ブス婚サルト

e36

文字の大きさ
43 / 46
第2式

第2式-12-「俺はこっちのが好き」

しおりを挟む
「まあ、素敵。それで?もっとお話し聞かせてくれないかしら?さっきの話なんて、茨の中のお姫様を王子様が見つけたみたいでとても魅力的よ。そうね、入場の演出にこう取り入れるのはどう?」
ニコニコとペンを滑らせる散垣さんの隣で、保奈美さんは穏やかな表情をしていた。

保奈美さんが散垣さんに怒鳴った後、意外とトントンと事態は丸く収まった。散垣さんの言った「私たちは他人」という言葉が、よくも悪くも彼女の肩にのしかかっていた荷を下ろしたらしい。
あれ以来、保奈美さんは嫌なものは嫌だときちんと主張するようになり、その代わりに少しずつ、人の称賛を素直に受け止めるようになってきつつあった。
「式のドレスが決まらないなら、先に披露宴のドレスはどうかしら。私、明るい色があなたに似合うと思うの。赤なんてどう?あなたの滑らかな白い肌と相まって、粉雪のかかる薔薇の様に素敵なはずよ」
「そ、そう?…で、でも、赤って膨張色って言うじゃない…?その…」
雲の上を夢見るようにうっとりとカタログを見つめる散垣さんの隣で、保奈美さんは戸惑いながらも照れ混じりに反応を返す。
その満更でもないという顔を見て、散垣さんは嬉しそうに焼き菓子を手に取った。
「赤は情熱的で素敵な色よ。見え方が気になるのなら、肩や胸元にフリルがたくさんあって、腰から下がボリューミーなこの形はどうかしら。気になるところを隠してくれるわ」
パクリと菓子を口に入れ、幸せそうに顔を綻ばせる散垣さんを見て、保奈美さんも自分が差し入れた菓子を手に取り笑顔を浮かべる。
散垣さんはコンサルタントとして、いや、商人としてすこぶる優秀だった。
ドレスが決まらないとあんなに嘆いていた保奈美さんに、あれよあれよとドレスの候補を絞らせていく。しかも、そのドレスのどれもが大きいサイズがあるものばかり。
「こ、このドレスも、いいかも…」
「まあ素敵!わかるわ。この形可愛らしいわよね。でもさっきのと似ているんじゃないないかしら。ねえ、田上さん、どのドレスがいいと思う?」
保奈美さんが選んでしまった大きなサイズのないドレスを、似た形だからとさりげなく候補から外した散垣さんは、保奈美さんに二の句を継がせないようにか田上さんに話を振った。突然回って来たバトンにもたじろぐことなく、彼は組んでいた足を解いて立ち上がると、保奈美さんの腕を引いて立ち上がらせる。
「きゃ!」
腕を引かれて軽々立ち上がったということは、保奈美さんも満更嫌ではなかったということだ。田上さんのことがということではなく、散垣さん以外の意見も聞いてみたいのだろう。
保奈美さんは楽しくなってきている。立ち上がってモジモジと田上さんと僕を見る彼女に、僕はそっと笑みを返した。
「……俺はこっちのが好きでごぜまーすわ」
田上さんはちゃんと大きなサイズのある、案外無難なドレスの写真を指先で叩いた。
可愛らしくてシンプルなドレスは、レースやフリルで肉を隠すそれとは違い、なかなかシンプルで体の線を強調する。
豊満な体を隠すドレスばかりを選んでいた保奈美さんだったが、そのドレスのデザインが余程可愛いのか、顔を赤くして取りかけていた焼き菓子を置いた。
「だ、ダイエットとか、してみようかしら…」
紅潮した頰。決してマイナスな気持ちから言い出したのではないことがわかる。
「まあ!私また違うあなたに会えるのかしら?保奈美さんの為なら、私お手伝いするわ。今のあなたと会えなくなってしまうのは、ほんのちょっぴり寂しいけれどね」
保奈美さんのふくふくとした頰を眺めて目を細める散垣さんの横で、田上さんがはあ?という顔をする。
「さっきから隠したり減らしたりわけわかんねーことを。武器を押し出さねーんでどうするんです」

その体もっとこっちに見せサービスしてくれてもいーんじゃねーですか、といった田上さんの肩をバチンと凄い勢いで叩いたのは、真っ赤になった顔でふにゃふにゃと笑う保奈美さんだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...