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バカな男の子と素直になれない女の子

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 授業が終わり、放課後のこと。トシヤとマサオが廊下を歩いているとトシヤのスマホが振動して、メールの着信を伝えた。トシヤが制服のポケットからスマホを取り出してチェックすると、メールを送ってきたのはハルカだった。

「昨日の今日で、昼休みにも会ったばかりなのだってに、どうしたんだろ?」

 トシヤが呟きながらメールを開くと、例によってタイトル並に短い本文が書かれていた。

『10時に麓のコンビニで』

 日が書いて無いじゃないかよ! と言う声が聞こえてきそうだが、日はタイトルに書いてある。ちなみにタイトルはわずか三文字『日曜日』とだけだ。あまりにも単純明快なメールにトシヤが思わず苦笑するとマサオがスマホの画面を覗き込もうとした。

「なんだ、もしかしてハルカちゃんからか?」

 なかなか感の鋭い男だ。もっとも今朝ハルカに坂の上り方を教えて欲しいと頼んだ事が頭に有り、また昼休みに学食でハルカと会ったのだからマサオもトシヤにハルカから連絡が来るのを期待していたのだろう。

「ああ。日曜日に例のコンビニだって」

 トシヤが答えるとマサオの目がギラリと光った。

「それって、ルナ先輩も来るんだよな? 俺も行って良いんだよな?」

 期待に満ちた目で言うマサオにトシヤはどう答えて良いものやら考えた。なにしろメールの内容が内容、日時と場所しか知らされていないのだ。

「どうだろうな? 一応聞いてみるわ」

 言うと、トシヤは問い合わせの返信をハルカに送った。


 その頃、ハルカはハルカでスマホ片手に一人思い悩んでいた。

「ふうっ、カオリに言われた勢いでメール送っちゃったけど、トシヤ君、変に思って無いかなぁ……」

 ハルカがトシヤにメールを送ったのは、これで二回目だ。と言うか、まだ二回しか送っていない。メールアドレ
スを交換してから二週間も経っているというのにだ。もっともトシヤの方からメールが送られてきた事は一度も無い。トシヤから来るのはハルカのメールに対する返信のみだ。女の子からメールアドレスを教えてもらったら、その日のうちに用事も無いのに面白くもないメールを送ったりしてしまうのが健康な男子というものなのだが……

 それはさて置き前回初めてハルカがトシヤにメールを送った時はルナの指示、つまりライドの日時を知らせるという大義名分が有ったのだが、今回は勢いに任せたライドの誘い。これをトシヤがどう受け止めるだろうか? ハルカはトシヤに送ったメールを削除したい気持ちに駆られたが、そんな事をしたところで仕方が無い。消えるのはハルカのスマホからだけで、トシヤのスマホから消える事は無いのだから。

 その時、ハルカのスマホに一通のメールが入った。もちろんトシヤからだ。ドキドキしながらメールを開封するハルカだったが、その返信内容は酷いものだった。

『日曜日って、ルナ先輩も来るの? マサオも一緒でも良いのかな?』

 普通、女の子の誘いに「他の女の子も来るのか?」とか「友達も一緒で良いか?」などと尋ねるか? まあ、ハルカの誘い自体が素っ気ないメールだったし、ロードバイクで走る時はハルカとルナがいつも一緒だというトシヤの思い込みもあるだろう。それにしてもあんまりな返信ではないか? 落胆したハルカだったが同時に少しほっとしたりもした。勢いでトシヤに誘いのメールを送ったものの、もし二人きりで走るなんて事になると、正直どうしたら良いか解らなかったのだ。と、同時に冷静になったハルカは今朝の一件を思い出した。マサオに坂の上り方を教えるという約束をした事を。ハルカはメール画面を閉じて通話画面を開いた。

「もしもし……ルナ先輩、ハルカです」

「あらハルカちゃん、どうしたの?」

 やはりここはルナに頼るしか無い。ハルカは日曜日にトシヤとマサオに坂の上り方を教えるので付き合って欲しい旨を説明した。もちろん自分からトシヤに誘いのメールを送ったのは秘密だ。

「そうなんだ。良いわよ、じゃあ、一緒に行きましょうか」

 ルナが快諾するとスマホを持つハルカに安堵の表情が広がったが、続くルナの一言でハルカは手にしているスマホを落としてしまいそうになる程慌てるハメになってしまう。

「トシヤ君に格好良いところ見せないとね」

「ちょっ、何言ってるんですか! そんなんじゃ無くってですね、私はローディーの先輩として純粋に……」

 あたふたしながら反論するハルカにルナの笑い声が聞こえた。

「まあ、そういう事にしときましょうか。じゃあ、日曜日ね」

「あっ、もしもし、ルナ先輩!」

 ハルカの呼びかけも虚しく通話は切れてしまった。ルナの口振りからするとルナもハルカの心境の変化に気付いている様だ。まあ、カオリもそれに感付いているのだからハルカは解りやすい人間なのだろう。

「もう、ルナ先輩まで……」

 ハルカは呟きながら通話画面を閉じた。この間は『意識し過ぎ』だと言ってたくせに、あんな事を言われてしまっては意識しないでいられる訳が無いではないか。まあ、ルナは単に面白がってそんな事を言う人間では無い。おそらくルナにはルナなりの考えが有っての事なのだろう。
ともかく日曜日はルナも一緒に行ってくれる事が決まった。ハルカはメール画面を開き直しメールを打った。

『当然じゃないの。私と二人で走ろうなんて10年早いわよ。みっちり仕込んであげるから、マサオ君も来る様に伝えておいてね』

 自分の本心とはかけ離れた内容の文章を完成させ、送信ボタンを押したと同時にハルカの口から溜息と共に言葉が漏れた。

「私、可愛くないよね……」


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