獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
46 / 372
本編

子供の日

しおりを挟む
 今日は村の子供の日です。
 昔々にこの位の時期に三巳が

 「そういえば子供の日ってこれ位の時期だったなー」

 と漏らしたのが始まりです。
 正確な日にちは決まっていません。そもそもカレンダーは存在していません。
 山の民は季節を肌で感じ取っているのです。

 「子供の日って何かしら」

 日本独自の風習は、やはりリリの故郷には存在しなかった様です。
 新しい話に興味津々、目を輝かせています。

 「子供の健康と成長を祈ったり祝ったりする日だぞ」

 前世含めて子供を育てた事の無い三巳は、子供の日をアバウトに覚えているだけでした。
 なので村の子供の日も独自の発展を遂げています。

 「わあ、素敵!どういう事をするの?」
 「まずは飾りとして鯉のぼりだなー。子供達が覚えた魔法を駆使して思い思いに作り出すんだ」

 鯉のぼりも最初の頃は布で作る事を教えていましたが、布地の余裕が無かったので魔法で代用したのが始まりです。
 兜飾りはそもそも兜が山の民に上手く説明出来なかったのでありません。

 「なら私は参加出来ないのね……」

 現在魔法が使えないリリは落ち込みました。

 「魔法使えないのはリリだけじゃないからなー。
 そっちは出来る様になったら参加すればいいさー」

 三巳は落ち込むリリの頭をよしよしと撫でてあげました。
 
 「うん。早く治る様に頑張るわ」
 「焦らずゆっくり程々になー」

 苦笑して気を持ち直したリリに、三巳は頭を優しくポンポンと叩きます。
 心の病気は焦りは禁物なのです。ショック療法もありますがリリにする気は毛頭ありません。

 「他には何をするの?」
 「柏餅食べて、最後は菖蒲湯に入る。
 鯉のぼりが終わった後に皆で餅ついて柏でくるんだの食べるんだ」

 三巳は柏餅を思ってだらしない顔で涎を垂らしました。
 尻尾もくねくねとだらしなく動いています。楽しみでしょうがない三巳の心情を如実に表しています。

 「かしわ?しょうぶ?」
 「うん?リリの育った場所には無かったか?柏と菖蒲」
 「?うん。書物なら結構読んだけど、見た事ないわ」
 「?ここだけの特産なのかな?」

 三巳もリリも首を傾げました。
 実は三巳の守る山は三巳の力の影響で地球の植物が育っています。初めからある地球と同じ物もあるので、三巳すら気付いていませんが。
 
 「まあいっかー。楽しみが増えるだけだしな」
 「そうね。知らない事ってワクワクするわ」

 リリは想像を膨らませてうっとりします。

 「おー、それじゃ先ずは鯉のぼり会場に行こうか」
 「うん!」

 三巳はリリの手を握って診療所を出ました。
 外に出ればロダが落ち着きなくウロウロ、モジモジしていました。
 ロダはリリに気付くなり、真っ赤になって飛び上がります。
 ロダは隠れる場所を探してキョロキョロしましたがそう都合よく隠れる場所なんてありません。
 諦めて決意をし、勇気を振り絞る様に両の手をギュッと握りました。

 「リリリリリリっいいいいいいいっしょっ」
 「あら、ロダおはよう」

 ロダの言葉とリリの挨拶が被りました。
 勇気も決意も出端を挫かれれば勢いを失います。
 ロダは言えなかった自分の不甲斐無さに悲しくなり、リリに声を掛けられた事に喜ぶ器用な顔をしました。
 視界外の三巳は半眼で「ヘタレめー」と呟いています。
 近くにいたリリは三巳の呟きに首を傾げます。

 「へたれ?」
 「あははー、こっちの事ー。それよか会場行こう」
 「?うん」

 三巳は誤魔化しつつリリの手を引いて歩きだします。
 リリは深く追求せずに大人しく付いて行きます。そしてロダに振り返りました。

 「ロダも行くんでしょう。一緒に行きましょ」

 ニッコリと花が咲く様な微笑みで誘われたロダは天にも昇る気持ちです。

 「いいの!?」
 「?勿論」

 ロダはご機嫌になってリリの隣を陣取りました。
 結局自分で誘えなかったロダに、三巳は内心呆れ返りましたが黙っていました。
 けれど耳も尻尾もヤレヤレという感情が如実に表れています。ロダはそれに気付かなかった事にしました。

 三人が会場に着いた時には準備は整っていました。

 「おー皆揃ってるなー」
 「ふわあ、こんなに子供が居たのね」

 村全ての子供達が会場に集まる様は圧巻です。
 それぞれの保護者が会場の周囲に集まり微笑ましく見守り、子供達は真ん中でキャイキャイとはしゃいでいます。

 「それじゃあ皆ー用意は良いかなー?」
 「「「はーい!!」」」

 村長の合図で子供達が元気に手を上げます。
 
 「始めー!」
 「「「きゃー♪」」」

 村長が空に火花を打ち上げると、子供達は一斉に魔法を発動しました。
 それぞれの得意分野で作られる鯉のぼりは色取り取り、形も様々で目に楽しいです。
 火の鯉のぼり。水の鯉のぼり。土の鯉のぼり。雷の鯉のぼり。風の鯉のぼりは色が無いので判り辛いですが。
 兎に角様々な鯉のぼりが子供達に併せて空を地を泳いでいます。

 「凄い」

 これにはリリも感動で目が離せません。
 そんなリリの横顔からロダも目を離せません。
 
 「ロズもロッカもロアもローエンもロマナもミソラもミッシーもミカゲもミリオンもミーサも上達したなー」

 三巳は幼年組の子供達を順番に褒めて撫で回りました。
 
 「そういうえば、この村の人達の名前って男の人は『ロ』、女の人は『ミ』が付いてるのね」
 「うん。『ミ』は三巳から文字って、『ロ』はオオカミの別呼びのロウから文字ってるんだって」

 今更気付いたリリの疑問に、リリに見惚れていたロダが無意識に答えます。

 「なんで三巳の名前?」
 「三巳が始まりの村からいる獣神だからだよ」
 「!?三巳ってそんなに長生きの獣人だったの!?」

 ロダは普通に会話できてる事に気付いて途端、真っ赤な顔で手をモジモジし始めました。
 神の意で言ったロダですが、リリは全く気付きません。それどころか長生きの所にビックリしてそれ所ではありません。

 「どうしよう。すっかり同じ年頃の様に接してしまってるわ」

 リリはオロオロします。
 ロダはオロオロするリリも可愛いと脳内で悶えています。

 「三巳は畏まれるの嫌いだから、そのままで良いんだよ。
 実際三巳って子供っぽいしね」

 ちゃんと会話出来てる僕凄い!と脳内で自画自賛の嵐のロダは、三巳を出汁に会話を続けます。
 耳の良い三巳はちゃんとその会話が聞こえています。

 (甘やかすの止めてやろうか)

 大人気無く思う三巳ですが、元々そんなに甘やかしていません。

 (それにしても始まりの村かー。懐かしいなー)

 三巳は子供達を愛でつつ、昔々を思い出すのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

処理中です...