セラフィムの羽

瀬楽英津子

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〜美しき罪の跡先

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「ホントにチョロいな。社長の言った通りだ」

 真っ直ぐに向けられた視線に挑むように、宇治原駿うじはらしゅんは、ベッドの上に片膝を立てたまま見上げる亜也人あやとを、斜め上から見下ろした。
 確かに綺麗な男だ。
 白い肌に艶やかな黒髪、黒目の勝るくっきりとした瞳、長い睫毛、三日月形の眉、鼻筋の整った鼻、上唇がMの字を描く魅惑的な唇。
 泣いていたのか、ほんのりと赤らんだ目の縁が、情事のあとの上気した目元を連想させる。
“虫も殺さぬ”というのは見た目だけの判断だろう。線の細いしなやかな佇まいは確かに繊細で儚げな印象を受けるけれど、駿がどれだけ睨みを効かせても一向に視線を逸らさない姿勢からは、とても、気弱で大人しい印象は受けない。むしろ、繊細だからこそ研ぎ澄まされた感覚を纏っているような、気軽に慣れ親しむことを許さない、他人をやすやすとは寄せ付けない毅然とした強さを持っている。 
 目を逸らさないのは亜也人では無く自分の方だということに駿自身が気付くのにさほど時間は掛からなかった。
 本当を言うと、最初に亜也人を見た時から、自分が自然と亜也人に吸い寄せられていくのを感じていた。
 女のよう、というのとは違う。男でも女でもない、ただ“綺麗な人”としか言いようのない、性別を超えた美しさが亜也人にはある。
 端正でありながら少しも嫌味が無い。亜也人を見ていると、本当に綺麗な人とは、こういう人のことを言うのだと思い知らされる。早い話しが、次元が違う。
 しかしそれを認めるわけにはいかなかった。
 亜也人は自分の自尊心を奪う憎き相手だ。そんな奴に屈するわけにはいかない。
 無理にでも虚勢を張らなければ亜也人の美しさに物怖じしてしまいそうで、駿は、わざと乱暴な物言いで詰め寄った。

「どうしてこんな真似をするんだ、って顔だな。理由なんて無いよ。ただお前が邪魔なんだ」

 亜也人は駿の言葉に動揺するわけでもなく、駿に向けた瞳を、警戒するように鋭く光らせた。

「お前は一体……」

「俺? 俺は良二の恋人だよ」

「え……?」

 もちろん嘘だった。
 しかし、現実の亜也人を目の前に、駿は、そう言わずにはいられない衝動に駆られていた。

「なんだ、俺が恋人じゃ悪いのか?」

「そんなことは言ってない」

「だったら何でそんな顔するんだよ!」

 嘘をついたやましさからか、亜也人の何気ない反応が気に障る。
 良二の名前を出すと、亜也人は一瞬驚いたように目を見開き、しかしすぐに、怪訝そうに眉を顰めた。
 まるで、駿の言うことなど信用出来ないというような顔付きだ。それでいて真実を追求するわけでもなく、薄紅色の唇を固く結び、駿の心の中を覗き込むようにじっと見上げている。
 その妙に冷静な様子が駿の神経をひどく逆撫でた。
 自分は、嘘を付くことでしか手に入れられない良二からの愛情を、亜也人は当たり前のように手にしている。
 しかも今は別の男をたらし込んでいる。
 同じ、コールボーイという身で、同い年。背格好も雰囲気も似ている。
 それなのに、亜也人は欲しいものを全て手に入れ、駿は何も手にしていない。
 ナンバーワンの座を維持するために、駿がどれほどの要求に応えどれほどの性技を尽くして客を喜ばせているか周りは知らない。
 かたや亜也人は、何もしなくてもただ寝ているだけで客を虜にするのだと内藤は言った。
 あいつは魔性だ。
 みんなあいつに惹き込まれる。
 あいつの魅力に取り憑かれる。
 駿は、魔性が欲しいわけでも客を虜にしたいわけでも無かった。
 駿はただ良二の心が欲しかった。

「ちょっと顔が良いからって、良二がいつまでもお前を好きだなんて思うなよ。良二は俺の恋人なんだ。良二はお前のことなんてもう何とも思っちゃいないんだ!」

 切なる願いが更なる嘘を呼ぶ。
 亜也人の、探るような視線も追い討ちをかけた。
 自分の嘘に自分で打ちひしがれながら、駿は、やり場のない怒りをぶつけるように、亜也人の胸ぐらを乱暴に掴み上げた。

「なんだその顔! 何、ジロジロ見てんだ! 文句があるならハッキリ言えよ!」

 声を張り上げて威嚇すると、亜也人は、初めてビクッと肩を震わせた。

「どうした。言いたいことがあるんだろ? 何でなにも言わないんだよ!」

「………から」

「は?」

「何を言えばいいのか解らないから……」

 一瞬、聞き間違えたのだと思った。
 頭の中でもう一度言葉を反芻し、聞き間違いではないことを確認してようやく怒りが込み上げた。
 反抗的に言うならまだ張り合いもあるが、何の含みも無く拍子抜けするほどあっさり言われると、声を荒げている自分がバカのように思えてくる。
 わざと怒らせているのか、ただのバカなのか、亜也人の表情の読めない反応は、駿を混乱させ、苛立たせた。

「ふざけやがって! お前なんかただ顔でここまで来ただけじゃねーか。俺はちゃんと努力した! お前なんかにとやかく言われる筋合いは無い!」

「俺は何も言ってないよ」

「口で言わなくてもその顔見りゃ解んだよ! 澄ました顔しやがって……。どうせ腹ん中じゃ俺のこと笑ってんだろ? 俺なんかに、良二がなびくわけが無い、って……」

「そんなことは……」

「うるさい! どうせ俺はお前にゃ敵わないよ!」

「ちょっ……なに言って……」

 うるさい。うるさい。

 頭の中が怒号で一杯になる。
 胸ぐらを掴んだ手をねじり上げ、亜也人の上半身が浮くほど引き寄せてから思い切りベッドに叩きつけた。
 亜也人が言葉にならない悲鳴を上げてベッドの上に大きく身体を弾ませる。
 跳ね返ったところを腰の上に馬乗りになって起き上がらないよう体重をかけ、両手首を頭の横で押さえ付けた。
 亜也人は、恐怖に顔を引き攣らせながらも、真っ直ぐな視線を駿に向けている。
 臆病な中にも簡単には屈しない強い意思を感じる目だ。
 見た瞬間、駿の中に、乱暴な感情が唐突に湧き上がった。

 捻り潰してやりたい。

 この気高く美しい男を、立ち直れないほど叩き潰してやりたい。
 顔や身体だけじゃなく、意地やプライドもめちゃめちゃに叩き潰し、二目と見られない姿にしてやりたい。
 亜也人が、この綺麗な顔をぐちゃぐちゃに歪めながら悶え苦しむさまを想像すると、怒りに震えている筈の身体になんともいえない快感が走り抜ける。
 この高揚感を言葉で言い表すなら、まさに、“取り憑かれている”状態だ。
 亜也人には、綺麗なものをめちゃめちゃにしてやりたいという衝動を起こさせる何かがある。
 繊細なガラス細工を目の前に、その美しさに見惚れると同時に、思い切り叩き潰してやりたいと思う、おそらく誰もが持っている人間の闇の要素を引き出す何かが亜也人の中にはある。
 それこそが、亜也人の“魔性”なのだ、と、駿の本能が俊敏に察知した。
 だから、これはいわば亜也人のせいなのだ。亜也人の中が魔性がそうさせる。自分は何も悪くない。

 こいつをブッ壊してやる。

 ひと思いにやれ、と内藤は言ったが、それでは気持ちが収まらなかった。
 顔面を殴り、髪を掴んで床の上を引き摺り回し、この澄ました顔を容赦なく傷付け苦痛に歪ませてやりたい。声も涙も出なくなるほど泣き叫ばせ、弱ったところを死ぬほど犯してやるのもいい。
 思いを巡らせながら、馬乗りになった身体に力一杯体重をかけ、ベッドの上に押さえ付けた手首を握り潰すように締め付けた。
 少し力を加えただけで簡単に折れてしまいそうな細い手首。踏みつけた身体も、踏んでいる手応えをまるで感じない、可哀想なくらい華奢で薄っぺらい身体だ。
 これなら内藤に渡されたものを使わなくても簡単に連れ去ることが出来る。
 手首を頭の上で一つに束ね上げ、自由になった右手でポケットから折り畳みナイフを取り出し、刃先を出して亜也人の白い頬に近付けた。
 柔らかい皮膚に沈ませるように押し当てると、亜也人が長い睫毛を広げて瞳を固まらせる。
 涙を悔しさで堪えているような勝ち気な瞳だ。
 その、窮地に立たされてもなお輝きを失わない瞳に、駿は、自分の中に眠っていた嗜虐性がどんどん呼び覚まされていくのを感じていた。

「俺をどうするつもりだよ……」

 手折られてもなお気高く咲く百合の花のような佇まいを見せる亜也人に、壊してやりたい衝動と、屈しないものへの征服欲が緻密に絡み合う。
 自分が今手にしているナイフをスッと引けば、亜也人の白い頬からたちまち赤い血が吹き出すというスリルも駿をいつになく興奮させていた。

「どうされるか気になる?」

「いったい何を……」

「お前をめちゃめちゃにするんだよ……」

 頬に埋まったナイフの角度を変えて刃先の先端を当てる。
 亜也人の整った眉が歪み、眉間に鋭いシワを作る。
 このまま引き下げれば、ナイフは亜也人の頬の一番高い位置から口角にかけての滑らかな皮膚をすっぱりと切り裂くだろう。白い肌が赤い血で染まる様子を思い浮かべながらナイフを握る手に力を入れた時だった。
 突然、枕元に置かれたスマホが激しく振動し、駿は反射的に目を向けた。
 
 松岡吉祥まつおかきっしょう

 画面に表示された名前を目で追うと、殆ど同時に、亜也人が駿を振り払ってスマホに手を伸ばした。
 しかし、俊敏さは駿の方が優っていた。起き上がろうとする亜也人を肩を押さえて制し、亜也人よりも先にスマホを取り上げた。

「何だ。早速、男から電話かよ」

「返せっ!」

 動いた時に傷付けたのか、亜也人の頬に血の筋がついている。
 その血が膨れあがって滴り落ちるのも構わず、駿は、亜也人の腕を掴んで後ろ手に捻り上げ、ヘッドボードに横顔を思い切り押し付けた。

「噂には聞いてるよ。松岡吉祥。その筋じゃ名の知れた男なんだってな。それにしても、良二を棄ててさっさとその男に乗り換えるとはたいしたご身分だ。どうせその男も、この顔と身体でたらし込んだんだろう?」

「違っ……」

「何が違うんだ! 良二だけじゃ飽き足らず、この松岡って奴にまで手ぇ出したくせに」

「違うッ! 俺はただ……」

「ただ、何? 何もしないのに、向こうが勝手に好きになったとでも言いたいのか? ふざけんなっ! 新しい男がいるくせにいつまでも良二を縛り付けてんじゃねぇ! さっさと良二の中から出て行けッ!」

 吐き捨て、手にしたスマホを力任せに床に放り投げる。
 亜也人が、「あっ!」と叫んで身を乗り出すのと同時に肩を押さえ付け、前髪を掴んで顔を上げさせた。
 亜也人は、美しい顔を血で染めながら噛み付くように駿を睨み付けている。
 頑なに視線を逸らさない気の強さが、駿の怒りを更に煽り立てた。

「何だよその目は! お前のせいで俺がどんな思いをしてるか解ってんのか! 俺はお前の代わりじゃない! 良二の隣にいていいのは俺だけだ!」

「なに言って……俺は、良二とはもう何でも無い……」

「お前に無くたって良二にはあるんだよ! お前がいるから良二は俺を……。お前のせいで俺は……」

 敗北感と怒りが頭の中でぎしぎしとひしめき合う。
 選ばれなかったことへの悲しさ、悔しさ。身代わりにされることへの惨めさと恨めしさ。ありとあらゆるマイナスの感情が次から次へと沸き上がり、ごちゃ混ぜになって駿の頭を押し潰す。
 言葉にしたところで、圧倒的な美しさを持つ、常に恋愛の強者であるに違いない亜也人に、自分のこの気持ちが解るとは到底思えなかった。
 だから、痛みで思い知らせてやるのだ。
 傷付けられた分、亜也人の綺麗な顔と身体を傷付け、苦痛を味わわせてやる。
 いや。
 身体だけじゃ物足りない。
 身も心もズタズタに切り裂いて、自分が味わった苦痛を嫌というほど思い知らせてやる。
 堰き止めようのない感情が野蛮な怒りとなって駿の頭を埋め尽くす。
 掴み上げた前髪を更に乱暴に引っ掴み、亜也人の顔を顎が突き出るほど上を向かせて怒りのままに睨み付けた。
 今までとは違う雰囲気を感じ取ったのか、亜也人の瞳に恐怖の色が滲み出す。
 無意識だったのだろう。息を殺すように小さく吐き出される亜也人の息に、ふと、細く微かな声が混じった。

「吉祥……」

 殆ど吐息と言っていい、ただ唇が震えただけの聞こえるか聞こえないかくらいの声だった。しかし駿は亜也人の唇の動きを見逃しはしなかった。

「吉祥……ね。この状況で咄嗟に名前が出てくるとはずいぶんとご執心だこと」

「お、お前には関係ないッ!」

 亜也人の視線が不自然に宙を彷徨う。
 明らかに動揺している。

「まさか、マジ惚れかよ……」

 亜也人は何も答えない。
 図星のようだ。
 確信すると同時に、駿の頭にある考えが閃いた。
 亜也人の心を傷付けるのにうってつけの方法だ。
 それで亜也人を絶望の底に叩き落としてやる。
 亜也人の悲痛な叫びを想像するだけで、駿の胸の内側に甘美な疼きが広がる。
 狂気にも似た高揚に、駿は、フッ、と、口元を緩めた。




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 
 大きな棒状の塊が、部屋の真ん中でもぞもぞと動いていた。
 日当たりの悪い北向きの部屋は、カーテンを引くと、日中でも夜のような暗闇に覆われる。
 部屋の中の異様な気配を気にも止めず、積川良二せきかわりょうじは入ってすぐ内側にある照明のスイッチを押した。
 バチっという音とともに、蛍光灯青白い光りがチカチカと点滅し、部屋の中を薄暗く照らす。
 棒状の塊は、猿ぐつわをかまされ身体をロープでぐるぐる巻きにされた男だった。
 山崎組の会長を狙ったスナイパー。正確には、竜星会の会長、加藤高嗣かとうたかつぐを狙った男だ。
 男は、自由の効かない身体を左右に振りながら、人相が判らないほど腫れ上がった顔を良二のいる入口に向けた。

「起きてるのか?」

「いや。クスリがキマッてっから夢心地……」

 その割にはしっかりと眼球を入口に向けるのは、良二の後に続いて入ってきた内藤の姿を捉えたせいだろう。
 朦朧とした意識の中でも、内藤の存在は男にとって相当なインパクトだったらしい。
 
「そろそろ正気に戻しとけ。肝心な時に喋れねぇんじゃ何の意味もない」

「了解……」

 猿ぐつわの隙間からよだれを垂れ流しながら呻く男を一暼して答えると、良二は、内藤の後に続いて部屋のドアへ向かい、再び照明のスイッチを切った。

「それにしても、あちらさんも、自分たちが血眼んなって探してる野郎がまさかこんなところに閉じ込められてるとは夢にも思わないだろうな」
 
「普通の家だかんね……」

 拷問動画を投げ込んでから、竜星会は、拷問を受けた男を事務所総出で探し回っていた。
 動画は、男が、『自分がやりました』と告白するシーンから始まり、襲撃の場所や方法、現場の状況を事細かに説明して信憑性を持たせた後、この襲撃が第三者から依頼されたものであることを告白する。そこから、誰に依頼されたのかを迫る更なる拷問が始まり、その凄惨さに男が依頼主の名前を言いかけたところでプツリと途切れ、その後、真っ黒い画面に白字でメッセージが流れる。

 ーーー続きは二日後。七代目山崎組事務所から生配信。

 即ち、二日後には、襲撃された七代目山崎組組長、仰木伝介おうぎでんすけに密告する、という予告状だ。
 これを、狙撃の黒幕とされる若頭の木野修平きのしゅうへいに名指しで送り付けた。
 木野はさぞかし驚いたことだろう。
 もっとも、そうなるように編集したのだ。
 その先の展開もおおかた予想はついている。
 本家に密告されたら追放どころでは済まされない。
 制裁を恐れた木野は、口封じのためにスナイパーの男を血眼になって探すだろう。期限は二日。投げ込んだのは昨日だから、明日には本家に届けられることなる。
 しかし、男はこうして良二が監禁しているので見付からない。このまま時間が経過すれば、木野の焦りは夜にはピークに達するだろう。
 そのタイミングで、である。
 スナイパーの男に、『スティンガーに捕まっているので助けて欲しい』と連絡を取らせ、クラブ〈エンプレス〉に呼び出す。
 怪しい話だが背に腹は変えられない。木野は藁をも掴む思いで、スティンガーに対抗出来るだけの兵隊を引き連れて男を仕留めに来るだろう。
 しかし、木野を待っているのはスナイパーの男でもスティンガーでも無い。
 内藤は、この時のために、急遽、本家の幹部団体に資金援助を申し出、今夜エンプレスで渡す段取りを組んだ。
 つまり、木野は、本家の幹部の目前で内藤を襲撃することになる。しかも大人数で。
 本家の人間に現場を目撃されたとあらば、さすがの木野も言い逃れは出来ない。加えて、その同時刻に、積川良二が監禁したスナイパーを本家へ突き出して真実を語らせる。本家は、スナイパーの自白の後、木野のエンプレス襲撃を知ることになり、木野の悪事を決定づける、という筋書きだ。

「自滅するのも時間の問題だな……」

「相変わらず抜かりが無ぇこって……」

「欲を出すあいつが悪いんだ。俺を引きずり降ろすだけならまだ勝算はあったろうが、あいつは自分が加藤に成り代わろうと欲を出した。俺を潰して更に加藤のポジションを狙うなんざ欲張るにも程がある。まさに“二兎を追う者一兎をも得ず”だ」

 無表情で言い放つ内藤を横目でやり過ごし、良二は、男のいる部屋のドアを締めて鍵を掛けた。
 内藤は、無言のままの良二を意味ありげな表情で見た。

「分不相応な欲は身の破滅を招くんだ。お前も変な欲を出すんじゃねぇぞ」

 良二は、バカバカしいとばかりフフンと鼻息混じりに笑った。
 俺がいつ欲を出した? 俺が欲しいものは最初から一つだけだ。
 思いながら、「はいはい」と気の無い返事をする。
 言ったところで内藤には理解出来ない。内藤に取って人を愛するということは、自分の髪の毛を一本一本数えるのと同じくらい意味の無いものであるらしい。だから、平気で愛するものを取り上げる。
 話の解らない人間に何を言っても所詮無駄なのだ。
 それに、その苦しみももうすぐ終わる。
 全てが片付けば、待ち望んだものは再び自分の手の中に返る。
 それまでの辛抱だ。

「何が可笑しい?」

 怪訝そうに見る内藤を、「別に」と誤魔化し、居間を抜けて玄関先まで見送った。
 本来なら運転手付きの車が迎えにくる身分だが、尾行の目を眩ますため、内藤は、トレーナーにジーパンというラフな格好で中間の合流地点まで交通機関を使って帰ることになっている。
 普段は澄ましたスーツ姿の内藤が、たかが尾行を相手にここまでするのが滑稽だった。
 敵対勢力だの内部抗争だの、バカバカしい。やはり自分にはこの世界は向いていない。
 内藤の背中が見えなくなるまで見送り、再び居間へ戻ると、気を使って身を潜めていた祖父が奥の襖を開けて入ってきた。

「お客さんは帰ったんか?」

「ああ」

 祖父は、「そうか」と答えながら、部屋の真ん中に置かれた飯台に手をついて座布団の上に胡座をかいた。

「そう言や、亜也ちゃんには連絡したんか?」

 良二の身体が、亜也、という言葉に敏感に反応した。

「亜也人?」

「ああ。いつだったかお前を訪ねて来たことがあってな。ずいぶん淋しそうな顔しとったから、ずっと気になっとったんだわ」

 祖父の言葉が暖かな風のように耳の奥に入り込む。
 自分の声以外で亜也人の名前を聞くのは久しぶりだった。昔はよくこうして祖父が亜也人を呼ぶ声を聞いた。あの日常が再び取り戻されるのだ。
 亜也人との記憶に思いを馳せながら、良二は、祖父の素朴な瞳に大きく頷いた。

「亜也人には今夜にでも連絡する。明日にはここへ連れて来るよ……」

 祖父は満面の笑みで、「そうか」と笑った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 
 

「客の前では平気で股おっ広げてるくせに、こういうのは嫌がるんだ……」

 駿の不気味なほど愉しそうに笑う目が、亜也人の内面をえぐり取るように睨み付けていた。
 正面には駿が腕組みをしながら片足に重心をかけて斜めから亜也人を見上げ、両側では二人の男がそれぞれ亜也人の両脚を外側に開いて持ち上げている。
 亜也人は、両手首に手錠をかけられた状態でカーテンレールにベルトで固定されていた。
 逃れようにも、身体をよじると、細い金属の手錠が手首に食い込み鋭い痛みを走らせる。
 それ以前に、丸裸で、小さな子供がおしっこをさせられるような格好で股を広げられている恥ずかしさが、亜也人から抵抗する気力を奪っていた。
 
 加山の部屋に侵入した後、駿は、逃げられないよう亜也人の手首と自分の手首を手錠で繋ぎ、外へ連れ出してタクシーを捕まえた。
 お互いの手を手錠で繋ぐという異常な状況でありながら、駿が繋がれた手首を手錠ごと自分のジャケットのポケットに入れたせいで、傍目には若いゲイカップルがいちゃいちゃと手を繋いでいるようにしか見えなかった。
 タクシーが向かった先は繁華街に程近いビジネスホテルだった。
 部屋に着くと、駿は、自分の手錠だけを外し、空いた手錠を亜也人のもう片方の手首にかけてベッドの上に引きずり倒した。
 駿一人でないことは、部屋を出る前、駿が誰かと電話していた時の会話から既に予想はついていた。
 二人か、三人か。
 暫くすると、男が三人部屋に入ってきた。
 亜也人は、想定内の人数にホッとすると同時に、こんなことでホッとする自分を情けなく思った。
 男たちが合流すると、駿は、『まずは準備だ』と、亜也人を丸裸にするよう命令した。
 男たちはスティンガーの下級メンバーらしく、ベッドに繋がれている男が自分たちのボスである積川良二が執心している寺田亜也人であることに気付くと、たちまち顔色を変え、『話しが違う』と逃げ帰ろうとしたが、駿に、『内藤組長の指示だ』と言われ、しぶしぶ従った。
 亜也人は男たちに丸裸にひん剥かれ、バスルームへと連れられた。
 後ろ向きに壁に手をついて立たされ、両足を肩幅に開かされたところでふいに尻の肉を開かれ、後孔に冷たいものを差し込まれた。
 後孔に押し入る液体の感触に亜也人が思わず、『ひゃぁッ!』と声を上げると、駿が、『女用のビデごときで大袈裟だなぁ』と、意地の悪い粘り着くような声で囁いた。
 いくら慣れているとはいえ、人前で腸内洗浄をされるのは耐えられない。唇を噛み締めるだけでは恥ずかしさや悔しさは収まらず、固く閉じた目蓋から、堪えきれない涙が亜也人の頬を伝った。
 そうして屈辱的な洗浄を終えた後、亜也人は、再び男たちに担がれ、手錠をかけられた手をカーテンレールにベルトで繋がれた。
 逃れようにも、自分よりも身体の大きな男二人にそれぞれ胴と脚を担がれた状態で運ばれたせいで、亜也人は、ジタバタと騒ぐことも出来ず、いとも簡単にベルトに繋がれ、両脚を持ち上げられてペニスを駿の目の前に晒すように股を開かされてしまった。

「ウリ専のくせに、裸見られるのが嫌とかあり得なくない? それとも高級コールボーイ様は複数プレイなんて出来ませんってか?」

 亜也人を舐めるように見回すと、駿は、挑むような目付きのまま、唇の端だけを笑っているように吊り上げた。

「でも、こちとら高級じゃないから、こういうことしないと喜んでもらえないわけよ。お前と違ってフッツーのウリ専だからさぁ。色々しないとダメなの。解る? 俺のこの苦労……」

「俺を……どうするつもりだよッ……」

 何をされるかなど聞くまでもない。
 これまでにも散々同じような目に遭わされ、もうこれ以上汚されようが無いほど汚されてきた。 
 ここまで来ると、もはや、自分をそういう目に遭わせる相手よりもむしろ何度も同じ目に遭わされる自分の方が悪いのではないのかとさえ思えてくる。
 子供の頃から繰り返し性的被害に遭い、中学一年で初めてレイプされてからは、ほぼ毎日誰かに抱かれる日々を送ってきた。
 泣き顔が堪らない。喘ぎ声がそそられる。悶える姿に興奮する。アソコの具合が良い。クセになる。
 これまで亜也人の身体を好き放題もてあそんだ男たちは、亜也人とのセックスを賞賛する一方で、『こうなったのはお前のせいだ』と、自分たちのレイプ行為を亜也人本人が引き起こした災いであるかのように言い立てた。
 亜也人の類い稀な美貌が男を狂わせ、欲望を掻き立てる。だから仕方ないのだと言わんばかりに、まるで、亜也人が男をたぶらかす淫魔であるかのように吸聴し、自分たちの行為を正当化した。
 彼らにとって亜也人は、常に憧憬と欲情の対象であり、依存性の高い薬物のようなものだった。
 たがらといって素直に受け入れてしまうほど精神的に麻痺していたわけではなかったが、理不尽に繰り返される陵辱は、亜也人に絶望にも似た諦めと、行為に対する悲しい耐性を植え付けた。 
 今更何をされようが驚かない。
 しかし、駿の返答は亜也人の予想を超えるものだった。

「どうするつもりだって? そうだなぁ。お前、客のションベン飲んだことある?」

 瞬間、亜也人の心臓がドクンと跳ね上がった。

「お前何言って……」

「あれ。すごく解りやすく言ったんだけど解んなかった? それとも、お小水、とか言わなきゃダメだった?」

「まさか、本気で言ってるのか?」

「もちろん」

 間髪入れずに答えると、駿は、亜也人の驚く様子が愉快でたまらないとばかり、片側の頬を歪めていやらしく笑った。

「せっかく高級コールボーイ様とお知り合いになれたんだ。今後の参考のためにも、どんなふうに客を喜ばせてるのか、実際にプレイしてるとこ見せてもらおうと思って……」

 亜也人の背筋に戦慄が走った。
 話の内容はもちろん、駿の、自分を睨み付ける視線に底知れない恐怖を感じる。
 ただ嫌われているだけではない。駿の視線には自分に対する激しい憎悪が含まれている。
 無遠慮に向けられる剥き出しの感情に、亜也人は戸惑いと恐怖を同時に覚えた。
 駿は、息を押し殺して耐える亜也人をニヤニヤと眺めると、自分がつけた亜也人の頬の傷を爪の先でスッとなぞった。

「顔だけじゃなく、心も身体も傷だらけにしてやっから……」

「嫌ッ! なにするッ……」

「そんな怖がんなくても、いきなりションベン飲ませたりしねーから安心しなって。……お楽しみは最後に取っといた方が盛り上がるかんな。それよりも、まずは上のお口と下のお口で、こいつらのザーメンをたっぷり飲んでもらわないと……」

 獲物をいたぶるような目付きで言うと、駿は、亜也人の両脚を抱えている男たちとは別のリーダー格の男に、亜也人の股の間にしゃがむよう命令した。
 男は、亜也人が、積川良二の恋人であったあの寺田亜也人であることに最初に気付いた男で、これが内藤の指示であることを知り、渋りながらも従う他の二人とはうらはらに、一人だけ苦悶の表情を浮かべながら部屋の真ん中に突っ立っていた。
 男は最初の声では動かず、駿にもう一度催促されてようやくおずおずと亜也人の前に進み出た。

「ほら、早くしゃがんでしゃぶってやりなよ。俺をバックから犯すより、本人の顔を見ながら直接犯るほうが良いだろ?」

 男はグッと眉間にシワを寄せた。
 駿は、言うことを聞かない男にイラついた様子で語気を強めた。

「なにグズグズしてんだ! これは内藤組長の指示だって言ったの、聞こえなかった?」

「……本当に内藤さんがそう言ったのか?」

「ああそうだよ。こいつと良二を別れさせたけど、こいつがまだ良二の周りをチョロチョロして目障りだからって……」

「でもこんなことしたらボスが……」

「大丈夫だよ。これは内藤組長と俺たちだけの秘密で他には一切口外されない。VIP専用の高級コールボーイを抱ける機会なんて、これを逃したらもう一生訪れないよ? 悪いことは言わないから、役得だと思ってに御相伴ごしょうばんにあずかりなよ」

「本当……なのか?」

「本当さ。てか、内藤組長がこいつと良二を別れさせたがってたって教えてくれたの、お前じゃん?」

 男はもう一度駿に念押しし、駿が、「大丈夫だ」と頷くと、ふいに、それまでの硬い表情から一変、瞳の奥に欲望をギラつかせて亜也人の股間の前にしゃがみ込んだ。

「あ、亜也人さんッ! すんませんッ! 俺……」

「やッ、さっ、触んなッ!」

 男の生温かい舌が陰嚢に触れる。
 亜也人の太ももを持ち上げると、男は、目の前にこぼれた陰嚢にむしゃぶり付き、唇で挟んでキツく吸い上げた。

「あっ、亜也人さん……。ああ、マジで……夢みてぇ……」

激しく吸って音を立てて離す愛撫を何度も繰り返し、それが済むと、今度は一転、陰嚢を舌の先でチロチロとくすぐるように舐める。
 尖った舌の感触とじれったく振りかかる鼻息に、頼りなかった亜也人のペニスが徐々に熱を持ち、硬さと太さを増して行く。
 軽く立ち上がったところで、男は、ようやく陰嚢から口を離し、鼻の先でペニスを上へ持ち上げながら、裏筋を下から上へと舐め上げた。

「あっ、ぅあッ、やめっ……」
 
 舌の先をツーと這わせ、カリ首で一旦止めて溝の部分を重点的につつき、更に上へ伸ばして先っぽを咥える。
 まずは先の部分だけを口の中で往復させ、そこから根元にかけて一気に喉の奥まで飲み込んだ。

「はっ、やめっ、ああっ……も、やあッ……ぁぁぁっ」

 ゆっくり頭を動かし味わうように舐めたかと思ったら、突然激しく頭を上下させ、唾液を絡めながらジュルジュルと音を立てて舐めしゃぶる。
 緩急を付けた男の愛撫に亜也人の口から抑えようもない喘ぎ声が漏れる。
 様子を見ていた駿は、イヤイヤをしながら喘ぐ亜也人を見て嬉々とした声を上げた。

「これまたずいぶんと感度が良いんだなぁ。それともこの男のおしゃぶりがそんなに気に入った?」

「ちがッ……アアッ……」

「こんなに喘いでるくせによく言うよ。ほら、頑張ってんだからちゃんと見てやんな」

 髪を掴まれ、背けていた顔を無理に自分の股の間に向けられる。
 男が一心不乱に頭を動かす姿が否が応でも目に入り、亜也人は恥ずかしさに唇を噛み締めた。
 男は亜也人のペニスを深々と喉の奥に飲み込むと、口を窄めて激しく頭を往復させ、時々口から出して竿を舐めたり、先端の溝を舌の先で開いて吸ったりしている。
 男が頭を動かずたびに、男の唇から、自分の、ほんのりと赤みを帯びたペニスが唾液を引き摺りながら出たり入ったりを繰り返し、その卑猥さにお腹の奥が熱く疼き出す。
 心は消えて無くなりたいほど辛いのに、ペニスの先がおへそに付きそうな程勃ち上がっているのが亜也人の羞恥心を倍増させた。

「や……め……あぁッ、はぁっ、あっ」
 
 嫌がる亜也人に構いもせず、男は、竿の真ん中あたりまで垂れた蜜を舌の表面でベロンとすくうとそのまま丁寧に根元へと舌を這わせた。
 陰嚢まで舐め下がり、いきなりお尻を下からグイッと持ち上げ、その下の会陰を後孔へ向けて舌の先で撫でる。
 陰嚢の付け根から後孔の間を触れるか触れないかぐらいの力でついばまれ、くすぐったいような快感に、亜也人の全身の皮膚がぞわぞわと波立った。

「あぁぁっ! だめっ……やめ……だ……っあぁんッ!」

 足の先をバタつかせてみたところで男の舌の動きが止まることは無い。
 逆に、両サイドの男に更に脚を開かされた状態で固定されてしまい、そうしている間にも、男の舌は当然のように後孔に下がり、入り口のヒダをこじ開け浅い部分に侵入する。
 容赦なくねじ込まれる舌の感触に、亜也人の背中がビクンと跳ねた。

「ひッ、ぁああっ、や……い、入れんな……な……っでぇ……んあぁ」

「本当はして欲しいくせにウソ言ってんじゃねーよ。自分のアソコ見てみろ。物欲しそうにヨダレだらだら垂らしてんじゃん」

「んあッ……」

 隆々と勃ち上がったペニスは、快感に亀頭をヒクつかせながら、溢れ出した蜜に、赤らんだ先端をぬらぬらと濡れ光らせている。
 心とはうらはらな淫らな反応に、亜也人は、快楽に抗えない自分を恨めしく思うと同時に、卑猥に変容した自分自身のペニスから逃げるように目を逸らした。
 男は亜也人の後孔から口を離すと、亜也人のペニスの先から滴り落ちる蜜を指先でいじり、後孔に擦り付けた。

「やだっ! そこ……触っちゃ……やぁッ! ……やっ、やめてッ!」

 後孔に触れた指が大人しくしている筈が無く、節くれだった指が有無を言わさず狭い粘膜に押し込まれる。
 肉壁を掻き混ぜながら押し広げられる感覚に、亜也人のお腹の奥に甘い疼きが広がり始める。敏感な部分を探られる予感に唇を噛むと、亜也人の様子を愉しそうに見ていた駿が、ふいに、「ちょっと待て」と男を止めた。

「そういや、ローション使うの忘れてたわ。ちゃんと使わないと身体が傷付いちまうかんな……」

 腹に一物あるような言い方で言うと、駿は、ベッドの上に置かれた袋からチューブを取り出し、中身を指先に絞り出した。
 男の背後に立ち、男の指を亜也人のお尻から引き抜いて、代わりに、ローションを垂らした指を亜也人の後孔の入口に撫で付けながらググっと奥まで突っ込む。
 すると、塗られた部分がカッと熱くなり、堪えようのない痒みが肉壁といわず後孔の内部に強烈に襲い掛かった。

「あああぁぁっ! あっ、かっ、痒い! ぁぁっ、何これ……ひッ、痒っ!」

「あははは。 芋茎ずいきだよ。芋茎ずいきエキス入りのラブローション。別に怪しいモンじゃない。普通に売ってるラブグッズだ……」

「なんでこんな……ッア……たっ、助けて! 痒いっ! いやっ……ひぃぃッ! あぁぁっ!」

 想像を絶する痒みに、亜也人は、手錠が食い込む痛みも忘れて身体を力任せに振りまくった。
 駿は、叫び狂う亜也人を見て満足そうに笑うと、亜也人の後孔に埋めた指を引き抜いた。
 途端に、指を咥え込むことで緩和されていた痒みが粘膜に襲い掛かり、亜也人がイヤイヤと激しく首を振る。

「やだっ! 抜くなッ……抜いちゃ……あっ、あぁ……くッ……」

 駿は、悶え苦しむ亜也人を横目に、引き抜いた指に更にローションを垂らし、再び亜也人の後孔に押し込んだ。

「あひっ! あっ……やぁ……奥までッ……やっ……お願いッ、掻いて! 中、掻いてぇッ!」

「VIP専用ともあろうお方がはしたない声出してんじゃねーよ。もっとお上品にお願いしな」

「かっ、掻いて下さいッ!」

「そんなんじゃ解んねーよ。どこをどんなふうに掻くのか具体的に言ってもらわなきゃ……」

「んぐっ……いいいっ、やっ……お尻の奥を……かっ、掻き回してッ……」

「こう?」

「はあぁぁっ、もっと、中、こすって……あぁん」

 敏感な部分をめちゃくちゃに掻き回される刺激と、痒みが和らぐ快感とが絶妙に混ざり合い、亜也人の身体に未だかつて経験したことの無い激しい震えが沸き起こる。
 掻き毟りたい衝動に駆られるものの、手首を拘束されているせいで自分で掻くことも叶わず、唯一の頼みの綱である駿の指は、亜也人が自分ではどうにもならないことを知っていて、わざといたぶるように肉壁を掻く。
 少しでも指の動きを止められれば、たちまち身をよじるほどの痒みに襲われ、そのたびに亜也人は、自ら腰をくねらせて駿の指に肉壁を擦り付けた。

「ははっ、これのどこが“高級コールボーイ”だよ。ただの色狂いじゃん!」

「はあぁァッ! やだっ……そこっ……も……ッと、かっ、掻いてぇっ!」

 恥も外聞も無い。目先の苦しみとその奥から沸き上がる狂いそうな快楽に意識を持っていかれ、それ以外のことは何も考えられなくなるほど思考が低下する。
 人目も憚らず悶え狂う亜也人を嘲笑うように、駿は、肉壁に埋め込んだ指をわざと亜也人の敏感な部分に当てて執拗に擦り上げる。
 痒みは広範囲に渡っているにも関わらず、そこから奥へは一向に攻め入らず、同じ位置で同じ動作を繰り返す、そのじれったさに、亜也人の我慢が限界を超え、抑えきれない欲求が悲痛な叫びとなって溢れ出た。

「お願いッ……もっと奥にッ! ……ッあっ……も……もっと、おっ、奥にぃッ!」

「奥に、なに? 奥をどうして欲しいの?」

「入れてッ! ……ッと……もっと奥に入れてッ!」

「奥に? もっと奥を掻き混ぜて欲しいって?」

 ガクガクと頭を振って頷くと、駿が、舌舐めずりをするようないやらしい目で亜也人を見ながら喉の奥でククッと笑った。

「だってさ。今の聞いた? 前もこんなにびしょ濡れにして、まったく淫乱にもほどがある」

 男たちの視線は、勃ち上がったまま先端から透明な蜜をダラダラと滴らせた亜也人のペニスに注がれている。
 しかし亜也人には、見られているという感覚も、恥ずかしいという感覚も無かった。
 亜也人はただ、一刻も早くこの身悶えるような苦痛から解放されたかった。

「お願いッ……早くっ、中にッ……奥に……入れてッ!」

 泣きながら催促する亜也人を、駿は、唇の隅に
 残忍な笑いを浮かべて見返した。

「奥に何を入れて欲しいって?」

「ゆっ、指を……」

「指? 本当に指でいいの? それじゃ物足りないんじゃね?」

 後孔に入れた指をのの字を書くようにゆるゆると回すと、駿は、身体をよじりながら喘ぐ亜也人を蔑むように眺めた。

「正直に言えよ。指じゃ物足りないんだろ?」

「なんでも……いッ……からッ……はっ、早く……んぁッ!」

「そうはいかない。どこに何が欲しいか、その可愛らしい口でちゃんと言えよ……」

「やっ……だぁっ……も……」

「言わなきゃずっとこのままだ。ほら、早く……」

 しつこく催促され、亜也人が羞恥に顔を歪めながら卑猥な言葉を絞り出すと、駿は、「こいつはいいや」とケタケタ笑った。
 それから、亜也人の後孔から一気に指を引き抜き、しゃがみ込んでいた男と場所を交代する。
 愛撫らしい愛撫も受けていないのに、男のペニスは、亜也人の喘ぎ悶える表情を見ただけで既にはち切れんばかりに肥大しそそり立っている。
 太い血管を幾筋も走らせた凶悪とも言えるペニスを片手で持つと、男は、空いた方の手で亜也人の太ももを下から持ち上げ、上向きに反り立つペニスを後孔にズブズブと埋め込んだ。

「あぁぁぁぁっ、あぁぁっ、あっ」

 後孔一杯に押し入り肉ヒダを擦り上げながら進む熱い塊に、亜也人の口から恐怖と歓喜が入り混じった喘ぎ声が漏れる。
 男の猛り狂ったイチモツが根元まで埋め込まれて抜き差しを始めると、待ちに待った痒みからの解放に、全身の毛がゾワゾワと逆立つような快感が走った。

「あっ、あ、イ、あッ……んっ、んっ、んあっ、あっ、あ」

「ヤバい……亜也人さんの中、すげぇ締まるッ……すげぇ良いッ……」

「ああぁッ、あっ、あぁぁっ、あぃっ、いッ」

 もはや理性は無いに等しい。
 奥を突かれる快感と肉壁を抉られる快感、二つの快感に意識を乗っ取られ、ジンジンと痺れた頭の奥で、自分の喘ぎ声と男の呻くような声が幾重にも重なり合う。
 その中に、駿の、せせら嗤うような声が蔓のように絡み付いた。

「最初からこれじゃ身が持たないよ? まだまだ後が、たーくさん控えてるんだからさぁ……」

 冷酷な声に、亜也人の火照った身体が一瞬ゾッと鳥肌を立てる。

「さんざん男に抱かれてるんだから、たかが二、三人に犯されたぐらいじゃ何ともないだろうからね。もっともっと辱めて汚してやる。お前が自分から死にたくなるぐらいにね……」

 駿の、毒を孕んだ囁きが、朦朧とする亜也人の意識の中にポタリと落とされた。
 それは、半紙に墨汁を垂らすように、亜也人の中にじわじわと広がった。
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