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入れ替わってる!?……いやいや冗談抜きで

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「はぁ………」

仕方なく、3年の教室へ戻る。

京野 亜貴のことは知らないが、武田先輩が何組かは分かる。

確か……3年2組………


ガラガラガラ………


「あ!亜貴!」

!?!?

扉を開けた直後、目の前に武田先輩が現れた。

「武田……せっ……!」

だ、ダメだ待て待て!
武田先輩なんか呼んだらおかしいだろ!?
同級生、なんだし……一応。

「?やっぱ変なの。
帰ってこないから探し行こうかと思ったところだったのに」

「そ、そう……か」


お、落ち着け自分!

女子なわけじゃないんだ!

あいつだって自分のこと“俺“って呼んでたし。

いつも通り、男っぽくして、なるべく口数減らせば……!


「……?
教室入るんじゃなかったの?」

「あ、そ、そう……教室に………」


…………orz


無理だ!不自然だ!
こいつっぽくなんて喋れない!!

「……変な亜貴。
今日は一段と変だねー」

教室に入ると、ちょうどチャイムが鳴った。

席につき、一呼吸置く。

ヤバ、武田先輩のことなんて呼んでるか聞いてない……!

とにかく、こいつのことを知らなくちゃ……!

「い……いつものオレって、どんなんだよ」

「ん~……。

マイペースで
無口で
授業中寝てて
エロくて
喧嘩っ早くて
問題児で
手のかかるヤツ?」


…………。


良いとこないじゃん!?


なんなんだよあいつ!

マジでろくでなしかよ!


オレの身体……大丈夫かな……?


頭を抱えると、武田先輩はそれと……と付け足す。

「結構、嫉妬深いよね」

「嫉妬?」

「うん。
すぐにムキになるところあるし。
あんま顔に出さないようにしてるっぽいけど…」

「バレバレだから」と、先輩はにっこり笑った。

わ……この笑顔……!

素敵過ぎる!!


ハッ!てか、今って、オレ、ちゃっかり先輩独占!?

わー!ちょっと、嬉しいかも……!

いや、でも、キャラはブレちゃいけないし……
この場合なんて言うか……

「……そんなダメ男だと思ってんなら、ほっとけばいいのに」

自信無くて、小声で口に出して、顔を逸らすと、先輩はフッと笑った。

若干、亜貴に対する憎悪が滲んでるんだけど。

「変なの。
まぁ、なんて言うか、ほっとけないんだよね。
1人にすると危なっかしいし、案外不器用だから」

「………」

そう言う先輩の眼差しが優し過ぎて、なんか、自分が大切にされてる気がして、胸が熱くなる。

わー……いい思い出が出来ました。

神様ありがとうっ!

だから……身体元に戻して!!(泣)


ガラガラ……

「いつまで出歩いてる?
授業始めるぞー」

みんながガヤガヤと席に着く。

オレは前を見てるフリして、チラッと先輩を見る。

長い睫毛に、ツーブロックの茶色っぽい短髪。
髪型は結構ツンツンしてるのに、優しい眼差しと笑った時の柔らかい表情が……

キュンとするんです、はい。

てか、こんなに近くで、マジマジと先輩を見たの初めてだ……。

いいなぁ……この男は、先輩の近くにいられて。

そういう意味では、この男と入れ替わってるのも、悪くないかも。


もっと、先輩を見ていたい……。


ふと、先輩がこっちを見て、ドキッとする。

嘘……目が合った……!


「亜貴。
呼ばれてる」

「は!はい!!」


ガバッと立ち上がると、周りから笑いが漏れた。

「おう、京野。
これ、読め」

そこには、英語で一文が書かれていた。

でも、達筆なのと、全く知らない単語ばかりだ。


「……読めねえ!!!」

「は!?」

周りがガヤガヤとして、恥ずかしくなる。

うわー穴があったら入りたい!

「俺の字が読めねえってか!
じゃあ武田!お前代われ」

うわー……先輩に代わらせちゃったよ~

マジ、恥でしかない。

「One of the rules of a discussion is that ………」


ドキッ……


思わず、顔を上げた。

武田先輩を見ると、黒板を見たままスルスルと英語を話している。

「………the subject being discussed, and not wander away from it.」

おお~~!!

凄い!これが先輩の力か!?

それとも高3の力……!?

「「おお~~!!」」

周りから拍手が上がる。

「さすが武田!
発音も最高だな!
京野も武田を見習ってもっと頑張れよ!」

「……はい」

口ではしょぼんとしていたが、心の中では先輩への拍手が止まらなかった。

ヤバい!
武田先輩……こんなカッコいいんだ!

ヤバい……やっぱ好きだわ。
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