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しゃーぷ1 捨てられた先は異世界だった

3.チートは夢想で瞬殺で

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「おい。起きろ。踏むぞ」

 何かダミ声が聴こえる。

「誰がダミ声じゃ。わしじゃ」
 
 わし?
 そういえば空に何か飛んでたなぁ。
 
「そりゃドラゴンじゃろう」
 
 ドラゴンねぇ。
『トンビがタカを産むとかにはならんかったねぇ。蛙の子は蛙だったわ』
 とか親から言われてたなぁ。

「寝言激しいな。つか、いい加減目開けろ!」

「いてっ!」

「何かグダグダ鬱陶しいのう! トンビがレベル上げて進化して、羽ばたいてドラゴンになればいいじゃろう」

 眉間に深い皺を寄せた灰色の猫っぽいのが俺の額をバチンバチン叩いてきた。

 俺はガバッと飛び起きた。

 さっきスライムと戦って……。

「俺、何で倒れてるんだ?」
 
「知らん。わしはぶつかって来た相手が話もそこそこに走って行ったから、はたいてやろうと思って何となくついて行ったら、殴るまでもなく伸びておったから寝ている間に叩いておっただけじゃ」

「スライムは?」
 
 俺はその場に座り込んで周囲を見回す。
 
「スライム? さっきわしが来た時うっかり踏んだこれか?」
 
「おぅふ。それ。多分俺そいつにやられた。いきなりラスボス戦レベルの強さだった」
 
「はぁ? こんなのその辺の幼児でも叩きつぶして色混ぜたりしてスライム遊びしてるぞ」
 
「マジか……」
 
「わしの気はすんだから、それじゃあの」

 踵を返した灰色の猫っぽいのはどこか行こうとする。
 よく見ると赤いチョッキのような服を着ていた。

 ワシ…だっけ?

「ワシ! ちょっと待って」
「ん? 何じゃ?」
 
 ワシがめんどくさそうな顔で振り返った。

「今さらだけど、ここ、何処?」
「ここは見ての通り、村の郊外じゃ。そういえば、お前人間っぽいのに服も着てないのう。名前は?」
「パパ」

 おかしい。
 名前が出てこない。
 
「パパか……子どもは?」

 少し考えた。
 ここが異世界なら、今ここにはいないことになるな。

「そういえばここではいなかった」
「ふむぅ。子どももおらんのにパパとな」
「多分俺、別の世界から迷い込んだ感じだと思うんだ」

 異世界転移ものの知識で考えるとそうなるはず。

「じゃあ、『パパっぽいたぐい』じゃの」
「はぁ……たぐい」
「面倒じゃから『たぐい』でいいか」
「略された!」

 自分の額に手を当てて、ふと気になって手のひらを見た。

 ちっちゃくね?
 指的なものも特にない。
 でもモノは持てる。
 造形雑じゃないか?

「ちょっと気になったんだけど、この世界にレベルとかある?」
「レベルか。あるぞ」

 「ほれ」と言って、鏡のようなものを渡された。

 形は手鏡。
 覗いてみると、ステータスっぽい一覧表に、数字が表示されていた。

**********************
名 称:パパっぽいたぐい
通 称:たぐい
レベル:0
職 業:無職
装 備:なし
スキル:なし
備 考:なし
**********************

 いや、レベルゼロって!
 せめて1とか!職業は……まぁ、装備も……スキルも無し?

 これまでの人生経験!
 それ以前に、なんじゃこのちんちくりんな2頭身は!!

 ドラ○もんかよ!

 そんなアニメとかの記憶はあるのに自分の名前が出てこなかったり、姿形まで変わってたり……。
 『我思う故に我あり』とはよく言ったもんだ。
 誰の言葉かは忘れたけど。
 
 しばらくショックのまりうなだれて、顔を上げるとワシが可哀想なものを見るような目でこちらを見ていた。
 仲間に入れて……。

「何とかの情けじゃ。仲間に入れてやろう」
 声、洩れてた?
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