獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
169 / 372
本編

ロダのいる場所

しおりを挟む
 「リファラに戻るわ」

 そう言われた瞬間。ロダは寂しそうに目を瞑りました。

 (やっぱり。リリは故郷に帰りたいよね)

 ロダはある程度覚悟を決めていました。リリは元とはいえお姫様です。今のリファラは王政ではないけれど、それでも街に住む人達にとってリリは永遠にお姫様です。
 数年の時を過ごして理解していたからこそ、ロダはこうなると思っていたのです。

 「わかった。僕も一緒に行くよ」

 ロダはキリリと覚悟を決めた男の顔で言いました。

 「本当!?嬉しい!」

 リリは両手を合わせて立ち上がると、花を咲かせる笑顔で喜びます。
 ロダはその顔だけで村から移住する覚悟も報われた気がしました。

 「それじゃあ出るのは村のみんなにお別れの挨拶をしてからでも良いかな?」
 「お別れ?今回は直ぐに村に帰る予定だけど……。でもそうね、何があるかわからないものね。
 うん、私も挨拶回り一緒して良いかしら?」

 不思議そうな顔をしたリリに、ロダは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でポカンとしました。

 「え?直ぐ?」
 「あら、今から挨拶に行く?」

 2人の会話は噛み合いませんでした。お互いの顔を見合わせてキョトンとしています。

 「あの……リファラに帰るって、そこに住むって事じゃ……?」

 ロダは回らない頭で何とかそれだけを聞きました。

 「??私の今の家はお義祖父様の家よ?」

 リリはロダが何を言っているのかわからず、首を傾げました。

 「リファラには、お父さんとお母さんが眠っているでしょ。それに国の皆はリリにいて欲しいんじゃないかな?」

 眉毛を下げて言うロダに、リリは「ああ」と得心がいきました。

 「そうね。お墓参りには毎年行きたいわ。その時はロダも一緒に行ってくれるかしら?」
 「も、勿論だよ!」

 くすりと微笑むリリに、ロダは勢いよく頷きます。

 「リファラの皆には帰ったら話すつもり。皆快く送ってくれるかしら」
 「如何だろ……。皆リリを大事にしているから」

 きっと皆渋り、引き留める事だろうと想像に難くありません。それでもリリの意思はもう既にロキ医師の所にありました。

 「ふふふ、そうね。とっても嬉しい事に皆良くしてくれてるわ。実際にハンナに話した時にも反対されたもの」

 リリはこそばゆい気持ちで身をすくめました。
 ロダはもう既にハンナに話していた事に目を見張ります。

 「その様子じゃ説得は出来たんだね」
 「ええ。私の思いを話したら渋々だけど、しょうがないですねって苦笑いで頷いてくれたわ」
 「そっか。それじゃあリファラの皆を説得する時は僕も一緒にいるよ」
 「本当?ありがとう、とっても心強いわ」

 2人の間に穏やかだ優しい空気が満ちています。
 お互いに微笑み、はにかみ、視線を合わせているとドキドキしてきて落ち着かなくなってきました。

 「あ、あ、それじゃあリファラの皆にお土産選ぼうかっ」
 「そうねっ、それってとっても素敵!」

 そしてお互いに熱い顔を仰いでそそくさと立ち上がり、そわそわしながら肩を並べてお出掛けするのでした。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

追放悪役令嬢、辺境の荒れ地を楽園に!元夫の求婚?ざまぁ、今更遅いです!

黒崎隼人
ファンタジー
皇太子カイルから「政治的理由」で離婚を宣告され、辺境へ追放された悪役令嬢レイナ。しかし彼女は、前世の農業知識と、偶然出会った神獣フェンリルの力を得て、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。 そんな彼女の元に現れたのは、離婚したはずの元夫。「離婚は君を守るためだった」と告白し、復縁を迫るカイルだが、レイナの答えは「ノー」。 「離婚したからこそ、本当の幸せが見つかった」 これは、悪女のレッテルを貼られた令嬢が、自らの手で未来を切り拓き、元夫と「夫婦ではない」最高のパートナーシップを築く、成り上がりと新しい絆の物語。

錬金術士の使い魔は最悪の未来がこないよう、今日もご主人様の為に頑張ります!

たぬきち
ファンタジー
かつて――錬金術士リリルーナは、必ず斬首刑に処される運命にあった。 その未来を知るのは、彼女に仕える小さな使い魔シロだけ。 主の死を変えるため、彼女は何度も命を落とし、何度も同じ時間へと“死に戻り”を繰り返してきた。 しかし、どれだけ足掻いても結末は変わらない。 王国兵の裁き、歪んだ陰謀、すれ違う選択――すべてが彼女を破滅へ導いていく。 そして迎えた、ある死に戻り。 目覚めたシロは、人間の姿へと変わっていた。 人間に転生した時、新たに得た特殊能力『因果の微修正』。 それは、世界の流れを大きく変えることはできない代わりに、ほんのわずかな“ズレ”を生み出す力だった。 使い魔ではなく、ひとりの人間として。 友人として彼女の隣に立つことを選んだシロは、これまでの世界線では存在しなかった出会いを重ねていく。 誇り高き騎士団、現実主義の冒険者ギルド、そして運命に翻弄される人々――。 小さな選択の積み重ねが、やがて未来の形を変えていくと信じて。 駆け出し錬金術士は、いつしか冒険者としても名を知られる存在へ。 だが、どれほど日常が輝いても、処刑の日は確実に近づいていた。 これは、何度失敗しても諦めない使い魔と、まだ運命を知らない錬金術士の物語。 最悪の未来を書き換えるための、錬金術士の使い魔が紡ぐやり直しファンタジーです。 イラストは全て生成AIです。

みんなが嬉しい婚約破棄

あんど もあ
ファンタジー
王子の婚約破棄宣言を皆が待っていた!、というコメディ。

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

処理中です...