犯罪者の異世界転移

妻屋

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異世界編

小西 14話

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 痛みに耐えていると、再び魔力を練り上げる気配を感じた。連発はできない様だが、威力よりも弾速が厄介だな──
 ふと、不自然な魔力の流れを感じて魔力を纏った目を凝らすと、絶命した死体から糸の様な細い魔力が、黒の 豚頭人オークへと収束しているのが視認できた。

 あの強力な魔力弾を今までは使わなかったのではなく、使えなかったのか──
 どうであろうと、距離を詰めなければ遠距離での攻撃手段が無い俺に勝ち目はない。

 距離を詰める為に奴の方へ駆け出したが、魔力の高まる気配を感じて横に跳ぶ。駆ける体の真横を魔力の光が線を残したと同時に、凄まじい音と衝撃を後方で感じた。しかし、足の動きは止めない。
 直線的な軌道でなら、いくら弾速が速かろうと発射までに時間を要するあの技は予測して避けられる。それに例え直撃したとしても、次はこの纏う魔力を貫かせはしない。
 警戒すべきは、俺が【知らない技】。
  豚頭人オークが魔力を練り上げている間に、何とか接近できた。先程の魔力弾を闇雲に撃たない辺りは、恐らく奴もそれは望む所と言った所か。

 自身の纏う魔力の強度を上げた。より強く、より相手を破壊できる様に。
 先程受けた肩の傷の痛みが怒りに変わる程に殺意を滾らせると、迎える 豚頭人オークも死者の魔力を利用し、おぞましい魔力でその形を変化させる。

 槍か──
 何て器用な奴だ。

 数瞬の間に形を変えた魔力は、2メートル程ある持ち手の先に鋭い穂を付けた槍へと変化していた。
 下段へと構えた 豚頭人オークの槍の突きを警戒し、懐に潜り込もうとしたが相対する槍の切っ先の威圧に怯んでしまう。

 踏み込めば、一撃を喰らう──
 これが素手と武器を持つ者との差か。
 一撃を受けた後の、反撃へのビジョンが槍のリーチが邪魔して浮かんでこない。近くに見えるが、俺には遠すぎる。

 恐らく奴の一撃は、俺に致命傷を負わせる程の威力を持っているだろう。
 未知の力に頼り過ぎるのは、得策とは言えないが仕方ない。右腕に纏った魔力を雷へと変え、照準を合わせた。
  奴の黒く太い足がこちらへ鋭く踏み込むのが見えた瞬間に、半身程横へと跳ぶ。たった半年の鍛練しか修めていない俺に出来る事は、相手の【足の動き】を視る事──
 一瞬浮かんだイメージ通り、奴の黒く濁った魔力の槍が空を突いた。突き出した槍を素早く戻し、こちらを横に薙ぐ動作に入ったのを視界で捉えたが、次はこちらの番だ──
 雷を放出し、 豚頭人オークの肩を掠めた瞬間、荒れ狂う雷が黒ずんだ巨体へと全て引き寄せられる様に収束した。イメージ通りに被弾した対象へと襲いかかる雷に、場違いな感動を覚えると共に横腹に鋭い痛みが走った。

 完全に動きを止めきれなかったか──

 横薙ぎに払われた黒く濁った槍の切っ先が自身の脇腹を裂いていたが、刃が内臓に達していないのを感覚で理解すると、痛みを完全に脳が理解する前に反転し、槍の刃を抜いた。遅れてくる激痛に奥歯を噛み締め耐え、雷を自身の体に纏い未だ稲光を放ちながら硬直した巨体を見下ろせる位置まで跳躍した。

 発現してから今日まで、繰り返しイメージと共に試し打ちしていた【技】を、ここで使う──

 対象が「帯電」していなければ満足に命中させる事はできないが、恐らくこの「帯電」の手順は次に繰り出す技を、より強くする事を可能としている事を俺は感じていた。自身のイメージや限定的な制限を付ける事により強くなる魔力の技は、発現の能力にも適応されるのだから。

 俺の中での雷は、「上」から落ちる物──


 全身に纏った雷を、振り下ろした右腕から全て放出する。

「 天落てんらく

 音速を越えた雷の軌道は、空間に蒼白い亀裂が生じた様に見えた。下で硬直した 豚頭人オークへと一筋の雷が落ち、鼓膜を揺らす程の音が若干遅れて耳へ届くのと同時に、大量の魔力の放出での痛みと脱力感を伴った体が重力に従い落下してゆく。

 魔力切れが近いな。体に力が入らない──

 何とか体制を保ち足から着地できたが、立っていられずに尻を付いた俺の目の前には、元々の黒い肌がひび割れ、煙と焦げた臭いを漂わせ直立した 豚頭人オークがいた。

 強かった──

 もっと戦闘について、学ばなければならない。今のままでは、そう遠くない内に死んでしまう。左肩の傷は神経がやられたのか、指先の痺れが酷く、脇腹に受けた槍の傷も未だに血が固まらずにいた。


 早く、村に戻って休まないと──




 力の入らない体を、何とか立ち上げようと模索していると、目の前の炭の塊が乾いた音を立て、ひび割れた皮膚を落としながら動き出した。


 化け物め──

 魔力の線が辺りの死体から次々と巨体へと集まり、信じられない事にその黒い皮膚に潤いが生じているのが見て取れた。回復しているのか。

 残りの少ない魔力で、奴を殺す事ができるだろうか。──いや、殺るしかない。
 尻を付いたままの俺に、頭上から焦げ臭い掌を翳され脳裏に「死」が過る。



「──何にでも言える事だが、バランスが大事だ。お前の技はどれも強力だが、世の中には大量に魔力を使用せずとも必殺の一撃を放つ奴はいる。心臓を一突きすれば死ぬ魔物が多い中で、外へのダメージが大きいお前の技はいずれ通用しなくなるかもしれんな。それも、一点に魔力を纏えれば簡単に解決するんだが」

 ひどく懐かしく思える記憶が、頭を支配した。俺は魔力の範囲を限定的に狭め、強化する技術「 集纏しゅうてん」が苦手だった。鍛練の度に、アルマさんから苦い顔をされたのを今でも鮮明に思い出せる。

 あの世からの、助言か──

 恩師の声を思い出すだけで、心が強くなれた気がした。この、絶対的に不利な状況下で俺が打てる一手──
 結局完成しなかった、 あの・・技も発現の能力と合わせれば、今の魔力残量でもどうにかなるかもしれない。
 目の前の黒ずんだ掌の魔力が収束を終えようとする気配がして、慌てて力を振り絞った手を貫き手の形へと変える。

 この至近距離で魔力を打ち合えば、どうなるかは考えない。
 右腕の一部の魔力を雷へと変え、貫くイメージを強くする。魔力と雷の比率を合わせる様に擦り合わせた。

 黒ずんだ掌が、淡く光る。

 間に合え──

「 雷纏・貫纏手らいてん かんてんしゅ
 
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