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導く者
しおりを挟む休日の、まだ暗い時間に
佳文は、サーフへ釣りに来ていた。
釣りの仲間から、このサーフで、フラットフィッシュが
釣れていると聞いて、やって来たのだ。
「フラットフィッシュが、釣れてると聞いたけど、
やっぱり真夜中は、俺の他に誰も来て居ないんだな」
真夏の日中は、猛暑で熱中症になりそうなので、
最低気温が26度と、熱帯夜だけど、36度予想の昼間に
釣りをするより、ましな気温の真夜中に釣りをするのが
佳文のフラットフィッシュ釣りのスタイルだった。
「真夏は…夜中も暑いなぁ~でも、美味しい照りゴチを釣って
刺身で喰いたいからな」
そう、佳文の狙い魚は、真夏に美味しい、マゴチ狙いだった。
「ささっと用意して、釣っちゃうぞ~」
佳文は、車からロッドとスピニングリールを取り出し
ロッドに、スピニングリールを装着し、リールのベイルを上げて
PEラインをロッドのガイドリングに通し、気が付いた。
「あっ…ラインシステムを組んでなかった…」
いつもは、自宅でラインシステムを組んでいた。
ラインシステムとは、ラインとラインを結ぶ事で、
佳文の釣りは、ルアーフィッシングで、PEラインとナイロンライン
または、フロロカーボンラインを結束する事を言う、
「FGノットにしようか…CFノットにしようか…
FGノットは、編み込みが面倒だしな…CFノットは、結構失敗するんだよな」
FGノットとは、ナイロンラインまたは、フロロカーボンラインに
PEラインを十数回以上編み込み、ハーフピッチを数回、双巻きハーフピッチを
2,3回する。
CFノットは、二つに折ったPEラインを
ナイロンラインまたは、フロロカーボンラインに、30回程巻き付け
巻き付けたPEラインの先にできた輪の中に、
ナイロンラインまたは、フロロカーボンラインの巻き初めラインを通し
三方向から締め、ハーフピッチ数回双巻きハーフピッチで作った
ラインシステムだった。
「CFノットか、このラインシステムにも慣れなきゃあな」
そう言い、佳文はCFノットに決めた。
「おっ!!今回は、一発で成功したよ」
なんとなくだが、釣れそうな気がした。
「さぁて…どこから始めようかな…」
佳文は、サーフを見渡し、目印を探した。
「ん?木の棒が刺さってるじゃん!!」
釣り人の中には、自分が釣れた場所に目印として、
木の棒や、枝などを立てる人が居た。
「2~3投して、チェックしてみるか」
サーフを散歩する人が、なにげに木の棒を立てたり、
ここで、釣れたよフェイクする人も居るので
いつも佳文は、確認でキャストして確かめるのだった。
「あぁ…この目印は、フェイクか散歩のだな」
キャストした先には、ハンプ(起伏)も流れもなかった。
「おっ!!いい感じの潮目が、走ってるじゃない~」
月に照らされた海面に、潮目を見つけた。
「流れは効いてるかな?」
佳文は、メタルジグをキャストした。
「おっ!!いいね~」
ラインの糸フケを、リールで巻き取り、ラインテンションを
ロッドのテップで感じた。
「この流れは、もらったな~」
海底のハンプ(起伏)を感じながら、リールでラインを巻き取り
大きなハンプを見つけロッドテップをチョンチョンっと動かした。
「喰うなら~ココ!!」っと言うと、「ゴゴン」と
ラインからロッドテップへ、ロッドテップから手元に
魚のアタリが伝わった。
「もらった~」
と、小さな独り言を呟き、ラインをリールハンドルを回し巻き取る
「おっ!!いい抵抗感!!」
魚との戦いで、なんとなくだが、魚の大きさが分かった。
「バレんなぁ~バレんなよぉ~」
佳文は、呪文のように連呼していた。
波打ち際近くまで、近づいた魚を、リールハンドルでラインを
巻き取らず砂浜を後ろに下がり、魚をスルスルっと引きずり上げた。
「やっぱ、デカいじゃん!!60㎝くらいか?」
釣り上げた魚は、マゴチをメジャーに乗せて測ると
59㎝だった。
「60㎝…ないか…残念」
釣ったマゴチをストリンガーに着け、紐を流木に巻き付け
海に泳がせた。
ストリンガーとは、生きたまま魚を泳せて置けるアイテム
「1投目で釣れるか~まだ、他のマゴチも居るかもな」
直ぐに、メタルジグをキャストしたが、そんな、思い通りにはならかった。
数十投した頃、2本目のマゴチが釣れた。
「50㎝ちょいだな~2本釣れたし帰ろう」
佳文は、歩いて来たサーフを、駐車した車まで戻った。
車の荷室側ドアを開けて、用意してきたアイスボックスに
釣れたマゴチを入れて、ロッドからリールを外し
車の荷室に置いた。
「マゴチは、2日間寝かせて、刺身と唐揚げだな~帰ったら下処理しないとな」
車の荷室ドアを閉めた佳文は、なんとなく
歩いて来たサーフに視線を向けた。
「あれ?あの人…さっき居たっけ…散歩の人?この時間に…」
真夜中の2時を少し回った時間
「海でも見に来たのかな…」
そう思ったが、何か気になった。
しかし、その人は10分程経っても微動だにしなかった。
気になった佳文は、声を掛けてみようと海岸へ降りて行った。
「おはようございます…こんばんはか…」
少し離れた場所から、その人に声を掛けたが
返事もなく、佳文の方も見なかった。
「どうかしましたか?」
その人に近づき、もう一度声を掛けたが、微動だにしなかった。
不思議に思った。佳文は声を掛けながら顔を覗こうと
その人のとなりに立った。
「あ…の…」
その人は、たぶん生きている人ではないと分かった。
佳文は、導かなければと直ぐに思った。
「どうしたたっけ…」
佳文は、両親が導かれた時の事を必死に思い出そうとし
思い出した。
「自分の髪の毛を抜いて…導かれるモノの髪に付けてたよ…な
それから…どうしたっけ…そうだ…導かれるモノの手を取り…
飛んだ?…俺…飛べないよ…」
佳文は、自分は飛べないけど、どうするのか一瞬悩んだが
「手を高く上げれば…いいのかも…」
そう思い、導いてみる事にし、自分の髪の毛を1本抜いて
となりに立つ人の髪に自分の髪の毛を付けた。
そして、導かれるモノの手を取り、高く手を挙げると、
導かれるモノは、「ふわっ」と浮き上がり消えた。
「君…できたではないか…私の髪にも触れたしな…」
どこかから、声が聞こえた。
「おい!!」
佳文は、叫んだが、返事はなかった。
「なんだよ…それだけか…」
拍子抜けしたが、導けた事が、なにか爽やかな気持ちになった。
「ん?私の髪にも触れたしな…って言ったか?」
佳文は、あの女性の髪に触れてから、導かれるモノ姿が
ハッキリと見えるのに気が付いた。
「あぁ…引っ張り込まれたな…」
そう思った。
「これから先も…導かれるモノが…俺の前に現れるって事なのか…
どうしたっけ…となりに立ち…自分の髪の毛を1本抜いて…
導かれるモノの髪に…自分の髪の毛を…付けて…
導かれるモノの手を取り…手を高く上げた…な」
佳文は、その動作を何度も何度も繰り返した。
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