そして彼は魔王となった

葉月

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二、ヘイゼルの乱

5.

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 この世界に世界樹と呼ばれる大樹があることは、誰もが知る生きた伝説である。
 しかし、その起源が、創世期にさかのぼる太古の昔であることを知る者はいない。
 そして、あまりに大きすぎる魔力故に、周囲の時空はじ曲げられ、世界樹を中心とした、誰も近づくことのできない広大な聖域が存在する。
 そして誰もが知る世界樹は、その枝葉を分けた一つの分身にすぎない。

 ある森に、とても大きな大樹があった。
 その根元には大きな洞穴が空いていたが、入れそうで入れない、見えない壁のようなものに閉ざされていた。
 木の周りには耳のとがった綺麗きれいな人型の生き物たちがいて、銀の髪をなびかせた美しい青年が、洞穴どうけつから現れるのを楽しみにしていた。

 途方もない時が流れ、大樹はさらに枝葉を伸ばした。

 耳の尖った綺麗な人型の生き物たちもまた、『安心できる場所』から『神聖なるもの』というように、大樹のとらえ方を変容へんようさせていく。


―――


「この大樹を、そしてそのまもり手であるエルフの血を、決して絶やすでないぞ」

 この地の領主、アルヴィン=ジオ=ヘイゼルが幼い頃、そう祖父から託された言葉である。エルフの寿命は約2000年。
 ヘイゼル公はすでばん年に近く、その曾祖父がまだ子供の頃に、一度、伝説の大樹が燃えたという。

 5000年以上も前のことだった。

 当時『はぐれ』と呼ばれた、いびつな風貌ふうぼうの者が、夜更けに火を放ったというのだ。

 小規模ではあったが、当時既に非常に文化的な木造建築が立ち並んだ街で、大樹の恩恵おんけいによって護られて外敵もなかったため、警備けいびという概念がいねんもなかったことが災いした。

 街外れの牧草小屋に放たれた火は瞬く間に燃え広がり、エルフ達の集落は激しい炎に包まれた。
 雲にも届く巨木であった世界樹にも、その火の手は移り、天をも焼き尽くす勢いにまでなった大火災は、ひと月以上消えることはなかったという。

 悪鬼のごとく猛威もういを振るう炎をしずめるべく最後まで奮闘ふんとうした曾祖父の父親が帰ることはついになく、曾祖父を含む生き残ったエルフ達は、燃え残った大樹の枝葉を寄せ集めて野営し、大変な苦労をして復興したという。

「はぐれ……。追放されエルフではなくなった者たちのなれの果てども」

 長身の男が長い廊下を足早に歩いていた。

 整った美しい容貌ようぼうに知的な深いみどり双眸そうぼう。エルフの特徴でもある尖った耳は金色の流れるような長髪の両脇から突き出ている。
 長身でせぎすだが、武術で無駄なく鍛え上げた体躯たいくの持ち主であることが、身のこなしから見て取れる。

 腰には最低限の飾りがほどこされた実用的な長剣。美しいルビーが随所ずいしょに施された短い廊下の終点には両開きの飾り扉。開けると一気に視界が開けた。

 そこには10万にも及ぶ兵たちが隊列を組み、主のお出ましに大歓声を上げた。

 ヘイゼル領領主アルヴィン=ジオ=ヘイゼルは広場を見下ろし、手をかかげる。
 そして静まった兵達に向けて、高らかに宣言した。

崇高すうこうなる神々より預かりし世界樹の民よ! ついに立ちあがる時が来た!」

「現ジーン王エルスザックⅠ世は、神々に作られしエルフ族代々の伝統を軽んじ、かつて世界樹を焼き尽くした『はぐれ』どもを神聖なる城内に招き入れた」
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