聖女

蒼穹月

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先客万来

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 ーラークネスー
 ここでは光と闇を中立する聖女が世界を支える柱の役割を果たしている。
 聖女の死・力の消滅は、すなわち世界の崩壊を意味する為、聖堂や神社・寺・教会、更に国までもが次の聖女を求め・・・・・・
 聖女狩りをする     


 「ん?」

 そう言葉を漏らしたのは、まだ年端も行かぬ12・3歳程度の子供だ。木の上で葉に隠れながら辺りを見渡す。

 「・・・・・?」

 もう一度辺りを見渡し、今まで見ていた建物へと視線を戻す。

 「?」

(気のせいカナ?視線感じたような気がしたけど)

 そんなことを考えていると視線の先に変化が生じた。建物に一人の男が近づいているのに気づき思考をそっちに戻す。185㎝位の青年のようだ。

 (25・6才ってとこか。あの聖装は今聖女を保護してる・・・えと・・・何とかっていう聖堂の正装じゃん。何でここに?)

 ここには屋敷が一つ在るだけで、周りは林になっている。林を抜ければ町が在るのだが。
 青年は、ベルを鳴らし誰かが出てくるのを、上げた茶髪を押さえているバンドのズレを直し、赤みがかった瞳を穏やかにして、待った。
 ドアを開けたのは、これまた12・3歳位の子供。腰まで伸びたさらさらの薄い金髪に、半開きの目と長いまつ毛から覗く薄く輝くエメラルドグリーンの瞳が神秘的な女の子だ。

 「はい、どちら様でしょうか・・・?」

 見知らぬ人を見て、扉の影に半分隠れながら訊いた。

 「セリナ・セレフィア様と御見受けしますが、相違御座いませんか?」
 「・・・はい・・・」
 「やはりそうでしたか」

 青年は、軽くお辞儀をするポーズで右手を胸に当て恭しく話をした。

 「私はマシリア聖堂の長の命により、セリナ様を聖堂へお連れするために参りました、宇・廉と申します」

 顔を上げ微笑む廉に、しばし沈黙をするセリナ。

 「・・・・・何で?」

 答えたセリナに続いて、木の上の子は(そうだぞっ何でセリナ連れてく!?)などと頭にでっかい怒りマーク付けながら思った。
 そんなそっけないセリナの言葉にも平然として話す廉。

 「それはセリナ様が聖・・・」

 何かに気づき、そこで言葉を止める。

 (あいつも気づいたか)

「むぅ、なかなかやるナ・・・」

 ぼそっと言い、そのまま廉とセリナを見ている。

 「セリナ様、私から離れぬようお願いします」

 そう言いながらセリナを左手で後ろに制す。
 そして背中に背負った鞄の上に、丸めて括り付けてある、タオルケットほどの大きさの布を取り、林の方を向いた、次の瞬間!

 ドシュシュシュ!!

 音と共に気の塊が三つ飛んできた!
それを布で払うと、三つの塊は、ふわっと消えた。

 「!?」

 それを見て、隠れている者達が驚いた。
 ちなみにセリナが何とも思わなかったのは、唯単にそういう性格なだけだ。
 廉は、その布をセリナに頭から被せた。

 「これ身に付けていて下さい。多少の魔法は防げます」

 にっこり微笑み、また林へと視線を戻す。

 (き・キザ!てかあの護布、セリナにはアッツイだけだろなー・・・)

 その子供の視線の先では、本当にセリナが暑そうに汗をだらだら掻いていたりする。

 (ま、どの道んな事しなくても俺がシールド張っておいたんだけどね)

 「ま、それはそれとしてー。」

 言いながら木から跳んで離れた。それと同時に今まで子供が居た場所に気の塊が当たり、直径3m程に爆破した。どうやらこれを避ける為に木から離れた様だ。

 「俺も参戦いたしますか♪」

  降下しながら右手に気の塊を造り、

 「くらえ!
 ウィングボール!」

 ゴッ!

 振り向きざまに少し離れた所の木に当てた。衝撃で木の葉が揺れ、そこに居た者が、「ぐっ!」と呻きながら木から落ちた。
 子供は木を笑顔で見ながら、軽く片足でトンっと着地した。

 「おお、ナイス威力♪木が無事だ♡」
 「あ。」

 目の前に降り立った子供に気づき、言葉を漏らすセリナ。

 「な」

 いきなり現れた見知らぬ子供に、見せ場を取られ引き付く廉。思いっきり不審がる。

 「何者だ!」
 「瑛ちゃん♡」

 廉の問いとセリナの言葉が見事に重なった。
 瑛と呼んだ子供に満面の笑顔で近寄るセリナに呆気に取られる廉。

 「セリナ♡」

 瑛もセリナに近寄る。

 「・・・・・・・
 セリナ様のお知り合いで?」

 いまいち状況を掴めないまま、取り敢えず問う。
 それをセリナは首を縦に振って肯定する。

 「同じ修道院で同じシスター(ママ)の下で育った家族だ!セリナはここの養子になったけど」

 意気軒昂と瑛が簡単な説明をする。

 (しゅうどういんー?・・・って、ああそういえば聖堂老がそう言ってたよーな。)廉は、頭を指でグリグリしながら何となく思い出した。

 「んな事より、次でっかいの来たみたいだぜ」
 「あ?・・・げ。」

 瑛の声に視線を上げると、そこには巨大な化け物がいた。
 それはタコの形をし、頭の部分に太く長い角の生えている顔が突き出ている。はっきり言って笑いを取っている様にしか見えない。  
 その奇妙奇天烈な化け物は、三人の前に佇み、じっと見ている。

 「なぁなぁ、変なタコ♪」

 きゃらきゃら笑いながら緊張感の欠片も無くセリナと廉に言う。

 「だあほ!
 ありゃぁディム国兵器三身一体キメラだ!知らねえのかよっ!?」
 『知らない。ネ。』

 声をそろえて瑛とセリナがキッパリ言った。勢い付いて聞いたのに対し、あまりにもあっさりとした答えが返ってきたので、ガクッと体の力が抜けてしまう。

 (当たり前かぁ~一般にさえ知られてないのにこんなガキが知るわきゃねぇか~)

 「いいか?・・・あれは、超回復のトロル、とにかくでかい海坊主、攻撃力が高く猛毒を持つというディモールダコの3体の力を持った見た目のわりにやっかいなキメラだ!」
 「そんなコトより、あんた初めと言葉使い違うな。坊さんぽくない(笑)」
 「そんなことより・・・て、あ~、もういい!お前にゃ何も言わん」

 真面目に説明してあげたのに瑛がどうでもいい様な感じで話を変えたので廉は子供相手に話した自分が馬鹿に思えて嫌だった。
 横で全く話を聞いていなかったセリナが、

 「・・・来た。」

 と言った。
 何が来たのかと二人が見ると、タコ足が自分達の方に攻撃を仕掛けて来ていた。

 「のわ!?」

 廉はそれを判断すると同時に、セリナを抱えて横に飛び退いた。
瑛は真上に跳び、そして一言。

 「セリナ相変わらずナイスのんびり!」

 そのまま、ズガッと地面に突き刺さったタコ足の上に着地した。
 キメラは瑛に的を絞ったか、タコ足を繰り出してくる。それを小さな体を生かし隙間を縫いながら悉くかわしていく。

 「あ、そーだ。セリナー!どーして欲しい~?」

 手でメガホンの形を作り、声を大にして問い掛ける。セリナを見ながらもタコ足をきっちり避けている。
 セリナを抱えながら廉が呆れている。
 セリナは少し考え、答える。

 「・・・・・・・・・タコの丸焼き。」
 「オッケー!・・・っと確か・・・」

 瑛は、懐から一冊のノートを取り出しペラペラとページを捲っていく。ノートといってもそれは一冊の本の厚さがあり、表紙には、《新魔導書》と書かれている。

 「これか。
 燃盛る炎よ・・・
 我意に従い・・・」

 ノートの一文を指で追いながらそこまで読むと、キメラから真後ろに跳んで離れ、

 「焼ぁっき尽くせぇーーーーー!」

 そして、文の最後をなぞり読みした。

 ッゴオオオオ!

 文を読み終えると、キメラの真下から炎が燃え上がり、一気にキメラを焼き尽くした。
 一撃で灰となり、風に遠くへ飛ばされていく元キメラ。
 廉はその様子を呆然と見、セリナは自分の要求と違う形へ変貌したキメラに絶句した。
 そんな無言と無言の間に、瑛は静かに着地した。しばし風に揺られ、さわさわという葉の音だけが流れる。
 暫し自分の凄さに酔い痴れていた瑛だが、不意に頭の中にセリナの言葉が蘇り、ハッとする。

 「セ・・セリナ・・・?」

 恐る恐るセリナの顔を見る。
 その表情は、顔を埋めていてよく分らない。
 ーが、

 「タコ焼き・・・。」

 悲愴に満ちたセリナの呟きが、瑛の体に矢で射抜かれた様な痛みを、瞬間的に与えた。

 「うにゅうおああああっ!ゴ・ゴメンっ。
 つい本能の赴くまま思いっきり!」
 「いや」

 必死に弁解している瑛に廉が口を挟む。

 「あれでいい」
 「?」

 頭にぽふっと手を乗せられ、訳が分らず廉の顔を見る。

 「あれは、中心の核を潰さない限り死なんからな」

 本来は、その核に傷を付けるのでさえ困難であるのだが、それを瑛は体ごと灰に変えたのである。廉の瞳の奥に、驚愕の色が残っていても無理はない。

 「核殺っちゃえば倒せたんだろ」

 隣で「食べたかった。」と、ボソッと言ったセリナの言葉にビクッと体を硬直させつつ、瑛は言った。

 「それに身は猛毒だし」

 毒という言葉に黙るセリナ。

 「中和魔法あるもん」

 さらに反論する瑛に、子供に言い聞かせる大人の気分になった廉は、その会話に終止符を打つため、

 「・・・ゲロマズ、らしいしナ」

 と言った。
 それが功を奏したのか、しばしの間がながれる。
 その間に終止符を打ったのは、セリナの、

 「・・・ナイス瑛ちゃ♡」

 という言葉だった。

 「・・・ははっ・・・。」

 コロッと豹変したセリナに、馬鹿らしく思いつつも、機嫌の好くなった事に、(機嫌悪くされるよりも良いかー)と思う。

 「それよりさー。今の奴等何だったんだろうなー」
 「あー?
 そりゃ、お前。
 聖女様で在らせられるセリナ様を狙う不届き物だ」

 間。

 『今。何と!?』と言いたげに二人揃って廉を凝視する。
 それを感じ取ったのか、満面の笑みでセリナを指差す。

 「ですから。
 聖女様」

 様付けしている割に指差すとは、無礼千万この上ない。というより、人を指差しちゃいけません。
 瑛はアングリしてセリナを見る。

 「ええええええええー!?
 セリナが聖女―!?」

 そして力の限り叫んだ。
 二人に見つめられたセリナは、冷や汗一つ掻きつつ、「私?」と言いたげに自分を指す。

 づがあああん! 

 『!?』

 混乱は、瑛達の後方でした爆発音によって、驚愕へと一変した。
 慌てて後ろを振り向いた三人。セリナはその光景を見て、驚怖せずにはいられなかった。

 「セリナ・・・」

 セリナの痛々しい姿を見て、瑛は悲しみと同時に、セリナを驚怖させた者へ対する怒りが込み上げてきた。
 それは、廉も同じだったらしく、怒りを抑えきれず肩を震わせている。

 「フレイラル・・養父・・さん・・・?
 ティナ・・養母さん・・・?
 ・・・ラル・・ナ・・・?
 ・・・ナラ・・・ル?」

 震える声から何とかそれだけを言葉にする。
 しかし名前を呼ばれたセリナの義理の家族達には、その言葉は届いていない。よしんば届いていたとしても、返事をする事は叶わぬだろう。
 そう、先ほどの爆発に因って、セリナを除いたセレフィア一家は、屋敷もろとも暴炎の渦の中にいる。屋敷もすでに半壊している。生きていたら奇跡というものだろう。

 「・・・!」

 崩れていく屋敷に、それでもまだ生きていることを願うセリナは、屋敷に飛び込もうと廉の腕を自分から離そうとする。

 「!セリナ様落ち着いて下さい!今貴女が行って何が出来ると言うのですか!」

 廉の腕の中で暴れるセリナを、必死で押え付けつつ説得する。
 変わりに瑛が、新魔道書を広げ魔法を放つ。

 「流水よ!
 我意に従い
 荒れ狂う炎を呑み込め!」

 どぷん

 瑛の想いの通りに大量の水が、一瞬で屋敷を飲み込み、炎が消えると同時に水も消え失せた。

 「廉。セリナ頼む!」

 言って、瑛は屋敷の中へ入って行った。
 屋敷に入った瑛は、玄関ホールをグルッと見回した。

 「・・・。(だいぶ崩れたな。早くしないと屋敷自体崩れそうだ。)」

 崩れた天井やら窓ガラスやらが散らばるホールを、注意して進む。歩くたびに鳴る破片の〝ぱきっ″という音が、瑛の悲愴感をさらに強める。

 「生きて・・・いろよな・・・!
 セリナの為にも!」

 瑛は、以前ここに遊びに来た時の記憶を頼りに、ホールの真正面にある階段を上り、子供部屋へ向かった。

 「?(変だな)
 敵らしい敵の気配がしない・・・」

 そう、瑛は崩れる天井やらを避けながら歩くのに、苦労はしているが、この惨事を招いた者の気配を未だに感じ取れずにいた。

 敵らしい敵に会わずに子供部屋まで来られた瑛は、燃え崩れ扉の無くなった入り口をくぐった。

 「ラルナ!ナラル!」

 返事がない。
 焼かれてしまったか。そんな不安を、他の場所に居るのかも。という気持ちで押し潰し、部屋を出ようとした。
 ーが。

 「・・・あき・・・ちゃ・・」

 蚊の鳴くようなではあったが、確かに瑛の耳に聞こえたその声に、瑛は素早く部屋を見回した。

 「ナラル!?」

 しかし返事がない。

 「・・・。」

 瑛は、乱れた気持ちをなんとか落ち着かせ、神経を研ぎ澄まし気配を探る。

 「!そこか!!」

 瑛は、窓際に倒れた棚に駆け寄り、棚に手をやり、気を集中させた。

 「フロート!」

 唱えると、棚は瑛の頭上近くまで浮き、そして止まった。
 棚のどいたそこには、まだ小さい、7・8歳位の女の子が倒れていた。気を失ってぐったりしている。その下には、これまた小さい、4・5歳位の男の子がいた。男の子の方は、お姉ちゃんらしき女の子に守られてか、意識があるようだ。震えながら涙をいっぱいに溜めた瑛を見る。

 「ラルナ、ナラル。
 良かった、生きてて・・・」

 ホッとし、二人に触れる。

 「ラルナ・・・。
 酷い怪我だ。弟を必死で庇ったんだな」

 瑛はナラルをそっとラルナから離した。

 「う、うにぃ~うぅぁあっ、ひぐっ。
 うわあああああああんっ!
 あぎぢゃああああん!」

 自由になったナラルは、瑛に抱きついて、その胸に顔を埋めて大泣きした。

 「よしよし、怖かったな。
 でも、もう大丈夫だかんな」

 そう、優しく言って頭を撫でてあげた。

 「お姉ちゃんの傷治してやろう?
 だからちょっと、放れてもらえるかな?」
 「・・・うん」

 ナラルは瑛から離れて、袖で涙を拭った。
 瑛はラルナの上に乗っている、箱やぬいぐるみ等を払って、ラルナに左手をかざし、右手で新魔道書を広げた。

 「汝が気の流れよ  
 癒しの力となれ!」

 ふわっ  

 瑛が唱え終えると、ラルナの体が淡い光に包まれた。そして、みるみるうちに傷が癒えた。

 「これで大丈夫。そのうち目も覚めるよ」
 「あきちゃん、ありがと」

 ナラルは、ラルナの腕をきゅっ、と握りながらお礼を言った。

 「おっちゃんと、おばちゃん。どこいるかわかる?」

 瑛は、ナラルの頭を撫でてやりながら聞いた。

 「んとね、たぶんね、お客さんの部屋だと思うの」

 ナラルは、顔だけ瑛に向けて言った。

 「お客?」

 (客が来てたのかな)

 「そっか。場所、案内できるか?」

 瑛の質問に、首を横に振って答えた。

 「・・・そっか・・・。」

 (このまま捜してたら、二人が危ないな)

 「それじゃ外に出よう」

 瑛はナラルを背中にしがみつかせ、ラルナを前で抱え込んだ。そして、今度は新魔道書を見ずに、呪文を唱えた。

 「物運ぶ風よ、我意に従え」

 ヒュォォ  

 瑛達は、風に包まれ浮き上がった。そして、ふたりを落さない様、ゆっくりとガラスの無くなった窓から外へ出た。
 そのままセリナと廉の所へ飛んで行き、セリナの前で降り立った。

 「セリナお姉ちゃぁぁん!」

 ナラルはセリナを見るや否や、瑛の背中から降りてセリナの胸に跳びこんだ。
 セリナは優しく抱き、頭を撫でてやった。

 「廉。この娘たのむ」

 瑛はその光景を見ると、廉の方を向き、ラルナを手渡した。

 「ん?あ、ああ。
 ・・・って、お前はどうすんだよ」

 廉はラルナを抱き上げ聞いた。

 「また中、捜し行く。おっちゃんとおばちゃんがまだ中だから・・・」

 少しずつ崩れていく屋敷を見ながら答えた。

 「セリナ、客部屋ってどこ?」

 視線はそのままで、緊張気味に聞いた。

 「・・・ロビー左。」
 「わかった」

 ナラルの頭を撫でながら、答えたセリナに、拳を作った右腕を振りながら、瑛は言った。

 「フン・・・。その必要は無い。
 聖女の両親は私が預かった。」

 瑛が一歩踏み出そうとしたら、そんな言葉が降って来た。
 四人は、言葉の聞こえた方向、屋敷の上を見上げ絶句した。そこには、セリナの両親が一人の男の両腕に捕まり、気絶している姿があった。

 「まあ、今日の所は、人質だけ捕らせて貰って失礼する」

 そういうと踵を返し、姿を消した。
 男が消えた途端、屋敷は一気に崩れ落ちた。

 「な・・・なんだっ、あいつ!」

 男の居なくなった方を見ながら、瑛が口を開いた。

 「あのおじちゃん、今日来てたお客様だ」

 ナラルの発言に、セリナも頷く。二人とも、屋敷を破壊され、両親を連れ去られたショックと怒りで、顔が強張っている。

 「あいつ・・・あいつがセリナの家を!」

 「まて、その話は町で宿を取ってからだ。
 この子もベッドで寝かさないと」

 廉の尤もな話に、遣り切れない怒りをなんとか押さえ頷いた。

 ザワザワ  

 町に着き近くの宿で一部屋取り、ラルナを寝かせ、宿の食堂の片隅に席を落ち着けたのは、夕日が山に沈みかけた頃だった。一部屋しか取らなかったのは、寝ている時に襲われても対処できる用にだ。

 「取り敢えず腹も減ったし、何か注文しよう。セリナ様、御好きな物を御注文下さい。セリナ様の分は、私が御支払い致しますので、御金の事は御気に為さらなくて結構です。勿論、ナラル様も。」

 セリナは申し訳いなと思いつつも、自分達の財産は全て屋敷諸共無くなってしまったので、頷いた。

 「言っとくが、お前は自分で払えよ」
 「何でだよ」

 遠慮なく頼もうとしていた瑛に、廉は冷たく言った。セリナの時とは、正反対の態度で。

 「セリナ様の事は聖堂老に任されているが、お前の事は知らんからな」
 「いいじゃんか、それくらい。ケチー」

 さらに冷たく言う廉に、非難ゴウゴウと口を尖らせる。

 「餓鬼とはいえ。男の胃に食べ物を与えていたら、それだけで金が尽きそうだからな」

 メニューを開いて選びながら言う。言葉には刺が有る様に聞こえるのは、廉の雰囲気からいって間違いではないだろう。

 「ちょっとまてよ」

 ムッとして瑛が言う。

 「なんだ?」

 視線だけで瑛を見下し、更に刺々しく聞く。しかし、そんな廉の態度は、次の瑛の、

 「俺は女だ(怒)」

 という一言でアッサリ崩れた。
 廉はメニューを手から落とし、思いっきり動揺する。

 「・・・は?・・・いや、あ、って、女?
 お前が、女で、俺で男だから」

 ズビシッ  

 「・・・落着いて・・・」

 動揺しまくりの廉を止めたのは、セリナの鋭くキレのいいチョップだった。痛そうに擦ってはいたが、とりあえず落着きはしたようである。

 「ま、俺がこんなカッコに言葉遣いしてんのもいけないんだろーけど」
 「それが原因だ(汗)」

 水を一気飲みしてから廉は指摘した。
 動揺するのも分かる。
 瑛の格好は、短く切った黒髪。全てブランド物ながらも、男物。魔道士なのに半ズボンなのは、若さゆえか。腕には魔道保護用のアームウォーマをしている。

 「言葉遣いはともかく、服はここのブランド気に入ってるから勘弁してくれよ」

 ぷー。と頬を膨らまして上目遣いに言う。

 「分かった。けど男並みに食うようだったら、自分で払えよ」

 お金の話も済み、四人は注文を取るだけ取った。そして、ウエイトレスがいなくなってから話を始めた。

 「先ずはセリナ様に置かれる現状況を御話したいと思いますが、宜しいですか?」

 廉の問い掛けに、頷くセリナ。ナラルと瑛も廉を見る。

 「実は、今までこの星を御守りして下さっていた、聖女マリア様が先日お亡くなりになりました。」
 「うん。だから次の聖女狩りしてんだろ」

 瑛が至極当然そうに頷く。
 セリナも頷く。
 ナラルはよく分っていないらしく、キョンとしている。

 「その時を看取った聖堂老が言うには、マリア様は最期に、こう仰せられたそうです。
 『次代の聖女は、リィンセスの森に囲まれし屋敷の所にいる、13の歳の少女』と」
 「それが、セリナだと」
 「ああ。

 『リィンセス』はこの町。『森に囲まれし屋敷』はセリナ様の家。という訳です。御分かりになられましたか?セリナ様」

 問われて、両手に持ったグラスを覗き込みながら、しばし考え頷いた。

 「はぁ~。それであんな騒ぎになった訳だ。話には聞いてたけど、本当に聖女狩りって手段を選ばないんだなぁ」

 息を吐きながら体の力を抜き、天を仰ぐ。

 「聖女マリアを守っていたマシリア聖堂。でも、次の聖女の場所が漏れる様じゃぁ、大した事無いな」
 「なんだと?」

 聞き捨てならない台詞を言われ、瑛を睨む。

 「なんだよ。本当の事だろ?文句があるなんて言わせねぇぞ」

 歳の差など一片も感じさせない睨みを返す。

 「お前の様な子供でさえ、やはりそう思うか」

 ずるっ

 睨んだと思ったら、今度はいきなり認められ、瑛は思いっきり椅子からずり落ちた。

 「って、認めんのかよっ」

 体勢を立て直し、今度は思いっきり突っ込んだ。

 「認めるも何も、最初の奴に気付いた時点でそう思っていたし」

 あっけらかんと言う廉に、瑛はぽかんと口を開けた。

 「仮にも、そこの聖徒がそんなこと言っていいもんなのかねぇ」
 「聖徒だろうがなんだろうが、そう思うものは思うし、事実は事実だ」

 廉が余りにもしれっと言う為、瑛はもうどうでも良くなった。
 それ以上瑛は何も言わなかった為、廉はセリナに向き直った。
 黙って二人のやり取りを見ていたセリナは、話が終ったのを感じ取ると、口を開いた。

 「・・・私・・・マシリア聖堂へ行かなければならないの?」
 「聖女様は、多くの者達に狙われる身です。我々の聖堂へ来て頂ければ、其の者達から誠心誠意御守りします」
 「別に行く事ねぇって。セリナは俺が守るから」

 瑛は、テーブルに並べられ始めた料理を見ながら言った。

 「ふん、お前の様な子供に守り切れる筈が無いだろ」

 (むかっ)

 「そんじゃお前なら守れんのかよ」
 
 廉の言葉にイライラしながらも、口にチキンソテーを入れながら、瑛は反論した。

 「少なくともマシリア聖堂は、今まで聖女様を守り通せてきた」

 流石に廉は、大人なだけあって、落着いて言った。しかし内心、(情報漏れていて、守れているとは、言い切れないか・・・。子供のくせに鋭いからな、突っ込むなよ~)などと冷や汗掻いていた。

 「う―。」

(確かに聖女マリアが襲われた、って聞いたこと無いな。何所よりも良い所だとは聞くけど)

 「まぁ、どっちにしてもセリナが決めなよ。セリナのしたい事なら、俺は付いてく」

 瑛はまだ腑に落ちなかったが、廉の言う事も尤もなので、後はセリナに決めて貰う事にした。
 セリナは、じっ。と瑛を見た。そのまま何も話さず、とうとう料理が全てテーブルに並べられても話さなかった。そして目線を料理に移し、食事を始めた。

 「セリナ様・・・お腹、空いてらしたんですね(汗)」

 廉はセリナの行動に付いて行けず、取り敢えず考え付いたその言葉を口にした。

「うんにゃ。セリナの事だから、食べながら色々考えてんだろ」

 廉の言葉を否定して、瑛も食事を進めた。

 「流石、セリナ様の元家族だけあって、何でもお見通しという訳か」

 嫌味たらたらで言う廉に、瑛は食事の手を止め、廉を見た。

 「なあ、さっきから思ってたんだけど。
 もしかして、俺の事嫌い?」
 「嫌いという訳ではないが、気に食わん」
 「やっぱり。ま・いーけどさ」
 「・・・いいのか」
 「セリナに嫌われなきゃいい」
 「・・・・・・レズ?」
 「?レーズンは嫌いだぞ?レーズンパンは好きだけど」
 「じゃなくて。
 女同士好きになること」
 「何言ってんの?家族だもん。好きに決まってんじゃん」

 (ラヴってことなんだけど・・・。頭足りてないんか)

 「あはは(汗)。
 そっか、家族だったな」
 「・・・行ってもいい」
 「は?」

 急に言葉を掛けられ、一瞬誰が誰に言っているのか分からず、聞き返してしまった。

 「だから、セリナ行ってもいいって」

 瑛が補足する。慣れた様子から察するに、以前からそうなのだろう。

 「あ、ああ。
 ・・・・・・。
 て。本当ですか!?」

 テーブルを叩いて勢い良く立ち上がる。

 『うるさいよ』
 「あ、ああ。すみません」

 三人に一遍に睨まれ、恐縮する。

 「いや、それにしても。良くぞ御決断下さった」
 「一つ条件があるの」
 「何なりと」
 「両親を助けるの」
 「はい。それは勿論。

 我がマシリア聖堂の総力を懸けて、お救い致します」

 「そうじゃないよ。セリナは自分が行くって言ってんの」
 「な。そんなものは駄目に決まっているでしょう!」
 「じゃあ行かない」
 「う」

 セリナにソッポを向かれ、押し黙る。

 「ちなみにセリナは頑固だから」
 「・・・。聖堂と連絡とってみます」

 そう言って代金を払って部屋へ行った。

 「セリナ。ホントにいいの?」
 「・・・家族が無事ならいい・・・」

 それからその話はぜず、世間話を楽しみながら料理を平らげた。

 日が昇り始めるころ瑛が目覚めた。
 あの後。結局廉の計らいで、何とかセリナの意が通った。只、お供に廉が付いて行く事。妹弟は、聖堂が今日の朝迎えに来るという事になった。

 「あれ?
 はやいね。ウーレン」

 早起きの瑛は、更に早く起きていた廉を見て驚いた。

 「朝の祈りを捧げてたんだよ」

 ぶっきらぼうに言った後、はたと気付いた。

  「ウーレン?」

 嫌そうに聞く。聞き間違いであって欲しいかの様だ。

 「うん。セリナと話してる内に、いつの間にかそーなってた。ま、そのが親しみ湧いていいじゃん」
 「・・・嫌?」

 いつの間にか起きていたセリナが問う。

 「セリナ様の御好きな様に御呼び下さい」

 コロッと態度を変えて、まるで権力の犬ならぬ、聖女の犬だ。
 その豹変振りに、瑛は隣で思わず笑う。
 瑛に笑われた事が不本意で、ムッとする。

 「女だろうがお前は特別扱いしねーぞ」
 「どうぞご自由に~?」
 「・・・服」
 「へ?あ、はい御召し物の替えは此方に御用意してあります」

 いきなりな会話ながらも、二度目ともなれば慣れるというもの。
 
 「違う。ウーレンの服目立つから替えた方がいいって」

 だが、まだ詰めが甘いようだ。

 「左様で・・・」


 こうして3人は、セリナの義両親の救出の旅は始まった。
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