獣神娘と山の民

蒼穹月

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本編

着陸は賑やかに

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 ふわふわふわり。大きな翼を広げ、バサリと風の流れを掴むのは孔雀三巳です。風に乗って飛ぶのはとっても気持ちが良くてうっかり目を閉じてしまいそうです。

 「三巳、目開けてる?」

 すかさず確認を取るのは頼れる男、ロダです。
 三巳は頭を撫で撫でされて「むは!」とか嘴を開けましたが、

 『ね、寝てないんだよっっ』

 と慌てる姿から察するにちょっと寝落ちし掛けていたに違いありません。
 ジト目で三巳の頭部を見るロダの視線には気付いていますが、気付かない振りで誤魔化す様に翼を懸命に羽ばたきました。

 「あら、ふふふっ。本当にリファラまで1日掛からなかったわね」

 お陰で直ぐに見えたリファラの街並みに、リリは口元を手で隠しながら楽しく笑います。
 ハンナも目を白黒させながらリファラの街並みと過ぎ去った景色を交互に見ています。

 「未だに信じられません。この距離が1日掛からないなんて」

 ハンナは往路が徒歩だっただけにその早さに度肝を抜かれています。
 三巳は得意そうににゃははと笑うと、

 『飛行機や新幹線もめちゃくちゃ速いんだよ。三巳も初めて乗った時は興奮したー』

 と言いました。昭和生まれな三巳は、新幹線も飛行機も滅多に乗れない高級な交通手段だったのです。それをこの世界の子達にも体験させてあげられたかと思うと誇らしい気持ちでいっぱいです。
 胸を逸らして優雅に羽ばたく三巳の眼下では、噴水広場に集まった人達が賑わっていました。

 『おー!皆集まって手を振ってくれてる!お出迎え嬉しいんだよ!』

 三巳の言葉に頭上のリリ達も下を除いて見ます。

 「お出迎え……って言うか、お祭り騒ぎになってない?」

 見えた様子にロダはビックリして目を大きく開けました。
 そうです。噴水広場では話を聞き付けた人々が集まっていたのです。噴水の高い所では、増えた仕事に頭を抱えているオーウェンギルド長がいます。頭を抱えつつもギルドスタッフにテキパキと指示を出す姿には、ロダも尊敬の眼差しを向けます。

 「あらまあ本当ですね。特に観光客が多く見受けられます」
 「ふふふっ。モンスターの皆、ここぞとばかりにお店を盛り立てているわね」
 『三巳!三巳!あそこ!花が円の形になってるぞ!』
 『うにゅ。皆そこに向かって手招きしてるから、そこに降りれば良いんだな』

 三巳の視線に気付いたオーウェンギルド長が、ガードマンの様に着陸を誘導してくれています。キビキビとした大きな手の動きに、ロダは

 「格好良い~」

 とキラキラとした憧れの目を向けます。
 リリはそんなロダの姿に

 (可愛い)

 と、男の子は幾つになっても少年ね。な温かい視線を送っていますが、ロダは下を見ていたのでちっとも気付きません。
 頭上の小さなピンク色の空気に三巳はニマリと一瞬だけ視線を上げました。しかしもう既に着陸体制に入っていたので直ぐに下に戻します。そして車を駐車場に停める要領で、オーウェンギルド長の指示に従って地に足を付けるのでした。
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