【完結】 「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります

廻り

文字の大きさ
18 / 37

18 リーゼルと新人官吏たち3

しおりを挟む

「貴様……。リーンハルトに何をしようとしていた!」
「これは……その……」

 先ほどまでの熱に浮かされていたようなパウルは、一気に恐怖心へと変わっている様子。ディートリヒに問われて、震え出した。

(陛下が助けにきてくれたなんて……)

 リーゼルは心臓をばくばくさせながら、ディートリヒを見た。
 ワゴンを倒す音は大きかったけれど、執務室までは距離がある。例え音が聞こえたとしても、息を切らせてまで走って来るだろうか。

「陛下! 急にどうなさったんですか! これは?」

 そこへさらに部屋に入って来たのはレオンだ。ディートリヒの後を追ってきたようだ。

「リーンハルトがこいつに襲われていた。連れて行って事情を吐かせろ」
「承知いたしました」

 パウルはレオンによって部屋から連れ出された。そのあとになってようやく、厨房付近にいたであろう使用人が様子を見にきた。
 その者たちに仕事へ戻るよう指示を出してから、ディートリヒは改めてリーゼルの前へと膝をつく。

「リーンハルト……」

 リーゼルは急に身体が震えてきた。
 恐怖しながらも必死に抵抗したせいで、力が抜けてから震えがやって来たようだ。
 心配そうに見つめてくる陛下の顔を見ると、ますます感情が素直に溢れ出てくる。

「陛下……怖かったです」

 彼の袖を掴んでそう吐露すると、ディートリヒはリーゼルの震えを押さえ込もうとするように、リーゼルを抱きしめた。

「すまなかった。俺の配慮が足りなかった」

 ディートリヒが悪いわけではない。全ては、相手の気持ちも考えずに強攻したパウルのせい。

「怖い思いをさせてしまい、本当にすまなかった……」

 けれどディートリヒは、リーゼルが泣き止むまで謝罪を続けた。



 リーンハルトとともに執務室へと戻る途中、ディートリヒは先ほど味わった感覚を思い出していた。
 先ほどは急に、リーンハルトが助けを求めている気がして、無我夢中で駆けつけたらあのような場面に遭遇した。
 まるで、リーンハルトと心が繋がっているような気分だった。
 番だからこのような感覚を得ているのか、それとも好きすぎて感覚が過敏になっていたのか。

 

 執務に入るとそこには、縄で拘束され床に座らせられているパウルの姿が。
 尋問をしていた様子のレオンが、二人へと目を向けた。

「この者はアカデミー時代から、リーンハルト卿への想いを一方的に募らせていたそうです。アカデミーでも似たような事件を起こしたそうで、リーンハルト卿が退学するきっかけとなったようです……」

(リーンの退学の理由がこんなひどいことだったなんて……)

 リーゼルは唖然とする。リーンハルト本人は、アカデミーに馴染めなかったとだけ話していたが、まさかこれほどの事件が起こっていたとは。
 そんなことを知りもせず、リーンハルトは内向的だから仕方ないと、両親もリーゼルも慰めていた。
 その慰めすら、リーンハルトにとっては辛いものであっただろう。リーゼルはぷるぷると震え出した。

「リーンハルト。辛いなら部屋から出ているか?」
「いいえ……。おかげで今は怒りのほうが強いです」

 リーンハルトは新しい環境に不安を感じながらも、アカデミーへ通うことを楽しみにしていた。
 そんな兄の気持ちを踏みにじったパウルを許せない。

「リーンハルト、泣いていたのかい? お詫びに俺を打ってくれて構わないよ」

 パウルのその言葉を引き金にして、リーゼルは大きく手を振りかざす。
 そしてパウルの頬めがけてその手を振り下ろそうとしたところで、ディートリヒに手首を掴まれた。

「止めておけ」

 冷静なディートリヒを見てリーゼルは、怒りに任せて自分が何をしようとしていたか気づかされる。

(いくら腹立たしくても、暴力に訴えるのは良くないわよね……)

 反省するリーゼルに向けて、ディートリヒは何とも言えない表情を浮かべた。

「あいつが喜びそうだ」

(え……?)

 どうやら、リーゼルの暴力を止めるためではなかったようだ。改めてパウルに目を向けて見ると、彼はなぜか紅潮した表情でもの欲しそうな表情を浮かべている。
 リーゼルは身震いした。

 以前、カイから聞いたことがある。世の中には、女性に打たれて喜ぶ男性もいるのだと。パウルの場合はさらに特殊で、男性に打たれたい人のようだ。

 もうパウルに対しては、どう接するのが正解かわからない。リーンハルトの退学は実は、もっとも彼に対して有効的な対処だったのかもしれない。

「リー!」

 そこへカイが、勢いよくドアを開けて駆け込んできた。騒ぎを聞きつけたのか様子を見に来てくれたようだ。
 家族と言っても過言ではない彼の登場で、リーゼルは再び涙腺が緩みそうになる。

「カイ……」
「ごめん! 俺が付いていなかったせいで……!」
「カイのせいではないから……」

 カイと同じ部署だったなら、このようなことも回避できたかもしれない。けれど、陛下の侍従になると決めたのはリーゼルだ。彼はなにも悪くない。

 悔む様子のカイに、ディートリヒが声をかけた。

「カイ・アイヒ卿だったか」
「はい陛下」
「リーンハルトと友人のようだな。邸宅まで送ってやってくれないか」
「承知しました陛下」

 丁重に引き受けたカイは、それからリーゼルの肩を抱いてドアへと導いた。今ばかりは他人の目があっても、完璧使用人のカイは影を潜め、幼馴染としてリーゼルを心配している。

「リー、俺たちの家へ帰ろう」
「うん……」

 二人が静かに執務室を去ったあと、レオンはディートリヒに視線を向けた。

「陛下。この者の処遇をどういたしましょうか。……陛下?」

 しかし未だ、ディートリヒは呆然とドアを見つめたまま。レオンの声など聞こえていない様子。
 そして、ぼそっと呟いた。

「今、アイヒ卿は、俺たちの家・・・・・と言わなかったか……」
「ああ。アイヒ卿はシャーフ家に仕える家ですから、タウンハウスで同居しているのでしょう」

 地方貴族ではよくあることだ。なぜわざわざ気にするのかと、レオンは疑問に思う。

「はは。まさかこんなところに、伏兵がいたとはな……」

 ディートリヒは、さらによく解らない笑い声をあげたが、その表情は獲物をでも狙っているかのように恐ろしいもの。
 それを見ていたパウルは、恐怖のあまり床を濡らした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

蝋梅
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...