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決行前夜

それぞれの気持ち

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 暫くして戻ったソルドの手にはルームキーが三つ握られていた。

「今、二人部屋しか空いてないんだそうだ。ルークとステラ様は同室として……デイブ、エディ、一応聞いてやるぜ。誰と一緒が良い?」

 尋ねたソルドにデイブとエディは即答した。

「俺は……ミレアと一緒が良い」

「ボクも……シーナと一緒に居たい」

「だろうな。野暮な質問して悪かったな」

 ソルドはデイブとエディに向かってニヤっと笑った後、ミレアとシーナに向き直り、真面目な顔で二人に言った。

「さて、お嬢さん方。コイツ等はストレートに自分の気持ちを口にしたぜ。もちろん嫌だったり恥ずかしかったりしたらはっきり言わなきゃダメだ。どうする?」

 ソルドが一応ミレアとシーナに選択の余地を与えたのだが、こんな状況で拒む様な二人では無い。

「私もデイブと一緒に居たい」

「私もエディとなら……」

 ミレアとシーナは震える声で、しかしきっぱりと言い切った。

「デイブ、エディ。良かったな。だが、もしお嬢さん方を傷付ける様なマネをしたら……ガイザス殺る前にお前等殺っちまうからな」

 ソルドの言葉にデイブとエディはぞっとして青ざめた。するとソルドは苦笑いしながら言った。

「そんな顔すんな。傷付けなきゃ良いだけの話だからよ。じゃあ今日はお前等だけでメシでも食ってこいよ」

 言うとソルドはルークにひと握りの金貨を渡した。それはルフトの物ともアルテナの物とも違う、ルークが見た事の無い金貨だった。

「兄さん、コレは?」

「ガイザスの金貨だよ。心配すんな、本物だ。ちゃんと準備してたんだよ」

「ありがとう兄さん」

 ガイザスの金貨を受け取ったルークはデイブ達と宿屋を出て、近くの食堂へと向かった。

          *

 歩きながらルークがステラに言った。

「それにしても、よくゼクス様が許してくれたね」

「何の事ですか?」

「いや、ガイザスに攻め入る事だよ」

 何を言ってるのかといった顔のステラにルークが言った。するとステラはにっこり笑って恐ろしい事実を口にした。

「お許しなんかもらってませんよ」

「へっ?」

 ルークは思わず聞き返した。ステラの言葉が聞き取れなかったのでは無い。ステラの言葉を受け入れたく無かったのだ。だが、ステラは無情にもルークが受け入れたくない現実について笑顔で自分の見解を踏まえた上でストレートに話した。

「お父様が許して下さる訳無いじゃないですか。だから黙って来ちゃいました」

「本当に?」

「はい」

 それはそうだろう、少し考えれば、いや、考えるまでも無く娘が男を追って戦場に行く事を許す父親など居るワケが無いのだ。

「うわあっ、こりゃお城は大騒ぎだよ……」

「大丈夫ですよ。『ルークのところに行って来ます』って置き手紙はしておきましたから」

「ゼクス様、まさかボクがガイザスに居るとは思ってないんだろうな」

 頭を抱えるルークにステラは気楽な顔であっさり言った。

「おそらく知らないでしょうね。ドルフにも話して無いんでしょう?」

「そりゃそうだよ。ルフトの人間だけで事を運ぶつもりだったのに……アルテナとガイザスの戦争に発展しちゃったらどうしよう」

 嘆く様に言うルークにステラはまたもあっさりと言った。

「そうならない様に頑張りましょうね」

          *

「ごめんなさい、勝手な事しちゃったかしら……」

 食事を終え、紅茶を口にしながらシーナがルークに詫びた。だが、デイブは怒った顔で吐き捨てる様に言った。

「何言ってんだよシーナ。ルークの方が先に勝手な事やりやがったんだぜ」

 デイブはまだルークが黙って一人でガイザスに行ってしまった事を根に持っている様だ。だが、ミレアがデイブよりも遥かに怒った顔でルークに向かって言った。

「そもそもあなたたち無茶よ。攻撃ばっかりで、回復の事全然考えて無いでしょ」

「攻撃は最大の防御だって言うから」

 あっけらかんと答えるルークにミレアは呆れた声を上げた。

「そういうのは自殺行為って言うのよ」

 そんな事を言われても、戦闘中には回復なんて悠長な事を言っていられない。回復魔法を使えないルークやソルドにとって回復は戦闘が終わってからするものでしか無いのだ。

 するとステラが心配そうな顔で言った。

「そうですよ。怪我したら手遅れになる前に治癒魔法受けて下さいね」

 その声にルークは頷きながらも聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟いた。

「そんな余裕があれば良いんだけどな……」








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