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五、パルマの孫
18.
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コルトはがっちりとした精悍な若者に成長していた。
灰色っぽい髪色の短髪で、木こりという力仕事をやっている割に余り日に焼けない体質のようで肌は白っぽく、そばかすが浮いていて幼さが残っている。
何代も前からだいたい寿命が70年前後だという生粋のネルフだ。
浅黒い肌をしたあたしとは真逆だ。ママも特に浅黒い肌じゃなかったのに、何故あたしだけ肌の色が違うんだろう?
周りにはそんなことを気にする人が特にいないから、見比べるまで考えることもなかった。
ミズーリ司祭は、コルトの高祖父母あたりが小さい頃から知っているらしくて、時々コルトのことをコルトのお祖父ちゃんやお父さんと間違えて呼ぶことがある。
「コルト、パルマ、結婚おめでとう!」
「ありがとう!」
3軒目のセナさん一家の家で塩を撒かれる。
内陸地であるベルグ村では、貴重な塩を撒く行為は魔を払い、幸せを呼び込むという効果があるとされて、祝福の意味を持つ。
お返しにフラワーガールであるあたしがテフの花を撒いて返す感じ。
一軒一軒巡っていき、祝福を受けつつ幸せをおすそ分けしていき、6軒目は小さな教会で、ミズーリ司祭とウィンが出迎えてくれた。
この村に先導してくれた弟のコレット神父が5年前に亡くなって、一時は落胆していたけれど、神父が助けた小さい男の子を育てることに力を注いでいるみたい。
ウィンは南の森に薬草摘みに行っていたコレット神父が命をかけて救った男の子だ。
エルフと人間とホビットとドワーフが混在する5、6人の奇妙な一団が、盗賊か何かに襲われて一緒に亡くなっていたそうで、ウィンが何の種族の子かわからないらしい。
当時赤ちゃんで、今5歳くらい。
おくるみに、ウィンブリル=デニルファードって縫い込まれていたそうだけど、他に情報はなかったらしい。
コレット神父が通りかかった時には赤ちゃんは胸を刺されて瀕死で、神父は命を削った回復魔法を施してウィンを助けて、村まで戻ってきた。
そしてミズーリ司祭にウィンを託すとそのまま息を引き取ってしまった。
あたしを保護してくれて、ウィンを助けて、あたしはいつか、コレット神父のような立派な人になりたいって思ってる。
「あら、コルにパルマ、おめでとう! ほら、ウィンもおめでとうって言ってあげて」
「お、おめで…とう」
ウィンは恥ずかしいのか怖いのか、ミズーリ司祭の後ろに隠れながら、ボソボソ囁いた。
「ありがとうミズーリ様、ウィン。でも俺、コルじゃなくコルトの方です」
「ふふ。コルさんの息子のコルトですね」
パルマも補足して笑った。
「あらー、またわたくしったら、ごめんなさいね」
そう言いながら塩を撒いてくれる。
あたしは「ありがとうございまーす」と言いながらテフの花を撒いて返した。
ビクッとしながらミズーリ司祭の足元で顔を隠しつつ、ウィンはこちらを覗いていた。
「またね」
あたしはそう囁くと、ミズーリ司祭とウィンが見送られながら、次の家の方へ向かい始めているコルトとパルマを追いかけた。
そんな感じでもう何軒回ったか。小さな村だから、結婚したことを村人全員に伝えて、全員を証人にすることが習わしなのだ。
◇ ◇ ◇
こうしてパルマとコルトの夫婦にも子どもが生まれて、その子も大きくなって、今度はその子が結婚して、ネルフの世代はいつの間にか代わっていった。
パルマたちが結婚してから20年くらい経った。
「レレー! ただいまー! パルマから毛糸玉貰って来たよ」
「あぁ、おかえり。今日も何か編むのか?」
椅子に座ってお茶を飲んでいたレレはあたしの方を振り返って言った。
テーブルに籠を置くと、あたしはひと抱えほどの毛糸玉をその中に入れた。
20年経ったけれど、レレの姿は変わらない。
エルフみたいに耳が尖ってないけれど、レレもネルフじゃないみたいだ。
あたしは少し大きくなって、パルマが14、5歳くらいだった時くらいの容姿になっていた。
パルマは40歳。
まだお婆ちゃんというほどではないけれど、よくあたしを見てブツブツ言っている。
そんなパルマにも孫が生まれるらしい。
パルマがせっせと赤ちゃんの服や肌着、ケープや涎かけなんかを作りまくっているらしいから、あたしは帽子を作ってあげることにした。
「帽子作ろうと思ってるんだ」
「パルマが大量の服を作ってるんだったな。帽子も作ってるんじゃないのか?」
「帽子はまだだって。手袋、靴下…って聞いていって、殆ど作ったって言ってたから、ダメ元で帽子は?って訊いたら、まだ作ってないって。ラッキーだね」
「生まれる前から祝福されまくってるわけだな。パルマ自身の子の時は思い付きもしなかったのにな」
「たしかに」
あたしは戸棚から編み棒を取ると、毛糸を一つ取って椅子に腰かけた。
「さて、俺はそろそろ戻ろう」
「うん、いってらっしゃい。気を付けてね」
「ああ」
レレは午前中にひと仕事やって、ひと休みしていたみたい。
うちの近くの荒れ地を3枚分ほど開墾して、いくつかの作物を育てている。主にルードという根菜を中心に作っていて、近隣の集落にも買い手がついている。
元々誰が耕してもうまく作物が育たなかった荒れ地だったから、殆どタダ同然で土地を分けてもらったらしい。
移動してきた当時、レレはコルトのお父さんから道具を借りて、木を切り倒して家の材料にして数日で立派な家を作り、記憶を失った大工じゃないかと言われてた。
残った端材で畑の道具を作り、柵を作り、作物を荒らす動物避けの仕掛けも周囲に施して、あっという間に広大な範囲を耕してしまった。
「あたしもたまには手伝おうかな」
ふと、今日はちょっと畑に行ってみたくなった。
編み始める前に思い直し、編み棒を毛糸玉に刺すとケープを羽織って外へ出た。
灰色っぽい髪色の短髪で、木こりという力仕事をやっている割に余り日に焼けない体質のようで肌は白っぽく、そばかすが浮いていて幼さが残っている。
何代も前からだいたい寿命が70年前後だという生粋のネルフだ。
浅黒い肌をしたあたしとは真逆だ。ママも特に浅黒い肌じゃなかったのに、何故あたしだけ肌の色が違うんだろう?
周りにはそんなことを気にする人が特にいないから、見比べるまで考えることもなかった。
ミズーリ司祭は、コルトの高祖父母あたりが小さい頃から知っているらしくて、時々コルトのことをコルトのお祖父ちゃんやお父さんと間違えて呼ぶことがある。
「コルト、パルマ、結婚おめでとう!」
「ありがとう!」
3軒目のセナさん一家の家で塩を撒かれる。
内陸地であるベルグ村では、貴重な塩を撒く行為は魔を払い、幸せを呼び込むという効果があるとされて、祝福の意味を持つ。
お返しにフラワーガールであるあたしがテフの花を撒いて返す感じ。
一軒一軒巡っていき、祝福を受けつつ幸せをおすそ分けしていき、6軒目は小さな教会で、ミズーリ司祭とウィンが出迎えてくれた。
この村に先導してくれた弟のコレット神父が5年前に亡くなって、一時は落胆していたけれど、神父が助けた小さい男の子を育てることに力を注いでいるみたい。
ウィンは南の森に薬草摘みに行っていたコレット神父が命をかけて救った男の子だ。
エルフと人間とホビットとドワーフが混在する5、6人の奇妙な一団が、盗賊か何かに襲われて一緒に亡くなっていたそうで、ウィンが何の種族の子かわからないらしい。
当時赤ちゃんで、今5歳くらい。
おくるみに、ウィンブリル=デニルファードって縫い込まれていたそうだけど、他に情報はなかったらしい。
コレット神父が通りかかった時には赤ちゃんは胸を刺されて瀕死で、神父は命を削った回復魔法を施してウィンを助けて、村まで戻ってきた。
そしてミズーリ司祭にウィンを託すとそのまま息を引き取ってしまった。
あたしを保護してくれて、ウィンを助けて、あたしはいつか、コレット神父のような立派な人になりたいって思ってる。
「あら、コルにパルマ、おめでとう! ほら、ウィンもおめでとうって言ってあげて」
「お、おめで…とう」
ウィンは恥ずかしいのか怖いのか、ミズーリ司祭の後ろに隠れながら、ボソボソ囁いた。
「ありがとうミズーリ様、ウィン。でも俺、コルじゃなくコルトの方です」
「ふふ。コルさんの息子のコルトですね」
パルマも補足して笑った。
「あらー、またわたくしったら、ごめんなさいね」
そう言いながら塩を撒いてくれる。
あたしは「ありがとうございまーす」と言いながらテフの花を撒いて返した。
ビクッとしながらミズーリ司祭の足元で顔を隠しつつ、ウィンはこちらを覗いていた。
「またね」
あたしはそう囁くと、ミズーリ司祭とウィンが見送られながら、次の家の方へ向かい始めているコルトとパルマを追いかけた。
そんな感じでもう何軒回ったか。小さな村だから、結婚したことを村人全員に伝えて、全員を証人にすることが習わしなのだ。
◇ ◇ ◇
こうしてパルマとコルトの夫婦にも子どもが生まれて、その子も大きくなって、今度はその子が結婚して、ネルフの世代はいつの間にか代わっていった。
パルマたちが結婚してから20年くらい経った。
「レレー! ただいまー! パルマから毛糸玉貰って来たよ」
「あぁ、おかえり。今日も何か編むのか?」
椅子に座ってお茶を飲んでいたレレはあたしの方を振り返って言った。
テーブルに籠を置くと、あたしはひと抱えほどの毛糸玉をその中に入れた。
20年経ったけれど、レレの姿は変わらない。
エルフみたいに耳が尖ってないけれど、レレもネルフじゃないみたいだ。
あたしは少し大きくなって、パルマが14、5歳くらいだった時くらいの容姿になっていた。
パルマは40歳。
まだお婆ちゃんというほどではないけれど、よくあたしを見てブツブツ言っている。
そんなパルマにも孫が生まれるらしい。
パルマがせっせと赤ちゃんの服や肌着、ケープや涎かけなんかを作りまくっているらしいから、あたしは帽子を作ってあげることにした。
「帽子作ろうと思ってるんだ」
「パルマが大量の服を作ってるんだったな。帽子も作ってるんじゃないのか?」
「帽子はまだだって。手袋、靴下…って聞いていって、殆ど作ったって言ってたから、ダメ元で帽子は?って訊いたら、まだ作ってないって。ラッキーだね」
「生まれる前から祝福されまくってるわけだな。パルマ自身の子の時は思い付きもしなかったのにな」
「たしかに」
あたしは戸棚から編み棒を取ると、毛糸を一つ取って椅子に腰かけた。
「さて、俺はそろそろ戻ろう」
「うん、いってらっしゃい。気を付けてね」
「ああ」
レレは午前中にひと仕事やって、ひと休みしていたみたい。
うちの近くの荒れ地を3枚分ほど開墾して、いくつかの作物を育てている。主にルードという根菜を中心に作っていて、近隣の集落にも買い手がついている。
元々誰が耕してもうまく作物が育たなかった荒れ地だったから、殆どタダ同然で土地を分けてもらったらしい。
移動してきた当時、レレはコルトのお父さんから道具を借りて、木を切り倒して家の材料にして数日で立派な家を作り、記憶を失った大工じゃないかと言われてた。
残った端材で畑の道具を作り、柵を作り、作物を荒らす動物避けの仕掛けも周囲に施して、あっという間に広大な範囲を耕してしまった。
「あたしもたまには手伝おうかな」
ふと、今日はちょっと畑に行ってみたくなった。
編み始める前に思い直し、編み棒を毛糸玉に刺すとケープを羽織って外へ出た。
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