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輝く龍に会いました。

別人の自分

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自分の頬に触れてみる。

よく乾燥肌になってしまう前とは違って、とても滑らか。
顎のラインも、前よりシュッとしてる気がするし。
眉は整えていないのに、細めで綺麗な形をしている。
あたしが毎回剃っていた時と同じ形だ。

そして、前よりも、色白。

日にあまり当たっていないだろう、あたしよりも、綺麗な顔だ。
あたしよりもまつ毛が長いし、目が茶色い。

これはあたしじゃない。

あたしにそっくりな、別人だ……。

「姫様……?」

呼ばれて、あたしは鏡を下ろした。
なんだかショックで肩を下ろした。

どうしよう。

あたし、ここの姫様に“なって”るんだ。
間違いなんかじゃなくて、あたしが、乗り移ってるみたいに…

どうしよう。

前の姫様は?  いったい、どうなったの? 
私の元の身体は、どうなった?
もしあの時死んでしまったのなら、元の利伊姫とまるっきり入れ替わったとは考えにくい。
それとも、あっちで九死に一生を得て生きているのか、植物状態だとか……。
いろんな憶測を出してみても、現実味を帯びない。
でも、今確実にあたしはあたしでない別の誰かで、この場所に生きている。

なんて説明するべきなんだろう?

あたしは姫であって、姫ではないのに。

誰がそんなこと、信じるの?


オロオロと目を泳がせていると、涼太郎と名乗っていた男が、優しく手を握った。

「とても混乱していらっしゃるのですね。
まだ体調が優れないのですから、少しお休みになってください。
ご安心ください。
この涼太郎、あなた様のお傍におりますから」

優しく微笑むその姿は、まるでどこかの執事のようで、少しドキッとした。

「涼太郎、さん?」

彼は目を丸くしたが、またフッと笑って告げた。

「涼太郎、で構いません。
あなた様はいつもそう呼んでおりました」

どこか寂しそうに眉を潜めた。
その表情が少し気になったが、あたしは彼の言う通り体をまた横にした。

急に睡魔が襲ってきて、体がぐったりする。

「すみません、私……」
「ご心配いりません。
ゆっくりお眠りください。
さ、皆の者は一度部屋から退散致しましょう」

涼太郎も含め、女の人もまた襖の外に出ていった。
すぐ外は廊下らしく、1列に歩いていくのが透けて分かった。

どうやら、外は庭らしい。
光がほんの少し差し込んでくる。

どんどん瞼が重くなり、あたしは襖の外で座る涼太郎の背中を限界まで見つめて、目を閉じた。

なんだか、大変なことになってしまった。

死んだら、姫になってしまった。
夢なら覚めてくれればいいけど。 
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