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紅葉僧
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これはA県B村で起きたかもしれないお話。
その日、四人の男女が旅行で山奥の民宿に泊まった。
秋の紅葉を楽しみ、温泉を堪能し、山の幸に舌鼓を打った四人は、この後どうするかを話しあった。
するとA男が「夜の散歩にでかけよう」と言い出した。すると空いた皿を片付けていた女将がA男の言葉を聞いたとたん、皿を床に落としみるみる顔を青ざめさせていった。
女将の様子に異常な気配を察したA子が尋ねた。
「あの、どうしたんですか?」
「夜の山はいかん。特にこの時期は、紅葉僧がでる」
「紅葉僧、ですか?」
A子が尋ね返すも、女将は自身の肩を抱いてさっさと部屋を出て行ってしまった。「紅葉僧って何だろう?」
首を傾げるA子に、B子とC子も首をかしげる。
「何か怖いものがでるのかしら?」
「えー、何か怖いのもでるの?」
A子が震えた。
そんな時である、廊下をドシドシと歩く足音が聞こえたのだ。それは女将の足音とはあきらかに違っていた。四人がいる部屋の前で足音は止まると、扉が開いて誰かが入ってきた。
「あら、女将さん」
A子は部屋に入って来たのが女将だと思い声をかけた。
しかし、現れたのは紅葉僧だった。
「出た!」
逃げ惑うA子とB子。C子は突然の事に驚き気絶してしまっていた。
A男とC子が逃げた後、紅葉僧は部屋に残された皿を一枚拾い上げるや、床に叩きつけて割ってしまった。そして割れた皿をジッと見つめていたかと思うと、部屋を出て行ってしまったのである。
民宿に残されたA子はB子とC子が心配になり部屋に戻ったが、部屋はもぬけのからだった。
それから数日後、民宿の女将がA子の下へやって来た。
「この度はうちの者がご迷惑をおかけしました」
C子の首には痛々しい痕が残っていた。どうやら紅葉僧がやったものらしい。
「もう大丈夫なんですか?」
A子が尋ねると女将は頷いて「ほら」と手鏡をA子へ見せた。そこには綺麗に髪を結ったC子の姿があった。「ああ、よかった」と喜ぶA子に女将が言う。
「本当に……その節はありがとうございました」
C子がしきりに頭を下げる。
「あっ、いえ」
A子は、この事には触れない事にした。
「ところで話は変わりますが、ここから山を一つ越えた先に寺がございます」
B子の言葉にC子が続きを話す。
「そのお寺に紅葉僧がいたんですって、何でもとても恐ろしい神だそうで、お坊さん達も皆怖がっているんだとか……ねえB子さん」
B子とC子は互いに顔を見合わせ頷いている。
「……私よりも怖いの?」
そう言うとB子とC子はもう一度頷き、そのまま口をつぐんだ。
紅葉僧はそれから毎年A県B村の民宿に現れるようになった。
しかし、A県の民宿に宿泊する女性客を怯えさせた後、必ず山を一つ越えた先にあるお寺に帰ったという。
このお寺がどこのものかはわかっていない。
私は、幽霊になりたいと思ったことがある。
人は死を迎えるとあの世へ旅立つらしいが、それがどんなのかなんてわからないし、死んだことがないのだからわかりようがない。けれど少なくともこの世を彷徨い続けるよりましだと思った。
その日、四人の男女が旅行で山奥の民宿に泊まった。
秋の紅葉を楽しみ、温泉を堪能し、山の幸に舌鼓を打った四人は、この後どうするかを話しあった。
するとA男が「夜の散歩にでかけよう」と言い出した。すると空いた皿を片付けていた女将がA男の言葉を聞いたとたん、皿を床に落としみるみる顔を青ざめさせていった。
女将の様子に異常な気配を察したA子が尋ねた。
「あの、どうしたんですか?」
「夜の山はいかん。特にこの時期は、紅葉僧がでる」
「紅葉僧、ですか?」
A子が尋ね返すも、女将は自身の肩を抱いてさっさと部屋を出て行ってしまった。「紅葉僧って何だろう?」
首を傾げるA子に、B子とC子も首をかしげる。
「何か怖いものがでるのかしら?」
「えー、何か怖いのもでるの?」
A子が震えた。
そんな時である、廊下をドシドシと歩く足音が聞こえたのだ。それは女将の足音とはあきらかに違っていた。四人がいる部屋の前で足音は止まると、扉が開いて誰かが入ってきた。
「あら、女将さん」
A子は部屋に入って来たのが女将だと思い声をかけた。
しかし、現れたのは紅葉僧だった。
「出た!」
逃げ惑うA子とB子。C子は突然の事に驚き気絶してしまっていた。
A男とC子が逃げた後、紅葉僧は部屋に残された皿を一枚拾い上げるや、床に叩きつけて割ってしまった。そして割れた皿をジッと見つめていたかと思うと、部屋を出て行ってしまったのである。
民宿に残されたA子はB子とC子が心配になり部屋に戻ったが、部屋はもぬけのからだった。
それから数日後、民宿の女将がA子の下へやって来た。
「この度はうちの者がご迷惑をおかけしました」
C子の首には痛々しい痕が残っていた。どうやら紅葉僧がやったものらしい。
「もう大丈夫なんですか?」
A子が尋ねると女将は頷いて「ほら」と手鏡をA子へ見せた。そこには綺麗に髪を結ったC子の姿があった。「ああ、よかった」と喜ぶA子に女将が言う。
「本当に……その節はありがとうございました」
C子がしきりに頭を下げる。
「あっ、いえ」
A子は、この事には触れない事にした。
「ところで話は変わりますが、ここから山を一つ越えた先に寺がございます」
B子の言葉にC子が続きを話す。
「そのお寺に紅葉僧がいたんですって、何でもとても恐ろしい神だそうで、お坊さん達も皆怖がっているんだとか……ねえB子さん」
B子とC子は互いに顔を見合わせ頷いている。
「……私よりも怖いの?」
そう言うとB子とC子はもう一度頷き、そのまま口をつぐんだ。
紅葉僧はそれから毎年A県B村の民宿に現れるようになった。
しかし、A県の民宿に宿泊する女性客を怯えさせた後、必ず山を一つ越えた先にあるお寺に帰ったという。
このお寺がどこのものかはわかっていない。
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