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入れ替わりマニュアル…って、こんなの無理!!

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 ポン……ポンポンポン………

ボールが足に転がってくる。

「……やる?」


…………。


なんで今……。


立ちすくむオレの横に、亜貴が立っていた。

「なんで……」

「男子も休憩延長だと。
コート空いてるし、勝負する?」

「…………」

黙っていると、ガシッと腕を掴まれて、コートに連れてかれた。

「えっ、ちょ……!」

ヒュッ……

バシッ!!

ボールを投げつけられて、慌ててキャッチする。

「なん……!」

「俺が勝ったら、理央の話バラす」

「はっ!?」

2人にしか聞こえない距離とはいえ、突然の話に焦る。

「お前が勝ったら……言うこと聞いてやるよ」

「………」

つまり、そしたら、オレから離れてくれるのか?
バスケ部からいなくなって……!


「……いいよ、やるよ」


ボールを床についた。

1on1のオレの先制。

何点勝負とか、なんも話してないけど、オレたちはボールを取り合った。

こんなデカくてバカみたいに強い相手にボール取られたら、一瞬で持ってかれる……。

お互いの駆け引きが繰り返されるうち、隙を突こうと突進して、読まれたところに亜貴がはばかり、背中合わせになって止まってしまった。

ゴール下で、あと一歩踏み出せばシュート出来る位置。

ピボットで抜こうにも、さすがに大きさが違い過ぎた。

「……どうする?
やり直すか?
それとも俺がボール取ってもいい?」

「……やだ。
こっからでも勝つ!」

いっそのこと、肘で押して間開けるか?

でも上で叩かれる可能性が高い。

この高い身長の相手を抜くなら、絶対に横だ。

どうする……?

「純!!」

ハッと、声のする方を見ると、キャプテンが反対側で手を挙げていた。

「はい!!」

「っ!」

自然と、パスを出した。

気付いた亜貴が手を伸ばすも、あと少しのところで届かない。

そのままシュートを打たれると思った亜貴がキャプテンの前に向かおうとしたところで、ボールがワンバンして返ってきた。

……いける!

俺はキャプテンに向かう亜貴の背中をすり抜け、ゴールに駆けた。


ポスッ………


やった……!

「かっ、勝ったぁあああ!!!」

「ナイシュー!純!」

キャプテンとハイタッチを交わす。

「はい!ありがとうございますキャプテン!!」

「わ、初めて敬語じゃない?」

「あ……ま、まぁ、お気になさらず……」


後ろでバタッと倒れる音がして、慌てて振り返った。


!?
まさか、また入れ替わっ……!?


「あー疲れたー。
てか、ズルくない?」

短く呼吸を吐きながら、汗だくの亜貴が額に手の甲を当ててこちらを見ている。

ホッとしたのと同時に、ちょっとニヤける。

こいつ、意外と負けず嫌い?

「勝負するとは言ったけど、1人でとは言ってないよな。
勝ちは勝ち、負けは負けだろ?」

ニヤニヤしながら亜貴の横で屈むと、亜貴はスッと身体を起こした。

「……やっと笑ったな」

「え……?」

「俺に会ってから、ずっと不機嫌だったから。
笑った顔案外可愛いんじゃね?」

か、可愛い……!?
このオレが!?

マジでたまにこいつ変なこと言うよな。

「ば、バカじゃねぇの?
オレが可愛いわけ……」

「女なんだから、褒められたら喜べよ」

「なっ……っ!?」

急に頭の上に手が乗せられて、ドキッとする。

「男の俺に力で勝てなくても、そうやって周りのヤツ頼ればいいだろ?
1人でなんでもやろうとするんじゃなくて、もっと素直に、人を頼って……。
もっと、自由に生きろよ」

フッと、亜貴が笑う。

その笑顔に、胸の奥がギューッと締め付けられた。


ビーーッ……


「はい、休憩終了。
京野くん、どうする?
体験入部は5時までで、部活自体は6時まであるんだけど……」

もうすでに5時になろうとしていた。

もうそんなに時間経ってたのか。

「……帰る。
面倒かけたな」

えっ………。

キュッ、胸が重い。

さっきとは違う重さがあった。

「そう。
校舎しまっちゃってるだろうし、男バスの部室借りて着替えたら?」

ドキンッ……

「そうする」

ドキンッ……

淡々としたやり取りが目の前で行われていたが、オレはこの気持ちが何なのか分からずに困った。

なんだこれ……

亜貴と、目が合わせられないや。


遠くから武田先輩が見ていることに、この時は気付かなかった。
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