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お茶会デビュー
お茶会2
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ちょうど近くに2人分の席が空いていて、私達はそこに座ることにした。
今日のお茶会が将来のための場だというのは分かっているけれど…やっぱり、人はどうしても欲には逆らえないものだわ。私は人間なのだから、ここでケーキを食べても仕方のないことなのよ。
そう自分に言い聞かせたおかげだろうか。心の片隅で躊躇しながらも食べた一口目のケーキは、相変わらずの絶品だった。
「ん~!やっぱりおいひいわ!」
「…こんなに様子が変わるなんて、さっきまでの君の姿は幻だったんじゃないかと思えてきたのだけど」
頬杖をついているエドが呆れた声でそう言ってくれば、私は完璧な淑女の笑みを浮かべて反論する。
「どうせ近くには誰もいないじゃない。遠目からじゃ、ただ優雅にお茶をしているだけにしか見えないわ」
必要がないのに令嬢モードをONにしていても、ただ疲れるだけなんだから。
「…そういうところに感心していたんだよ。初めて参加する茶会でそこまでデザートを堪能するなんて、普通の令嬢だったら出来ないんじゃないかな」
それは、私が図太いって言いたいのかしら?よくわかったわね、確かに私はこのくらいのことじゃ緊張を感じないほどに図太いわ。
そんなこんなでしばらく会話をしていると、私は重要なことを思い出しハッとする。
どうしよう、私ったらすっかり誕生日を祝う言葉をエドに伝えるのを忘れていたわ!!
エドと話すタイミングを窺っている令嬢もたくさんいるみたいだし、今プレゼントを渡してしまって、すぐにでも私から開放してあげたほうがいいんじゃないかしら?
そう思い至った私はすぐさま、側にいたエリーにプレゼントを持ってくるよう声をかける。
「お嬢様、持って参りました」
「ずいぶんと早いわね、ありがとう」
私は有能なメイドを持ったものね。ああそういえば、エリーにはいつもお世話になっているから、何かプレゼントを用意しておかないとだわ。
そう思いを巡らせながらも、エリーに合図をしたらプレゼントをエドへ渡すよう伝える。
そして私は立ち上がってエドに向き直り、淑女の礼をする。
「お誕生日お祝い申し上げます、王太子殿下。つまらないものですが、そちらが私からの贈り物でございます」
と言ってエリーへ目で合図を送れば、エリーは数枚の資料をエドに差し出す。それを見たエドは「うん、ありがたく受け取るよ」とニッコリ笑い資料を手に取った。一通り目を通したようで、エドは驚いた様子で目を見開いた。
「…これは一体? 」
「メリルの花を黄金色へ品種改良する方法が記録された資料でございます。黄金は女神リアナ様を象徴する色ですので、王家に役立つかと」
黄金色のメリルの花。これにしようと思ったのは、お母様に『相手の色を使ったものがいい』と言われたからというのと、これを渡せば王家のさらなる繁栄につながると思ったから。2週間しか時間がなかったけれど、色々な人からの協力もあって無事に完成した。
これならきっと心から喜んでもらえるわ!
「はっ…誰も成し遂げることが出来なかったことを君が成し遂げるとはね。凄いどころじゃないよ。本当にありがとう」
そう言ったエドは、言葉こそ感謝にあふれていても、顔に浮かべてあるのは作り笑顔だった。
…あれ。そんなに喜んでない?
エドが笑顔を作る時は、いつだって本当の感情を隠す時だ。もしかしたら気に入ってもらえなかったのかもしれない。
そんなふうに不安になっていると、エドが椅子から立ち上がった。
「ごめんね、他の子を待たせてしまっているみたいだから僕はもう行くよ。ゆっくりしていてね」
「あっ…!待っ―」
待って?どうして?
元々私から開放するために贈り物を渡したのだから、止めなければいけない理由は無い。
何故か胸が痛むけれど、私は段々と遠くなるエドの背を、ただただ見つめていることしか出来なかった。
今日のお茶会が将来のための場だというのは分かっているけれど…やっぱり、人はどうしても欲には逆らえないものだわ。私は人間なのだから、ここでケーキを食べても仕方のないことなのよ。
そう自分に言い聞かせたおかげだろうか。心の片隅で躊躇しながらも食べた一口目のケーキは、相変わらずの絶品だった。
「ん~!やっぱりおいひいわ!」
「…こんなに様子が変わるなんて、さっきまでの君の姿は幻だったんじゃないかと思えてきたのだけど」
頬杖をついているエドが呆れた声でそう言ってくれば、私は完璧な淑女の笑みを浮かべて反論する。
「どうせ近くには誰もいないじゃない。遠目からじゃ、ただ優雅にお茶をしているだけにしか見えないわ」
必要がないのに令嬢モードをONにしていても、ただ疲れるだけなんだから。
「…そういうところに感心していたんだよ。初めて参加する茶会でそこまでデザートを堪能するなんて、普通の令嬢だったら出来ないんじゃないかな」
それは、私が図太いって言いたいのかしら?よくわかったわね、確かに私はこのくらいのことじゃ緊張を感じないほどに図太いわ。
そんなこんなでしばらく会話をしていると、私は重要なことを思い出しハッとする。
どうしよう、私ったらすっかり誕生日を祝う言葉をエドに伝えるのを忘れていたわ!!
エドと話すタイミングを窺っている令嬢もたくさんいるみたいだし、今プレゼントを渡してしまって、すぐにでも私から開放してあげたほうがいいんじゃないかしら?
そう思い至った私はすぐさま、側にいたエリーにプレゼントを持ってくるよう声をかける。
「お嬢様、持って参りました」
「ずいぶんと早いわね、ありがとう」
私は有能なメイドを持ったものね。ああそういえば、エリーにはいつもお世話になっているから、何かプレゼントを用意しておかないとだわ。
そう思いを巡らせながらも、エリーに合図をしたらプレゼントをエドへ渡すよう伝える。
そして私は立ち上がってエドに向き直り、淑女の礼をする。
「お誕生日お祝い申し上げます、王太子殿下。つまらないものですが、そちらが私からの贈り物でございます」
と言ってエリーへ目で合図を送れば、エリーは数枚の資料をエドに差し出す。それを見たエドは「うん、ありがたく受け取るよ」とニッコリ笑い資料を手に取った。一通り目を通したようで、エドは驚いた様子で目を見開いた。
「…これは一体? 」
「メリルの花を黄金色へ品種改良する方法が記録された資料でございます。黄金は女神リアナ様を象徴する色ですので、王家に役立つかと」
黄金色のメリルの花。これにしようと思ったのは、お母様に『相手の色を使ったものがいい』と言われたからというのと、これを渡せば王家のさらなる繁栄につながると思ったから。2週間しか時間がなかったけれど、色々な人からの協力もあって無事に完成した。
これならきっと心から喜んでもらえるわ!
「はっ…誰も成し遂げることが出来なかったことを君が成し遂げるとはね。凄いどころじゃないよ。本当にありがとう」
そう言ったエドは、言葉こそ感謝にあふれていても、顔に浮かべてあるのは作り笑顔だった。
…あれ。そんなに喜んでない?
エドが笑顔を作る時は、いつだって本当の感情を隠す時だ。もしかしたら気に入ってもらえなかったのかもしれない。
そんなふうに不安になっていると、エドが椅子から立ち上がった。
「ごめんね、他の子を待たせてしまっているみたいだから僕はもう行くよ。ゆっくりしていてね」
「あっ…!待っ―」
待って?どうして?
元々私から開放するために贈り物を渡したのだから、止めなければいけない理由は無い。
何故か胸が痛むけれど、私は段々と遠くなるエドの背を、ただただ見つめていることしか出来なかった。
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