初恋のキミ

天野 奏

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熱の幻想

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「……………なんで、その格好?」

「えと、どちらかと言うと、夏はこんな感じで………」

私は昨日履いてたやつと色ちがいの紺のルームウェアに、タンクトップという格好でベ ッドに座っていた。

さすがに昨日のようにノーブラではなく、カップインのやつにしたけど…

さすがに、空気読むべきでしたかね!?
寝る格好なんて、他にあんまり無いし…

先輩は「はぁー…」と大きな声でため息をついた。

「ホントに、誘ってんの?」

「いえ、ホントに、そういうんじゃ…」

「他に服無いの?」

「冬物出せば…でも、めんどくさいっていうか……」

「そこは無理してでも探せよ」

ツンと刺さる言い方をされて、少しビクッとする。

そりゃそうか……これじゃ狙ってるようにしか、見えないし………。

てか、警戒心無さすぎ?
私、やっぱり体調おかしいのかな……。

「……これ、着てないから、羽織れ。
無いよりマシだろ?」

そう言って渡されたのは、薄めの長袖パーカー。
YONEXのロゴがあって、テニス用のものだと分かった。

「あ、すみません………」

「病人なんだから、ちゃんと治せ。
なんか、下に履く長ズボンとか無いのか?」

「あ、あります……」

「履け」

「はい………」

なんとなくしょんぼりして、仕方なく上から履く。

ベッドに横になると、先輩はそっぽを向いてため息をついた。

「ホントに、俺を男と見てないよな」

「いえ、そんなことは……!」

「俺はあんたの保護者でもなんでもない。
こんなこと、言わせんな」

相当頭に来たのか、また「あんた」呼びに戻っている。

なんか、せっかく、色々お世話になったのに……台無し。

目に、涙が浮かんだ。

何してんだろ、私。
バカみたい………。

「ごめんな……さい………うぅっ……」

バカみたい。
先輩が怒るのも当然なのに。
また、男として見られてない、って思わせて、傷付けてるのに。
私は、一体、何がしたいんだろう?
なんで、私が、泣いてるんだろう?

先輩が、まためんどくさそうに頭をかいた。

「泣くなよ」

「だって…っ……なんか……泣けてきて………」

わ、私、スゴくめんどくさい。

「俺も泣かせたい訳じゃない」

「わ、私だって………っ………」

両手で顔を覆う。
泣き止まなくちゃ。

なんで悲しく感じるんだろう?
なんで、止まらないんだろう?

やっぱり、まだ、私は変だ。

ベッドが軋んだかと思えば、両手が押さえられた。

真上に、夕日に照らされた先輩の姿がある。

「泣くな。
これ以上泣くなら、犯す」

いつにもまして真剣に、鋭い口調で告げる先輩。


あー、やっぱり、今の私は、変なんだ。


「………良いですよ?」

自分の口から、細い声が漏れた。

「は?」

「先輩、言ってたじゃないですか……壁を乗り越えないと…って………私、明日……マネージャーの申請、してこようと思います……だから、私……私を………」

「………本気で言ってんの?それ」

先輩のトーンが低すぎて、感情が読み取れない。

「……私、ちゃんと、先輩を…男だって、思ってます………だから……大丈夫です………きっと………嘘だって、思われたくないです………私………」

言葉がつっかえつっかえになる。

「好きでもない男と寝ることがそんなに大事か?」

「え……………?」

「何を焦ってんのか知らねーけど、俺は誰彼構わず寝たりしない。
俺が壁を越えろと言ったのは、こういうことじゃない」

「っ………」

「俺も勘違いさせて悪かった。
ただ、お前も女なんだから、そういうのは大事にしろ。
身を売るようなことはすんな」

そう言って、先輩は手を放して、涙を拭くと頭を撫でた。

「疲れてんだろ?
寝とけ。
お前が寝たら、帰るから」

そう言って、先輩がシャツを着始めた。
腕を通すその姿が、なんだか綺麗で。

「せんぱい………っ
すみません………」

自分で言ってて、恥ずかしくなった。

「俺も、悪かった」

ネクタイを締めながら、振り返る先輩を見て、キュッと切なくなる。

この気持ちをなんと呼ぶのか、私は知らなかった。


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