの争う声とともにどんどんと遠ざかって行ってしまいました。
そして今はもう誰もいなくなった森の中。
男の子は悔しくて情けなくて、泥だらけの地面に座り込んで長いことしくしくと泣き続けていました。
おなかをすかした弟や妹たちの顔が浮かびます、だけどもうどうすることもできません。
やがて男の子はよろよろと立ちあがりすっかり静かになってしまった森の中を見回しました。
森の中の地面はどこもかしこも掘り返され、あちこちに投げ捨てられた花がしおれたまま捨てられています。
「かわいそうに」
男の子は踏みつぶされて泥だらけになった花を手にとってじっと見つめていました。
「ごめんね、ボクたちのせいで」
男の子はひざをついて穴のあいたままになっている地面にていねいに埋め戻してやりました。まわりを見ると泥まみれの花はあちこちに転がっています。
男の子は、ちょっとため息をついて、引っこ抜かれた花たちを拾っては埋め戻してやりました。
どれだけの時がたったでしょう。いつしか夕日が男の子の泥のついたやせた頬を赤く染め始めています。
「帰らなくちゃ」
男の子が額の汗をぐいとぬぐって立ち上がった時です。
「かわいそうな花たちを助けてくれてありがとう」
振り向いてびっくりしました。いつの間にか男の子のまわりにはとんがり帽子をかぶった小さな人たちがいたのですから。彼らはこの森に住む妖精、小人たちだったのです。
「これはお礼です」
小人たちはニコニコしながら小さな手に持っているものを男の子に向かって差し出しました。それらは金貨ではありません、いいえ、もっと素晴らしいもの。
ごちそうが出る魔法のテーブルかけとか、どんな病気でも治してくれる不思議な木の根っことか……!
男の子の望みはかなったのでした。
走ってきたのは男の子だけではありません、男の子のわきをたくさんの大人たちがどんどんと抜かしていきます。走るどの顔も自分こそは、と意気込んでいます。
つまりこの国の誰もが王国の森を目指しているのでした。大人たちにどんどん抜かされながらも男の子もまたみんなと同じことを考えていました。
なんとしてもボクがお妃(きさき)さまの指輪を見つけるんだ!
王様がおふれを出したのは前の日の夜のことでした。
「妃の金の指輪を見つけた者には両手いっぱいの金貨を授けよう」
なんでも3日前、お城にすむいたずら好きの子犬がお妃さまの大事な指輪をくわえて森のどこかに埋めてしまったというのです。
運悪く、そのあと2日の間激しい雨が降り続き、森はどこもかしこもぬかるみだらけになってしまい、犬が指輪をどこに埋めたのかまったくわからなくなってしまったのです。
指輪を失くして嘆き悲しむお妃さまのために王様はこんなおふれを出したのでした。
男の子は思いました。
両手いっぱいの金貨があったら妹や弟たちにおなか一杯ご飯を食べさせてあげられる、病気で寝ているお母さんにお薬を飼って飲ませることができる! 男の子もまたやせ細っていたし着ている服もボロボロでした。お父さんが死んでしまって以来、食べるものにも困るほど貧しい暮らしをしていたのでした。
広い広い森には国中の大人たちがひとり残らず集まってきたかと思うほどにたくさんの人たちが集まっていました。誰もが自分が指輪を見つけてやるぞ、という顔つきで、こっちを掘っていたかと思えば急にあっちのほうに駆けだしたりと必死です。
男の子もまた小さな木のシャベルを地面に突き刺しました。けれども森は男の子が丸一日掛かっても通り抜けられないほどに広いのです。一枚しかない擦り切れた服が泥まみれになるのも、寒さで手がじんじんと冷えて痛くなるのも構わず男の子は必死にあちこちを掘り返し続けました。
どれだけの時間が過ぎたことでしょう。
カチッ。
男の子のシャベルに何か固いものがあたります。もしかしたら? ドキドキしながら凍えた手で土を描き分けるとキラリと光るものが見えました。それはまさにお妃さまの失くした金の指輪だったのです。
「あった!」
男の子は喜びのあまり大きな声で叫んでしまいました。その声に周囲の大人たちがいっせいに振り向きます。
「なんだと? 見つけただと?」
「それが指輪か、こっちによこせ!」
すぐそばにいた男がたくましい毛むくじゃらの手で男の子から指輪をひったくったのではありませんか。
「ボクが見つけたんだよ、返して!」
やせっぽちの男の子が大人の男に叶うはずもありません、男の子は泥の中に突き飛ばされて転がってしまいました。
それどころか指輪を奪おうとたくさんの大人たちが駆け寄ってきたからたまりません。男の子はもう指輪に近づくこともできませんん。
「指輪だ、金貨をもらえるぞ」
「俺のものだ!」
男の子が見つけたはずの金の指輪は大人たちの争う声とともにどんどんと遠ざかって行ってしまいました。
そして今はもう誰もいなくなった森の中。
男の子は悔しくて情けなくて、泥だらけの地面に座り込んで長いことしくしくと泣き続けていました。
おなかをすかした弟や妹たちの顔が浮かびます、だけどもうどうすることもできません。
やがて男の子はよろよろと立ちあがりすっかり静かになってしまった森の中を見回しました。
森の中の地面はどこもかしこも掘り返され、あちこちに投げ捨てられた花がしおれたまま捨てられています。
「かわいそうに」
男の子は踏みつぶされて泥だらけになった花を手にとってじっと見つめていました。
「ごめんね、ボクたちのせいで」
男の子はひざをついて穴のあいたままになっている地面にていねいに埋め戻してやりました。まわりを見ると泥まみれの花はあちこちに転がっています。
男の子は、ちょっとため息をついて、引っこ抜かれた花たちを拾っては埋め戻してやりました。
どれだけの時がたったでしょう。いつしか夕日が男の子の泥のついたやせた頬を赤く染め始めています。
「帰らなくちゃ」
男の子が額の汗をぐいとぬぐって立ち上がった時です。
「かわいそうな花たちを助けてくれてありがとう」
振り向いてびっくりしました。いつの間にか男の子のまわりにはとんがり帽子をかぶった小さな人たちがいたのですから。彼らはこの森に住む妖精、小人たちだったのです。
「これはお礼です」
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