元社畜の転生者は魔導士になりたい~魔王を倒す為に、訳アリ女の子と冒険者になります

めれ

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怪しい彼女と謎編

16話 終局。手が届いて

「お願い!届いて!」
 

俺の身体を支えているサーシャの悲痛な願い。
 
ここで何かしら状況が変わらなければ、次の手を打たなければならないのだが、その事態に直面した時に、俺の身体は果たして持つだろうか?
 

「とっととくたばりなさいよ!!!」
 

リリナも地面に足をめり込ませ、両手のハサミを防ぎながら叫ぶ。

リリナもそろそろ体力の限界だろう。サーシャが掛けた強化魔法は、いつ効力が消えてもおかしくない。
 
終われ!

終わってくれ!!


強化ガラスが割れるような音。
 

俺たちの願いが届いたのか、回転する岩の槍は魔物の外殻を貫き、さらにクリスタルの中に佇むぶよぶよの白子のような体に突き刺さった。
 
割れた部分を確認すると、本体の目の横あたりの外殻にはスイカと同じくらいの大きさの穴が広がっており、中の本体が気持ち悪く覗かせていた。
 
ぶよぶよの本体に岩の槍が刺さったことにより、紫色の液体が穴から間欠泉のように吹き出し、周りの岩肌を汚していく。

それと同時に、魔物は痛みを感じたからか後方に身体を仰け反らせる。
 
その反動で、リリナを襲っていたハサミは力を緩め、彼女は重圧から解放された。
 

「やりました!外側に穴が開きましたよ!」
 

サーシャは大きな声で状況を伝えてくれ、非常に喜んでいるような声色ではしゃぐ。

それに続いて、攻撃から解放されたリリナはそのまま地面に尻もちをつき、天を見上げ悪態をつく。
 
「あー!やっと解放されたわ!よくやってくれたわねこの馬鹿!」
 
二人は喜んでいるようだが、まだ早い。

いくら本体にダメージを与えたからと言って、確実に仕留めたわけではない。
 
ここから次に何をしてくるか観察し、注意しなければ。
 
だが、俺たちはかなり疲労を蓄積している。

このまま何事もなければどれほどいいかと、どうしても考えてしまう。

経験上こういった期待は裏切られることが多いのだが・・・
 
結果は予想通りだった。
 
魔物は仰け反った体勢のまま両方のハサミを天に掲げ、頭上に巨大な水色の魔法陣を展開していた。

そして、魔法陣下には氷塊が出現し、まるで周りの水分を凍結させて集合させているかのように集まっていき、徐々に氷塊を大きく育てているのだ。
 
まずい、今あんなものを食らったらひとたまりもないぞ・・・
 

「ま、魔法なんて!あんなの防げるくらいの力は残ってないですよ・・・!」
 
「こいつ!悪あがきしてんじゃないわよ!」
 

もはや猶予はない。

魔法を完成させる前に、あの魔物を仕留めなければ全滅だ。

だが、俺達に今あれを止められるだけの力が残っていない。

満身創痍とはこのことだ。
 
サーシャは攻撃できない、リリナは先ほどの攻防でまだ体力を回復しきっていない。

となると、俺しかいない。
 
体は限界に近いと全身の激痛が訴えてくる。

その痛覚の信号で動くことすらままならない。
 
どうする、どうする・・・・
 
俺が考えているときでも、氷塊はどんどん大きく凶悪になっていく。

考えろ、考えろ・・・
 

「どんどん大きくなってます!あれ以上大きくなると村に被害が出ます!」
 

・・・・・!
 
思いついた、簡単なことじゃないか。
 

「サーシャ、俺に身体強化魔法をかけて!穴が開いたところまで飛んで、直接魔法を放つから」
 

サーシャは「えっ、駄目ですよ!」と俺の提案を断る。
 

「今ヤナギさんはわたしに支えられてやっとの状態なのに、これ以上身体を酷使したらどうなるか分かりませんよ!」
 

心配してくれているみたいだ。

しかし、このまま黙っていても何も変わらない。

俺はもう一度サーシャに伝える。


「頼む。どちらにしろこのままじゃみんなやられる。時間もない。一刻の猶予も無いんだよ、だから俺に魔法をかけてくれ」

 
「・・・・」とまだサーシャは迷っている様子を見せながらも、首を縦に振らない。
 
「ヤナギさんには、自分を傷つけてまで戦ってほしくないですよ。こっちに来るときだって、腕を怪我して、ワイバーンの時も、今だってボロボロじゃないですか。矛盾してることは自分でもわかってますよ、ヤナギさんがいなかったら戦えてませんし、頼りきりですし。魔物を倒すにはこれが最適解だってわかってます。けど、嫌なんですよ。頭では分かってても嫌です」
 

俺は少し黙ってしまう。

静寂が訪れ、魔物が生成する魔法の音だけが響いている。

俺は自分が傷つく分には、仕方のないことだと割り切れているから良いとしても、サーシャからしてみれば目の前で傷だらけになる姿は見ていられないのだろう。

サーシャの優しさゆえの言動だ。
 
人を癒す役割なのに今のサーシャは、防御魔法や自動回復魔法を使ったことにより、回復魔法が万全な状態ではないことと、魔力損傷は魔法による治療が出来ないことも後押しの原因だろう。
 
彼女は不安なのだ、前のワイバーンの時のように。

後から命に別状はないと分かったから良かったものの、俺が意識を失った後、もしかしたら死ぬかもしれないという動揺と不安たるやとてつもないものであったに違いない。
 
自分がどうにかなる分にはいいが、それが出来ない故のもどかしさも後押ししているようにも見て取れる。


「ごめん、いつも心配かけて。サーシャが治してくれるってどこかで安心してたかもしれない。もう、これ以降自分を犠牲にしてまで無茶はしないよ、約束する。でも前みたいには絶対にならないから大丈夫。今だけは俺の提案にうなずいてほしいんだ。今を諦めるよりも、動いて、失敗したら次考えよう!お願いだ!」
 

サーシャに懇願する。

彼女に伝わっただろうか、5秒黙った末にか細く
 

「その言葉使われたら、断れないじゃないですか・・・」
 

俺は無理やりサーシャの支えから離れ、前傾姿勢でどうにか自力で立つ。
 
サーシャの「『イグナイト』」の掛け声とともに俺の身体が、淡い赤色で発光し始めた。
 
体は軽くなった。自力で立てる。

しかし、全身の痛みは消えないどころか増していく。 
 
思わず口から血の塊を吐いてしまう。
 
そんなもの関係ない。

これで終わらせるのだから。
 

「お願いします!ヤナギさん」
 
「ありがとう、行ってくる」
  

俺は立ち上がる。

魔物の下へと向かう。
 
リリナの横を通り過ぎ、魔力を膨らませているクリスタル野郎の下へたどり着き、リリナのように地面を踏みしめ、破壊した外殻の部分までジャンプした。
 
しかし、跳躍力が低いのか、あと少しのところで、届かない。

目の前にいる魔物の氷塊が、間もなく発射されるであろう大きさで膨張し続けている様子を見ながら、俺は地面に降下してしまう。
 

「届かねえ!」
 

手が届かない、どんどん穴の部分から遠のいていく。

サーシャの魔法を受けても尚、俺のジャンプは届かないまま地面に戻ってきてしまった・・・

と思ったのだが、足に違和感があった。
 
なんだ?
 
足元を俺は確認する。

そこには、先ほどへばっていたリリナの姿があった。

そして、俺が着地したのは地面ではなくリリナの大きな盾であった。
 

「ちゃんと、決めてきなさいよ、ねっ!!!!!!!」
 

リリナは大きな盾を腕力で無理やり押し上げ、俺の身体は空中に投げられてしまい、猛スピードで目標まで近づいていく。
 
すげえな・・・
 
俺は空中で右手に、紫色の雷属性魔法を準備する。

俺の投げ飛ばされた身体は破壊部分まで到着し、外殻にへばりつく。

魔物の巨大な目と俺の目が合った。

その目を睨みつけた後、穴の中に右手を突っ込み準備した雷魔法を発動させる。
 

「落ちろよ!!!!!!!」
 

魔力で糸を作るコツを応用し、俺は『ライトニング』を単発で撃つのではなく、ありったけの魔力を雷に変換しながら、ひたすら本体に向けて流し続けた。
 
バリバリと電気が放流され続け、視界が白と紫で覆いつくされ、本体が雷を受け続けている影響で魔物が痙攣し、大きく振動し続ける。
 
煙が上がり、振動が大きくなるにつれ、目玉はぐるぐるとあらゆる方向に回り続け、身体からは焦げ臭い吐き気を催す悪臭をまき散らしている。
 
俺の身体はあちらこちらから、魔力損傷による出血が確認できる。

もうこの状態は長く続かないかもしれない。

だから
 

「早く!行け!!!!!!」
 

魔物の揺れは大きくなり、俺を振り払おうとするが、それでも俺は必死にしがみつく。

強化魔法をくれたのだ、こんなんじゃ俺は落とされない。
 
・・・やがて、魔物が作り出した氷塊は徐々に砕けていき、天を突きあげていた両方のハサミはだらんと下ろされ、魔法陣は霧散する。
 
魔物の本体は黒より黒く焦げ、目玉だったものはもはや梅干しのようにしわくちゃになり、真っ黒い炭と化していた。
 
そして黒い煙を出しながら、そのままの体勢で魔物は機能を停止した。
 


「や、やった・・・!」
 


ついに俺達はやったのだ。
 
あのクリスタルの歪んだ魔物を倒したのだ。
 
やった、やった!!!!!!!
 
嬉しさよりも、安堵の方が強い。
 
俺は後ろを振り向き、二人に声を掛けようとした。
 

「サーシャ!リリナ!やっ・・・」
 

俺が発した言葉と同時に体の力が抜ける。
 
あ、落ちる。
 
重力のまま、頭から地面に向けて急降下していく。
 
少し遠くから、「ヤナギさん!!!!」と叫ぶ声が聞こえる。
 
身体が動かない、やばいぞ。

このままだと俺が死んじまう。
 
景色がどんどん下がって?上がって?訳が分からなくなる。
 
あーどうしよう、考えが全然・・・
 
目を閉じる。
 
これはサーシャに怒られるかもなあ、もう地面に激突・・・
 




 







しなかった。

というよりは、宙に浮いてる感覚に近いかもしれない。

何が起こったんだ?

魔法か?
 
俺はそっと目を開けるとそこには見知った女性の顔。
 
リリナが俺の顔を覗き込み、ニコニコ笑っていたのだ。
 









「女にお姫様抱っこされるのって、どんな気分?」
 

「あー、最低で・・・最高かも」
 

俺は悔しくもリリナにお姫様抱っこされながら、サーシャの下へと向かうのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
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