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本編
お勉強②
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やる気に溢れた三巳の吸収力は凄まじいものでした。
好きこそものの上手なれと言う言葉を証明する勢いです。そもそも人は興味の有無により覚える力が左右され易すいのです。
けれど今の三巳は力なくへたり込んでしまっています。
「まさか……、三巳は獣型でも人と言葉が通じたとわ……」
三巳が打ち拉がれているのは、山に人族が住む様になってから今迄、気付かなかった己の間抜けさを目の当たりにしたからです。
『我としてはそこに一番驚きを隠せぬ』
母獣も打ち拉がれています。己の娘の間抜け加減を目の当たりにしたからです。
「ははは。そこが又可愛らしいと私は思うよ」
クロは馬鹿な子ほど可愛いと思う獣人種でした。打ち拉がれる三巳をそっと抱き、ヨシヨシと頭を撫でています。
『この山には妖精も小鬼もおったな。その者達と本性で話さなんだか』
「しょっちゅう遊んでた」
『不思議に思わなんだか』
「気にした事なかった」
『阿呆か。そうか、お主が阿呆か』
母獣は娘に容赦が有りません。果てしなく呆れ果て過ぎて、最早無我の境地に突入です。
「阿呆も可愛いねぇ」
クロは何処までも何処までも親馬鹿に進化し続けます。ナデナデする手が止まりません。
三巳はそこまで阿呆さ加減を可愛いがられては切なくなって来ます。涙ちょちょ切れそうです。
「三巳は今、無知の恥ずかしさを身を以って知ったんだよ」
遠い目で過去の自分を穴を掘って埋めてやりたい気分になっています。
「でも過ぎた事は戻せないしな。今から頑張ろう」
三巳はアンニュイに笑い、溜息を漏らしました。
心を奮い立たせて立ち上がった三巳は、クロから少し距離を置いてから、フルリと一震えで本性に戻りました。
「わあ!三巳の獣神姿も愛しい人にそっくりで可愛いね!」
大小並んだ二柱の獣神に、クロは目を輝かせて視線を行ったり来たりさせています。
クロは目線にある母獣と三巳の前脚をモフリと触り、「毛並みも同じだね。でも私の毛並みとも似てる」と嬉しそうに喉を鳴らしました。
『父ちゃんが嬉しそうで何よりなんだよ』
三巳はクロの毛をグルーミングして言いました。
「あれ?三巳の言っている言葉がわからないよ?」
けれどクロの一言に三巳の動きは止まります。どういう事だと首を捻って母獣を見上げます。
『三巳よ。お主、人族だった頃の名残が出ておる』
何と三巳は前世の記憶が邪魔をして、言語に関してのみ言語でしか返せなくなっていたのです。
確かに思い返せば様々な動物に変身した時も、山の民の誰にも三巳の言葉がわかっていませんでした。
『母ちゃん。三巳はどうしたら良いんだよ?』
ダメダメ具合が露見し過ぎて三巳は耳をペタリと悲しみに垂らしました。
『ふぅむ。暫くクロと話す練習をするよりないの』
獣神の会話は息をするのと同じです。何も考えずに出来ている事を教えるのは案外難しいものです。
母獣は習うより慣れろだと、暫くの間人型を取る事を禁じました。
人化禁止を言い渡されてから、三巳の会話練習は三日三晩続いています。
最初は動物の鳴き声にしか聞こえなかった言葉も、徐々に意味をなす鳴き声に変わっていきました。
その様子はさながら赤ちゃんが言葉を覚えていく様な辿々しいものでした。実際にクロには『父ちゃん』が『とちゃ』に聞こえたり、『ご飯』が『にょは』に聞こえたりしていました。
『父ちゃ、手ちゅだう』
苦労の末、三日目にしてやっと会話らしきものが成立してきました。
まだまだ『さ』行と幾つかの発音が上手く伝わりません。それでもクロは三巳の赤ちゃん言葉に、それはそれは大層喜びを表しています。子育て奮闘記をしているパパ気分を味わっているのです。
「ありがとう三巳。
それじゃあこの野菜を洗ってくれるかい?」
『まかちぇうんだよ』
三巳は最近覚えた体の大きさを自在に変化させる力を瞬時に発動させます。変身でなくても小さく出来る事を学んだ三巳です。最近は良くクロの前で小さくなり、仰向けでグルーミングをして貰うのがマイブームになっていました。
『父ちゃ、出来た』
「ありがとう三巳。それじゃあ次は」
父と娘の微笑ましい光景を、少し離れた所で母獣が見守っています。
『ふむ。三巳の教育の為に始めた事だが、中々どうして、ホンワカする気持ちになるものよな』
眉尻が下がる母獣は、家族愛に溢れた空気に、気持ち良く微睡み昼寝を決め込むのでした。
好きこそものの上手なれと言う言葉を証明する勢いです。そもそも人は興味の有無により覚える力が左右され易すいのです。
けれど今の三巳は力なくへたり込んでしまっています。
「まさか……、三巳は獣型でも人と言葉が通じたとわ……」
三巳が打ち拉がれているのは、山に人族が住む様になってから今迄、気付かなかった己の間抜けさを目の当たりにしたからです。
『我としてはそこに一番驚きを隠せぬ』
母獣も打ち拉がれています。己の娘の間抜け加減を目の当たりにしたからです。
「ははは。そこが又可愛らしいと私は思うよ」
クロは馬鹿な子ほど可愛いと思う獣人種でした。打ち拉がれる三巳をそっと抱き、ヨシヨシと頭を撫でています。
『この山には妖精も小鬼もおったな。その者達と本性で話さなんだか』
「しょっちゅう遊んでた」
『不思議に思わなんだか』
「気にした事なかった」
『阿呆か。そうか、お主が阿呆か』
母獣は娘に容赦が有りません。果てしなく呆れ果て過ぎて、最早無我の境地に突入です。
「阿呆も可愛いねぇ」
クロは何処までも何処までも親馬鹿に進化し続けます。ナデナデする手が止まりません。
三巳はそこまで阿呆さ加減を可愛いがられては切なくなって来ます。涙ちょちょ切れそうです。
「三巳は今、無知の恥ずかしさを身を以って知ったんだよ」
遠い目で過去の自分を穴を掘って埋めてやりたい気分になっています。
「でも過ぎた事は戻せないしな。今から頑張ろう」
三巳はアンニュイに笑い、溜息を漏らしました。
心を奮い立たせて立ち上がった三巳は、クロから少し距離を置いてから、フルリと一震えで本性に戻りました。
「わあ!三巳の獣神姿も愛しい人にそっくりで可愛いね!」
大小並んだ二柱の獣神に、クロは目を輝かせて視線を行ったり来たりさせています。
クロは目線にある母獣と三巳の前脚をモフリと触り、「毛並みも同じだね。でも私の毛並みとも似てる」と嬉しそうに喉を鳴らしました。
『父ちゃんが嬉しそうで何よりなんだよ』
三巳はクロの毛をグルーミングして言いました。
「あれ?三巳の言っている言葉がわからないよ?」
けれどクロの一言に三巳の動きは止まります。どういう事だと首を捻って母獣を見上げます。
『三巳よ。お主、人族だった頃の名残が出ておる』
何と三巳は前世の記憶が邪魔をして、言語に関してのみ言語でしか返せなくなっていたのです。
確かに思い返せば様々な動物に変身した時も、山の民の誰にも三巳の言葉がわかっていませんでした。
『母ちゃん。三巳はどうしたら良いんだよ?』
ダメダメ具合が露見し過ぎて三巳は耳をペタリと悲しみに垂らしました。
『ふぅむ。暫くクロと話す練習をするよりないの』
獣神の会話は息をするのと同じです。何も考えずに出来ている事を教えるのは案外難しいものです。
母獣は習うより慣れろだと、暫くの間人型を取る事を禁じました。
人化禁止を言い渡されてから、三巳の会話練習は三日三晩続いています。
最初は動物の鳴き声にしか聞こえなかった言葉も、徐々に意味をなす鳴き声に変わっていきました。
その様子はさながら赤ちゃんが言葉を覚えていく様な辿々しいものでした。実際にクロには『父ちゃん』が『とちゃ』に聞こえたり、『ご飯』が『にょは』に聞こえたりしていました。
『父ちゃ、手ちゅだう』
苦労の末、三日目にしてやっと会話らしきものが成立してきました。
まだまだ『さ』行と幾つかの発音が上手く伝わりません。それでもクロは三巳の赤ちゃん言葉に、それはそれは大層喜びを表しています。子育て奮闘記をしているパパ気分を味わっているのです。
「ありがとう三巳。
それじゃあこの野菜を洗ってくれるかい?」
『まかちぇうんだよ』
三巳は最近覚えた体の大きさを自在に変化させる力を瞬時に発動させます。変身でなくても小さく出来る事を学んだ三巳です。最近は良くクロの前で小さくなり、仰向けでグルーミングをして貰うのがマイブームになっていました。
『父ちゃ、出来た』
「ありがとう三巳。それじゃあ次は」
父と娘の微笑ましい光景を、少し離れた所で母獣が見守っています。
『ふむ。三巳の教育の為に始めた事だが、中々どうして、ホンワカする気持ちになるものよな』
眉尻が下がる母獣は、家族愛に溢れた空気に、気持ち良く微睡み昼寝を決め込むのでした。
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