獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

寂しくなるな

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 一通りのお勉強を終え、獣型での意思疎通も取り敢えず出来る様になった三巳は、村に一時帰宅しました。
 これから準備を整えて見聞の旅に出発です。

 「と、いう訳で暫く山を留守にするんだよ」

 三巳はロウ村長の元へ挨拶に来ていました。
 両隣には両親が座っています。
 ロウ村長は眉尻を下げて顎を摩りました。

 「それは、寂しくなるな」
 「うん。三巳も早く帰りたいから頑張る。
 留守の間は母ちゃんが山を守護してくれるから何の心配も無いよ」

 三巳はムンと気合を入れて意気込みます。
 隣の美女母は神々しい輝きを纏い、頼もしく頷きます。

 「それはありがたい。
 けど三巳は安全の為の存在では無いぞ。我々にとって掛け替えの無い友であり家族だから寂しく思うのだ」
 「うん、ありがとう。三巳にとってもみんなが大事だ」 

 いつに無く真面目な空気に、三巳はしんみりとしてきました。普段は良く動く尻尾も、今は大人しく伏せています。
 ロウ村長とこれからの打ち合わせを済ませると、三巳はリリの元へ帰りました。

 「三巳!」

 帰るなりリリの熱い抱擁に出迎えられました。

 「ただいま、リリ」

 三巳はそっとリリとの間に空間を作り、顔を付き合わせてニカっと笑います。

 「おかえり。ってそうじゃなくてっ」

 リリも笑顔で返しましたが直ぐに眉尻が下がりました。
 どうした事かと三巳は目をパチクリさせます。

 「聞いたわ。暫く山を出るって」
 「ああ、もう話が広まってるのか」

 三巳は合点がいって頷きました。

 「我が家を空けるに関係の深い者達に伝えておったのだ」

 更に美女母に付け加えられて、(そうか、家を空ける理由は話すよな)と、失念していた事に申し訳なく思います。

 「黙って家空けててごめんな」
 「ううん。三巳のお母様に聞いていたから大丈夫」
 「うん。そうなんだ。三巳な、後ちょっと成長しなきゃいけないみたいでな、少し社会勉強にお出掛けするんだよ」
 「~っ」
 
 リリは実際に三巳の口から聞いて息を詰めました。そして何やら考え込んでしまいます。

 「リリ?」

 三巳はまだリリの心が不安定なのかと心配になります。
 リリは心配顔の三巳にハッとすると、少し思案すると直ぐに笑みを作りました。

 「うん、ちょっと考えてて。でもロキ医師に相談してみないとだから、纏ったら話すね」

 そう話すリリの笑みが、作り笑顔である事は三巳には直ぐにわかりました。覚悟を決めた瞳を見て、「うん?」と怪訝に思いながらも深く追求するのは止めました。

 (リリが決めた事なら大丈夫だろう)

 三巳は尻尾を一振りして「わかった」と笑みを返します。

 「それじゃあ今日は帰ったばっかだし、ゆっくり休むよ」
 「うん、ご飯出来てるけど食べる?」
 「勿論!」

 クロのご飯も食べていた三巳ですが、リリのご飯も大好きなので断る理由がありませんでした。さっき迄のしんみりが何処かへ行き、今は三巳の耳も尻尾も元気に動き出したのでした。



 明くる日。三巳は早速準備に取り掛かっています。
 とはいえ必要な物は、ご飯とオヤツと夜食と非常食位です。どんな危険地帯も三巳に掛かればテーマパークと一緒です。武器も防具も必要ありません。
 三巳がする準備は山に住む友達に挨拶する事でした。

 「ええっと、サラちゃんにチロチロに妖精族、小鬼達と……他に行って無いとこはー」

 三巳は山を散策しながら指折り数えています。
 右手は挨拶した友達。左手はまだの友達です。左手の方がまだまだいっぱいです。
 山には先住民を含めて沢山の種族の友達がいっぱいいます。三巳は今日中どころか暫く掛かるなと、ホクホク笑顔でスキップ踏みました。

 「ああ、でもこの山の景色も暫く見れないんだな」

 三巳は山の友達に会えないという事は、その場所に行けないという事に気付きました。「うーにゅ」と唸るとその場で両手を広げてクルンと一回転します。

 「クンクンクン。
 うん、春真っ盛りの良い匂いだ。桜もそろそろ見頃だし、たまには山のみんなでお花見も良いかもな」

 新芽はとうに大きく育ち、黄緑の色も濃く、鮮やかなものになっています。辺りには春らしい淡く可憐な花々が山を明るく彩っています。
 取り分け目立つのは山の一角に存在する桜林です。植林した訳では無いのに染井吉野や八重桜など、多種多様な品種がピンク色に染め上げているのです。

 「本当に不思議だよなー。
 染井吉野とか人工交配で生まれたって聞いたことあったんだけど……。ま、世界が変われば事情も違うしなっ」

 三巳はケラケラ笑って桜の木を見上げます。相変わらず三巳はわかっていませんが、勿論不自然に生まれたこのエリアも三巳の神力の影響を大いに受けて出来たものです。
 ただ三巳にとっては"そこにある"、それだけで嬉しいから何でも良いのでした。
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