7 / 19
高飛車な奴らと本物―—ヴィクトリア女王 最期の秘密
しおりを挟む「それで言われたんよ、“わたしの家は三代続いて京都出身なんです”って」
「まじで?」
大学時代の同級生・麗香とドライブに出かけた。ダッチラム・チャレンジャーという赤いアメ車に揺られながら麗香の大阪営業時代の話を聞いていた。
「うちも考えてみれば三代続いて愛知県出身だけど、三代続いてるなんて一回も考えたことがなかったな~」
「生粋ってことをアピールしたいんじゃない?相手にとってわたしたちってどこの馬の骨か分からないように見えてるのかもね。まあ田舎出身っていうのは本当だけどね」
麗香は肩をすくめた。
「今度そんなこと言われたらこう言ってあげればいいんじゃない?“じゃあそれで全ての運使ってしまいましたね”って」
プライドの高い人たちがドタバタする映画がある。2019年公開の『ヴィクトリア女王 最後の秘密』だ。
まだインドがイギリスの植民地だった頃、ヴィクトリア女王に記念硬貨の贈呈役としてインド人のアブドゥルがイギリスにやってくる。夫や寵臣を亡くし、華やかな王室に身を置きながらも、人知れず孤独を感じるヴィクトリア女王。インド出身で学歴も決して高くないが、背も高く、顔もチャーミング、そして知らない世界について話すアブドゥルとの交流の中で、次第に女王の心に新しい風が吹くようになる。しかしその風はいつしかイギリス王室を破壊しかねないほどの大きな嵐となっていく…。
※これから先、物語の本編に触れる内容が含まれます。
正直、主人公アブドゥルに出世欲が有ったのか、本当に献身的だったのかはインド人という彼の立場上いまいちよくわからない部分もあった。しかし、ヴィクトリア女王とその周りのイギリス人の正直すぎる反応に釘付けだった。
まずヴィクトリア女王の息子をはじめとする、側近の者たち。植民地から来たインド人なんてプライドの高い彼らは断じて相容れない。アブドゥルを女王のいないところでいじめたり、皆裏でコソコソと結託し、アブドゥルをみんなで引きずり下ろし追放しようとするが、一人で名乗り出て女王に抗議をすることはできない。一周まわって清々しいまでの態度である。
こういった異なる民族が出てくる話では最終的に分かち合い、民族の違いを超えて良き“理解者”が増えたりするものだが、この物語ではヴィクトリア女王以外一貫して変わることはない。この映画は分かち合えない事を、下手したらイギリスの印象も悪くなりかねないほど滑稽なまでに正面から描いている。
そして側近たちとは反対にヴィクトリア女王の好奇心旺盛だ。インドは植民地なので、ヴィクトリア女王はインド女帝でもあった。それにも関わらずアブドゥルにも普通に会話し、興味が出てきたので、今度はインドの言葉を習おうとする。アブドゥルはインド人だが宗教はヒンドゥー教ではなくイスラム教徒で、言葉もヒンディー語ではなく、ウルドゥー語(ヒンディー語の同系言語に当たり、ヒンディー語との発音による意思疎通は可能だが、文字的にはアラビア語によく似ている言語)を教える。アブドゥルはウルドゥー語は庶民的なヒンディー語よりも洗練された言語だと言う。そこからヴィクトリア女王はウルドゥー語を習い始める。側近たちの反応はある種“普通”な反応だったこの時代に、そんな地位が高いのに、言葉を習ってからはムンシ(師の意味)と呼んで先生として敬ったり、側近たちのアブドゥルへの直訴に対して理路整然と理由を述べ跳ね除ける。その分け隔てのない“普通”な姿勢がすごい。
やっぱり飛びぬけた人は中途半端にひけらかさないのだ。だってそれが“普通”なのだから。
今回の物語:
『ヴィクトリア女王 最後の秘密』スティーブン・フリアーズ監督
参考資料:
チャレンジ41か国語~外務省の外国語専門家インタビュー~ 2010年2月 ウルドゥー語の専門家 芦田さん
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/staff/challenge/int37.html
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる