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しゃーぷ1 捨てられた先は異世界だった

5.まっぱで剣と盾

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 何かテンション上がってきた!
 飛ばされた先で、見た目はともかく実は凄いのと出会って、それがきっかけで眠っていた力が目覚めて……。

「誰が見た目はともかくじゃ」

 頭を殴られた。
 丸太をそのまま使った椅子に腰かけて、ワシが殴ってきた。
 どう見ても手は届かない距離。

「え? テーブルも挟んでるのに、どうやって殴った?」
「ん? ……ああ、殴ったのはわしじゃなくてそっちのヤダーじゃ」

 そういえば、テーブルの上にさっきの使い魔だっけ。茶色っぽい猫が座ってた。

 前肢をペロペロなめて、顔を洗っている。
 完全に猫じゃん。

「それで、お前さんは取りあえず帰りたいわけじゃな。しかし、帰ったとしても、無職なままじゃ家に入れてもらえんから、何か仕事を見つけてから帰りたいと」
「まぁ、そんな感じ。勇者とか剣士とか、なれる神殿とかないの?」

 なかばやけくそで聞いてみた。

「勇者とは、勇敢なる者のことかの。そんなもんは、いつでもなれるとして、ちょうど剣士なら今からちょっと手を加えればなれなくはないな」

「おー! それそれ! すぐなりたい!」

 また眉間に皺を寄せたワシは、しかたないのう……と呟きながら、部屋の奥の方の戸棚を開けて、がさごそ探り出した。

 ログハウス風の横向きの丸太の一角が、実はくり抜かれている感じの物置になっていた。

 そこから鞘に収まった短めの剣と、ひし形というか、平行四辺形というか、そんな感じの形の盾を引っ張り出してきた。

「おお! それ使っていいの?」
「昔訓練用の剣と盾が余っておったから、放りこんでおったんじゃ。長いこと放置しておったから、鞘から抜けるかどうかってとこじゃがのう」

 錆てたりってことか。

「取りあえず抜いてみよう」
 
 そう言って、テーブルに置かれた剣を手に取って、引き抜いてみた。
 案外スルっと抜けた。

「あー。そうじゃった。わしの魔法の加護が効いておったようじゃ」
「都合のいい便利な魔法だな」

 深くは考えないでおこう。

「よし、それじゃあ俺、これから勇者になってくる!」

 そう言って、家の扉を開けて出ていこうとしたところ、腹の虫が盛大に鳴った。

「お前さん、この夜中に素っ裸で剣と盾持って、何しにいくんじゃ?」

 言われてみればそうだ。

 服を着ていないのに違和感が無さすぎて、気付いてなかったけれど、確かにこれじゃまずい。
 流石に八頭身だった頃は裸だったのは家の中だけだったし、この二頭身になってからは服着てなくても違和感ないという……。

ポカッ!

「いたっ」
 また叩かれた。

「どうせ八頭身は嘘にゃ」
「おぉ! 猫が喋った?」

 茶色っぽい、猫っぽい使い魔が明らかにこっちを見て言っている。

「ああ。ヤダーはノラっていう精霊の一種じゃからの。普通に喋るぞ」

 野良? 野良猫じゃん。
 つーか、あれかな。翻訳か何かが俺の知識とリンクしてるのかも。

「身体の大きさとかだいぶ変わってるみたいだにゃ。たぐいの頭の中垂れ流しだからわかりやすい」

「なっ!」

 思わず頭から何か漏れてないか触ってみる。

「ほっほっ。垂れ流しというのは、物理的な話ではないから安心するがよい」

 ワシが笑っている。

「わしには聴こえんが、精霊にはそういうものを聴く力があるものもおるようじゃ。取りあえずこれでも着るがいい」

 ワシが懐から黒っぽい布を出した。
 って、チョッキしか着てないのに、どこから!?

「深く考えないでおこう……。魔法だ。きっと」

 黒いノースリーブのオーバーオールのようなツナギに、ベルトを締めて、まぁ何とか様になる感じ?
 ついでに緑っぽいマントをくれた。

 どこから用意したのか、テーブルに何か肉っぽいものを焼いて更に置いたものが置かれたから食べてみた。
 
 不味い!
 ママちゃんの料理美味かったから、舌が肥えてるだけか?
 
 取りあえず肉っぽいのとなんかの木の実っぽいもの、あとお椀に入った水で腹を満たして、今日は寝ることになった。
 ちょっとワクワクしながら寝床に入ると気付けば朝だった。

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