そして彼は魔王となった

葉月

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五、パルマの孫

16.

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 ベルグはエルザから遠く東に離れた小さな山村。
 村人たちは山で木を切り、畑を耕し、牧畜もやっていて、この村だけで自給自足が出来ている。
 凄く裕福な村というわけじゃないけれど、この地方の領主は税の取り立ては緩いようで、その分干渉も少ない。
 この地はあたしのもう一つの故郷となった。
 みんなでこの地に移動してきた頃はパルマもコルトもみんな子どもで、当時は幼馴染みのパルマの結婚式で、フラワーガールをやるなんて、思ってもみなかった。

 確かにパルマはあたしより少しだけお姉さんだったけど。
 コルトはベルグの村の男の子で、当時5歳。
 7歳だったあたしからすると弟みたいな感じで、パルマは10歳だったからお姉さん。
 あたしたちは一緒に大きくなった。
 多分大きく…なった。

「ねぇ、レレ! 何でレムだけまだ子どもなの!? おかしくない?」

 ぴょんと跳ねて不満をぶつけるけれど、相変わらずレレは苦笑している。
 あたしが跳ねた弾みで、テーブルの上のさっきあたしが水を飲んだ空のカップが倒れた。
 あたしは麻布のワンピースの裾が椅子の背もたれに引っかかってしまったので慌てて直した。

「レムがハーフエルフだからだ。諦めろ」
「レシェスさま! オイラは? そのうち大きくなる?」

 レレが椅子に座ってお茶を飲んでいる横で、ピョンピョン跳び跳ねながらリトが言った。
 リトもちっちゃい組の仲間だけど、リトはそもそも地霊だから仕方ない。

「リトも随分大きくなったと思うぞ。レムはパルマたちより命の時の流れが違うからな。タルカじいさんだって、パルマたちは成長が早すぎるって嘆いていただろう?」

 レレはそう言うけれど、納得はいかないのだ。
 来たばかりの頃は、パルマはもちろんあたしより小さかったコルトだけど、今では村の中で指折りの木こりだ。畑を耕せば、あたしが一日かかっても終わらないような広さをあっという間に終わらせちゃう。
 小さいことをパルマにからかわれながら、いつも一緒に野山を駆け回ってた頃が懐かしい。
 パルマは20歳で、コルトは15歳。コルトがパルマを好き過ぎて、初めは相手にしていなかったパルマも根負けして、コルトが成人するまでパルマは待っていた感じ。

 リトはレレの言葉に満足したのか、ニコニコしながら窓からぴょんぴょん出て言った。

 レレが磨いてくれた壁の鏡を見ながらリトからプレゼントされたツゲの櫛で肩くらいに伸びた髪を梳いて、紐を口に咥えながらどんな結び方がいいか考えていた。
 あたしはどう見ても、パルマが10歳だった頃くらいの背格好だ。
 10年前に移動してきた時はもっと小さかったから、それを考えると10年でネルフの2歳分くらいは変わったかな? ってところ。

 結び方が決まらず、先にほどけていた革靴の紐を結び直していると、いつの間にかレレが鏡の横に立っていた。
 足音がなかったから、ちょっとびっくりした。
 基本レレは足音がない。歩き方が滑らかで、動きも綺麗なのだ。

「パルマの後ろで花を撒く役だったな?」
「そうそう。花嫁よりも目立たない感じで結びたいんだよね」

 あたしの口から紐を取ると、ササッと編み込みにして先端を垂らし、その先を紐で結び、更に懐から白い羽を出して付けてくれた。

「すごい…、レレって何でも出来るね」

 心の中で言ったつもりが声が出ていたらしい。

「どうやら旅先で覚えたようだ。と言っても、俺はリトがいうレシェスという名すら覚えていないんだがな」

 そう。レレは今ダンケル=ハイトと名乗ってる。
 最初に会った時レシェスさまってリトが呼んでたのを思い出して、それを言ってみたら、リトの方はそのことを思い出してくれたんだけど、レレ本人は記憶喪失なまま。
 あたしと最初に会った時の自分の記憶がないんだって。
 正しくは、あたしのことは思い出したけど、旅の目的に関する記憶とか、自分が何者かっていうあたりのことは全然出てこないみたい。

 リトは、レレに砂漠で拾われたって言ってた。
 エルザに来てトラインを巡ってるうちに、戦争が起きる兆しを感じた当時のレレが、急いで船で脱出したけど、船から落ちてしまったって話だった。

 あたしとは、トラインを巡ってるときにたまたま会ったみたい。
 レレの記憶が戻ったら、王都の兵士だったパパのこととか色々わかるのかな? って思ってたりするけど、無理に思い出そうとすると凄く頭が痛くなるみたいだから、無理に思い出さないでってお願いした。

「ありがと! じゃ、いこ!」
「俺はこれでいいのか?」
「普段着がカッコいいから大丈夫!」

 元々裕福な村じゃないから、主役以外は皆普段着だ。
 斜めに留められた革ベルトに黒いレギンスとブーツ。縦に並んだ金属ボタンで留められたブラウスのような長そでの服を着たレレは、村の外に出る時はマントコートを羽織る。
 どちらにしても十分礼服のような清潔感がある。
 白銀の髪は櫛を通さなくてもまっすぐで凄く綺麗だ。
 あたしはレレの手を引いて、家の扉を押しあけた。
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