器用貧乏、世界を救う。

にっぱち

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期末テスト編

14話 二度目の×××

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※この話には残酷な描写が含まれています。ご注意下さい。


 闇のドームに捕まってから、既に数十分が経過している。
 ルネスの体には所々に細かい傷が付いていて、戦闘が始まる前に比べてとても痛々しい姿になっていた。
 ハーメルンが放つ闇魔法をルネスがギリギリで躱す。しかしルネスが反撃しようとすると、すかさず周りを囲む闇ドームから針のようなものが飛んできて邪魔をされるためうまく攻撃が出来ない。
(厄介すぎるだろ…。)
 ハーメルンの方はまだまだ余裕たっぷりだが、ルネスの方はそろそろ限界が近づいていた。既に足はガクガクと震え、ハアハアと肩で息をしている。
「どうした?逃げ回るだけではまだ私は倒せないぞ?」
 手をプラプラと振り、隙だらけですよと言わんばかりにルネスに近づくハーメルン。ルネスはその光景を見つめながら、勝つための算段を立てる。
(一撃で決めるしかないか。)
 ハーメルンにバレないように自身の掌に魔力を溜めるルネス。
「おいおい、俺の催眠魔法が全く通用しないから一体どんだけやばい奴なのかと思って期待してたのに、全然大したことないじゃないか。拍子抜けだな。」
 心底つまらなそうにハーメルンが言う。
「はぁ…。もう飽きたしいいや、死んで。」
 その一言と共に地面から、周りを囲む闇ドームから、一斉に黒い棘がルネスへと襲いかかる。
「じゃあなクソガキ、もう会うことはないだろうけどな。」
 ハーメルンが踵を返してその場から立ち去ろうとする。
(今だっ!)
 ハーメルンが背を向けた瞬間、ルネスは自身の身体強化を限界まで発動させてハーメルンに向かって飛び掛る。
 正に捨て身の一撃。ルネスは自身の掌に溜めた魔力を相手の体内に一気に流し込み、体内の魔力を暴走させてハーメルンを殺そうと考えていた。ルネスの手は今まさに、ハーメルンの背中を捉え

「はい、残念。」
 る直前、ルネスの身体がピタリと空中で静止した。一体何が起こったのか、ルネスは困惑しながら自分の身体に目を向ける。
 ルネスの身体には、地面から生えた数本の黒い腕が纏わりついていた。
「お前が何か企んでいること、気づいていないと思っていたの?
 いやー滑稽だったわ。まだ希望があると思って必死にバレないように魔力を溜めてる君の姿!一方的に痛めつけるのもいいけどアレアレで面白いね。」
 届かなかった。空中に霧散していく自分の魔力を見ながらルネスは事実を痛感させられた。
 自分は弱い。この世界に来たら多少なりとも器用貧乏と呼ばれていた昔よりは変われると思っていたが、ここでもルネスは変わることはなかった。器用貧乏は何処までいっても器用貧乏でしかない。それを思い知らされた。
「ぁぁああああああ!!!」
 全身に力を込め、纏わり付いている手を振り解こうとするルネス。しかし四肢はピクリとも動かず、手が外れる気配もない。
「あーあーそんなに涙流しちゃってまぁ…。怖いのか、それとも悔しいのか…。
 ま、そんなことどうでもいいけどな。」
 ハーメルンの手に闇が集まる。それは段々と形を成していき、一振りの剣に姿を変えた。
「じゃ、ばいば~い。」
 ハーメルンは、ルネスの首目掛けて無慈悲に死の刃を振り下ろした。



 闇のドームが溶けるように消えていく。そこには満足そうな顔のハーメルンと、首と胴体が綺麗に分かれたルネスが転がっていた。
 ハーメルンは頭を掴むと徐に自身の目の前まで持ち上げると、それをうっとりとした表情で眺める。
「相手としては物足りなかったが、曲芸師としては一級品だった。それに、私の魔法が効かなかった唯一の人間だ。こいつもコレクションに加えよう。」
 ルネスの頭を持ったままその場を立ち去ろうとするハーメルン。それに続いて後ろにいた集団もその場を後にする。

「ごめんね、それを持っていかれると困るんだ。」

 不意に、何処からともなく声が聞こえる。
 ハーメルンが後ろを振り返ったが、そこにはルネスの胴体が転がっているだけで他には誰もいない。
 聞き間違いか。そう思って前を向いたハーメルンのすぐ目の前に、先程まではいなかった男が立っていた。
「っ!」
 ハーメルンが身の危険を感じて後ろへと飛び退く。男はそんなハーメルンを見てもニコニコと笑顔のまま何もしてこない。
 男の放つプレッシャーに耐えかねたハーメルンが男に話しかける。
「…何者ですか?」
 ハーメルンの問いかけに対して、男はニコニコ笑ったまま何も答えない。
「何者だと聞いているんだ!」
 ハーメルンが声を荒らげる。男はニコニコとした笑顔を崩さない。
「僕はまあ、その子の保護者みたいなものかな。今死なれちゃうと困るから、その首返してくれない?」
 ハーメルンが持つ首を指差しながら男が答える。ハーメルンは手に持つ首を見つめるとニヤリと口元を歪ませる。
「そうか、そんなにこれが大事か。なら!」
 ハーメルンはルネスの首を頭上高くに持ち上げると、勢いよく地面に向かって振り下ろす。
 ハーメルンの脳裏にはルネスの頭が地面に当たって弾け飛ぶ映像が浮かんでいた。妄想が現実になる瞬間を見逃さないように、瞬き一つせずルネスの頭を凝視する。
 そのため、ハーメルンは次の瞬間に何が起こったのか全く理解できなかった。突然、手に持っていたはずのルネスの頭が忽然と消えてしまったのだ。
 空を切る自分の腕を見つめながら、漸くハーメルンは事態を把握する。消えた頭を探すため、顔をあげてあたりをキョロキョロと探す。
 ハーメルンはすぐにルネスの頭を見つけることができた。それは、目の前の男の手の中にあった。どうやって自分の手から奪い取ったのか、全くわからなかったハーメルンはその光景だけで男に恐怖を覚えた。
「ありがと。いいよ、今回はもう行って貰って。」
 男はそれだけ言うと、ハーメルンに見向きもせずにルネスの胴体の方へと歩いていく。ハーメルンはそんな無防備な男の背中を見て、今なら殺せるんじゃないか、という考えが湧いてきた。
 ハーメルンが男に向かって笛を吹く。笛の中から砲弾のような黒い弾丸が顔を出し、男の方へと飛んでいく。
「ダメだよ、そういうことしちゃ。」
 いつの間にか、男はハーメルンのすぐ後ろに移動していた。手にはルネスの頭と、先ほどハーメルンが撃った黒い弾丸が握られていた。
「せっかく見逃してあげるって言ってるんだから、大人しく帰りな。」
 相変わらず、男は笑顔のまま。しかし男の目は「次はないぞ。」と暗に語っていた。
 ハーメルンは言葉を発することもできず、コクコクと頷くとそのまま大人しく街の外へと歩いて行った。その背中には、大量の冷や汗が流れていた。
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