ヒルクライム・ラバーズ ~初心者トシヤとクライマーの少女~

すて

文字の大きさ
42 / 141

間接キス、再び?

しおりを挟む
 マサオはルナのお尻、いや、背中を追いかけて走っていた。ルナはメリハリの付いた走りをマサオに教え込む様に視界が開けている所ではスピードを出す時は出し、ブラインドやヘアピンでは落とす時は落とした。もちろん安全マージンは十分に取った上でだ。また、ハルカとは違いマサオを試す様な事はせず、ゴールまでマサオとの距離を見ながらペースを調整し続けたのでペースは遅いながらもマサオは安全且つ快適にルナのお尻を堪能、いや、ダウンヒルを楽しむ事が出来た。

「あれっ、二人が居ないっすね」

 ゴール地点の信号が見えた時、そこで待っているとばかり思っていたトシヤとハルカの姿が見え無い事に気付いたマサオが後ろから叫ぶが、ルナにとっては想定内だった様だ。
「ハルカちゃんったら待ちきれなかったのね。まあ、行き先は解ってるから私達も行きましょうか」
 信号が青なのを確認したルナは左右にも気を配りながら交差点を少しだけスピードを落として通過し、マサオもルナに続いた。

 一足先にコンビニに着いたトシヤとハルカはリアクトとエモンダを車止めに立て掛けてワイヤーロックをかけ、店内に入った。ハルカは「あっいすっ、あっいすっ」と鼻歌を歌いながら上機嫌で一直線にアイスクリームの入った冷凍ケースに向かった。

「奢ってくれるって言ったわよねー。どうせなら普段買えない様なヤツを……」

 恐ろしい事を言いながら真剣な目でアイスを吟味するハルカの一挙一動をトシヤは恐怖を感じながら見ていた。
 アイスを選ぶハルカの後ろ姿は中々刺激的だった。このコンビニの冷凍ケースは平型のオープンタイプだ。上から品物を見定める為に身を乗り出すと、どうしてもお尻を突き出す体制になる。ピッタリと肌に張り付いたビブショーツがハルカのお尻の丸みを強調し、膝上の裾からはスラリとした足が伸びている。もちろん踝あたりまでは生足だ。

「コレにしよーっと」

 ハルカが選んだのは果汁感溢れるマンゴーのアイスバーだった。

「えっ、ソレで良いの?」

 拍子抜けしたトシヤが思わず口にした。ハルカが選んだアイスバーは150円弱、選んでいる時の口振りからすると300円以上する大きなカップアイスや、小さいが有名ブランドのアイスを奢らされるのではないかとトシヤは覚悟していたのだ。

「うん、コレが良い!」

 はちきれんばかりの笑顔で答えるハルカに「150円でこんな笑顔が見られるのなら安いものだ」と思ってしまうトシヤだった。
 ハルカからアイスバーを受け取ったトシヤはドリンクのコーナーに足を向け、スポーツドリンクの500ミリペットボトルに手を伸ばした。その時、ハルカの声がトシヤを止めた。

「トシヤ君、それは買わなくても良いわよ」

 言うとハルカは500ミリのペットボトルでは無く、1リットルのペットボトルを手に取った。トシヤはハルカに言われるままにアイスバーだけをレジに持って行き、お金を払うと、ハルカもスポーツドリンクのお金を払い、二人は店を出た。

「とりあえず、はい」

 トシヤがアイスバーをハルカに渡すと、ハルカは嬉しそうな顔でそれを受け取り、袋を開けた。マンゴーの甘い匂いが立ち込め、一口齧ったハルカがうっとりした顔となった。

「美味しい! 本当にマンゴーを食べてるみたい」

 幸せそうにアイスを食べるハルカの横顔を見るトシヤの視線に気付いたのか、ハルカはアイスバーをトシヤに差し出した。

「一口食べる?」

 ほんの数十分前にボトルを巡って間接キスがどうとか騒いでいたとは思えない様な大胆な事を言うハルカに、トシヤはドキッとしながら差し出されたアイスバーを見た。ボトルの飲み口が仄かに濡れているどころでは無い。ハルカの歯型そのままに齧り取られた周囲は触れた唇の温かさで溶かされ、色が変わっている。
 ここはどうすべきか? トシヤは悩んだ。真剣に悩んだ。もちろん本心は「ハルカが齧ったところを一口齧り付きたい」だ。しかし、そんなあからさまな事が出来るトシヤでは無い。普通ならハルカが口を付けていないところを一口いただくのが妥当な線だろう。しかし……
 だが、悩む必要は瞬く間に無くなってしまった。

「あっ、ごめんなさい。変な事言っちゃって」

 ハルカがバツが悪そうにアイスバーを引っ込めてしまったのだ。トシヤがほっとした様な、残念な様な複雑な思い(割合で言えばほっとしたのが2、残念なのが8ぐらいだろう)でいると、ハルカは肩を落として呟いた。

「だからダメなのよね、私って。男の子とか女の子とかすぐ忘れちゃうから……」

 ハルカらしからぬ小さな声で嘆き、俯いてしまったハルカにトシヤはどんな言葉をかければ良いか解らなかった。だが、黙っている訳にもいかない。

「ダメな事なんて無いよ。だって、それがハルカちゃんなんだから」

 とりあえずはハルカを肯定するところからスタートするがハルカは俯いたまま、首を横に振った。

「でも、こんなだから私、女の子として見てもらえないんだよね」

 ハルカも面倒臭い、いや、可愛い事を言うものだ。こういう時に男の子がかけるべき言葉は? 彼女居ない歴=年齢のトシヤにとっては恐ろしく難しい問題だ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...