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精霊祭
精霊祭のフィナーレ
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精霊祭三日目。最終日の今日は精霊を祠から帰っていただく神事が執り行われる。これは精霊祭のフィナーレを飾るに相応しい結構派手な神事で、観光客からすれば最も見ごたえのある、精霊祭のメインイベントだと言っても過言では無いだろう。
「メイティはまだ寝込んでるの?」
心配そうに言うミレアにルークは答えた。
「うん。熱は下がったけど、大事を取って今日は家で横になってるって」
ミレアの質問に嘘の答えで応じるのは三度目。これが最後だと自分に言い聞かせるしか無いルークの心をエディの言葉が更に苦しめる。
「そっかー、残念だね。年に一度の、特に今年はボク達の契約の年なのに……」
もちろんエディに悪気は無い。それどころかエディも本気で心配している。それがわかるだけにルークの心は重くなる一方だ。だが、そうと悟られるわけにはいかない。
「うん……だから皆はその分楽しんで来てってさ」
ルークは作り笑顔でそう言うしか無かった。
*
日が暮れると精霊祭はいよいよクライマックスを迎える。祭壇へと続く道をパレードがやって来た。
先頭は地の精霊と契約している魔法使い達で、歩きながら花や木の実等を撒いている。これらはお守りになるというので見物客はひとつでもキャッチしようと躍起になっている。
次に続くのは水の精霊と契約している魔法使い達。大きなバケツに水を沢山入れ、柄杓で回りの見物人に水をかけながら歩いている。この水を浴びると縁起が良いという話で、しかも暑い夏の夜だけあってみんな喜んで水を浴びせられている。
三番目は火の精霊と契約している魔法使い達。大小様々なローソクや松明を振り回し、火の粉を撒き散らしながらのパレードだ。この火の粉を浴びると無病息災のご利益があると言われているが、やはり火の粉を浴びるのは勇気が要る様で、見物客は逃げ腰になっている。
最後尾は風の精霊と契約している魔法使い達。色とりどりの紙吹雪を撒きながらのパレード。水を浴びて濡れた見物人の身体にペタペタ貼り付いているが、この紙吹雪ももちろん縁起物だ。
そして遂にフィナーレの時がやってきた。パレードの魔法使い達がノームの祠の前に置かれた大きな瓶に花を、シルフの祠の前の瓶には紙吹雪を、ウンディーネの祠の前の瓶には水をそれぞれに捧げ、最後にサラマンダーの祠の前に置かれた瓶に油を注ぎ、松明の火を移す。油の表面が燃え、炎が立ち上がる。頃合を見てステラ王女が祝詞を上げ始めると、精霊祭会場は静まりかえり、ステラの声だけが響く。
祝詞奏上が終わり、精霊祭の会場に静寂が訪れたと思うとシルフによる風が四つの瓶を中心に渦を巻いて炎の柱と水の柱を立ち上げ、花と紙吹雪が宙を舞って空を鮮やかに彩った。これは精霊の意思表示で、炎の柱と水の柱が高ければ高いほど、花と紙吹雪が派手に舞えば派手に舞うほど精霊達が喜んでいると言われている。今年はここ数年でトップレベルの高さの炎の柱と水の柱が立ち上がり、派手に花と紙吹雪が舞った。
大歓声が沸き起こり、炎の柱と水の柱が空に吸い込まれる様に消え、花と紙吹雪が舞い散る中、精霊祭は終わった。
「空一面の花と紙吹雪は綺麗だったわよね」
「いや~、なんと言っても炎の柱と水の柱が渦を巻いて空へ上って行くんだぜ。ありゃ凄いわ」
「ステラ様、綺麗だったなぁ」
「今年はパレードの木の実、取れなかったよ……」
「なんだお前、ノリ悪いなぁ。全然水浴びてないじゃないか」
見物客は口々に祭りの感想を話しながら帰っていく。
「終わっちまったな」
デイブがポツリと言った。祭の後というのはやはり寂しいものだ。
「メイティも一緒に見たかったね」
ミレアが残念そうに言った。デイブと晴れて恋人同士となったのだから「二人だけでみたかった」などと言っても良さそうなものなのに……実に友達思いの良い子だ。
人波に乗ってルーク達も精霊祭の会場を後にしたが、ルークはステラの事が気になってついつい歩きながら祭壇の方を振り返りってしまう。精霊祭が終わった今となっては祭壇にステラの姿が望める筈も無いのに。
「ルーク、何後ろばっかり気にしてんだ、精霊祭、そんなに感動したか?」
デイブがルークの肩を叩くとミレアがニヤニヤしながら言った。
「もしかして、ステラ様がまた祭壇に現れないかって思ってるとか? メイティに言いつけちゃうわよ」
確かにミレアの言う通りだが、ミレアの言うメイティがステラ様その人なのだ。そんな事を言いつけられると恥ずかしい事この上無い。
「い……嫌だなぁ、ミレア。そんなんじゃ無いよ。ただ、凄かったなぁって……」
誤魔化す様に言うルークをフォローする様にデイブが話題を変えた。
「明日は終業式、そんで夏休みだな」
「夏休みが終わるといよいよ精霊との契約だね」
エディもしみじみと言った。そう、夏休みが終わればいよいよ精霊との契約、魔法使いとしての第一歩が始まるのだ。
「メイティはまだ寝込んでるの?」
心配そうに言うミレアにルークは答えた。
「うん。熱は下がったけど、大事を取って今日は家で横になってるって」
ミレアの質問に嘘の答えで応じるのは三度目。これが最後だと自分に言い聞かせるしか無いルークの心をエディの言葉が更に苦しめる。
「そっかー、残念だね。年に一度の、特に今年はボク達の契約の年なのに……」
もちろんエディに悪気は無い。それどころかエディも本気で心配している。それがわかるだけにルークの心は重くなる一方だ。だが、そうと悟られるわけにはいかない。
「うん……だから皆はその分楽しんで来てってさ」
ルークは作り笑顔でそう言うしか無かった。
*
日が暮れると精霊祭はいよいよクライマックスを迎える。祭壇へと続く道をパレードがやって来た。
先頭は地の精霊と契約している魔法使い達で、歩きながら花や木の実等を撒いている。これらはお守りになるというので見物客はひとつでもキャッチしようと躍起になっている。
次に続くのは水の精霊と契約している魔法使い達。大きなバケツに水を沢山入れ、柄杓で回りの見物人に水をかけながら歩いている。この水を浴びると縁起が良いという話で、しかも暑い夏の夜だけあってみんな喜んで水を浴びせられている。
三番目は火の精霊と契約している魔法使い達。大小様々なローソクや松明を振り回し、火の粉を撒き散らしながらのパレードだ。この火の粉を浴びると無病息災のご利益があると言われているが、やはり火の粉を浴びるのは勇気が要る様で、見物客は逃げ腰になっている。
最後尾は風の精霊と契約している魔法使い達。色とりどりの紙吹雪を撒きながらのパレード。水を浴びて濡れた見物人の身体にペタペタ貼り付いているが、この紙吹雪ももちろん縁起物だ。
そして遂にフィナーレの時がやってきた。パレードの魔法使い達がノームの祠の前に置かれた大きな瓶に花を、シルフの祠の前の瓶には紙吹雪を、ウンディーネの祠の前の瓶には水をそれぞれに捧げ、最後にサラマンダーの祠の前に置かれた瓶に油を注ぎ、松明の火を移す。油の表面が燃え、炎が立ち上がる。頃合を見てステラ王女が祝詞を上げ始めると、精霊祭会場は静まりかえり、ステラの声だけが響く。
祝詞奏上が終わり、精霊祭の会場に静寂が訪れたと思うとシルフによる風が四つの瓶を中心に渦を巻いて炎の柱と水の柱を立ち上げ、花と紙吹雪が宙を舞って空を鮮やかに彩った。これは精霊の意思表示で、炎の柱と水の柱が高ければ高いほど、花と紙吹雪が派手に舞えば派手に舞うほど精霊達が喜んでいると言われている。今年はここ数年でトップレベルの高さの炎の柱と水の柱が立ち上がり、派手に花と紙吹雪が舞った。
大歓声が沸き起こり、炎の柱と水の柱が空に吸い込まれる様に消え、花と紙吹雪が舞い散る中、精霊祭は終わった。
「空一面の花と紙吹雪は綺麗だったわよね」
「いや~、なんと言っても炎の柱と水の柱が渦を巻いて空へ上って行くんだぜ。ありゃ凄いわ」
「ステラ様、綺麗だったなぁ」
「今年はパレードの木の実、取れなかったよ……」
「なんだお前、ノリ悪いなぁ。全然水浴びてないじゃないか」
見物客は口々に祭りの感想を話しながら帰っていく。
「終わっちまったな」
デイブがポツリと言った。祭の後というのはやはり寂しいものだ。
「メイティも一緒に見たかったね」
ミレアが残念そうに言った。デイブと晴れて恋人同士となったのだから「二人だけでみたかった」などと言っても良さそうなものなのに……実に友達思いの良い子だ。
人波に乗ってルーク達も精霊祭の会場を後にしたが、ルークはステラの事が気になってついつい歩きながら祭壇の方を振り返りってしまう。精霊祭が終わった今となっては祭壇にステラの姿が望める筈も無いのに。
「ルーク、何後ろばっかり気にしてんだ、精霊祭、そんなに感動したか?」
デイブがルークの肩を叩くとミレアがニヤニヤしながら言った。
「もしかして、ステラ様がまた祭壇に現れないかって思ってるとか? メイティに言いつけちゃうわよ」
確かにミレアの言う通りだが、ミレアの言うメイティがステラ様その人なのだ。そんな事を言いつけられると恥ずかしい事この上無い。
「い……嫌だなぁ、ミレア。そんなんじゃ無いよ。ただ、凄かったなぁって……」
誤魔化す様に言うルークをフォローする様にデイブが話題を変えた。
「明日は終業式、そんで夏休みだな」
「夏休みが終わるといよいよ精霊との契約だね」
エディもしみじみと言った。そう、夏休みが終わればいよいよ精霊との契約、魔法使いとしての第一歩が始まるのだ。
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